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  • 水銀燈を離したくない1~87

水銀燈をぎゅっと抱きしめたい―まとめサイト―

水銀燈を離したくない1~87

最終更新:2007年11月05日 03:48

suiginto

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だれでも歓迎! 編集
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 00:58:02.54 ID:HsD1iU2i0
飽きっぽい性格だった。
熱しやすく冷めやすい性格だったのかもしれないが、一つの事が長続きしなかった。
実家の押入れを開けて見れば、習い事道具の見本市が出来るほどだ。
魅力的な物に心奪われても、奪われた心は直ぐに風化し、風に飛ばされる。
友達もそうだ、二年以上付き合えた試がない。
そして、僕は人を好きになるのが怖かった。
相手に、自分の気持ちが受け入れられないかもしれない、と思うよりも、
“何かを愛した自分の気持ちが、嘘になってしまうかもしれない”
こっちの方が、饅頭なんかよりも何百倍も恐ろしかった。

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:01:06.54 ID:HsD1iU2i0
冷たく、湿った香を鼻腔に感じる。
朝日がブラインド越しに、部屋を白が強い青で照らしていた。
楽しい夢を見ていたのか、心地よい倦怠感が体を包み、ベットマットに背を吸われる。
大きく息を吸い、吐き出す。時計を見ると九時を少し回った所だった。
夢を思い出そうと布団を被るが、電話のベルが鳴り始める。
僕は布団を蹴飛ばし、ベットから転がり降りて受話器を掴んだ。
「はいもしもし」
酷く掠れた声が出た。口を開けて寝るからだ。
「まきますか? まきませんか?」
靄に包まれた森のような声が言う。
「はい?」
間違い電話にしては新しい。
「分りました、では楽しみにしてまちます」
不思議な声はそれだけ言うと、一方的に電話を切った。
「あ、おい、ちょっ──」
受話器は僕の声を遮るように、無機質にツー、ツーと言い続けた。
「なんだったんだ……」
疑問の視線を受話器に投げかけ、定位置に戻してやった。
受話器には、僕の疑問に答えられない事を知っているし、
彼の仕事は完璧だった、難癖もつけようがない。
寝癖を撫でつけつつ、僕は重い足取りでベットに戻った。マットが優しく包んでくれる。
結局、僕はどんな夢を見ていたのか思い出せなかった。

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:04:47.25 ID:HsD1iU2i0
次に目が覚めたのは三時過ぎだった。
何か大切な記憶を脳から引き離し、どこかに置いて来た様な、そんな目覚めだ。
部屋はすっかり薄暗く、現実味がない。夢の続きが流れ込んできたかのようだった。
あれも夢の続きだろうか。ベットの隣に鞄が二つ、並べて置かれてあった。
夢が混じる湿気を鼻で吸う。
アンティーク物なのか、鞄の四隅と、腹には薔薇の彫金がある。
鞄を包む焦げ茶の皮は、時間を切り取られたかのように新しいくせに、古い時代の匂いがしてくる。
詳しい事は分らないが高価な物なのだろう。
後頭部を撫でるように掻く。何でこんな物が僕の部屋に?
ふと、鞄の鍵穴で何かが光った。
咄嗟に鍵穴に手を伸ばす。指先が鍵穴に触れると、金属が噛合う音がした。開いたのか?
鞄に手を掛け開くと、琥珀色の長い髪の女の子が、丸まって眠っていた。
服は、中世ヨーロッパ風の町民服をフリルでアレンジし、緑で染めたような物を着ていた。
「人間……いや、人形?」
思わず人と見間違ごうばかりの精巧さだ。
両脇に手を入れ、持ち上げてみる。思ったより軽い。
左右にゆらゆらと揺すってやると、キイキイと音を立て手足が動く、
頭は自分の髪の重さに耐えられないのか、天井を見上げながら、ガクンガクンと揺れた。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:07:00.45 ID:HsD1iU2i0
「面白いな。それに、柔らかい」
人形を引っくり返す。
腰に、穴が一つ、開いていた。
何かのスイッチかと指を入れてみたが、爪先は穴の奥で待つ闇に触れただけだった。
恒例のパンツチェックを終えると、する事もなくなり、人形を鞄に戻そうとしたら、
鞄の端に何かがある。螺子巻きだ。
「これか?」
螺子巻きを腰の穴に差込、螺子を巻く
キリキリと歯車が噛合う音がする
キリキ、ギ、ギギ歯車の悲鳴が聞こえてくるが、僕は螺子の類は限界まで巻かないと気がすまないのだ
チョロQを買った時からの癖で、今更止められない。俺を怨むな玩具会社を怨め。
「いつまで巻いてるですか、この、馬鹿人間ッ!」
向う脛に衝撃が走った。思わず人形を取り落とす。
人形はあろうことか、自分で床から起き上がり、僕の目の前で仁王立ちしたのだ!
「それに、何が'面白いな~’ですか!」
面白いな~で顎を軽く突き出し、目を薄らと閉じ言った。僕の真似なんだろうか?
「首がもげるかと思ったですよ!この──」
息を吸い込み、
「駄目人間ッ!」
耳を劈くような声で言い放った。
「ご、ごめん」
勢いに押され謝る。
「分ればいいですよ、分れば」と人形はしたり顔で言った。

