夢の花 - (2011/03/18 (金) 15:10:27) の編集履歴(バックアップ)
河原で、二人の男が見合っていた。
どちらも纏うのは、黒い中華服。
短髪のほうは腰を低く落としているのに対し、長髪のほうは立ち尽くしている。
すぐ横の川は絶えず流れ、足元の草は風に揺られているというのに、彼らは十メートルほど距離を取ったまま一向に動かない。
どちらも纏うのは、黒い中華服。
短髪のほうは腰を低く落としているのに対し、長髪のほうは立ち尽くしている。
すぐ横の川は絶えず流れ、足元の草は風に揺られているというのに、彼らは十メートルほど距離を取ったまま一向に動かない。
(隙がない、ある……っ)
李崩が腰を落とした姿勢を保ちつつ、胸中で呟く。
視線の先にいる朧と名乗った男は、素人目にはただ立っているように見えるだろう。
しかし中国拳法の道を突き進んできた李崩は、そうでないことを見抜く。
一見無防備なようで、そうではない。
李崩のいる前方だけでなく、背後。それどころか上下や川のなか。
どこから攻められたとしても反応するべく、あえて自然な状態を維持しているのだ。
何せ、行われているのは試合なのではなく、殺し合いなのだ。
第三者が死角から仕掛けてくるとも限らない。
その可能性まで考えているのだろう――と、李崩は判断した。
視線の先にいる朧と名乗った男は、素人目にはただ立っているように見えるだろう。
しかし中国拳法の道を突き進んできた李崩は、そうでないことを見抜く。
一見無防備なようで、そうではない。
李崩のいる前方だけでなく、背後。それどころか上下や川のなか。
どこから攻められたとしても反応するべく、あえて自然な状態を維持しているのだ。
何せ、行われているのは試合なのではなく、殺し合いなのだ。
第三者が死角から仕掛けてくるとも限らない。
その可能性まで考えているのだろう――と、李崩は判断した。
(この男、遥か高みにいるあるな)
自分が適わないと認識しながらも、李崩は口元を釣り上げる。
殺し合いには否定的であるものの、己の修行を疎かにするつもりはなかった。
好敵手である『植木耕助』や、何度も噂を耳にした強者たちが参加しているのだ。
舞台こそ違えど、自分を高めるチャンスであることに変わりはない。
そのように思っていたところに、朧と出くわしたのだ。
最強の格闘家目指す上で、確実に乗り越えねばならない。そう思える相手に。
殺し合いには否定的であるものの、己の修行を疎かにするつもりはなかった。
好敵手である『植木耕助』や、何度も噂を耳にした強者たちが参加しているのだ。
舞台こそ違えど、自分を高めるチャンスであることに変わりはない。
そのように思っていたところに、朧と出くわしたのだ。
最強の格闘家目指す上で、確実に乗り越えねばならない。そう思える相手に。
(胸を貸してもらう……!)
李崩は機を窺うのをやめて、思い切り地を蹴る。
被っていたつばのない帽子が脱げてしまうが、気にも留めずに金髪とおさげを風に靡かせる
表情を変えない朧に正面から拳を叩き込む――李崩が触れたと錯覚した瞬間に、朧の姿は掻き消えた。
被っていたつばのない帽子が脱げてしまうが、気にも留めずに金髪とおさげを風に靡かせる
表情を変えない朧に正面から拳を叩き込む――李崩が触れたと錯覚した瞬間に、朧の姿は掻き消えた。
「後ろある!」
視界の片隅に捉えた長髪に反応し、李崩は左足を軸に回転して上段蹴り。
だがそれも、空を切ってしまう。
完全に朧の姿を見失った李崩が、首を勢いよく捻る。
だがそれも、空を切ってしまう。
完全に朧の姿を見失った李崩が、首を勢いよく捻る。
「こちらです」
もともと向いていた方向から声を掛けられ、李崩は肝を冷やす。
僅かに反応が遅れ、朧の攻撃を許すことになる。
背中に衝撃を受け、李崩は河原に倒れこむ。
加減したのか威力はそこまでではなく、李崩は寸前で受け身を取る。
しかし完全に不意を突かれたという事実が、実際に攻撃を受けた箇所よりも遥かに痛かった。
僅かに反応が遅れ、朧の攻撃を許すことになる。
背中に衝撃を受け、李崩は河原に倒れこむ。
加減したのか威力はそこまでではなく、李崩は寸前で受け身を取る。
しかし完全に不意を突かれたという事実が、実際に攻撃を受けた箇所よりも遥かに痛かった。
「スピードやパワーが戦闘の基本とでも、あなたは思っているのではないですか」
李崩を見下ろすように、朧は立っている。
先ほどと同じく全方向に対応できる――とても構えとは思えない体勢で。
