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難民

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難民













 朝からカッツはMB基地内を行ったり来たり、妙に落ち着きがない様子でいた。

 部屋から出て来たシンは、ちょうど部屋の前の廊下でそわそわと似つかわしくない表情のカッツと出くわし、首を傾げる。


「どうしたんだ? 朝からやけに落ち着きがないみたいだな」


 うーんと唸るように顎を手でひとさすりすると、カッツは口を開いた。


「リドヒムの反政府軍の連中から連絡があって、難民受け入れの許可が下りたらしい」

「本当か? 良かった。案外早く許可が出たんだな」


 シンはリドヒムでの出来事を思い出し、一瞬遠い目をして安堵の声を漏らす。しかしカッツの表情はそれとは違った。


「……何か問題でもあるのか?」


 気づいたシンが尋ねる。


「それが、エンド政府の連中、アインに受け入れ先を決めたらしいんだ」

「アイン?」


 アインとは、カッツの生まれ故郷で、人が生活をするには過酷な気候地帯である。そこに難民を受け入れたとしても、満足に生活が出来るようになるとは到底思えない。


「どうも政府の連中、難民の中から俺が行った軍養成学校に入る人間を募って、その家族は優遇するとからしいんだ」

「リドヒムで戦争を経験して苦しんだ難民を、政府軍に入れようと言うのか!?」


 驚いた。これでは何の為に難民受け入れは任せておけと大見得を切ったか分からない。


「それで何でカッツはうろうろしているんだ? 政府に掛け合うんだろう?」

「そのつもりなんだが、セイラと連絡が取れねえんだ……ついでにルーズの奴も見当たらねえし」


 二人は顔を見合わせる。

 こういう時に感じる「嫌な予感」というのは、案外的中するのだ。


「セイラはカッツの事となると見境がなくなるからな」


 ぼそり呟いたシンに、カッツは眉間に皺を寄せると両手で頭を掻きむしった。


「ええーいくそっ! ここでうろうろしてても仕方ねえ。行くぞ、シン!」

「連絡が取れないのにどこに行くつもりなんだ?」

「お前のその冷静なツッコミ、本気で腹が立つなあ! 」













 どこへ行けばいいのか皆目見当もつかないまま、カッツは肩を怒らせながら先日セイラと共にカッツを尋ねて来たホズミの元へやって来た。


「おい、カッツ。本当にそんなお偉いさんが会ってくれるのか?」

「分からねえけど、取りあえずセイラの事も気になるし、リドヒムの事も何か分かるかもしれないからな。行くだけ行くぞ」

「はあ」


 相変わらず計画的だか無計画だか分からないカッツに、シンはため息をわざとゆっくり吐き出した。カッツに聞こえるように。


「てめえは、文句があるならここで待ってろ」

「別に文句はない。でも、政府の建物の中に入るのは気が進まないからここで待っている。その間にルーズとセイラが何か交通機関を使ってないか調べておく」

「お前にしちゃ気が利くな」


 ニヤリと笑い、カッツは政府の公安部が置かれる施設へと消えて行った。




 ****




 昨夜遅く、ルーズは部屋で一人ICカードをパソコンに読み込んでいた。

 薄暗い部屋はパソコンの電子的な明かりだけが室内を灯し、ブウンと小さな音とキーボードを叩く音以外何も聞こえない。

 読み込んだ情報を開く。

 現れた膨大な資料には、地球における組織の調査内容と動向についての詳細がびっしりと書かれていた。


「ーーーこれは……」


 そしてその資料が作成された日付と、作成に携わったメンバーの名前を見つけ、ルーズは息が止まりそうになった。


「そん、な……」


 早くなる鼓動、信じられないという思い、そして疑問が確信へと変わる苦しさ。

 パソコン内の情報を全て消去し、ルーズは部屋の入り口に掛けてあった上着を掴むと部屋を出た。




 以前、カッツとシンが地球へ行った時、ルーズはパチンコをしていて間に合わないと嘘を吐いた。その時、何者かに後を付けられていたのだ。撒こうとしたがなかなかうまく行かず、結局地球に置いてきぼりをくらってしまった。ルーズの後を付けていたのはおそらく一人。追いかけっこをしばらくした頃、突然尾行の気配が消えたのだ。

