あずけられない背中


「死者は12人、禁止エリアはD-3とE-7か」

一人密林に潜んでいた相良宗介は、放送を聴いてそうひとりごちた。
死者が12人出ていることには、彼はたいした感慨を抱かなかった。
戦場では当たり前のことである。むしろ少ないくらいだった。

だが、禁止エリアについてはそうはいかない。今回は運良く自分の所在地ではなかったが、いつもそうとも限らない。
いざ指定されてから、まったく土地観のない場所に出るわけにもいかない。

「この森の周囲は把握しておくか」

そう呟いてミラージュコロイドを起動し、ブリッツガンダムは静かに動き出した。

安全のため、ある程度探索してはミラージュコロイドを解除して小休止。
また起動して探索、ということを繰り返して、
すっかり夜もふけてきた頃。宗介は森の外周まで出てきていた。
一旦ミラージュコロイドは解除して、(今日の探索はこれくらいにするか?)と考えていた宗介の耳に、爆音が聞こえてきた。

「戦闘が行われているようだな。巻き込まれないように遠ざかるか、近寄って機体を見ておくか・・・」

しばし迷って足を止める宗介。そのおかげで、彼は気が付いた。このあたりは木々もまばらで地面は広い。
だが、なぎたおされた木と広範囲にわたって地面を掘り返したような跡はなんだろうか?
こんな跡を付けられるのは、自分と同じようなロボットに乗っているものだけではないか。
では何故地面などを掘り返したのか? 彼はあたりに最大限の注意を向け始めた・・・。



「また戦闘を始めたようだな。まあ、ここは高みの見物といくか」

ガストランダー形態で地中に潜っていたウルベは、ゼンガー達のいる方向から爆音が聞こえてきても特に動く気は無かった。
ゼンガーが気絶している今、シンジ一人では生き残ることは難しいだろうが、ならばなおのこと。
敵の戦力が分からないのに、ノコノコ出て行く必要はまったくなかった。
戦闘が終了するのを待つことに決めたウルベだったが、その時、上に突然何かの機体が出現したのに気が付いた。

「なにっ!? この距離まで気が付かないとは・・・」

接近されたのはミラージュコロイドのステルス能力のせいなのだが、地中のウルベにそこまでは分からなかった。

「まあ、地中の私に気が付くこともないだろうが・・・上にとどまられては多少厄介か」

その機体はとりあえず動く様子がなかったが、あまり動かれないのも困る。
対策を思考していると、若い男の声が響いた。

「そこにいるのは分かっている。姿を見せろ」
結局のところ地面のあとが何を意味するのかは宗介には分からなかった。
何かの罠という可能性はあるが、少なくとも周りに他の機体がいる様子はなかった。

(この機体のような装置を積んでいれば別だが・・・それよりは地雷のたぐいか?)

ミラージュコロイドを解除してしまった以上、周りに敵がいるとすれば自分のことに気付かれてしまっただろうし、
見られているかもしれない状況でもう一度ミラージュコロイドを使うのは論外だった。手の内は極力さらすべきではない。
そこで宗介はかまをかけてみることにした。敵がいないのなら良し、いるにしても今より状況が悪くなることはないだろう。

「そこにいるのは分かっている。姿を見せろ」

すぐには何も起きず、(やはり地雷か・・・?)などと宗介が思い出したころ。相手は彼が想像だにしないところから現れた。
つまり、目の前の地面から。

「よくこちらに気が付いたな・・・降参だ」

地面の下から登場した巨大な戦車型の機体から、男の声が聞こえてきた。



若い男の呼びかけに対し、ウルベはしばし悩んだ。
地中を移動して逃げることも考えたが、移動速度はさほどでもないし、下手をすると居場所を知らせるだけになりかねない。
といって、ずっと地中にいたのでは狙い撃ちにされる危険もある。

(やむをえんか。こいつが使えるようなら手駒に加えてもいい。警告してくるような奴であれば即戦いにはならないかも知れんしな) 
舌打ちしつつウルベは地上に出ることを選択した。出ると同時に

「よくこちらに気が付いたな・・・降参だ」

と声をかけ、相手の機体を確認し彼は驚愕した。

(ガンダム、だと!?)