先ほどと同じく全方向に対応できる――とても構えとは思えない体勢で。
「たしかにどちらも重要な要素ですが、あくまで一つの要素にすぎません」
立ち上がって接近してきた李崩にも動じず、朧は言葉を続ける。
「それらに頼っていては、私には勝てませんよ」
体重を乗せた肘打ちを放った李崩の背後から、声がした。
◇ ◇ ◇
あまりに一方的であった戦闘を終え、朧は再び歩みを進める。
彼のほうも殺し合いに乗り気なワケではない。
ただ、手合せを望んできた李崩という少年の姿が若き日の自分と重なった。
強者と戦い己を磨く、それだけが生き甲斐だったころの自分と。
彼のほうも殺し合いに乗り気なワケではない。
ただ、手合せを望んできた李崩という少年の姿が若き日の自分と重なった。
強者と戦い己を磨く、それだけが生き甲斐だったころの自分と。
「いえ、現在も変わらず……ですね」
さきほど拳を交えた李崩。
彼は、まだまだ強くなる。
いずれ、成長した暁にはまた――
彼は、まだまだ強くなる。
いずれ、成長した暁にはまた――
「とはいえこの状況を脱してから、になるでしょうが」
いつになるかも分からない未来ではなく、当面する事態に意識を傾ける。
背負っているリュックサックに視線を向け、朧の表情が険しくなった。
わざわざ時間を割いてくれた礼だと李崩に渡された武器。
断ろうとするもやたら食い下がられ、最終的に「強く正しい人間が持たねばならない」とまで言うので譲り受けた。
その二つの武器が、朧に警告を鳴らすのだ。
このプログラムが、想像している以上に厄介なものであると。
下手をすれば全世界をも巻き込みかねない、と。
李崩に支給された武器のうち片方は、中性子爆弾。
こちらだけでも大ごとだ。
中性子爆弾を用意できるような組織は、決して多くない。
だが、まだそちらはかわいいものだった。
もう片方の――――水晶髑髏と比べれば。
一定の振動を与えることで核融合さながらのエネルギーを生み出す、古代人が残したオーパーツ。
悪用してしまえば、複数回発動可能な核爆弾として使うことも可能な代物だ。
表の世界で展示されているレプリカかとも思ったが、実際に手にしてみて朧はその考えを否定する。
正真正銘の水晶髑髏がなぜか表に出ている、明確な異常事態だった。
背負っているリュックサックに視線を向け、朧の表情が険しくなった。
わざわざ時間を割いてくれた礼だと李崩に渡された武器。
断ろうとするもやたら食い下がられ、最終的に「強く正しい人間が持たねばならない」とまで言うので譲り受けた。
その二つの武器が、朧に警告を鳴らすのだ。
このプログラムが、想像している以上に厄介なものであると。
下手をすれば全世界をも巻き込みかねない、と。
李崩に支給された武器のうち片方は、中性子爆弾。
こちらだけでも大ごとだ。
中性子爆弾を用意できるような組織は、決して多くない。
だが、まだそちらはかわいいものだった。
もう片方の――――水晶髑髏と比べれば。
一定の振動を与えることで核融合さながらのエネルギーを生み出す、古代人が残したオーパーツ。
悪用してしまえば、複数回発動可能な核爆弾として使うことも可能な代物だ。
表の世界で展示されているレプリカかとも思ったが、実際に手にしてみて朧はその考えを否定する。
正真正銘の水晶髑髏がなぜか表に出ている、明確な異常事態だった。
【C-4 路上/一日目 黎明】
【朧】
[時間軸]:不明
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、水晶髑髏@スプリガン、中性子爆弾@ARMS
[基本方針]:殺し合いに乗る気はない。
[時間軸]:不明
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、水晶髑髏@スプリガン、中性子爆弾@ARMS
[基本方針]:殺し合いに乗る気はない。
◇ ◇ ◇
朧が去ってしまった河原で、李崩は仰向けに寝そべっている。
いくら攻撃されても立ち上がり続けた李崩に、朧は気を流し込んだのだ。当分は身動きできない。
そんな状態で、李崩は頬を緩めていた。
身体中にダメージを負っているというのに、それでも笑う。
彼の視界に映っているのは、落ち始めた月でも満点の星空でもない。
それらよりも輝かしい、自分の未来だった。
戦闘中に朧から告げられた助言の意味が、ようやく分かりかけてきた。
