チェンジ・ザ・ワールド☆
act.13(明月院)
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就職難民 黙って俺についてこい!
待ち合わせの場所に着くと、既に白波瀬さんは立っていた。私の姿を見留めると、右手を軽く上げてくれる。
「ご、ごめんなさい! お待たせしましたっ!」
慌てて頭を下げると、白波瀬さんも恐縮したように背筋を伸ばす。
「い、いえそんなっ。僕の方こそ少し早く来てしまいました。気を遣わせてしまってすみません」
私と同じように頭を下げる白波瀬さん。二人でぺこぺこしあってしまい、思わず二人同時に笑いだす。
「あははっ、何かおかしいですね、僕達。えっと、それじゃこの近くに知ってるお店があるんで、そこでいいですか?」
「はいっ!」
白波瀬さんの案内してくれたお店は、社長と出会ったあのバーのすぐ近くのイタリアンレストランだった。
「こんなお店もあるんですねぇ」
「この辺は実は結構穴場なお店が多いんですよ。あそこのバーも雰囲気がいいんです」
「そ、そうなんですかぁ〜」
指し示されたバーはまさしくあのバーで、思わずあの日の失態を思い出してしまい、軽く口ごもってしまった。変な風に思われないといいけど。
「じゃ、入りましょう」
そんな私の内心は気にも留めていない様子で、白波瀬さんがレストランの扉を開けて中へと促してくれた。中はオシャレではあるけれど、オレンジ色の照明が優しい雰囲気で白波瀬さんのイメージにぴったりのお店だなぁ、なんて思わず感心してしまう。
席に通され、各々注文を済ませると話は自然に仕事の方へと向いていく。
「そういえば葉月さんは学生さん――ですか?」
「はい。大学4年です」
そう言えばまだちゃんとした自己紹介もしていなかった、なのに一緒に食事をする事が嫌じゃない。やっぱり白波瀬さんの持つ柔らかい雰囲気のおかげなのかな? そんな事を内心でぽつりと考える。
「じゃあ就職はもう?」
「いえ、それが……まだ」
「今は厳しいっていいますもんねぇ」
そう言う白波瀬さんの顔には心底私を心配してくれているという表情が張り付いていた。
「あ! でも今、研修はしてるんです!」
心配そうなその表情を少しでも和らげたくて、思わずそんな事を口走った。
私がそう言うと白波瀬さんはほっと小さく息を吐いた。
「それは良かった!」
「はい! しかも化粧品メーカーなんですよ〜。白波瀬さんと一緒ですね!」
「えぇ!? そうなんですか! うわぁ、すごい奇遇ですね〜!」
化粧品メーカーというと、白波瀬さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。やっぱり同じ業種の人とこんな風に知りあえるのって嬉しいし、親近感もわいちゃうよね!
「ちなみにどちらの?」
「美成堂です!」
美成堂と言う時に思わず少し胸を張ってしまう。だってあの美成堂なんだもん! 白波瀬さんも美成堂という名前に驚きを隠せないようで、思わず目を丸くしている。
「美成堂とは凄いですねぇ! 葉月さんは優秀なんですね」
「いえっ、そういうわけじゃないんですっ。たまたま御縁があって……」
「いえいえ、葉月さんはとっても魅力的な方ですし、美成堂さんの採用担当の方の気持ちも分かります」
採用担当――私を採用してくれたのはあの鬼社長。あの鬼社長の気持ちをこの心優しい白波瀬さんが理解する日は一生ないと思う……なんて言いすぎかしら。更に言うと今日の私が多少なりとも魅力的に見えるのであれば、それは間違いなくカレンのおかげで……ああ、もう! 本気でカレンに感謝!
「で、研修はどうですか? 楽しいですか?」
「はいっ! 分からないことばかりで大変ですけど、でもやっぱり楽しいです」
「そうですよねっ、僕もこの業界が大好きなので、葉月さんにそう言って貰えると何だかとっても嬉しいです」
白波瀬さんが本当に嬉しそうに笑ってくれたので、私も思わず肩の力が抜けていく。
「白波瀬さんはどうですか? お仕事順調ですか?」
「そうですねぇ、ボチボチ――ですかね。葉月さんは具体的にはどんな事をなさってるんですか?」
「あ、私は今は新製品のCM曲なんかを作る音楽部の方にいます」
「へえ、CM曲? 葉月さんは音楽の経験があるんですね!」
「いいえ、全くのズブの素人なんです」
「え? それなのにどうして?」
白波瀬さんの言いたい事はよーく分かるわ。社長だって明月院さんだって、かく言う私だって何でだろうっていまだに思ってるし。
でも……
「全然分からないお仕事なんですけど、やっぱり化粧品のCMって映像も音楽もすごく重要だと思うんです。たくさんの人たちが一つの商品を作るのに一生懸命になってて、その中でもすごく音楽に惹かれたんです。だから、頑張ってみようと思って」
「そうですかあ。確かに曲によってイメージが随分変わりますもんね、分かりますよ葉月さんのその気持ち」
「あ、ありがとうございます!」
「それじゃあ、お仕事は楽しい、ですか?」
「はい。―――あ、うちの音楽部の上司ってちょっと変わり者というか、読めない人なんですけど、本当に素敵な曲を作って演奏するんです。それを聴いてたら何だかこっちまでピアノが弾けるような気になっちゃって」
「ふふ、葉月さんは感受性が豊かな人なんですね。仕事が楽しいなら、新製品だとヒットした時の喜びもなおさら大きいですし、やりがいのある内容のお仕事だと思いますよ」
ヒットした喜び――うん、味わってみたいな。ていうか味わえなかったら私の就職戦線も終了なんだけど……。
「開発している段階から欲しくなってしまう商品で。完成が今から楽しみなんです」
「素敵な商品なんでしょうねぇ」
「はい! とっても魅力的なリップグロスなんです!」
「ふふっ、楽しそうで僕も関わりたくなっちゃいます」
「私も白波瀬さんみたいな方とお仕事出来たら、凄く嬉しいんですけど」
私がそう言うと、白波瀬さんは一瞬目を伏せた――ように見えた。けど、気のせい、かな?
「うちに来ませんか?」
「え?」
「なーんて、僕が社長だったら言えるんですけどねぇ」
そう言って苦笑する白波瀬さん。なんだか胸の奥でドクンと音が鳴った気がする。
「そう言えば白波瀬さんはどちらの会社なんですか?」
「いや〜、美成堂さんの前ではもう弱小も弱小なので。内緒にさせておいて下さい」
「そんな事……」
「でもっ! 心意気だけは負けてませんよ〜」
「あははっ」
白波瀬さんと話しているとリラックスしている自分がいる。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、私と白波瀬さんは楽しいひと時を過ごした。
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