誓い
「はやく…!町はまだなの?」
「もうすぐ、もうモニターに見えるはず…いや、見えた!」
「急ぎましょう!」
ここはB-1。そして…3機の機動兵器が地に降りる。
グランゾン、レイズナー(強化型)。抱きかかえられたテムジン。
そう、あの三人だ。
「病院はこっちです!」
プレシアが端にある病院を指差した。
「まってください!チーフさんを出そうにもハッチをどうするんですか!?」
「あんまり機体を壊したくはないけど…すいません!」
グランゾンがつかんでいたコクピットハッチを強引に剥ぎ取る。
「二人いっぺんに運ぶのは無理です!僕がまずチーフさんを運びますんでそちらは中で薬を探してください!」
2人とも急いでいるせいか、声は語尾が強くなっているが、行動は迅速だった。
15分後…
「ふう…」
マサキが一息つく。
「すいません、探したんですけど…薬がなくて水で冷やすくらいしか…」
「いや、全身の軽い火傷だけだったみたいだし、多分もう大丈夫だろう。顔色もそんなに悪くなさそうですし」
目の前のベッドでチーフが寝ている。呼吸も荒くないし、ただ寝てるようにすら見える。
「じゃあ僕は美久を下ろして別のベッドに寝かせてきますから。」
「あ、私も手伝います。」
「いや、君はここにいてくれ。もし彼の容態が変わったとき、すぐに見られる人がいないと危ない。今彼を助けられるのは君だけなんだ」
ついていこうとするプレシアに誘導を交え操作するマサキ。そう、彼がこれからしようとすることに人がついてこられると不味いからだ。
「それじゃ、頼むね」
そう言い残し、マサキは病室から出て行った。
(さて、ここにあるものを把握するためにまず管理センターに行って…あとはあの病室が見つかれば…ククク)
そう言って病院内を歩くマサキ。広いとはいえ、大体どこに重要な施設をおくかは簡単だ。今いるのはベッドのある入院棟。おそらくこの階の中心近くにあるはずだ。
プレシアの病室から距離をとったマサキは、探すために、病院を静かに走り始めた。
中心に向け走るマサキ。
「あった…!」
案の定どこの病室からもほぼ同じの距離にある中心に管理センターがあった。その周りを探せば、もうひとつの探し物もすぐに見つかった。
集中治療室。そうプレートの張られたドアに入る。集中管理型の空調設備、機能付のベッド。さまざまな機材…
しかし、それらにひとつも目をくれず、あることを確認したマサキ。
「ここで、よし。あとは」
今度は管理センターに入り、周囲を見回す。
「ちっ…」
明らかに荒らされた形跡がある。おそらくはプレシアが薬を探す際同じ考えにいたっていたからだろう。
戸棚などをあけ、薬を探すが、プレシアの言ったとおり、一切薬がない。ご丁寧なことに薬のビンやパックはあるが、すべて中身が空といった始末。
「わざわざ中身を全て抜いて配置するとはやってくれるじゃないか…!」
忌々しげにマサキが呟く。なんとなく取ったコップで備え付けの台所に行き、水を一杯飲む。
よく冷えた水が心地いい。頭もそれに伴って冷えてゆく。
ないものは仕方がない。考え方の方向を変えるとしよう。
「簡単な薬を調合して処分しようとは思っていたが、薬が無いようではどうしようもないな」
椅子に背をもたれさせ、足を組み考えるマサキ。
「やはり後ろから絞殺するか?いや…あれは心身虚脱で状況把握ができない状態だからできたことだ。
最悪もしもクズが見かけに反してそれなりの鉄火場を経験していたり、武術に強い覚えがあった場合危険だな」
殺されるにいたるとは思えないが、逃げられるのもまずい。確実に殺す方法を考えねば…
手持ちのカードを一枚ずつ吟味するが、やはり思いつかない。
「しばらくはあのクズのお遊びに付き合うしかないか」
そう割り切ることにした。
ヘルメットを被り、
「レイ、こちらに静かに寄せろ」
「READY」
ルリを集中治療室に運ぶため、レイズナーを静かにこちらに寄せる。
チーフがいる部屋からは死角になるはずだ。そう計算して病室を選んだのだから。
ルリを集中治療室に運ぶマサキ。
「口に血がついたまま、というのもまずいか…」
そういって、先ほど水を注いだ場所へ戻り、フキンを濡らす。
「ん?」