『見て反応する』自分が適わなかった理由が、やっと理解できたのだ。
もう、笑いが止まらない。
なぜなら、李崩はさらに成長できるのだから。
去り際に尋ねた問いへの答えも、期待していたものだった。
『いずれ自国を飛び出し世界の強者と戦いたい』という李崩の目標に、朧は『正しい選択です』と返したのだ。
もっと強くなれるという事実が、選んだ道が誤っていなかった事実が、とても嬉しかった。
李崩は、星空のなかにいまは亡き父の姿を見る。
憧れ続ける最強の格闘家である父に、さらに近付くことができるのだ。
微かに動くようになってきた身体で拳を握り、李崩は天に向ける。
これからも、いままでのように夢へと進んでいく。そう誓う。
いくら攻撃されても立ち上がり続けた李崩に、朧は気を流し込んだのだ。当分は身動きできない。
そんな状態で、李崩は頬を緩めていた。
身体中にダメージを負っているというのに、それでも笑う。
彼の視界に映っているのは、落ち始めた月でも満点の星空でもない。
それらよりも輝かしい、自分の未来だった。
戦闘中に朧から告げられた助言の意味が、ようやく分かりかけてきた。
『見て反応する』自分が適わなかった理由が、やっと理解できたのだ。
もう、笑いが止まらない。
なぜなら、李崩はさらに成長できるのだから。
去り際に尋ねた問いへの答えも、期待していたものだった。
『いずれ自国を飛び出し世界の強者と戦いたい』という李崩の目標に、朧は『正しい選択です』と返したのだ。
もっと強くなれるという事実が、選んだ道が誤っていなかった事実が、とても嬉しかった。
李崩は、星空のなかにいまは亡き父の姿を見る。
憧れ続ける最強の格闘家である父に、さらに近付くことができるのだ。
微かに動くようになってきた身体で拳を握り、李崩は天に向ける。
これからも、いままでのように夢へと進んでいく。そう誓う。
――――突如、甲高い声が響いた。
「ひひひひ、パウルマン! なんか寝てるヤツがいるよ! こんなときに頭おかしいんじゃねえのか!?」
李崩が振り向く前に、落ち着いた低い声が続く。
「よく見たまえ、アンゼルムス。身体が汚れている。他の誰かに痛めつけられたのだ」
「にしちゃあ生きてるぜ? 逃げてきたのか?」
「あるいは仕掛けて逃げられたのか、だな」
「けっ! どっちにしろ傑作だな、オイ! なんせよォ、結局いまから死んじまうんだからなァ!」
「うむ、そうだ」
「にしちゃあ生きてるぜ? 逃げてきたのか?」
「あるいは仕掛けて逃げられたのか、だな」
「けっ! どっちにしろ傑作だな、オイ! なんせよォ、結局いまから死んじまうんだからなァ!」
「うむ、そうだ」
どうにか首を動かした李崩は、言葉を出すことができなかった。
目の前にいるのは、奇妙な白いスーツを来た男と、彼に抱えられた裕福そうな子ども。
見ただけで、李崩は彼らが人間ではないことが理解できてしまった。
腕がやたら長い少年のほうとは違い、パウルマンと呼ばれる男は人間と変わらない外見のはずなのに。
やけに暗い、夜の闇よりも暗い瞳が、人間ではないことを声高らかに主張していた。
目の前にいるのは、奇妙な白いスーツを来た男と、彼に抱えられた裕福そうな子ども。
見ただけで、李崩は彼らが人間ではないことが理解できてしまった。
腕がやたら長い少年のほうとは違い、パウルマンと呼ばれる男は人間と変わらない外見のはずなのに。
やけに暗い、夜の闇よりも暗い瞳が、人間ではないことを声高らかに主張していた。
「せっかくだし、アイツでこの『特殊ライフル』ってヤツ試してみようぜェ!」
「いや、そちらは弾丸の数が限られている。まずこちらの切れ味を試すとしよう」
「いや、そちらは弾丸の数が限られている。まずこちらの切れ味を試すとしよう」
妙に長い腕の先にある巨大な銃を掲げるアンゼルムスを、パウルマンが諌める。
その左手は、武骨な西洋剣を握り締めている。
ゆっくりと近付いてくる影を見つめながら、李崩は理解した。
輝かしいはずだった未来は、もう迎えられない。
現在以上の成長は、もうすることができない。
好敵手とだって、もう戦えない。
父には、もう近づけない。
ここで、もう――
その左手は、武骨な西洋剣を握り締めている。
ゆっくりと近付いてくる影を見つめながら、李崩は理解した。
輝かしいはずだった未来は、もう迎えられない。
現在以上の成長は、もうすることができない。
好敵手とだって、もう戦えない。
父には、もう近づけない。
ここで、もう――
「終い、か」
