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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

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  「どうもありがとうございました! 雑誌の掲載は再来月発行分になりますので、出来上がったらお持ちしますね。いやあ、オーナーのお写真も是非撮らせて頂きたかったです」

「本当に、オーナーみたいにイケメンだったら、雑誌に写真が載ればお客さんもさらに増えますよ!」

 海の側、灯台の横に位置する小さな喫茶店珊瑚礁の入り口で、比奈が勤める雑誌社の記者とカメラマンが残念そうに言った。

「いや、僕なんか。それに写真は苦手で……すみません」

 得意の営業スマイルでそう言うと、佐伯はチラリと自分の横にぼんやりと突っ立ったままニコリともしない比奈を見る。

「それでは我々はこれで失礼します。是非また取材させて下さい」

「はい。こちらこそ……あの」

 お辞儀をして出て行こうとする男性二人を呼び止め、佐伯はその後ろをフラフラと付いて出ようとした比奈の腕を掴んで言った。

「彼女と少し話しがしたいんで、お借りしてもいいですか?」

 男性二人は顔を見合わせて笑った。

「どうぞどうぞ。何だか今朝から様子がおかしいんで、ちょっと活を入れてやってください。3時からの会議までに帰して頂ければ全然構いませんから。編集長にもうまく言っておきます」

「ありがとうございます。必ず後で会社まで送り届けます」

 佐伯がペコリと頭を下げ、二人が出て行くと、まだぼんやりしている比奈の腕を引っ張って近くの椅子に座らせた。

「……おいコラ。お前一体どうしたんだ?」

「…………」

「コラ、比奈!」

「うえっ!? はいっ! ーーーあ、あれ? 二人は?」

「ーーーだめだこりゃ……」

 漸く自分ひとりが取り残されている事に気付いた比奈は、キョロキョロと辺りを見回し、バツが悪そうに佐伯の顔を見上げた。

「ご、ごめん。私……」

 佐伯はそんな比奈の様子に、カウンターの中に入るとコーヒーを煎れ始めた。

「いつものやつでいいだろ?」

「あ、うん」

 コーヒーのほろ苦い香りが、焦げ茶色で統一された店内に充満すると、比奈は少しほっとした。





 「ほれ」

「ありがとう」

 佐伯は比奈の前に煎れたてのコーヒーを差し出した。

 優しい黄色い色合いのコーヒーカップからは、比奈の大好きな匂いが白い湯気と共に立ち上っている。

「昨日、電話の後何かあったんだろ?」

「別に……」

 自分もコーヒーを飲みながら佐伯が尋ねた。

「お前さ、そんだけぼーっとしてて何も無いだなんて良く平気で嘘つけるな。ナンパされたとか言ってたけど……まさか、そいつに何かされーーー」

 ビクリとそれに反応して、比奈は頭を大きく振った。

「違うよっ! それは偶然通りかかった人に助けてもらったから!」

「……そっか、良かったーーーじゃあどうしたんだよ?」

「たいしたことじゃないよ……痛っ!」

 突然チョップが飛んで来て、比奈は手に持っていたカップを落としそうになった。

「この馬鹿。俺達友達だろ? お前が俺の事信用してないってんなら別に無理に聞こうとは思わない。でもな、お前の事心配してんだぞ? それくらい分かれよな」

 ちょっと照れ臭そうに言った佐伯の言葉に、比奈は嬉しくなる。

 そして堪らず涙がこぼれてしまった。

「おっ、おいっ! どうした? 痛かったか?」

「ちが……う、嬉しくって……」

 それから比奈は、昨日赤城と再会した事をゆっくりと佐伯に話して聞かせた。








 「そうか、高校の時好きだったヤツに偶然会って、ねーーー」

 佐伯は比奈に対して特別な恋愛感情を持っている訳ではなかったが、とても大切な存在だと思っている。

 そして友人である志波がずっと比奈の事を一途に思い続けている事を佐伯は知っていた。だから、今でも比奈と志波の二人が上手く行けばいいと考えている。

 が、比奈の性格からして、どんなに志波が比奈を好きと言おうと、比奈が志波の元へ行くという事は、藤堂の事を考えてまず無いと思う。

 しかしその赤城という男の元へ飛んで行ってしまわない所が比奈らしい。自分だったら何年も思い続けていた相手に偶然再会し、その相手から会いたいと言われたなら何を置いても飛んで行く……と、思う。

 比奈は羽ばたき市外の大学を受けて、街を離れてしまうほどにその男の事が好きだったのだから、なおさら飛んで行ってもいいと思うのだが。

「私、一人で勝手に誤解して赤城君の事傷付けて、それを今更また会って話したいだなんて虫が良すぎるんじゃないかって……」

 すっかり冷めてしまったコーヒーをぼんやり見つめながらそう言う比奈に、佐伯は深いため息を吐いた。

「はあ……お前本当に馬鹿だなあ。深く考え過ぎなんだよ。会ってその勘違いして傷付けた事を謝るだけでもいいだろ? 変な事気にし過ぎ」

「そう、かな?」

「そうだよ。あの時はごめんねって謝れば、お前だって昔の事をもう気にしなくてもいいだろうが。それを自分がそいつの事をまだ好きだって事に罪悪感を感じるお前の気持ちが分からない。大体連絡欲しいって言って名刺くれたんだろ? 会いたくないやつに普通名刺渡さないだろ」

