戦う前から既に負け犬


「ええいっ! 邪魔だ、このッ……!」
『テヤンテ゛ェ!』『ミトメタクナーイ!』『ハロハロハロハローーーー!』
 コクピットを埋め尽くすハロ軍団を押し退けてヴィンデルがパイロットシートに座る事が出来たのは、実に三十分後の事だった。
「はぁ……はぁ……な、何故だ……何故私がこのような目に……」
『ホ゛ウヤタ゛カラサ』『エコ゛タ゛ヨ、ソレハ!』『シュウセイシテヤルー!』
「だぁっ! やかましいわっ、おのれらっ!」
 理不尽に対する苛立ちが、ヴィンデルの神経を刺激する。その結果、普段は絶対に使わない言葉が彼の口から迸った。
 だがまあ、それも無理はないだろう。これまでシリアス一辺倒で生きて来た人間に、これは辛い。
 ……ヴィンデルの名誉の為に言っておくが、最初は彼もハロをコクピットから排除しようとしたのだ。
 しかし、それは無理な話だった。いくら必死になって捨てようとしても、ハロはコクピットから出ようとしない。
 それどころか、ヴィンデルが力ずくでハロを捨てようとすると――
『ミエルッ!!』『ソコカァッ!!』『オチロッ!!』
「ぐはぁっ!?」
 逆に、しっぺ返しを食らわされる始末。
 まるでヴィンデルの敵意を察知したかのように、ハロ軍団が総勢で攻撃を仕掛けてくるのだ。
「お、おのれ……!」
『シ゛ュウネンハヤイ!』『カ゛イシュウイッショクトハコノコトカー!』『ワリキレヨ、ナ!』
 だが、ヴィンデルは諦めない。
 果て無き闘争の世界を望む人間が、逃走してはいけないのだ。
 逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ!
『ヤメテヨネ。ホ゛クカ゛ホンキヲタ゛シタラ、ウ゛ィンテ゛ルカ゛カナウワケナイタ゛ロウ?』
「どやかましいわぁっ!」

 ……そして、パイロットシートに腰掛けてから更に三十分後。
『ヤッターーーー!』『アンタハイッタイナンナンタ゛ー!』『コンハ゛インOK! コンハ゛インOK!』
「…………もう、許して」
 ハロの放棄を完全に諦めた、哀愁漂う男の姿がそこにはあった。



【ヴィンデル・マウザー ZGMF-X09A・ジャスティスwithハロ軍団
 パイロット状況:健康、めっちゃ脱力
 機体状況:損傷なし、ただしコクピット内がハロで埋め尽くされている
 現在位置:B-5
 第一行動方針:ハロをどうにかしたい
 第二行動方針:アクセル、ラミア・ラヴレスとの合流
 最終行動方針:戦艦を入手する】

【初日 13:15】




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最終更新:2008年05月30日 03:13