チェンジ・ザ・ワールド☆
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夕方の駅前で、佐伯は仏頂面で立っていた。
「本当にお前は……」
「ごめんね、佐伯君」
結局比奈の「お願い」に弱い佐伯は、比奈が赤城と出かけるのをこっそり尾行する為に珊瑚礁を他の店員に任せてまで駅前にやって来ていた。
密の結婚式にも仕事が忙しくて出席出来なかったのに、比奈の為には従業員からのブーイング覚悟で抜け出すのだから、本当に比奈には甘いと認めざるを得ない。
さすがに一人だけでレストランに入るのは怪しいので、たまたまツアーから戻って来ていた友人の針谷も引っ張って来た。
「別にいいじゃねえか。比奈が困ってんだから助けてやろうぜ」
その針谷が怒った様子の佐伯と、申し訳なさそうにする比奈に向けて言った。
「ありがと、ハリー」
「気にすんな。俺はお前の味方だかんな」
相変わらずの笑顔でそう言う針谷に、比奈は微笑む。
「二人の分の食事代は、私が持つから!」
「ああーもう。別に怒ってる訳じゃないよ。呆れてるだけだ。てか、お前そろそろ時間じゃないのか?」
だんだんどうでも良くなってきた佐伯は、ため息まじりにそう言うと腕時計を見た。
「あっ! 本当だ! そ、それじゃあ行って来るね……絶対絶対先に帰っちゃ駄目だからね!!」
去り際にそう捨て台詞を残して走って行く比奈に、佐伯と針谷は顔を見合わせた。
「んじゃあ、先に店で待機するか」
「おう。なんかスパイみたいで面白いな」
「針谷は比奈に甘いんだよ」
「お前が言うな!」
~~~~
「なんかよ、見てるこっちが緊張すんな」
雰囲気の良いイタリアンレストランに座る男二人は、観葉植物の向こう側でぎこちなく座る比奈と赤城の姿を見て変に顔を強ばらせていた。
「どうでもいいけど針谷」
「んだよ。いい加減ハリーって呼べ」
「やだ。じゃなくて、なんでお前変な眼鏡してんだ?」
「一応変装だよ。これでも俺様はそこそこ有名人だからな。たまにファンが気付いて寄って来るからさ。今バレたら大変だろ?」
相変わらず真っ赤でツンツンに立てた髪をしている針谷のそのセリフに、佐伯はため息を吐く。
じゃあその派手な髪をどうにかしろよ。
とは思ったが、面倒なので突っ込むのをやめる。
そして針谷ほど怪しくない程度に比奈の様子を伺う。
笑顔が引きつっているが、なんとか会話をしているようだ。
高校の時からずっと好きだったと言う赤城は、佐伯が思った以上に良い男だった。何より医者だというし、育ちも良さそうだ。
比奈が赤城に惚れた理由は比奈自身も分からないと言っていたが、今でもずっと思い続けていた相手を前に、緊張しない方がおかしい。それに、見た感じでは赤城も恐らく比奈の事をまだ好きなようだ。
これなら何も問題なくうまく行くのではないかと思われた。
ただ、志波の顔が頭にちらついて離れないが……
「なんかよー。あの赤城って男、比奈に惚れてるっぽいよな」
「そうだな」
「……俺、お前は比奈の事が好きだと思ってた」
「はあ?」
急にこちらを向いて真顔で言った針谷に、佐伯は顔をしかめる。
「それは志波だろ?」
「いや、あいつはストレートすぎるから分かりやすかったけど、お前は貧乏くじ引いてるんじゃないかって思ってたんだよ」
「何だよ、それ」
珍しくまともな事を言う針谷は、昔の事を思い出しているようだった。
それに吊られて佐伯も思い出す。
確かに佐伯は比奈の事をほんの少しだが恋愛対象として好きだと思った時期があった。
素の自分をさらけ出せる相手だったし、何より幼い頃の思い出の少女だ。
比奈は思い出さなかったようだが、佐伯はしばらくして比奈の事を思い出したのだ。比奈の笑顔に、何度救われたか分からない。気付けば大切な存在になっていたが、やはり友情の方が強かったと言える。
志波の比奈に対する思いの強さを知った時、本当に好きと言うのはこういう事なんだと理解した佐伯は、比奈との友情関係を強める事を決めた。
青春時代に気になる異性がいてもおかしくない。佐伯の場合、その相手が比奈だったのだ。しかし今では完全に大切な友人として接している。
志波のように、何年経っても諦めきれないほど好きだと言える想いはすごいと思う。
「いや、俺さ、結構比奈と仲良い方だと思ってんだけどさ。お前が比奈と接する時って、俺と違うんだよな。なんつーか……本当にすげー大事って感じでさ」
「友達なんだから当たり前だろ?」
「友情以上なんだよ、お前のは。自分で気付いてないだけかもしんねーけど、二人が話してんの見てたら時々思うんだよな。恋人同士みてーって」
「んな訳あるか。付き合い長いからだよ」
「あー、そっか、お前実家のある方の大学行ったんだよな? んで、比奈のヤツも急にそっちの大学受けて行ったんだっけ? まあ、それ考えたら本当に付き合い長いよなあ」
そう、佐伯ははばたき市の大学とは別に、実家の近くの大学も受験した。
珊瑚礁を突然閉店した祖父とは言い争いになったが、それも自分の力不足だからと受け入れ、羽ヶ崎学園も卒業する前に辞めて実家に戻り、そちらの大学に行くことにした。そして比奈も佐伯と同じ大学を受験したのだ。
はばたき市の一流大学ではなく、佐伯のいる大学に共に進んだことで、二人はずっと一緒だった。比奈がこちらの大学に来た理由は知っていたが、先日比奈の勘違いというお粗末な理由だった事が分かり、なんともそれが比奈らしいと佐伯は思った。
何よりも逃げる場所に自分の傍を選んだという事で佐伯の中に庇護欲のようなものが芽生え、大学在学中も比奈と共に過ごす事が多かった。
これは恋愛感情というより、妹を思う兄の心境に近いと佐伯はその時に自己承諾した。
心配で目が離せないのだ。だからつい、甘やかしてしまう。
針谷が言うように、他人とは別の大切な存在である事は間違いない。
針谷ほどガチで比奈と友情を築いて来た訳ではないかも知れないが、それでも佐伯は比奈を大切な友人だと思っているのだ。
「あいつはぼんやりだからな。ほっとくと危なっかしいんだよ」
「ははっ! それ納得。お、出るみたいだぞ」
「それじゃあ、行くか」
二人が動き出したのに気付き、佐伯と針谷も席を立った。
続く…
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