彼の世界での力の象徴、ガンダム。目の前の相手はそれに乗っていた。
やや細身ではあるが、見たことのない形状でどんな奥の手があるかわからない。

(うかつにはしかけられんか)

相手からの返答はない。ガンダムであるなら戦力的にも問題ないだろう。ウルベは懐柔に動くことにした。

「地中の私に気付くとはすばらしい腕だ。見ての通り地中に潜むしか能のない機体でね。
 私の名はウルベ・イシカワ。ここで争いたくはない、手を組まないかね」

巨大な機体が地中から表れたことに驚愕していると、相手から再度呼びかけがなされた。

「地中の私に気付くとはな。見ての通り地中に潜むしか能のない機体でね。
 私の名はウルベ・イシカワ。ここで争いたくはない、手を組まないかね」
(ふむ・・・少なくとも不意打ちの意思は無いようだな)
隠れ家からわざわざ姿を現した相手をそう分析する。そして、その形状・サイズから想像される装甲の厚さにも思い至る。
(致命打を与えることは難しいか? しかし、スピードではこちらに分があるな)

「手を組んでどうする。生き残れるのは一人だけだ」
「その通りだ。だが、一つ方法がある。あのユーゼスとかいう男を倒せばいい」

その通りではあった。だがそれで元の世界に戻れるという保証はない。それに・・・
「地中に潜るほか能のない機体で、空にいる戦艦にどう対処する?」
 付け加えるなら。信用する理由がまったくない。


交渉は難航しそうだった。ゼンガーやシンジと違い、この相手はまったくこちらを信用する様子がない。
このような相手になら、むしろ力を見せた上で協力させた方がよいかもしれない。

「しかたがない・・・これは秘密にしたかったのだが。信用してもらうためにもこの機体の真の姿を見せるとしよう」

そう呼びかけつつウルベは機体をウイングガストへ変形させた。
「なんだと・・・!?」
 右腕を構えつつ距離をとるガンダム。臨戦態勢といっていいだろう。攻撃される前に再度話しかける。
「見ての通りだ。この機体は飛行形態を取れる。いかがかな?
 これならば上空の戦艦にも届くやも知れん。だがこれ一機では力不足だ」
 相手は警戒を緩めない。いよいよ実力行使しかないか、という考えがちらりと頭を掠めた時、返答があった。
「いいだろう。話を聞こう」


見る間に戦車は戦闘機へとその姿を変えていた。慌てて飛びすさり、警戒態勢をとるももう相手は変形を完了してしまっている。
どうやら機動力でも上を行かれてしまったようだった。

「見ての通りだ。この機体は飛行形態を取れる。いかがかな?
 これならば上空の戦艦にも届くやも知れん。だがこれ一機では力不足だ」

相手は手の内を一枚見せた。まだカードを隠し持っている可能性が高い。こちらにも切り札があるが、それでも互角といくかどうか。
戦うのは得策では無さそうだった。といって、戦闘機から逃げ切れる道理もない。
なにより、相手に今のところ戦う意思は無い。信用できない、まったく信用できないが。

生き延びるために利用することくらいはできるかもしれない。

「いいだろう、話を聞こう」
「感謝する。貴殿の名前は?」
「宗介・・・相良宗介だ」

お互いまったく相手を信用していない。はじめから失われているようなコンビがここに結成された。



【相良宗介 搭乗機体:ブリッツガンダム(機動戦士ガンダムSEED)
 パイロット状況:健康
 機体状況:良好
 現在位置:H-3
 第一行動方針:ウルベには気を許さない
 最終行動方針:生き延びる。戦いも辞さない】

【ウルベ・イシカワ 搭乗機体:グルンガスト(バンプレストオリジナル)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:H-3
 第1行動方針:状況を混乱させる(宗介を利用する)
 最終行動方針:???】

【初日 22:30】





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第62話「卑劣な超闘士 ウルベ・イシカワ 第132話「新しい朝が来た


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最終更新:2025年02月12日 03:43