チェンジ・ザ・ワールド☆
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佐伯と針谷がそんな会話をしているなどとは露程も知らない比奈は、店を出て歩きながら小さく息を整えていた。
あの時の事を謝ろうと考え過ぎた所為で、食事中は緊張して言えなかったのだ。
しばらく歩くと駅が見えて来た。
どうしよう。早く言わなきゃ……
「今日はありがとう。料理、美味しかったよ。あんなに美味しい食事は久しぶりだった」
比奈が何か言おうと焦っていると、先に赤城が声を掛けてきた。
「ううん、たまたま仕事であのお店を取材した事があったから」
「雑誌の編集の仕事なんだろ? 大変そうだね」
「お医者さんよりは大変じゃないよ」
「そっかな? 君の仕事も大変だと思うけど」
「そんなことないって」
「そんなことあるさ」
高校の頃に初めて交わした赤城との会話が一瞬にして思い起こされた。
ああ、こんな感じであの時も互いに譲り合ってる間に傘を別の人に買われたんだっけ。
「……ふふっ」
「どうしたの?」
急に笑った比奈に、赤城が首を傾げる。
「ごめん。何だか初めて会った時の事を思い出しちゃって」
「ーーー雨の日、だった」
「お店の軒先で雨宿りしてて、赤城君が後から走って来たんだよね」
「それから一緒に駅まで走って、コンビニでどっちが傘を買うか譲り合ったんだ」
「うん。そうしたら後から来た人に買われて、結局二人とも濡れて帰ったよね。赤城君が買ってたら良かったのに」
「違うよ、君が買えばよかったんだ。本当に意地っ張りだよな……」
「そっちこそ」
それからまた偶然の再会をした。
買い物帰りのバスの中でおばあさんに席を譲っていた時、そして次は商店街のハンバーガーショップ。
突然羽ヶ崎学園に現れた赤城に驚かされたこともあった。
急に目頭が熱くなった。
比奈はぐっと両肩に力を込めると、足を止めて勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「海野さん……?」
赤城も足を止め、比奈を困ったような顔で見つめる。
「私一人で勝手に勘違いして、赤城君に酷い事して傷付けて……ずっと後悔してたの。でも、私は臆病で弱虫だから、赤城君にきちんと謝れなかった」
「違うよ、僕が悪いんだ。君がチケット無くしたって言うのを信じなかった……君が誤解しても仕方ない。だから、頭を上げてくれないか」
「でも!」
顔を上げた比奈は驚いた。
赤城も比奈と同じような、今にも泣きそうな顔をしていたから。
同じだ……
ずっと、赤城も比奈と同じように過去を悔いていたのだ。
「海野」
比奈と赤城は同時に振り向いた。
呼ばれたその声は比奈の良く知った声だった。
「ーーー志波、君?」
驚く二人に近づくと、志波は比奈を庇うように赤城の前に立ちはだかる。
大きな背中がまるで壁のように赤城との間を隔てた。
「どうした? 何かあったのか?」
「あ、ううん。何でもないの」
どうやら赤城ともめていると勘違いしたらしい志波が、心配そうに比奈の顔を覗き込んだ。
赤城はその様子を見て、すぐに苦笑すると真っ直ぐ立って手を挙げた。
「ゴメン、海野さん。ちゃんと謝れてよかった……今日はありがとう、それじゃあ、さよなら」
「赤城君!」
くるりと比奈に背を向けて歩き出した赤城を、比奈は追いかける事が出来なかった。
隣りで自分を見ている志波の腕をぎゅっと掴み、こぼれそうになる涙を堪えながら震えるだけしか。
「悪い、もしかして邪魔だったか?」
「そ、そんなことないよ」
志波の弱々しい声に、比奈は顔を上げて笑顔で首を振る。
そう、志波は何も悪くない。自分を心配してくれただけなのだ。
「ところで、どうしてここ……」
「志波あーーーーっっっ!!!」
「ハリーっ!?」
比奈が志波に質問しようとした途端、どこからか飛び出して来た針谷が志波の背中に飛び乗った。
「てんめえ! 何、良い所で邪魔してんだよっ!?」
「落ち着け、針谷!」
針谷の後ろからやってきた佐伯が呆れたように針谷を志波から引きはがす。
「佐伯も? お前ら、何でここに……?」
「それはこっちのセリフだ! お前シーズン中だろうが!?」
漸く志波から離れた針谷が驚く志波に詰め寄る。
「今日は休みだ。明日の昼に現地入りするから、ちょっと戻って来てただけだ」
相変わらず淡々とした口調で答える志波に、比奈は納得する。
志波は休日に時間が空いた時には、地元であるここ羽ばたき市に戻って来るのだ。
「ったくよお、比奈のヤツが頑張ってたってのに」
「もういいだろ、一応話しは出来たんだし。な?」
佐伯に言われ、比奈は小さく頷く。
本当はもっと話したかったのだが、あまり引き止めるのも申し訳ないし、本来の目的であった誤解に対する謝罪は出来た。
しかし、比奈の心はなんとなく寒かった。
「やっぱり俺の所為か」
「違うよ志波君! 本当に気にしないで!」
「お前の所為だ、馬鹿!」
「もうっ! ハリーったら!!」
落ち込む志波を慰める比奈と責める針谷。
針谷は比奈と赤城の昔の出来事の詳細は知らない。ただ、昔赤城を傷付けた事を謝るために会っている、という事は聞いていた。
もちろん針谷もそこまで鈍感ではないので、なんとなく比奈と赤城が昔好き合っていて、何かしら誤解したまま何年も経っているのだろう事は感づいていた。
「おい、あそこにいるの、プロ野球選手の志波勝己じゃねえ?」
「ちょっと、その隣りにいるのって歌手のハリーじゃない?」
騒いでいたおかげで通行人が志波と針谷に気付いてしまった。
「おい、と、取りあえず場所移すぞ」
「うん、行こう行こうっ!」
佐伯と比奈が志波と針谷を引っぱり、急いでその場を後にした。
続く…
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