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:sage :2007/11/03(土) 01:09:26.50 ID:HsD1iU2i0
改めて人形──いや、彼女を見つめなおす。
さっきの騒ぎで、怖いだとか、ミステリー調査団だとか、そんな気持ちが吹き飛んでしまい、
純粋な好奇心だけで彼女を見ていた。
良く見ると可愛い顔をしている。人形だから当然と言われたらそれまでだが、
まるで、本当の少女のような、生を含んだ可愛さがある。
肝心の彼女は、怒りが引き潮のように引いたのか、今は小動物のように辺りを警戒し、
僕と視線が会うと慌てて下を向き、上目遣いで僕の様子を伺ってくる。
「あのぉ……」と彼女が口を開いた
「なんだい?」
「蒼星石の螺子も、巻いて欲しいのですけど……」
「蒼星石?」僕は鸚鵡返しに聞き返した。
「あの、あの鞄に、翠星石と同じように眠ってるはずですぅ」
自分が入っていた鞄の、隣にある鞄を指差し言った。
「あれか」
僕と彼女の間には、不思議な空気が流れていた。
言うならば、眠気を引き伸ばしミルクを混ぜ、七輪で焼いた煙のような、そんな空気だ。
「お、おわっ」
僕が立ち上がると、人形は驚き、身をそらした。
「? どうした?」
「いや、その、大きいですね」
彼女があんまり真剣な顔で言う物だから、思わず噴出した。
「な、なに笑ってるですか!」
「初めてだよ、人形に大きいって言われたの」
「なっ! もう、いいからとっとと蒼星石の螺子を巻きやがれです!」
表情の良く変る顔を、上から見下ろす。
「あっ……その、巻けぇーですぅ」
声を荒げたのが恥ずかしくなったのか、柔らかく言いなおした。

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:13:40.76 ID:HsD1iU2i0
僕はもう一つの鞄を開けた。
中には琥珀色の、髪の短い人形が丸まって眠っていた。
青に染めた男装を纏い、黒い帽子を被っている。
同じように、螺子巻きで螺子を巻く。
キリキリ、キ、ギギッ歯車が悲鳴を上げる。怨むなら会社を怨んでくれ。
「お前は、ちったぁ勉強しやがれです!」
背中を蹴飛ばされれた。青い人形が床に転がるが、
「いててっ……」
腰を摩りながら起き上がった。
「蒼星石!」
痛みの原因が、青い人形の背中に逃げ込むように回り込む。
「あ、ちょっと、翠星石」
急に飛びつかれバランスを崩すが、なんとか体を支えている。
僕と目が合うと、コホンッと青い人形が喉の調子を整えた。
「はじめまして。僕はローゼンメイデン第四ドール蒼星石。後ろに隠れているのは
 僕の双子の姉の翠星石。ほら、翠星石からもちゃんと自己紹介しなよ」
そう言われ、おずおずと蒼星石の背中から体を出し、
「ローゼンメイデン第三ドール翠星石です……よろしくです」
そう言うと、すぐに蒼星石の背中に引っ込む。お前はミーアキャットか。
「ごめんね、翠星石は人見知りなんだ」

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:16:49.77 ID:HsD1iU2i0
苦笑いを作り、説明する。しっかりした妹だ。
それに、双子と言われたら、どことなく二人(二体?)共似ている
二人とも、赤と緑のオッドアイで、色の位置が二人とも違っていた。
「それと、マスターの名前を教えてくれないかな?」
「マサユキと言うんだ」
「まさ…ゆき……」蒼星石は口の中で僕の名前を呟いた。
「うん、覚えたよマスター。これからよろしくね」
「ん? ああ、よろしく。えーと、翠星石も、よろしくな」
「……空(から)人間」
翠星石が蒼星石の肩から顔半分を出し言った。
蒼星石は笑って翠星石の発言を流したので、僕も一緒に笑う事にした。
ははははは。
空笑いも飽きた所で、僕は本題を切り出す。
「ところで、家に何の用だい?」
僕の問いに蒼星石は空笑いをやめ、顔を引き締めた。
「ええ、今から説明します」

23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:21:53.60 ID:HsD1iU2i0
僕達は小さなちゃぶ台を挟んで座った。もちろん、翠星石は蒼星石の後ろだ。
「話しの前に、何か飲み物でも淹れようか」
僕は立ち上がりながら言う。
「あ、僕がやりますよ」と蒼星石が座布団から立ち上がるが、それを制して
「いいっていいって。それより、インスタントでいいかな?」
「はい、お願いします」と蒼星石が言う、後ろでは不満顔の翠星石が指を弄っていた。
コップにインスタンとコーヒーの粉を直接注ぐ。
コップにトントンと瓶の端を当て、絶妙なバランスで────
「あっ」
蒼星石と僕の声が重なった。
粉の塊がコップにドサンと落ちた。良く見るとカビが生えてる。かもされた!
蒼星石に苦笑いを送ると、蒼星石も苦笑いで返してきてくれた。
「緑茶で、いいかな?」
「え、ええ、お願いします」
僕は戸棚から茶葉を取り出すと、適当に急須に葉をいれ、お湯を注いだ。
「どうぞ」とふぞろいなコップをちゃぶ台の上に並べる。
「ありがとうございます」
「ありがとです」と彼女達が不釣合いな大きさのコップを手に取った。
「……以外に上手ですね」
「うん、おいしいね」
好評のようだ。
彼女達はアリスゲームと言う物をしているらしい。
人形師ローゼンが作った七体の人形が、互いの命の元の『ローザミスティカ』を奪い合う。
その全てを揃えた時『アリス』となり、父親、ローゼンに会う事が出来るゲーム。
そして、僕の所に来た理由は『契約』の為らしい。
契約をする事によって、力を──簡単に言えば、彼女達のエネルギータンクになるって事だ。

