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ゆびきり.2

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streetpoint

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“ゆびきり” の、げんまんとか針千本とかゆびきったって言葉は怖い











 「悪かったな、急に買い物に付き合わせて」

「いいえ、今日はお休みでしたし……でも、土方さんとお休み一緒になるのは初めてかもしれないですね」


 仲睦まじく並んで歩く美男美女カップルに、すれ違う人々が羨望の眼差しを送る。端から見れば本当にお似合いだ。


「そうだったか?」

「あまり非番はないでしょうけど、お休みの時くらいしっかり体を休めて下さいね」

「あー。そりゃあ近藤さんに言ってくれ、あの人は人使いが荒い」

「ふふ、そうですね。あ、あそこのデパートなんかどうですか?」

「ああ、そうだな」


 江戸でも一番のデパートを指差し、操はニコリと微笑んだ。その顔に土方は思い切って今日の買い物に誘って良かったと思う。

 初めて出会った時は非番の日で、土方が公園でぼんやりしている隣りに座って来たのが操だった。好きな女と重なって見えたが、こうして付き合いも随分経つと全然違う事が分かる。

 色々とあって操にはかなり助けられた。怪我だけでなく、本人は気づいていないだろうが、心も癒してくれている。それは真選組の隊員全員が思っていて感謝しているはずだ。何せ今までいた医者は年寄りのじじいで、色気もくそもなかった。それが若い女の医者が代わりに来たものだから、むさ苦しい男の職場に一気に花が咲いたというもの。

 ふと、そんな事を考えていた土方は、楽しそうにしている操を見て口元に笑みを浮かべる。

 今日は近藤に頼まれてお妙へのプレゼントを買いに行かされていたのだが、彼女に似合う素敵なかんざしを買って来い、などと無茶苦茶を言われて困っていた所に操の事を思い出し、昨日の帰り際に買い物に付き合って欲しいと頼んだのだ。


「近藤さん、本当は自分で買いに来たかったでしょうね」

「ま、おやじの接待ゴルフの付き添いだからな。何でか知らねえがどうしても今日中に買いたかったらしくてな、俺にとばっちりがきやがった」

「中間管理職の辛い所ですね」


 そんな会話をしながらデパートに入ると、婦人雑貨売り場へ直行する。

 辺りには若者から年配まで、女性客で溢れ返っていた。年末商戦で掘り出し物の商品を安くゲットしようとかけつけているのだ。

 そんな人ごみを見て土方がごちる。


「あ~。マジで俺一人で来なくてよかったわ」

「ふふっ、近藤さんだったら躊躇無く入って行きそうですけどね」

「あのゴリラ、どんだけ殴られようが蹴られようが、ストーカー行為やめねぇからな。きっとあの女の為なら裸で溶接炉の中にも飛び込むぞ、きっと」

「飛び込みそうですねえ……。でも、それだけ愛されてるんですから、羨ましいです」

「ーーーあんなストーカーに愛されてもちっとも嬉しかねーと思うけどな。それにその尻拭いを毎回させられる俺達の身にもなれってんだ」

「愛が深過ぎると色々と大変なんですねえ。あ、あそこのお店はどうですか?」

「ああ」


 比較的人の少ない店を見つけ、店内に目当てのものが無いかぐるりと見回す。


「ーーーあ」

「ーーーあ」


 丁度目が合った相手に驚く。なんとそこにいたのはお妙だった。操と土方は顔を見合わせる。


「あら、操さんと土方さん。お二人でデートですか?」


 まさかこんな所で出会うとは、何ともタイミングが悪過ぎる。


「ちょっと買い物に……」

「へえ~、そう! へえ~。ふ~ん。知らなかったわ~。お二人がそういう関係だったなんて」


 完全に勘違いをしているお妙は、笑顔で二人の顔を交互に見る。


「操さんも銀さんの事で色々苦労してるから、私も心配してたんですよ。でも、ちゃっかり職場恋愛してたんですねー。うふふ」

「えっと……誤解があるみたいだけど、お妙ちゃん、今日はどうしたの? 大きな袋抱えてるけど」


 操がお妙の腕の中の紙袋を尋ねると、ニッコリと答える。


「これ? 何故だか急に、どーしても! かんざしが欲しくなっちゃって。おまけにすぐに買わなきゃいけない気がして、朝から買いに来てたんですよ。見てたら色々欲しくなって、こんなに買っちゃったわ。当分かんざしはいらないって感じ」

「へ、へえ……」


 恐るべし野生の感。お妙は近藤の思考をテレパシーで受信でもしているような的確さで、身の危険を回避したのだ。


「土方さんは操さんにプレゼントですか? 本当、羨ましいわ~。あ! 操さんがいるからってうちのお店に来ないなんておっしゃらないでくださいね。うちの子たち、土方さんファンが多いから、彼女が出来たなんて知ったらきっと悲しむわぁ。ーーーあらやだ、操さんの前で言う事じゃなかったわね。ごめんなさい」

