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act.6(明月院)

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就職難民 黙って俺についてこい!










 「寝ていないのか?」


 朝一番、顔を合わせた瞬間に明月院さんに言われた一言。そう、私の顔は“寝不足です!”とまさに書いている状態なのだ。


「化粧品会社で働いているという自覚がないのか?」


 静かに言われると、余計に申し訳なくなる。

 クマがびっちり浮きあがった酷い顔は、昨夜カレンに借りた本や新製品の資料を読んでいたら、寝るタイミングを逸してしまった結果。知らないことばかりで色んな事をネットなんかでも調べながら進めていたら、時間の進みが早い早い。気付いた時にはいい時間で、慌ててベッドに潜り込んだんだけど――朝起きたら明らかにどんよりとした顔がそこにあって。


「俺が言うのもなんだが、少し顔を洗って来るといい」

「はい」


 明月院さんもいつも眠たそう、というか、伏し目がちだからそういう感じに見えちゃうんだけど、それがまた儚げというか、薄幸の美男子って感じを演出してるんだよね。

 廊下に出てトイレへ向かい、鏡に映った自分の姿を見てため息。


「はあ……朝見た時よりもなんか酷くなってる気がする」


 バシャバシャと顔を洗い、再びため息。

 昨日明月院さんの為にも頑張るって決意したのに、これじゃあ説得力ゼロだわ。

 部屋に戻ると、明月院さんがファイルやらCDやらプレーヤーやら色んな物をテーブルの上に並べていた。


「それ、今までの曲と商品のファイル。適当に聞いて」

「あ、はい」

「それと、俺はこれからしばらくブースにこもるから、用がある時はそこのタクにあるマイクスイッチを押して話し掛けて」


 そう言って昨日と同じように分厚い防音扉を開けて、明月院さんはグランドピアノを弾きはじめた。


「そうか、あっちの防音の部屋の事をブースって言うのね。……でも、“たくのマイクスイッチ”ってなんざますか?」


 ブースは大きなガラス張りで、そのブースに向かうように大きな機械がどんと据えられてる。小さいスイッチやらがそれはもうたくさん並んでいて、私にはどれが何かなんてさっぱり分からない。


「なんでたくさんハイとかミドとかロウって書いてあるつまみがあるんだろ? あ、マイクスイッチってこれかな?」


 ど真ん中にマイクがあって、その下にボタンがある。


 カチ


 試しに押してみる。

 ―――別に変わった事は起こらない。


「あれ?」


 私はたくさんあるヘンテコなものの中の一つに、緑や赤色が上下に動くメーターのような物を見つけた。


「どうしてこれだけ動いてるのかしら?」


 不思議に思ってそのメーターの真下にあるボリュームスライドらしいつまみをぐいっと上げた。


「うわっ!?」


 突然スピーカーからピアノの音が飛び出して来て、私はびっくりした。


「何これ? ……あ、もしかして」


 ふとガラスの向こうでピアノを弾いている明月院さんを見る。

 やっぱり明月院さんが弾いている音が聞こえてるんだ。―――すごく綺麗な曲。

 でも、なんでだろう、とても悲しく聞こえる。

 どんどんと紡がれて行くピアノの音色は、綺麗なのに私の胸を締め付けた。そして気づくと、私の目から涙がこぼれていた。


 突然音がやんだ。ガチャリと重たい音がして、明月院さんがこちらへと戻って来る。ものすごく険しい顔で。


「何をしているの?」

「え……あ、すみません」


 やばい、涙拭かなきゃっ。


「誰が勝手にブースの音を拾っていいって言った?」

「ご、ごめんなさい。マイクスイッチを探してて、ここだけメーターが動いてたから気になって……」

「マイク? 俺に何か用?」

「い、いえっ、違うんです。私、こんな機械見た事無くて、さっき明月院さんが言った言葉の意味もよくわからなくて、それで探してみようと思っただけです。すみません」


 もう、本当に私のバカ!

 ぐいっ! と頭を下げると、明月院さんはため息を吐いた。


「別にいい。あんたの所為でやる気なくなったから出かける」

「えっ!? あの、ちょっと待って下さい!」

「―――声、うるさい」

「すっ、すみません」







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