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act.23(明月院)

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就職難民 黙って俺についてこい!










 新製品用の曲が出来上がり、それに合わせた写真撮影やCM撮影にも同行させてもらい、数日があっという間に過ぎた。

 その間、音楽について少しずつ勉強も進めている。

 とは言っても、社長と一緒に新作発表会に出席する私には、新製品のプレゼンを会場でやらなくちゃいけないという、とんでもない仕事も待ち受けていて、今はプレゼン用の資料を頭に叩き込んでスピーチの練習に明け暮れている。というのが正直な所。

 そして新作発表会の前日、仕事が終わる頃に明月院さんに話し掛けられた。


「これから少し出かけるから、一緒に来て」

「はい」


 もう、なんていうか、こういう突然の言葉にも驚かなくなってきてる自分が怖い。

 どこに行くんですか? とか、そういう事をいちいち聞かなくても、明月院さんと一緒に出かけるっていうだけでちょっと楽しいなんて思える余裕まで出てきてるもんね。すごい進歩。

 荷物をバッグにまとめ、明月院さんの後に付いて会社を出た。











 駅から電車に乗り、しばらく歩くと大きな音楽ホールが現れた。

 入り口には大勢の人が並んでいて、立てかけてある看板を見ると、


『明月院 宏 クラシックコンサート』


 と書かれていた。

 明月院?

 チラリと隣りの明月院さんを見上げると、私の視線に気づいてため息を吐く。


「俺の父親だ」

「明月院さんの、お父様……」


 確かカレンが言ってたけど、明月院さんのお父様はクラシック界では世界的に有名なバイオリニストなんだよね。その人のコンサートなんだ。

 開場時間が過ぎているから、あまりうろうろしているお客さんはいない。

 ふと、会場のエントランスに入った所で明月院さんが足を止めた。

 どうしたんだろう?

 見上げると、奥の階段を睨んでいる。その方向に目を凝らしていると、一人の美しい顔立ちの男性がこちらへ近づいてきた。


「負け犬がこんな所に一体何の用ですか?」


 ま、負け犬……? 何この人、すっごい……感じ悪い。


「彼女に自慢でもしようというんですか? 『僕の父は世界的に有名なバイオリニストなんだ、すごいだろ?』と。……まあ、僕はそんな事気にしませんが、チャラチャラとした音楽しか弾かない兄さんに、父さんのバイオリンが理解出来るとは思えませんね。君も、こんな負け犬なんかと付き合っていたら負け犬根性がうつってしまうよ、早めに見切りを付ける事をお勧めする……それでは僕は演奏の準備があるのでこれで」


 一人しゃべって、その綺麗な顔の男性はいなくなってしまった。

 何なの! 美形だったら何言っても許されるとでも思っているのかしらっ!?


「明月院さん! あんな失礼な事言わせておいて良かったんですか!? 明月院さんが作る音楽のどこがチャラチャラしてるんですか!? ―――ああっ! 何か言ってやれば良かった! 悔しい!!」

「あんたが怒ってどうする? 変なやつだな。―――あいつは俺の弟だ、クラシックをやめた俺を憎んでいる」

「え? 弟さん? 憎んでるって……」


 明月院さんはクラシックをやめたと言っていたし、さっき弟さんは演奏の準備があると言っていた。確かに言い方はすっごく失礼だったし腹が立ったけど、もしかしたら弟さんは明月院と一緒に演奏したいんじゃないかしら? 一緒に演奏出来ないのが寂しくてあんなきつい言い方をしたんじゃ……


「もうすぐ始まる。早く入るぞ」

「あ、はいっ」






 それからはすごく素敵な演奏を、睡魔と戦いながら鑑賞した。初めて生で聴くクラシック音楽はすごく綺麗で、さっきの感じ悪い明月院さんの弟さんも、お父様も、素人ながらだけどとても素晴らしい演奏だったと思う。

 雰囲気的に敷居が高い感じがするし、聴いても分からないっていう理由で避けてたけど、クラシックって何となく気持ちがリラックスする感じがするな。


 コンサートが終わってさっさと会場を出て行く明月院さんに着いて歩いていると、会場を出た所で呼び止められた。






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