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:25:55.13 ID:HsD1iU2i0
「なるほど。で、契約ってどうするんだい?」
「この指輪を左手の薬指にはめて下さい」
蒼星石は何処からともなく、七の爪に支えられた薔薇の彫金が美しい銀の指輪を取り出した。
「ああ」と指輪を受け取ろうとすると、翠星石が僕の手に指輪を押し付けた。
「お、お前はっ、翠星石の螺子を先に巻いたんですから、翠星石から……契約するです」
龍の尾の様に言葉を絞り言う。
蒼星石を見ると、顎を軽く引いた。
「それじゃあ」
指輪を指に通そうとすると、翠星石が声を上げた。
「なんだい?」
「いや、その……契約なんですから、もっとおごそかにして欲しいですよ……」
それもそうだ。
「僕は、翠星石と契約する」
指輪を指に通す。
「ッ!?」
指輪のリングが溶け、薔薇の茨になり指に絡まる。
薔薇の棘が指に深く刺さり、指を締め付ける。熱い。
「落ち着いて! すぐに良くなります!」
蒼星石の声が遠くに聞こえる。
茨が次第に元のリングの形に戻り、熱が引いて行った。
「なん、なんだこれ? 急に熱く──」
「すみません、説明しておけばよかったですね」と蒼星石が謝る。
「ったく、翠星石のマスターなんだから、そのぐらい我慢しやがれですよ」
いつのまにか僕の横に立っていた翠星石がそう言った。
急にフレンドリーになったな。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:29:42.81 ID:HsD1iU2i0
「その、僕との契約も、いいですか……?」
蒼星石がおずおずと指輪を差し出してきた。
僕はさっきの痛みを思い出し、断りたかったが、蒼星石の申し訳なさそうな顔を見ていると
そんな事を言う訳にも行かず、同じように契約の言葉を口にし、左薬指に指輪を通した。
指輪同士が触れ合うと、互いの指輪が溶け茨になり、絡み合いて一つの指輪となった。
薔薇の花が大きくなっている。
「よろしくね、マスター」と蒼星石が微笑みながら言う。
「よろしく、蒼星石」
「じゃあ、そう言う事だから晩飯の用意でもしろですよ」
「晩飯ィ?」
「マスター、僕も手伝うよ」
時計を見ると六時半だった。確かに、早い所はそろそろ夕食の用意をする時間だ。
「って、君ら人形だろ? 物食べれるのか?」
「当然です。……もしかして、翠星石達に何も食べさせない気だったですか?」
翠星石が露骨に不満を表した目で僕を睨む。
「ああ、いや、そんなつもりじゃ……」
「じゃあ、とっとと作れですよ」
「僕も手伝うから、頑張ろうよマスター」
何か釈然としないまま、夕食作りに取り掛かる事になった。
その日の晩は白米と鮭のムニエルにした。
「もう少し薄味でもいいですよ」
「よし、じゃあ次は一緒に作ろう」
「あっ、蒼星石。そのピクルスとって欲しいです」
「こいつ……」
狭いちゃぶ台を囲んで食べるご飯は、とても美味しかった。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:33:26.02 ID:HsD1iU2i0
空が高く、澄み。秋風が僕の頬を撫でた。
「いい天気だね、マスター」
蒼星石が僕の隣に立っていた。
「ああ」と頷く。
刷毛で描いたような薄い雲が窓の端から端まで、のんびりと流れた。
「なんです、外に何かあるですか」
翠星石が長らく窓辺に立ち、空を見上げている僕達に興味を持ち近づいてきた。
「……何だ、何もないじゃないですか」
オッドアイの瞳が空を写す。
「よし」
「おっ、何があるんです?」
「ああ、グリースメリアの空に、な」
「はぁ? グリース、なんですってぇ?」
蒼星石も、僕の隣で不思議そうに首をかしげた。
レッドアラートが鳴り響く。
バレルロールを繰り返し敵ミサイルを前面に押し出す。
エアブレーキ。カナード翼が真価を発揮する。
敵機のケツが見えた。電子音。ロックオンの時間が惜しい。
機銃を叩き込む、敵機は爆散、爆煙を鋼鉄の翼で引き裂く。
目の前に極限の青が飛び込んできた。
「ふう」
戦いが終わり、ジワリと手の平が汗ばむ。強敵だった。

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:34:27.93 ID:HsD1iU2i0
「で、さっきから何をピコピコとしてるですか」
横に座って画面を見ていた翠星石が不思議そうに尋ねてきた。
「ああ、これはねACECOMBAT6~解放への戦火~ってゲームなんだ」
「はぁ」と興味がなさそうに相槌を打つ翠星石。
「今してたのはオンライン対戦って言ってね、世界の人たちと戦えるんだよ」
「ふーん? 翠星石にはよく分らんですよ」
TV画面に<<お疲れ、またやろう>>とメッセージが入っていた
僕はキーボードを叩き<<ああ、またやろう。幸運を>>と打ち込む。
「それは、何してるですか?」
「これで向うの人と文字で会話できるんだよ、マイクも使えるんだけどね」
「君たち二人が居るから、マイクは使いづらいんだ」と、までは言えなかった。
「もっと、こう、外で元気に走り回るとか、そんな遊びはせんのですか?」
「そうは言うがな大佐」
「大佐じゃないです! 翠星石です! ったく、レディの名前を間違えるなんて……」
威嚇するように言う。まさにガルーダ……。
「あの、マスター」
蒼星石が僕の服を引っ張った。
「僕も、やっていいかな……」