そのときあるものに気付いた。それは…塩素系合成洗剤。頭の計算が高速で回転する。
急いで流しの下の戸棚をあける。やはり薬などは空だが、そこには彼の求めるものがあった。
醤油やみりんに隠れ潜むもう一対の凶器。酸性洗剤である。
「ククク・・・・ハハハハッ!! ハァーッハッハッハッハッハ!!!!!」
左手のバケツに酸性洗剤を流し込み、右手には塩素系洗剤を持つ。向かうは集中治療室。
ここは、空調も徹底した管理下のためか、窓がなく、そして一人用のため狭い。
ドアのそばに中身を抜いたロッカーを運び、その後ロッカーの上部に簡単に物を詰める。
あとは2つを混ぜ、ドアを閉めて5分間放置。
「さて…終わらせるか」
「あ、遅かったですね、美久さんはどうでしたか?」
「うん、こっちももう大丈夫。さっき目を覚ましたし。…よし、こっちももう大丈夫そうだね。話してみる?」
チーフの瞳孔や心音をチェックしたマサキ。さり気に好青年を演じて話しかける。
「え?大丈夫なんですか?」
「はい。協力してくれた人にもお礼を言いたいって言ってましたし。管理センター側の集中治療室です。」
「お礼なんて…何もしてないですし…」
「いや、そう言わずに気を紛らわすためにも行ってあげてください」
「分かりました、部屋は集中治療室ですね?」
そういってプレシアは部屋を出て行った。
「さて…次はこっちだな」
とたんに顔つきが変わり、懐からメスを取り出すマサキ。それをチーフの首に突きつけ、
止めた。
(むしろ今はよりよい機体を得るよりも、解析の間などに護衛してくれるクズが必要だな…
このクズはあのガキが死んだあとのアレに乗せて利用しよう。軍人のようだから役に立つだろう)
「ククク…運がよかったな…言い訳はあとから考えるとしよう」
そう言って懐にメスを戻すと、急いでプレシアのあとを追った。
「おーい!」
さわやかに後ろからマサキがプレシアに声をかける。
「あ、マサキさん。ってチーフさん一人にしていいんですか?」
「ああ、すぐに戻るよ。新しい水を汲むついでに、もう一度管理センターで薬を探そうと思ってね。」
さりげない動作でプレシアの後ろにつくマサキ。
「そうですか。あ、集中治療室ってあそこですよね?」
そういってプレシアが指をさす。
「ああ、そうだよ。」
ドアを叩き、呼び掛けるプレシア。しかし、返事がない。
「まさか…何かあったんじゃ!?」
慌ててドアを開けて入ろうとしたとき、
「え?なにこのにお……」
突然プレシアの背中が強く蹴られた。咄嗟に体をねじり、受身を取るが、ドアは閉められた。
外からは何か重いものが倒れる音がする。
「なにするんですか!マサキさん!」
そう呼びかけるが、返事はない。
この空間は…窓がなく、真ん中ではバケツから何かが発生している。そして、奥のベッドには…
ルリに触れる。冷たい。死んですでにかなりの時間がたっている。
プレシアはすべてを知った。そう、これは―――
のどから声が干上がる。
急いでドアを開けようと試みる。しかし、まったく開かない。武術の技も単純な質量の押し合いでは無力だ。
「出して!出してください!マサキさん!」
返事はまったくなかった。
「どうしてこんなことするんですか!?答えてください!マサキさん!」
おそらく開けられない。開ける気がない。そうだともう知っていた。あきらめきれない。
強くドアを叩き、呼びかける。それでやはり無反応。ノブは回るが、ドアはびくともしない。
かじりつくようにドアノブをいじり続ける。
次第に涙が出て生きた。これは…裏切られたことに対する悲しみだろうか?それともこの毒のせいだろうか?
嗚咽が漏れる。しかし、その声を出すのどを少しずつ焼けついていく。
……彼女が死に足るまでの5分間。それは彼女からすれば何日にも相当する地獄だった。
目の前がくらみだす。もうドアノブまでの距離感がよく分からない。もう握ることもできない。
それでも彼女は扉を掻く。もう考えることも怪しく、意識が白む。
扉を掻く。ついに、爪がはがれ、血が出た。それでも書き続ける。
ガリガリガリガリガリガリ……
(爪 痛い 生きたい おにいちゃ)
腰、足から力が抜け、立つことができなくなる。
息をすることがつらい。いつまで続くんだろう?
