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チェンジ・ザ・ワールド☆
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act.11(明月院)

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就職難民 黙って俺についてこい!










 「寝ていないのか?」


 朝一番、顔を合わせた瞬間に明月院さんに言われた一言。そう、私の顔は“寝不足です!”とまさに書いている状態なのだ。


「化粧品会社で働いているという自覚がないのか?」


 静かに言われると、余計に申し訳なくなる。

 クマがびっちり浮きあがった酷い顔は、昨夜カレンに借りた本や新製品の資料を読んでいたら、寝るタイミングを逸してしまった結果。知らないことばかりで色んな事をネットなんかでも調べながら進めていたら、時間の進みが早い早い。気付いた時にはいい時間で、慌ててベッドに潜り込んだんだけど――朝起きたら明らかにどんよりとした顔がそこにあって。


「俺が言うのもなんだが、少し顔を洗って来るといい」

「はい」


 明月院さんもいつも眠たそう、というか、伏し目がちだからそういう感じに見えちゃうんだけど、それがまた儚げというか、薄幸の美男子って感じを演出してるんだよね。

 廊下に出てトイレへ向かい、鏡に映った自分の姿を見てため息。


「はあ……朝見た時よりもなんか酷くなってる気がする」


 バシャバシャと顔を洗い、再びため息。

 昨日明月院さんの為にも頑張るって決意したのに、これじゃあ説得力ゼロだわ。

 部屋に戻ると、明月院さんがファイルやらCDやらプレーヤーやら色んな物をテーブルの上に並べていた。


「それ、今までの曲と商品のファイル。適当に聞いて」

「あ、はい」

「それと、俺はこれからしばらくブースにこもるから、用がある時はそこのタクにあるマイクスイッチを押して話し掛けて」


 そう言って昨日と同じように分厚い防音扉を開けて、明月院さんはグランドピアノを弾きはじめた。


「そうか、あっちの防音の部屋の事をブースって言うのね。……でも、“たくのマイクスイッチ”ってなんざますか?」


 ブースは大きなガラス張りで、そのブースに向かうように大きな機械がどんと据えられてる。小さいスイッチやらがそれはもうたくさん並んでいて、私にはどれが何かなんてさっぱり分からない。


「なんでたくさんハイとかミドとかロウって書いてあるつまみがあるんだろ? あ、マイクスイッチってこれかな?」


 ど真ん中にマイクがあって、その下にボタンがある。


 カチ


 試しに押してみる。

 ―――別に変わった事は起こらない。


「あれ?」


 私はたくさんあるヘンテコなものの中の一つに、緑や赤色が上下に動くメーターのような物を見つけた。


「どうしてこれだけ動いてるのかしら?」


 不思議に思ってそのメーターの真下にあるボリュームスライドらしいつまみをぐいっと上げた。


「うわっ!?」


 突然スピーカーからピアノの音が飛び出して来て、私はびっくりした。


「何これ? ……あ、もしかして」


 ふとガラスの向こうでピアノを弾いている明月院さんを見る。

 やっぱり明月院さんが弾いている音が聞こえてるんだ。―――すごく綺麗な曲。

 でも、なんでだろう、とても悲しく聞こえる。

 どんどんと紡がれて行くピアノの音色は、綺麗なのに私の胸を締め付けた。そして気づくと、私の目から涙がこぼれていた。

 突然音がやんだ。ガチャリと重たい音がして、明月院さんがこちらへと戻って来る。ものすごく険しい顔で。


「何をしているの?」

「え……あ、すみません」


 やばい、涙拭かなきゃっ。


「誰が勝手にブースの音を拾っていいって言った?」

「ご、ごめんなさい。マイクスイッチを探してて、ここだけメーターが動いてたから気になって……」

「マイク? 俺に何か用?」

「い、いえっ、違うんです。私、こんな機械見た事無くて、さっき明月院さんが言った言葉の意味もよくわからなくて、それで探してみようと思っただけです。すみません」


 もう、本当に私のバカ!

 ぐいっ! と頭を下げると、明月院さんはため息を吐いた。


「別にいい。あんたの所為でやる気なくなったから出かける」

「えっ!? あの、ちょっと待って下さい!」

「―――声、うるさい」

「すっ、すみません」


 行っちゃった。どうしよう。一人取り残されてしまった……。でも取りあえず明月院さんがわざわざ出してくれたものを聞かなきゃだよね。

 テーブルの上のファイルやCDを見て、私は肩を落とした。

 私の所為で明月院さん集中出来ないんだ。余計な事ばっかりして、大きな声ばっかり出しちゃうから。ここは明月院さんの仕事場なのに、私がこんな風に使って。どうして私、音楽部なんかを選んだんだろう?