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:36:13.51 ID:HsD1iU2i0
<<ああ、歓迎する>>
「あれ? マスターの声色が……?」
<<操作説明を行う、これに目を通してくれ>>
説明書を渡し、フリーミッションで操作に慣れさせる。
「わっ、こ、こうですか!?」
蒼星石が敵機を撃墜した。
<<そうだ、その調子だ蒼星石>>
「や、わっ、やった!」
最後の敵を撃墜し、ミッション終了の文字が画面に浮かび上がる。
<<それと、蒼星石喋り方は……>>
<<あ、ええ。ミッション終了R.T.B.です。マスター>>
「はぁ。ついていけんです……」
そんな二人を眺め、翠星石が溜息と一緒に搾り出した。
<<よし、次はオンラインだ>>
<<はい! マスター>>
「……」

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:40:04.27 ID:HsD1iU2i0
翠星石は頬杖をつき、テレビゲームに夢中になる蒼星石を見つめていた。
「あ、ほら! そこ、右、右に行ったですよ!」
「分ってるよ翠星石、これで終わりだ」
「お茶が入ったよ」
小さなちゃぶ台を囲み、お茶を啜る。
「翠星石、そんなに欲張っちゃだめだよ」
「いいんです、ポッキーも翠星石に食べて貰いたいですよね?」
ポッキーに喋りかけ「ポッキー、翠星石に、食べてもらいたい」と声色を変え腹話術を披露する。
「何してるんだよ……」困ったように蒼星石が言った。
急に彼女達の顔に影がさした。
鉛色の雲が空を覆い、雨粒が窓をぽつぽつと遠慮がちに叩き始めた。
「乙女心と秋の空、か」
僕は窓を閉めながら、そう呟いた。

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:45:35.29 ID:HsD1iU2i0
その日も雨が降り、夜になってからようやく雨雲が東の空に消えた。
鉛色の雲の切れ間から星が覗いている。
僕は、黒い大蛇のようなアスファルトの上を、家に向かい歩いていた。
ひび割れが目立つコンクリの階段を上り、安っぽいドアノブに手をかけた。
「ただいま……なんだ?」
居間から、蒼星石の威嚇を含んだ声が聞こえる。
まさか、アリスゲーム?
僕は台所に買い物袋を置くと、勢い良く居間のドアを開く。
黒い人形が、宙に浮いていた。
その人形を前にし、蒼星石は身の丈程もありそうな巨大な金の剣を構え、
翠星石はその左後ろで金の如雨露を握り締めていた。
「あら、貴方達のマスターが帰ってきたわね」黒い人形は宙に浮いたまま言う。
「下がってマスター!」
蒼星石が僕の前に立ち、黒い人形の射線上から隠す。
黒い人形は、腰まで届く銀の髪に、両肩から突き出た羽が印象的だった。
彼女の装いは白の逆十字が刺繍されている黒のドレス、ブーツ、カチューシャにてその身を固め、
ドレスの下から見える白い生地が柔らかな印象を与える。
あの、ファーみたいな羽で飛んでいるのか?まるでクマバチだな。
僕の頬を黒い影が掠め、壁に突き刺さる心地よい音が聞こえた。
頬から滴が零れ落ちる。傷口を触った手が赤い。
「あら残念。もう少しで片目のジャンクが出来上がったのに」

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:50:28.16 ID:HsD1iU2i0
黒い人形はカラスの羽根を芯まで黒くしたような物を一枚、指先で弄んでいた。
羽根をダーツのように投げたのか?
後ろを振り返り確かめたかったが、あの人形から目を離す事が出来なかった。
戦いの最中に敵から目を離すのは危険だ。それに何か、僕を惹きつける何かが、彼女から出ていた。
黒い人形は僕が怯えないのを見ると、詰らなさそうに舌打ちを一つ、双子に視線を戻した。
蒼星石に黒い羽を投げるが、蒼星石は金の剣の最小動作で羽根を撃ち落す。
「無駄だよ」
蒼星石が剣先を黒い人形から放さず言う。
「あら、そう……なら、これでどう?」
黒い羽を広げ無数の羽根の先がこちらを向いた。
「蒼星石!」
翠星石の如雨露から、部屋を二分化する巨大な樹気が表れる。
指輪が熱くなる。
銀のリングが何時かのように茨になり、無数の棘が指を締め上げ脈動し、赤く光っていた。
「なっ、なんだこれ……」
指輪の熱さよりも、目の前の超常現象に気を取られる。
樹木が現れたかと思うと、急に枯れ始め、蒼星石が踏み込む。
羽根を広げた黒い人形が、枯れた樹木の間から現れ、金の軌跡が襲う。
黒い人形は羽を盾とし身を守る。
さすが双子と言った所か、完璧なコンビネーションだ。固体としては劣っているのだろうが、
それを問題にしないコンビネーションで黒い人形を追い詰める。