痛みが消えた。意識が白一色になった。爪が痛い。息ができない。体が動かない。
自分もあの子のようにな る の
もうだめかんがえられない
きがとおいめがしろ
「…………!……!」
ドアを叩く音と、なにかよく分からない戯言が聞こえてくるが、マサキは無視した。
プレシアをガス室に放り込み、ロッカーの下部を蹴って倒す。あとは隙間がないようにロッカーをドアに押し、その上に自分が乗る。全て合わせて20秒にも満たなかった。
致死にいたる5分間。マサキは実に平穏だった。
窓をゆっくりとあけ、前掛けをつけ、寝台を用意。料理が煮込むまでゆっくりと…
(これが終わったら、死体を出して、寝台に乗せて首の切断。その後、外に落とし、レイで踏ませ処分する…
30分で終わるな)
そんなことを考えていた間に、時間は経った。
ロッカーをずらし、マサキは鍋の蓋をずらすようにドアを開けた……
「う…」
チーフはゆっくりと体を起こす。
「俺は…水中で…」
それからの記憶がない。どうやら気を失っていたようだ。
周りを見回す。おそらく病院の類。外には、自分の機体と、プレシアの乗っていた機体。
あのあと気絶した自分をプレシアがここまで運んだ、ということなのだろうか?
ベッドからおり、部屋の外に出る。やはりここは病院のようだ。
ある程度周りをある程度警戒しつつ、病院を回る。
もしものことを考えて声は出さず足音をしのばせ行動する。この警戒力と行動判断こそが彼が戦場で生き残ってきた証だ。
「む……?」
妙なにおいがするような気がする。
ヘルメットを脱いで確認すると、それははっきり感じられた。
「これは刺激臭といったものだな。病院であることを考えればそうおかしくないが、先ほどのところではしなかった。この奥で発生しているのか?」
冷静に判断するチーフ。
「まて、外にはもう一機あった。まさかこれだけ探しても見つからないのは、このガスで倒れたためか?」
すでに倒れるほどではないが、発生当時のときは分からない。ましては子供。よく分からず薬を混ぜ合わせた場合このような状態になることは考えられる。
「…まずいな。救助活動を優先する」
そういってヘルメットを被りなおし、チーフはにおいのもとへと走り出した。
「誰かいないのか?返事をしろ!」
そういいながら病院を回るチーフ。当然それは…
「む?予定より早いな…ち、死体を速く処理せねば…」
マサキにも聞こえていた。
首を切り落とし、手に入れた2つの首輪をフキンで拭いていたマサキ。
足元にはうつろな目をした2人の少女の首が転がっている。
そうして、死体の首を持ち上げたとき…
「な…」
(馬鹿な、足音はしなかったぞ!?)
マサキが動揺する。チーフは戦場を歩く癖で、足音を立てないようにしていたため、近づくのに気付かなかったのだ。
「貴様…!なんてことを!」
チーフが手を震わせ、怒りの声を上げる。確かに首を見たとき、胃から酸っぱい物が込み上げていた。
しかし、すぐにそれはそれを凌駕する怒りによってかき消された。
「ちぃっ!」
マサキがルリの首を投げた。
チーフはそれをかわし、下に落ちていたモップ――先ほど出したロッカーの中身の――を蹴り上げて掴み、かわしざまにマサキに投げつける。
「あの娘が何をしようとしていたかお前は知っていたのか!?」
お互いが物影に走りこむ。
「あぁ、知っていたとも、理想論を振りかざして息巻いていただけだろう!」
突然チーフの頭上が輝いた。落ちてくるメスやフォークといった金属の刃。血がついたのもあればきれいなものもある。
「例えどんな理想論だろうと!それを踏みにじる権利がお前のどこにある!」
モップの一本をつかみ、一気に走る。そしてマサキの潜む寝台に一息で駆け上がり、モップを振り上げた。
「助けたかったんだろう!?なら俺によこした首輪が解析されれば戦うクズを救う分にはなるだろう!」
寝台を両手で押しひっくり返す。足をかけていたチーフが姿勢を崩す。
マサキは管理ホールから出る方向を向き走り出そうとするが、
「木原マサキ、お前だけは逃がさん!」
チーフがすばやく倒れた姿勢のまま、持ったモップをマサキ足元に向けて振るう。
バックステップを踏み、それをかわす。結局奥に行かざるおえなくなったマサキは、ロッカーを開けその扉を簡易の盾にする。
「ふん、話がわかると思ったらとんだクズが。もう話すことはない」
「それはこっちの台詞だ…!」
モップを槍の様に構え、ロッカーの扉に突撃する。おそらく衝撃から、マサキも姿勢を崩すはずだったが…
マサキは一歩下がっており、勢いよく扉が閉まるだけだった。そして難を逃れたマサキがメスをチーフに投げつける。
「ぐっ…!おおおおおおお!!」
肩にメスが突き刺さる。しかし、そのまま勢いを変えず、チーフが迫る。
みぞおちにモップの柄が食い込み、マサキが倒れる。そして倒れたマサキにモップを振り落とそうとするも、
