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act.10(春日)

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就職難民 黙って俺についてこい!










 翌朝、私は会社に出社して背筋が凍り付いた。

 何故なら、春日さんが今朝早く倒れて病院に運ばれたと言うのだ!


「そ、そんな。春日さん、大丈夫なんですかっ!?」


 同じ営業部の人に詰め寄る。けど、誰も詳細は分からないらしい。

 ど、どうしよう! 今日も営業のはずなのに、春日さんいないなんて! 他の人が代わりに行くの? いや、そうじゃなくて、春日さん大丈夫なの!?

 頭の中は混乱しっぱなし、誰に助けを求めたら良いかも分からない。部長? そうだわ、営業部には部長っていう偉い人がいるじゃない!

 私は急いで部長の元へ行く。


「おはようございます、部長。あの、春日さんが病院に運ばれたと聞いたのですが……」


 私はどうしたらいいでしょうか?

 と尋ねる前に、こちらも随分慌てた様子の部長が私の顔を見て両肩を掴んだ。


「葉月君。きみ、急いで病院まで行って春日の様子を見て来てくれ!」

「はっ!?」

「今日君達が行く予定の取引先はかなりの大手なんだ。春日がいないとまずい! 様子を見て、行けそうなら引きずってでも連れて行ってくれんか!?」

「そんな! 無茶苦茶です! と、取りあえず病院に行ってきます!!」


 酷いわ部長! 倒れて病院に運ばれた春日さんより、取引先との契約の方が大事だって言うの!?















 会社を出てタクシーを拾い、教えられた病院へと急いだ。受付で春日さんがいる場所を聞き、病室へと今度は小走りに急ぐ。


「あの、すみません。こちらに春日雅さんが運ばれたと伺ったのですが……」


 ドアから出て来た看護士さんを捕まえて尋ねると、優しく微笑んでこう言った。


「春日さんのご家族の方ですか? 随分と無理をされていたみたいで今は眠っておられますけど、しばらく休めば大丈夫ですから安心してくださいね」

「はあ、中に入っても大丈夫ですか?」

「ええどうぞ」


 家族に見えるかな? 似てないのに。

 そんな事を考えて遠慮がちにノックをする。男性の低い声で返事が返って来て、私は静かに中に入った。

 中には白衣を着た先生がいて、ベッドの上には春日さんが横になっている。顔色が真っ白だ。


「ご家族の方ですか?」

「い、いえ。春日の部下です……」

「会社の方ですか」

「あの、春日はどうして救急車で?」

「出社途中に駅のホームで倒れたみたいですね。診察した所、かなり無理をしていたみたいです。いわゆる過労です」

「過労?」

「寝不足と栄養不足です」

「酷い病気とかじゃないんですね?」


 良かった―――。でも、過労だなんてそんなに無理してお仕事してたんだ。

 私がほっとしたのが分かったのか、中年のお医者さんは点滴をいじって小さく頷く。


「2、3日入院して休養を取れば大丈夫。ご家族に連絡出来ますか?」

「あ、はい。会社の方に頼みます」

「お願いします。ではまた後で様子を見にくるので」

「ありがとうございました」


 病室を出て行くお医者さんにペコリと頭を下げ、春日さんのベッド脇に立ってその姿を見つめる。

 労働基準法違反じゃないの? あの鬼社長、春日さんをこき使ってたのね。

 なんだか無性に腹が立つ。と、その時春日さんがうっすらと目を開けた。


「春日さん、大丈夫ですか? 分かりますか?」


 私の問いにこちらに顔を向け、驚いたように目を見張る。


「あんた、なんで? て、ここどこ?」

「ここは病院です。春日さん出社途中に倒れて、救急車で運ばれたんですよ」

「―――あ」


 思い出したらしく、春日さんは顔をしかめてベッドから起き上がろうとした。


「ちょっと、まだ動いちゃ駄目ですよっ!」

「こんな所で寝ている場合じゃない。今日は大事な取引があるんだから。今何時?」

「駄目です! さっき先生が過労だって言ってました、春日さんお仕事頑張り過ぎなんです! 2、3日休んで下さい! 今日の取引は他の営業の方と行って来ますから!」


 本当にこの人なに考えてるの!? 倒れた直後なのにもう仕事!?


「僕が行かなきゃ今日の仕事はうまく行かないんだ。あんたと他の人じゃ無理」

「どうして無理なんて分かるんですか! 私、一生懸命頑張りますから! 春日さんのお役に立ちますから! やる前から無理だなんて決めつけないでくださいっ!! 少しは周りの人間も信用してください!!」


 冗談じゃないわ! 無理してまた倒れたらどうするつもりなの!?


「仕事のし過ぎです! 春日さんが過労死なんて事になったら、私は誰に仕事を教わればいいんですか? お願いだから、休んで下さい……」


 や、やだ。涙が出て来た。

 ぐいっと手の甲で涙を拭い、春日さんを睨みつける。

 しばらく無言で私の顔を見ていた春日さんは、必死さが伝わったのか観念したようにため息を吐いた。


「……はあ。分かった。僕も今日は動けそうにないし、あんたに任せる。―――けど、もしも取引失敗したらもう二度とあんたの面倒は見ないから。そのつもりで営業に行って来てよね」

「はいっ! 頑張ります! 死にものぐるいで仕事取って来ます!!」


 良かった! 取りあえず大人しく寝ててくれるのね! 後は部長に連絡して、春日さんのご家族に伝えてもらわなきゃ。


「私、会社に戻ります。ご家族に連絡するように伝えますから、寝てて下さい」

「そんなのいいから、さっさと仕事に行ってくれる? 取引先の会社の担当者と会う時間が迫ってるから」

「はい」


 そんな事分かってるもん。もうちょっと言い方ってもんがあるでしょう? 本当に顔と正反対の性格なんだから。


「それじゃ、行ってきます」


 すぐに病院を後にし、部長に連絡をする。

 と、春日さんの実家はここから随分と遠いらしく、連絡はするけど来られないだろうという事だった。

 春日さんって一人暮らしだったんだ。男の人の一人暮らしじゃ、栄養不足になってもおかしくないよね。あ、でもきっと彼女とかいるだろうから、やっぱり仕事が忙しくて疲れが溜まってるのよ。

 取りあえず部長にお願いして他の営業で時間のある人を寄越してもらうようお願いし、私は取引先へと向かった。








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