「だって……」

「んじゃあ何? 自分が好きなやつに会うのは犯罪か?」

「佐伯君、質問が極端すぎるよ」

 少し笑った比奈を見て佐伯は心の中でほっとする。

 比奈はいつも元気で笑っているほうが比奈らしい。

「じゃあ別にいいんじゃないのか? 心配なら俺がこっそり着いて行ってやるからさ」

「本当に!?」

 冗談のつもりで言った言葉に、比奈が反応して立ち上がる。

 いつもの佐伯なら「嘘だよ」と軽く言えたのだが、比奈の真剣な目にその言葉を飲み込んでしまった。代わりに、

「お、おう」

 という頼りない返事をしてしまったのだった。












~~~~



 比奈は緊張のあまり、何度も携帯を落としていた。

 佐伯に赤城と会う事に太鼓判をもらい、仕事を終えて自宅に戻って来てすぐに赤城の名刺を取り出したのだが、いざ電話をかけようと思うと手が震えてボタンが押せない。

 大丈夫。赤城君だってもし連絡欲しくなかったら、名刺渡したりしないもん!

 佐伯に言われた言葉を心の中で繰り返し、ゴクリと唾を呑み込む。

 震える手をもう片方の手で押さえながら、なんとか携帯の番号を押した。


 プルルル……プルルル……


 心臓が口から飛び出しそうで、比奈は息を殺して相手が電話に出るのを待った。

『はい、赤城です』

 なかなか出ない電話に、そろそろ諦めて切ろうかと思った瞬間、電話の向こうから赤城の声が聞こえて来た。

 ドクン!

 一際大きくなる心音。

 比奈は数回口をパクパクさせ、声を発した。

「あ、あの……海野……ですーーー」

『え……海野さん!? あ、本当に掛けてくれたんだ……ど、どうしたの?』

 赤城の声が心無しか上擦っているようで、比奈は自分と同じで相手も緊張しているのだと気付く。

 そこからは少しだけ落ち着きを取り戻し、さらに会話を続けた。

「えっと、この間は助けてくれてありがとう」

『そんなの気にしなくていいよ。君にまた会えて嬉しかったし……』

 また胸が躍る。赤城の言葉一つ一つが、比奈の心に染み込んで行くようだ。

「あの、その、それで、ね……この間助けてくれたお礼に、今度、一緒に食事に行かない? かな? と、思って」

 今日一日ずっと考えていたセリフを何とか言う事が出来た。

 思わず通話口を抑えて大きく深呼吸をする。

『お礼なんて別にいいけど、是非』

「あ……うん。良かったーーーえっと、どこでもいい?」

『どこでもいいよ。君のお勧めのお店で。僕あんまりお店詳しくないからさ、任せるよ』

「分かった。でも、赤城君お医者さんなんでしょ? お休みあるの?」

 昔と変わらない少しぎこちない会話に、比奈はくすぐったい気持ちになった。

 お互いの事を良く知らないのは昔からだし、どうしてもこんな話し方になってしまうのだが、それでも赤城と話しているのだという事実がこの上なく嬉しい。

『えっと、急な呼び出しがある時もあるけど、一応休みはあるよ。今度の日曜日は休みだけど……海野さんは?』

 すぐに手帳を開いて確認をすると、日曜日は午前中から取材が1件入っているだけで、夕方からは比奈も休みだった。

「あ、夕方からなら大丈夫」

『本当? それじゃあ今度の日曜日の夕方でいいかな?』

「う、うん! えっと、駅の近くでお店探すから、夕方6時に駅前で待ち合わせでいい?」

『分かった。日曜の夕方6時に駅前だね』

「うん。それじゃあ……」

『あ、ちょっと待って!』

 電話を切ろうとした所で赤城に止められ、比奈は思わずピクリと反応した。

「え? どうしたの?」

『えっと、あの、さ……もし良かったら、君のメールアドレスを教えてくれないかな』

「あ……じゃあ、後で赤城君のアドレスに送るね」

『ありがとう。前は連絡先聞くタイミングずっと逃してたからさ。良かった、聞けて……電話ありがとう。それじゃあ、おやすみ』

「おやすみなさい」

 ゆっくりと折りたたみ携帯を閉じ、比奈は先ほどの赤城の言葉を思い返す。

 そう、高校の時は互いの連絡先を聞くのをずっと忘れていた。

 もしあの時、比奈が少しの勇気を出して赤城の連絡先を聞いていたら、結末は違っていたかも知れない。

 好きだと赤城に伝えた所でどういう答えが返って来るかはもちろん分からなかったが、こんなに長い時間あの時の事を引きずる事は無かったかも知れないのだ。

 ーーーいや、仮定の話しはやめよう。私は赤城君から逃げたんだ。それは変え様のない事実。

 その赤城に再び会えた。今度こそ、ずっと後悔していた過去の愚かな自分を謝罪しよう。それで全て終わるのだ。









                                続く…







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