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 01:56:25.55 ID:HsD1iU2i0
「メイメイ!」
黒い人形が叫ぶと、視界が赤に塗りつぶされた。まるで閃光弾だ。
視界が戻り始めると、黒い人形は姿見鏡の前に居た。
赤い光りが鏡の前で忙しなく飛び回っている。……あいつ、どこかで?
「そんなに本気になっちゃやーよ? また今度、遊びましょうねぇ」
僕の背筋を声がぞくりと撫でる、黒い人形が姿見鏡に手を触れると、鏡が光り始めた。
「水銀燈!」と蒼星石が吠える。
水銀燈と呼ばれた人形の手は鏡に溶け込み、そこから幾重もの波紋が広がっていた。
「待ってくれ」
その場の視線が僕に向く。
「水銀燈と言うのか?」
「……誰、あんた」
猫のように目尻を吊り上げ、僕を睨みむ。
「マサユキだ」
値踏みするように僕を見据え、黒い人形は黙って聞く。
「その、君の事をもっと知りたいんだ」
「……はぁ?」
「出来れば、人間、人形、敵、味方の壁を越えて、君と話してみたい」
「なっ、」
「はぁ!?」
双子から驚愕の声が漏れる。

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:01:03.05 ID:HsD1iU2i0
「……なに、こいつ」
蒼星石に視線を向け、黒い人形が言う。
「僕達の……マスターだ」
答える声が濁る。
「へぇ、これまた変なのと契約したのね」
黒い人形は僕を面白そうに見て、
「じゃあ、またね、変な人間」と言い、鏡の身を溶け込ませる。
「マサユキでいい」
不機嫌そうに振り返り、僕を睨みつけると、長いマツゲに隠された切れ長の眼を最後に、姿を溶かす。
僕は彼女が溶け込んだ鏡が光る事を忘れた後も、鏡を見続けていた。
「こぉらぁあ!」
膝裏を蹴られ、床に膝を付く。
「なぁに水銀燈に鼻の下伸ばしてるですか! この、空っぽ駄目人間ッ!」
翠星石が烈火のごとく捲し立てる。
蒼星石の方を見ると、彼女も不満の色を露に僕を見ていた。
「ごめん、なんか気になったんだ」
「ったく」と翠星石が悪態をつく。
「ところで、あの子は誰なんだ? 水銀燈って言う名前なの?」
「……ええ、そうです」と蒼星石が説明を始めた。

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:05:39.54 ID:HsD1iU2i0
彼女はローゼンメイデン第一ドール水銀燈、一番危険なドールらしい。
水銀燈の簡単な説明を受けた後、僕は彼女がいかに危険なドールかを教えられ、
いつのまにか、普段の生活態度から、お茶の時間に出すお菓子の批判にまで話が発展した。
彼女は水銀燈と言うのか。僕は、彼女が消えた鏡をもう一度見る。
鏡には二体の人形に怒られる、人間が映っていた。
「聞いてるですか!?」
「あ、ああ。聞いてるよ」
「だいたいですねぇ、マサユキはいつも───」
結局、彼女達が眠るまで、説教は続いた。
「どうすんだよ、これ……」
樹木と羽根でズタズタになった居間の中で、一人呟いた。

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:09:59.83 ID:HsD1iU2i0
いつかのように、水銀燈が居間を飛び回り双子と戦っていた。
ズタズタになった居間は、ローゼンメイデン不思議パワー『時を巻き戻す』で解決するらしく
皆、フィールドの事を気にせず戦っている。
水銀燈が角に追い詰められた。蒼星石は何処からか取り出した金の剣を構え、慎重に距離を詰める。
「なァ、姉妹で殺しあうって、おかしいんじゃないか?」
僕は水銀燈と蒼星石の間に割って入る。
「どいて下さい、マスター」と蒼星石が言う。剣先にブレはない。
「だって、死ぬんだぞ? ローザミスティカを取られた相手は」
蒼星石は剣先をこちらに向けたまま
「僕達は人形です、死にはしません、遠くに旅立つだけです」
「それを死ぬって言うんじゃないか!」
「それが僕達、ローゼンメイデンなんです。分ってください」
蒼星石が説き伏せるように言う。
「それじゃ、蒼星石。君はアリスゲームの為に、自分の姉に手をかける事が出来るのか!?」
蒼星石の後ろで如雨露を握り締めている翠星石と視線を合わせると、翠星石は僕から視線を外した。
「……お父様が望む事ならば」
苦虫を噛み潰したような顔で、蒼星石が声を絞り出した。

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:15:34.38 ID:HsD1iU2i0
今の僕は卑怯者だ、質問がフェアじゃない。
途中からアリスゲームを覗き始めた僕なんかより、最初から参加している彼女達の方が分ってる事だ。
場の空気が重い。
僕が謝ると、肩を後ろから叩かた。振り返ると、水銀燈が僕の頬にキスをした。
「なっ」言葉を発しようとしていた僕の唇を、水銀燈が人差し指で押さる。
「またねぇ」と水銀燈は鏡に飛び込んだ。
突然の出来事に、双子は狐に摘まれたような顔をしていた。
我に帰ったのか、翠星石が騒ぎ始める。
「なっ、なっ、なぁああああ!?」
「なにやってるですか」と言いたいのだろうが、感情の波にもまれ、言葉の舵取りが上手く出来ないらしい。
その場でプルプルと震えている。
冷静そうに見える蒼星石は、剣を構えたまま動かない。
二人が正気に戻った後の事が、頭を悩ませる。
時計を見上げる、彼女達が眠りに付く時間まで、たっぷり四時間以上あるじゃないか……。