ふらつきながらも崩れた低い姿勢のままマサキがチーフの足へとタックルした。
思わずもつれ込む2人。こうなれば上に乗っているほうが姿勢を立て直すには有利だ。
すぐに起き上がり、マサキは管理センターの出口に向かう。
チーフもすぐに起き上がるが、
「そら!あのクズがそれだけ大事なら受け取るんだな!」
マサキがバケツを蹴る。その中に入っていたのは………血
真っ赤な鮮血がチーフのヘルメットの視線を塞ぐ。急いでヘルメットを脱ぐが、もうマサキは管理センターの外へ出ていた。
「言ったはずだ!絶対に逃がさん!」
チーフは管理センターの受付の窓に、何の躊躇もせずに飛び込んだ。
ガラスが飛び散り、いくつかがチーフの体を傷つける。そのおかげでマサキのすぐ後ろに出ることが出来た。
マサキがまたメスを投げる。今度は右足に突き刺さるが、決してチーフは止まらない。
足からメスを抜き、全力でマサキを追う。
しばらくは追いかけっこが続いた。
しかし、突然マサキが止まり、後ろを振り向いた。
流石のチーフも決して最低限の冷静さを失っていなかったためか、振り返った時点で走るのをぴたりとやめた。
「どういうつもりだ?」
「それは……こういうことだ!」
壁が崩れた。そしてそこから巨大な腕が現れる
「いかん!」
咄嗟に後ろに飛んだため、ギリギリかわすことが出来た。
「残念だがここまでだ!おとなしく死ね!」
手に乗り、コクピットへ運ばれていくマサキが叫んだ。
チーフもすぐに意味を察し、後ろに全力で走る。
近くの部屋に飛び込み、部屋で厚い敷布団を体に巻きつけた瞬間――
轟音を立て、病院が崩れだした。何階かはわからないが、窓から見たとき、そこそこ高かった。
足元に落ちていく感覚。何度も色々なとこに体をぶつけ、もう視界がどちらが上かもわからない。
(一気に落ちるほうが危険だ…衝撃が分散している以上、まだ…)
衝撃がやむ。巻きつけた布団を払い、周りを見回すと――瓦礫の間からレイズナーが見えた。しかも足からミサイルをこちらに向けており、
「このままではまずい。どこかやり過ごさねば…」
周りを見回すと、よく屋上などに設置されている、蓋が吹き飛んだ浄化水槽が横倒しになっていた。あそこに飛び込むしかない。
飛び込むのとミサイルが爆発するのはほぼ同じだった。
まだ水が半分程度は入っている浄化水槽の中で爆音が反響し、耳がたわみ、荒れ狂う水により息が告げなくなり、感覚が失われていく。
(今意識を失うわけにはいかん、耐えろ、耐えるんだ…!)
「ふん、やっと死んだか。流石にこれでは生きていまい」
マサキが苦々しげにつぶやく。
「さっきの音を聞いてクズが集まるのもまずい。確認している暇はないな。幸い首輪は回収した。後は…これを処分してさっさと立ち去るとするか。」
2発のカーフミサイルをグランゾンとテムジンに向け、発射。
「一機ノ破壊ヲ確認」
「なに?一機だけだと?」
煙が晴れると、ボロボロだったテムジンは砕けていたが、グランゾンは無傷だった。
「ちっ、仕方ない。急がねばならん以上、これ以上は待てん。レイ、急いでこの場を離れるんだ。」
「READY」
そうしてレイズナーは離れていった。
「いったか…?」
浄化水槽から重い体を引きずり出すチーフ。15分ほど休むと、感覚が戻り、大分いつも通りに動けるようになった。
どうやら浄化槽は一山高いところにあり、周りが見渡せた。
「テムジン…すまん」
自分の愛機に対し敬礼しながらチーフがつぶやく。
「かならずお前らの仇は取る!」
そう言ってグランゾンまで走り、グランゾンに乗り込んだ。
プレシアのサックから治療キットを取り出し、治療しながら解説書を読む。
グランゾンがテムジンと崩れた病院の方を向く。
これからマサキに追いつけるかはわからない。どうなるかもわからない。他の参加者に会ったとしてもまた裏切られるかもしれない。だが、
「かならず木原マサキを倒し…この機体でできる限りの人命救助を心がけると誓おう」
そうもう一度敬礼しながらチーフは誓った。
グランゾンの瞳に力が宿る。
そして、正義の巨神が立ち上がった。
【チーフ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:全身に打撲、やや疲れ
機体状況:良好
現在位置:B-1
第一行動方針:マサキを倒す
第二行動方針:助けられる人は助ける
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:B-2
第1行動方針: 首輪の解析
第二行動方針:使えるクズを集める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【プレシア=ゼノキサス
パイロット状況:死亡】
【二日目 11:30】
最終更新:2025年01月24日 00:55