 CDプレーヤーの再生ボタンを押すと、軽やかなリズムが流れて来た。


「あっ、これ、聞いたことある」


 急いでファイルをめくると、数年前に流れていたファンデーションのCMソングだった。

 有名な歌手が歌ってたけど……これって作曲者が明月院さんになってる! 知らなかった!

 何だか次々と明月院さんが作った曲を聴いていたら、無性にピアノに触ってみたくなった。


「怒られちゃうかな? 怒られるよね? ―――でもでも、ちょっとだけ触ってみたい」


 私は重たいドアを開け、恐る恐るピアノの前へと歩を進めた。音楽に関しては全くの素人だけど、学校の授業でリコーダーとハーモニカくらいは弾いたことがある。楽譜なんて読めないけど……。

 そっと鍵盤に触れる。


「ポロン」


 室内に落ちた音はとても穏やかで、私は知らず笑顔になっていた。


「ピアノって、こんなに鍵盤が重たいんだ……ピアニストってすごいんだなあ」


 黒い長方形の椅子に腰掛け、先ほど聴いたCMの曲を真似して弾いてみる。


「えっと、確かこんな感じだったかな?  ―――うん、そうそう、こんな感じ!」


 何これ、すっごい楽しい! 














 どれくらいピアノを弾いていたか、私は我に返って腕時計を見た。


「やだっ! もうこんな時間っ!?」


 慌ててブースを出ると、なんと明月院さんが部屋の端のソファーに腰掛けていた。

 ひっ!? いつの間に帰ってたの!? どどどどうしよう! 怒られる! 絶対怒られる!!


「すみません、勝手にピアノを弾いたりしてっ、もうしませんからっ、だから、その……」


 ぐっと目をつぶり、怒られるのを覚悟で謝罪すると、


「別にいい」


 あれ? 怒って……ない?

 すうっと立ち上がった明月院さんは私の顔をじっと見つめた。

 ―――うっ、間近で見るとますます美形……じゃなくって、恥ずかしいんですけどっ!


「あんた、ピアノ習ってたの?」

「えっ? いえ、小学校の時に音楽の授業でリコーダー吹いてたくらいです……」

「ふうん。明日ここじゃなくて別のスタジオで会社と関係無い曲のレコーディングするから着いて来て」

「はあ……えっ? 私がですか?」

「うるさい、そう言ってるだろ? 家まで迎えに行く」


 それだけ言い残すと、明月院さんはブースに入ってしまった。

 会社と関係無い曲のレコーディングって……一体なんだろう? ていうか、私なんかが着いて行ってもいいの!?

 不安に襲われていると、ふいに携帯がメールの着信を知らせた。


「誰だろ」


 カレンかな、なんて思いながら携帯を操作すると、メールの送信者は白波瀬さんだった。

 本当にメールしてきてくれたんだ! なんてちょっと頬が緩んでしまう。だってあんな出会い方なんだもの。なんだかんだ言ってもその場限りかな〜なんて、ちょっと思ってたりもした。


『お疲れ様です。先日はどうも有難うございました。今晩のご予定は何かありますか? 良かったら一緒に食事に行きませんか?』


 先ほどまでの不安はどこへやら、現金なもので今は嬉しさがこみ上げている!

 胸の高鳴りを覚えながらメールを開くと、そこにはこんな文面が躍っていて、鼓動は今度こそ完璧に早くなった。


「ど、どうしよう」


 行きたい気持ちは山々! でも今日の私のコンディションは最悪――ってこんな時こそカレンよ! って私は仕事中に何を考えてるのよ〜! ……でも白波瀬さんは私と同じく化粧品メーカーで奮闘していて、しかもうちの会社の人達みたいに完璧な出来る人間! っていう感じでもないのよね……。我ながら失礼な評価だとは思うけど、あの少し気弱そうな柔らかい雰囲気がなんともいえなく安心させてくれるっていうか……。会社は違うけど、一緒に頑張れたらいいな! ってそんな風に思える相手なんだもん。

 嬉しい旨を伝えるメールを打つと、ちょうど終業時刻になった。鞄をひっつかんでカレンの元へと急ぐ。









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