64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:20:02.19 ID:HsD1iU2i0
夢を見ていた。
夢と分るから明晰夢なのだろうが、面白い夢にもならないし、そんな夢じゃない。
僕は、長く、白い廊下に立っていた。
前を見ても後ろを見ても白い廊下。
廊下の窓からは教会が見える、懐かしい景色だ。
後ろから声をかけられ振り返る、水銀燈が立っていた。
白い廊下に、黒いドレスの彼女だけが、酷く浮いて見えた。
「こんばんはぁ、マサユキ」
「こんばんは、水銀燈」
挨拶を交わす。
「ここは、夢?」
水銀燈は「ええ」と答え「私の夢はお気に召さない?」と言った。
「そんな事ないよ」と僕が言うと、
「ありがとう」と微笑み言う。
戦いの時には見れない彼女の微笑みを目の当たりにし、頬が熱くなるのが分る。
「実は、お願いがあるの」と水銀燈は近づき、僕の手を握る。
「お願い?」
「そう、お願い」
「僕にできる事なら」
水銀燈が僕の瞳を見つめる。

67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:24:11.09 ID:HsD1iU2i0
「双子のローザミスティカを渡しに頂戴」
「はあ!?」
何を言っているんだ!?
「簡単な事よ、彼女達が寝静まった後に、ジャンクにしてあげればいいの」
水銀燈の赤い眼から自分の瞳を逸らし、彼女が何を言ったのかを理解する。
握られた手は離さない。
「ねえ、お願い」
詰め寄る水銀燈。
彼女の息を鼻先で感じる、手が汗で湿るが水銀燈は離さない。
「お願い」
「だけど……」
「お願いを聞いてくれたら、あなたと、契約してあげる」
心が揺れる。
「だけど、彼女達は僕を信頼して、契約してくれた訳だし……」
「信頼?」と水銀燈が問い返す。
「気づいたら、いつのまにか居たのでしょう?」
出合った頃を思い出す。確かに、不思議な電話の後、いつのまにか彼女達の鞄があった。
「それに、いつかはアリスゲームで、あの双子は互いに刃を向け合わないといけないのよ?」
「……お父様が望む事ならば」蒼星石の言葉が蘇る。
「それはとても辛い事じゃない?」
「う、うん」
「だから、貴方がローゼンメイデンの宿命から、解き放ってあげなさいよ。そして、彼女達は
 アリスゲームがない所で平和に暮らすの、ずっと、ずうっと」
水銀燈の薔薇の蕾のような唇が目の前で妖し言葉を紡ぐ。
僕はこの言葉で、首を縦にふってしまう。

70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:28:24.84 ID:HsD1iU2i0
ふふ、と笑い「素直な子は好きよぉ」と水銀燈が言った。
「だけど」
僕の言の葉が、乗せる気持ちを失い舞い落ちる。
白い壁に、二つの影が重なった。
「じゃあ、いつ取りに行けばいいかしら?」
「明日……いや、明後日来てくれ」
「分ったわぁ」
言葉のボールが、相手のミットから外れ、廊下を転がる。
消毒液の臭いがする廊下、
鉛の雲を突くかのように聳え立つ十字架、遠くで鐘が鳴っている。
今にもロザリオの音と、神を敬う念仏が聞こえてきそうだ。
「気に入った? この景色」
水銀燈が口を開く。ボールを拾ったようだ。
「私の夢が、あなたの夢に混ざりこんでいるのよ」
「……君の夢? これが?」
そう言った僕の顔を水銀燈が不思議そうに見つめ、何かを一人納得した。
「私達」と水銀燈が言い、僕は耳を傾けた。
「案外、契約したら上手くやれるかもね」
「え? ああ、そうかもね」
とりあえず同意した感が漂う僕を見て、水銀燈が微笑んだ。
床を見る。耳まで真っ赤なんだろうな、今の僕は。
「じゃあまたね、明後日会いましょう」
「もう少し、一緒に……いない」
視線を水銀燈に戻すが、既に彼女は居なかった。
白い廊下に黒い羽根が一枚、舞い落ちた。

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:34:22.68 ID:HsD1iU2i0
体に冷気がまとわりつく。
ブラインドの隙間から、街灯の明りが差し込んでいた。
時計の、蛍光塗料が塗られた『五』が、夜に削られている。
夢から覚めると、僕は芯まで黒い羽根を一枚、握り締めていた。
あれは、ただの夢だったんじゃないのか? 自答するが、指先で摘んでいる羽根がそれを否定する。
すっかり冷めたコーヒーを口に運ぶ。泥とカフェインを煮込んだような味がした。
水銀燈との約束を破る事も考えたが、何もしないという事は、
いずれあの双子は互いに刃を向け合うという事。
それだけは、だめだ。それならいっそ、僕が全部背負い込んでやればいい。
僕は、水銀燈との約束を果たす事を心に決めた。
この時の僕は、自分の正義しか、見えていなかったのだろう。
だけど、本当にその為だけに双子を……?