「おいコラ! 適当な事言ってんじゃねえぞ!?」


 お妙が働くキャバクラに良く出入りしているのは事実だが、操の前で言われたくなかった。

 確信犯なのは言うまでもないが、なんともしたたかな女だ。


「あら、こうしちゃいられない。これからちょっと行く所があるの。それじゃあ操さん、土方さん、またね。おほほほ、おほほほほほっ、おほほほほほっ!」


 不気味な笑いを残し、お妙は二人の前から去って行った。

 どちらともなく顔を見合わせる。


「どうしましょう」

「くそ、ありゃあきっと天パ達に言いふらしに行ったぞ」

「ああ、それは別にいいとして」

「いいんかい!」

「お妙さん、かんざしいらないって言ってましたから、何か別のプレゼントを探さないと……」

「ーーーあ、ああ、そうだな」


 先ほどのお妙の言葉を別段気にしている風ではない操に、土方は少し残念に思った。もし、自分に少しでも気があるなら、キャバクラの話しが出た時に不快な顔をするのではないか。と思ったのだ。それが無かったということは、操は土方の事を男として特別に見ていないという事になる。


「近藤さんに連絡して聞いてみます?」


 近くに見えた電話ボックスを指差し首を傾げる操に、土方は肩を落としてため息を吐いた。


「そうするか……」






~~~






 近藤にお妙に会った旨を伝えると、何故俺は今その場にいないんだ。もうとっつぁんほったらかして帰るだのなんだの大騒ぎになった。それをなんとか電話口でなだめすかせると泣きだした。
 本当面倒臭い男だ。おまけに何でもいいから、とにかくお妙が喜びそうな素敵なものを買って来いと怒鳴られてしまった。


「素敵なものっつったって、一体何を買やぁ、いいんだよっ! そんな素敵を自ら主張してるものがどこに売ってんだ!? ってか、何で俺が怒鳴られないといけねーんだよぉっ!」


 怒りをあらわに受話器を乱暴に置く土方に、操が苦笑する。


「まあまあ、取りあえず何かいいものがないか店内を見て回りましょう」

「ちっ、あのゴリラ、あの調子じゃ途中で戻ってきそうだな……くそっ、何で俺が休みの日に他人の恋路の為に体力使わねーといけないんだ」

「これも人助けだと思って、楽しく行きましょう」


 操はいつもと同じように楽しそうにそう言うと、洋服売り場へと歩き出した。

 そんな様子を見ていると、腹を立てているのが虚しく思えて来る。正当に怒っているはずなのに、変な気分だ。


「あれ?」

「あ? どうした?」


 洋服売り場へやってくると、突然操が足を止めて声を上げた。

 視線の先には何やら見覚えのある顔が……。


「あら~、操さん、おはようございますぅ」

「おはようさっちゃん、どうしたの? お買い物?」


 ジロジロと操と土方を見ながら、猿飛あやめ、こと“さっちゃん”が前から歩いて来た。


「今日はちょっと本を買いに来たのだけど、ついでに着物も見ようかと思って。操さん達こそ、こんな所でデート? デートよね!? デートに決まってるわ! ということは、とうとう銀さんはあたしだけのものって事ね!? きゃあ~~~! あんなことやこんなことがやりたい放ーーーはっ!? いいえ、興奮しちゃ駄目。きっとこれは銀さんが仕組んだあたしへの罠。こうやって喜ばせておいて、後で『はい! 嘘でしたー!』とかなんとか言ってあたしの心をどん底までおとしめるつもりなのよ! ああ……やだ、ドキドキしちゃうっ……分かってる、分かってるわ、操さん何も言わないで! だけどこれはもう決まりよ。だってあなたたちとってもお似合いなんですものっ! 誰がどう見たって付き合ってるわ! ああっ! 銀さん! 今すぐ行くわ! あたしをもっといじめて! 卑しいメス豚と罵って~~~~~!!!!! きゃアァァァァ~~~~~!!!」

「あ、ちょっと!」


 止める間もなく独り言を大声で叫んで、さっちゃんは飛んで行ってしまった。

 残された二人は呆然と立ち尽くし、さっちゃんが消えた方をしばし見つめる。


「ーーーおい、あいつも天パの所に言いに行ったぞ」


 呆れたように土方が言う。


「そうですね。何だか困った人たちばっかりのような……」

「困った奴らしかあんたん所にはいねーだろうが!」

「でも新八君は頑張ってツッコミしてくれてますよ?」

「あいつの場合、オタクが度を越してるじゃねーかっ!」

「そう言われるとそうですねえ」

「こりゃあ、くるくる天然パーマがいつ乗り込んで来るか分かったもんじゃねえぞ」


 間違いなく操を取り返しに来るだろう。土方は面倒な事に関わりたくないと頭を抱える。

 そんな土方の背中をポンと叩き、操は明るく言った。


「大丈夫です。それじゃあ、買い物する場所を変えましょう。そうすれば銀時も見つけるまでに時間がかかるでしょうし、邪魔される前にお買い物も出来ます」

「あんた、あいつが来るって前提で話してるな」

「ええ、まあ。朝も機嫌悪かったですし」


 今朝の銀時の様子を思い出し、肩をすくめる。


「あいつはあんたに相当惚れてんだな」

「違いますよ、兄妹みたいなものです。自分で私の“お父さん”って豪語してるくらいですから。それに、銀時はああ見えてお妙ちゃんとか、月詠さんとか、さっちゃんとか……とにかく女性にモテるんです。私的には月詠さんなんか結構両想いに近いんじゃないかな~って思ってるんですよ。銀時もいい年だし、そろそろ身を固めて欲しいんですけどね。あ、でも月詠さんが奥さんになったら、夫婦喧嘩の時大変そうですね」


 ふふふ、と笑う操は、気づいていないのかはぐらかしているのか、その心中は読めない。

 結局ここにとどまっていても仕方ないという事で、二人はデパートを後にした。





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