【李崩 死亡確認】
【残り77名】
【残り77名】
◇ ◇ ◇
べったりと剣に付いた血を舐りとってから、パウルマンとアンゼルムスは死体へと手を伸ばす。
上半身と下半身にうまく分断できたので、特に喧嘩にもならなかった。
滴る血を嚥下しながら、恍惚とした表情となる。
上半身と下半身にうまく分断できたので、特に喧嘩にもならなかった。
滴る血を嚥下しながら、恍惚とした表情となる。
彼らの行動は、まったく変わらない。
人形破壊者を追っている最中に妙なプログラムに巻き込まれたとしても、変化はない。
敵を殺害しつつ、主が笑う方法を探す。
それだけだ。
そのためならば、機能し続けるべく人の血を吸う。
夢を抱く少年少女であろうと、家族を守ろうとする大人であろうと、区別はない。
例外なく、無作為に踏み躙っていく。
人形破壊者を追っている最中に妙なプログラムに巻き込まれたとしても、変化はない。
敵を殺害しつつ、主が笑う方法を探す。
それだけだ。
そのためならば、機能し続けるべく人の血を吸う。
夢を抱く少年少女であろうと、家族を守ろうとする大人であろうと、区別はない。
例外なく、無作為に踏み躙っていく。
それが――――自動人形(オートマータ)なのだから。
【C-4 河原/一日目 黎明】
【パウルマン&アンゼルムス】
[時間軸]:本編登場前。
[状態]:万全
[装備]:ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ(パウルマン)、対AMスーツ用特殊ライフル(弾丸:15)@スプリガン(アンゼルムス)
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:人間と人形破壊者を殺害しつつ、フランシーヌ人形が笑える方法を探す。
[時間軸]:本編登場前。
[状態]:万全
[装備]:ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ(パウルマン)、対AMスーツ用特殊ライフル(弾丸:15)@スプリガン(アンゼルムス)
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:人間と人形破壊者を殺害しつつ、フランシーヌ人形が笑える方法を探す。
【支給品紹介】
【水晶髑髏@スプリガン】
李崩に支給された。
ある一定の振動を与えると、莫大なエネルギーを発生させる。
裏の世界では有名になっており、核融合に変わる新エネルギーとして数多の組織が探し求めている。
李崩に支給された。
ある一定の振動を与えると、莫大なエネルギーを発生させる。
裏の世界では有名になっており、核融合に変わる新エネルギーとして数多の組織が探し求めている。
【中性子爆弾@ARMS】
李崩に支給された。
核兵器の一種。熱や爆風は比較的弱いが、放射される中性子線は強烈。
そのため、建造物などの破壊を抑えつつ生物を殺すことができる。
もともと一つの市を破壊するべく用意されたものであるので、爆発してしまえば会場は一たまりもないだろう。
李崩に支給された。
核兵器の一種。熱や爆風は比較的弱いが、放射される中性子線は強烈。
そのため、建造物などの破壊を抑えつつ生物を殺すことができる。
もともと一つの市を破壊するべく用意されたものであるので、爆発してしまえば会場は一たまりもないだろう。
【ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ】
パウルマン&アンゼルムスに支給された。
魔物アースが扱う両刃の剣。
触れた相手の力を吸収する性質がある。
パウルマン&アンゼルムスに支給された。
魔物アースが扱う両刃の剣。
触れた相手の力を吸収する性質がある。
【対AMスーツ用特殊ライフル@スプリガン】
パウルマン&アンゼルムスに支給された。
防弾に優れたAM(アーマード・マッスル)スーツ対策として、トライデントが作成したもの。
弾丸は精神感応金属(オリハルコン)製。
パウルマン&アンゼルムスに支給された。
防弾に優れたAM(アーマード・マッスル)スーツ対策として、トライデントが作成したもの。
弾丸は精神感応金属(オリハルコン)製。
【備考】
※C-4河原に、李崩のリュックサック(基本支給品一式、ランダム支給品なし)が放置されています。
※C-4河原に、李崩のリュックサック(基本支給品一式、ランダム支給品なし)が放置されています。