74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:38:15.76 ID:HsD1iU2i0
双子がぷよぷよをしていた。
戦況は蒼星石が飛車、翠星石が角といった具合だ。
翠星石のコンボが決まる。
「姉に勝とうだなんて、100年早いですよ」と翠星石がコントローラーを握りながら言う。
「うーん、なんで勝てないのかなぁ」
ぷよを確実に消していく、自分の戦法を見直さない限り、勝てないんじゃないだろうか。
「なあ」と僕は切り出した。二人が僕の方を見る。
「マサユキも一緒にやりたいですか?」
蒼星石と同じ戦い方しか出来ない僕には、厳しい申し出だな。
「いやァね、こう、たまにはTVゲーム以外で遊ばないかい?」
「でも、マスター。今日はオンライ対戦の約束があるんじゃないですか?」
ACECOMBAT6~解放への戦火~のソフトケースを僕に見せながら言う。
「……戦いより、大切な事を見つけたんだ」
秋の澄んだ空に引かれた飛行機雲を見つめながら言う。戦う理由は見つかったかい? 相棒。
「んーまあ、そこまで言うなら、何か違う事するですよ」
「そうだね、僕達もたまには現実を見ないとね」
蒼星石がゲーム機とテレビの電源を落としながら言う。
「よし、じゃあ今日はお菓子を作ろう」
「へー? マサユキお菓子作れるですか?」
翠星石が関心したように言う。
「いいや、作れない。だから今日は翠星石に教えてもらいながら、皆で作ろうと思う」
「あれ、翠星石がお菓子作れるって、言ったですっけ」
「前、僕がマスターに教えたんだ」と蒼星石が言う。
「そうですか。まあいいです、じゃあスコーンでも焼くですよ」

75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:sage :2007/11/03(土) 02:40:57.70 ID:HsD1iU2i0
翠星石が座布団から立ち上がり、緑のドレスの皺を正す。
<<こちらマサユキ、了解した>>
「えっ、あ、そうか」と蒼星石が何かを理解し、
<<こちら蒼星石、了解>>と言い直した。
「いや、それはもういいですから……」
疲れたように翠星石が言った。
電子レンジと言う、現代の科学が生み出したオーブンから、180度の世界を20分近く体験した鉄板を取り出す。
「そちの勤め、大儀であった」
「何言ってるですか……熱いから注意するですよ」
翠星石がエプロンを畳ながら言う。
「マスター紅茶はないの?」と蒼星石が戸棚を開けながら言う。
「ああ、前買ってたな」
僕は上の戸棚を開き、茶葉の缶を取り出し蒼星石に手渡す。
「わあ、これいい葉っぱだよ。高かったんじゃない?」
花が咲いたように喜ぶ蒼星石。

76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:42:17.15 ID:HsD1iU2i0
「本当ですね。ったく、お前の金銭感覚はどーなってるですか」と翠星石が呆れて言う。
「まあ、美味いならそれでいいじゃないか」
「今度から、何かを買う時は翠星石達に一声掛けて買うですよ」
「ん……ああ、そうだね」
「なんです? 文句でもあるですか?」
ずい、と翠星石が詰より僕の顔を下から見上げる。
「いや、何でもないよ。お茶の用意も出来たみたいだし、スコーンを運ぼう」
何か引っかかるのか、首をかしげ「ま、いいですけど」と翠星石が言った。
「どうです? 美味しいですか?」
「ああ、美味しいよ」と僕が返すと
「それは良かったですぅ」
翠星石が顔を綻ばせた。

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:sage :2007/11/03(土) 02:48:20.92 ID:HsD1iU2i0
朝から針で突けば泥がこぼれて来る様な、厚ぼったい雲が空を覆っていた。
僕達は昨日のスコーンの残りを電子レンジで温め、窓辺に並んで座り紅茶を飲んでいた。
ラジオのパーソナリティーの声が狭い部屋に響いている。
<いやあ、いい歌ですね。大好きなんですよ、これ。電子音で千切ったり捻ったり絞ったり、
  そんな感じがたまらないですよ、コナミさんで歌も歌ってたとか──え、はい、じゃあお便りを……>
カップから立ち上る湯気が鼻先を湿らせる。
<えー何々、『うちのニョウボが家事を自分に押し付けてきます、仕事で疲れてると言っても
  分ってくれません。どうしたらいいでしょうか』あーうん、難しい質問だね、非常に難しい>
「あっ、マスターも砂糖いりますか?」
蒼星石が砂糖の瓶の蓋をこちらに向け言う。
「いや、大丈夫だよ」と言うと「分りました」と蒼星石が頷いた。
<昔の言葉にさァ『結婚は人生墓場だ』ってあるじゃん? あれって、あれで全部じゃないんだよ
 『結婚は人生墓場だ、しかし私はその墓場に入りたい』こう続くわけ。
 モーパッサンだったかな? そんな人の言葉なんだけどさァ>
翠星石が自分のカップにお茶を注ぎ、砂糖とミルクを多めに突っ込んだ。人形だからって油断してるな。
<確かに、結婚は人生の墓場かもしれないよ。でもさ、それだけの価値があるんじゃねェかなァ。
  ま、俺独身だしわけんねえや>