 仕事柄危険な目に遭う事はある。しかし、尾行を撒けなかったことは一度も無かったし、今回は少し違うようだった。無言の殺意にも似た圧力は終始あったが、ルーズを殺すという行動までは至らない。不気味なほどただルーズを見つめていた。


 やはり自分は組織の人間だった。


 しかも、先ほど見た重要な書類を中心になって作るほどの役職を持った……

 会わなければならない。ミロに。















 「全く話しにならねぇ!!」


 ドガッ!!!


 建物から出て来たカッツは、立派な植え込みの木を思い切り蹴った。蹴られた木は大きく揺れ、ザワザワと葉を落とす。


「駄目だったのか」


 そんな怒り心頭のカッツに、シンが携帯端末から顔を上げてほくそ笑む。


「セイラは今、仕事で出かけているらしい。それにやっぱりっつーか、リドヒムの事に関しては上が決定した事だから自分には分からないだと!」

「だろうな」

「くっそー! 上って誰だ!? おい、シン! 今からそいつに会いに行くぞ!」

「む、無茶を言うな。上とはエンド国家大統領の事だぞ? いきなり行っても捕まるのがオチだ」

「分かってるよ、そんな事ぁ! ーーあ~もう、リドヒムの連中にどんな顔して会えばいいんだよ、このやろお!」


 再び木を蹴り、カッツはシンの手元を覗き込んだ。


「んで? ルーズの居所は掴めそうなのか?」

「何だ、もう怒りは治まったのか?」

「うるせぇ、そう言うお前こそ、何でそんなに冷静なんだよ。ムカつくなあ」

「ーーーオレ達がここでどうこう言っても政府がいい条件を何も無しで提案してくるとは思えない。それよりも、アインに来たリドヒムの人間を、軍人にする前に他の星で仕事が出来るように助けたらいいんじゃないかと、カッツを待っている間に考えた」

「それは俺も考えた。だがな、全て上手く行くとは限らない……やっぱり地球に行って組織の情報を握って来る以外道はなさそうだな」

「そうだなーーーあ」


 真面目に言葉を吐くカッツを見て、携帯端末に視線を落とすと、ベニーランドのはずれにある港近くの店でルーズが買い物をした事が分かった。

 やっと行方を見つける事が出来た。


「取りあえずルーズのやつを捕まえに行くぞ。俺に黙って勝手な行動ばっかりしやがって、一発きつく灸を据えてやる」

「逆に据え返されなきゃいいがな」

「MBのリーダーは、お、れ、だ!」


 さっと身を翻し、カッツは歩き出した。その後ろ姿を追って歩き出そうとしたシンが、先ほどルーズが買い物をしていた店の目の前にあるバス停を降りた人物に驚く。


「何だ? どういう事だ?」

「おい、シン! さっさと来い! 置いて行くぞ!」


 シンは口を開きかけ、すぐに噤む。カッツに伝えるべきか、考えた。

 まだ言わない方がいい。そんな気がした。

 駐車場に止めたカッツの小型飛行機に乗り込むと、カッツの携帯が鳴った。


「おう、セイラか? お前今どこにいやがるんだ! ずっと連絡付かねえから困ってたんだぞ! ったく、必要な時にいないなんて、お前も使えねえな! ーーーあ? おま、何言って……」

「どうした、カッツ」


 急に黙り込んだカッツを隣りから伺うと、ゆっくりとこちらに顔を向けたカッツが携帯を投げて寄越した。


「ぶっ飛ばすぞ、シートベルトしっかり締めとけ」

「お、おいっ!」


 言い終わるが早いか、カッツは乱暴に飛行機を空中に浮かばせ、思い切りアクセルを踏み込んだ。







                               続く…





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