80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:sage :2007/11/03(土) 02:48:59.42 ID:HsD1iU2i0
厚ぼったい雲の切れ目から、光りが差す。
その時、チカチカと緑色の光りを点滅させ、緑の球が翠星石の側に飛んできた。
翠星石の人工精霊スイドリーム。人工精霊は持ち主の体のメンテナンス、お使いなどを頼まれてくれる便利屋だ。
僕には彼らの言葉はさっぱりだが、彼女達には分るらしい。
「はあ、まあ、伝えますけど……あー、マサユキは白粉持ってるですか?」
翠星石の後ろでスイドリームが、チカチカと足取り覚束なく飛んでいた。
「白粉……そういえば、前買った福袋に入ってたような」
僕の言葉を聞いてか、スイドリームが足を止め、点滅間隔を早くした。
「よければ、スイドリームにふり掛けてやってくれんですか?」
「ああ、いいよ」
僕はクローゼットの奥から白粉を取り出し、スイドリームにふりかける。
「レンピカにもお願い出来るかな」と蒼星石が言った。
白粉かけられて喜ぶなんて、まるでケセランパセランだな。

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 02:55:40.67 ID:HsD1iU2i0
北斗七星が北の空で輝き始めた頃、彼女達は眠りにつこうとしていた。
「じゃ、お前も早く寝るですよ」
翠星石が鞄に入りながら言う。
「おやすみなさい、マスター」と蒼星石が翠星石が鞄に入るのを待ち言った。
彼女達ローゼンメイデンは、夜の九時になると自分の鞄に入り眠りに就く。
人と異なる時間を生きる彼女達は、記憶をその身に留める為に鞄で眠らなくてはならないのだ。
静になった部屋に並べて置かれてある鞄を見る。
まるで、初めて出合ったあの日みたいだ。蛍光灯の光りに薔薇の彫金が鈍く光った。
草木も寝静まる。時刻は午前二時。カップの底に残った、冷えて水っぽいコーヒーを一気に流し込む。
不思議と興奮も緊張もない、脳が麻痺してしたのかもしれない。
あの日よりも、スムーズに鞄を開ける。鍵は掛かっていなかった。
琥珀色の長い髪を携えた女の子が、鞄の中で丸くなって眠っていた。開く順番まで、あの日と同じだ。
楽しい夢でも見ているのか、口端の線が柔らかい。
唾を飲み込んだ。翠星石の胴体を押さえ、顔を掴み、一気にへし折った。悲鳴はなかった。
手に持った翠星石の顔から、熱が砂のように零れ落ち、ただの陶器の顔に戻る。
体から、虹色の光りを放つ石が浮かび上がってきた。
「これが、ローザミスティカ……」
虹色の光りに目を奪われる。
「マスター……なに、してるの?」
振り返ると、蒼星石が後ろに立っていた。

85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:00:32.28 ID:HsD1iU2i0
「やあ、おはよう。蒼星石は早起きだね」
僕はゆっくりと立ち上がり、蒼星石との距離を詰めようとするが一向に縮まらない。
「お茶にしようよ、それともゲームでもする?」
「なんで、翠星石は……あなたの事を……」
「それとも、何か別の遊びを?」
蒼星石の背が壁に当った。凛々しい横顔が姿見鏡に映っている。
「もしかして、水銀燈ですか!? 水銀燈に何か言われたんじゃないですか!?」
僕は何も答えず低く構え、飛び掛った。
蒼星石が苦虫を噛み潰したような顔になり「レンピカ」と叫ぶ、世界が真っ白になった。
視力が戻り始めた頃、僕を照らしていたのは虹色の光りだった。
鞄は二つあるが、蒼星石の姿は既にない。飛び掛られた時、咄嗟に鏡に飛び込んだのだろう。
その場で仰向けになり、天井に左手をかざす。薬指の薔薇が、小さくなっていた。
空が白み始めた頃、鏡を通して水銀燈が訪れた。
仰向けに寝転がった僕を見て、小さく眉を顰めた後、翠星石のローザミスティカその身に取り込んだ。
水銀燈がブラインドの羽根の向きを変え、朝日が僕を照らす。
「朝よ、起きなさい」と逆光に照らし出された水銀燈が言う。
僕は、朝日に照らし出される中、水銀燈と契約した。

87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:05:28.52 ID:HsD1iU2i0
夕焼け空が、窓辺に立つ水銀燈を照らしていた。
「昼も食べてないし、食べた方がいいんじゃないか?」
僕は狐色のトーストにバター、苺ジャムを水銀燈に勧める。
水銀燈は夕焼け空から狐色のトーストに視線を動かし「いらないわ」と言った。
「でも、お腹減らないか?」
「あのねぇ、私は人形なのよ? 人間と同じように物を食べる必要はないわぁ」
疲れを吐き出すように言う。
「でも……」
「私は気にしないから、あなたが食べなさい。お腹減っているんでしょう?」
「そりゃまあ、そうだけど」
僕が言い終わるのを待ち、水銀燈は夕焼け空に視線を戻した。
夜の帳が、焼けた空を東の空から覆い隠していく。
「その、これだけでも飲まないか?」
僕はヤクルトを水銀燈に差し出した。
「あら……」
水銀燈が僕の手からヤクルトを受け取り、指先が触れ合う。
「そうね、ありがとう」
「ストローいる?」
「ええ」
パックに付いてきたストローを一本手渡す。
僕は水銀燈の横に腰を下ろし、トーストにジャムを雑に塗りつける。
「いただきます」と言った僕をチラリと見やり、水銀燈がストローに口をつけた。


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