人間式の弔い方
合流地点に決めていたのは周囲を水に囲まれた小島だった。小島といっても東西に数十キロはあり
更にその大半は廃墟という、全く持ってデートの待ち合わせには不向きな場所であった。
それ故にガンダム試作二号機とノルス・レイが再会したのは予想より随分遅れての事だった。
「見つけてくれて助かったよ。思ったよりレーダーが当てにならなくて」
ジョシュアがイキマへ礼を言う。ミノフスキー粒子の影響下でレーダーの有効範囲が狭い上に
視界も悪い。奇襲を警戒しながらの捜索では時間が掛かり過ぎると思っていた矢先、ノルスの方が
ガンダムを発見したのだ。どうやらノルスのレーダーはミノフスキー粒子の影響を受けないらしい。
「礼には及ばん。よく分からんが精霊の加護とかなんとからしい」
答えながらイキマはノルスの仕様書を横目で見た。『備考:泉の精霊(下位)の加護』と書かれた
項目は今も理解不能だ。ヒミカ様の加護のようなものか、とイキマは勝手に解釈していた。
実際は精霊力を利用した索敵装置がミノフスキー粒子に影響されていないだけに過ぎない。
「無事で何より、って無事じゃないな。その腕・・・どうしたんだ?」
ジョシュアはノルスの失われた片腕を見て首をかしげる。昨夜のゼオライマーにやられた傷だが、
戦闘の損傷にしては綺麗過ぎた。破損箇所が、まるで傷口が塞がるように補修されている。
「ん? これはお前を探す合間に簡単に治療したんだが・・・」
「治療した?! ロボットをか?」
「ああ、人間は機械を治療する事を修理というんだったか。とにかくそういう能力があるようだ」
そう言ってノルスの手を細かく傷ついたガンダムに近づけるが、何も起こらない。
「・・・どうやら生きている機体にしか効果がないようだ」
「ロボットに生きているも死んでいるも・・・つまりそいつは生きているのか?」
正確には『治癒能力』ではなく『自己修復能力を強化する能力』なので、残念ながらMS等には
効果がないようだ。ノルスが自分の装甲を擦って傷付け、手を当てると傷は少しづつ薄くなった。
時間を掛ければ大きな損傷も直せるだろうが、欠損した部位までは取り戻せそうにない。
「ホントに直るとは凄いな。もしかして怪我も治せるんじゃいか?顔色が良くなるかもよ」
「そうだな。試してみるから、適当に顔色を悪くしてみろ。怪我でもいいぞ」
軽口を叩きつつ、主催者の用意したものに過度の期待はしない方が良いと二人は結論を出した
「しかし誤算だったな。出来の悪いSFだと思ってたんだが、ファンタジーも混じってるなんて」
ジョシュアが溜息を吐いて空を見上げた。これ見よがしに上空を飛ぶ巨大戦艦ヘルモーズが見えた。
全長30km弱、もしかしたらこの小島より大きいかもしれない。ユーゼスの旗艦だというのに各地へ
姿を見せるのは絶対的な存在の誇示だと思っていたが、考えを改めねばならない。少なくとも
ユーゼスは通常の物理法則外の力も持っていると考えた方が良さそうだ。
「バーニア無しで飛ぶドラゴンを見た時点で気付くべきだったな」
いやハニワ幻人の時点で既にファンタジーだったかとジョシュアは苦笑する。
「なんだそれは?」
「凶暴な飛龍に襲われた迷子が、勇敢な妖精さんに助けられたって物語さ」
ジョシュアは昨夜分散した後、龍王機に襲われフェアリオンSに助けられた事を簡単に説明した。
「・・・やはり人間は意味もなく他人を殺せる生き物なのか?」
ヤザンの事を聞いたイキマは傍らに眠る冷たくなったアルマナを見た。助かる為でなく楽しむ為に
殺す人間もいるのかと、一人の男を思い出した。この娘を殺した男は、まだ生きているのだろうか。
「襲ったのも人間なら、助けに入ったのも人間なんだ。俺も、その子も」
「よく分からん。だが一括りにした事は謝る。すまなかった」
それが疑問に対する答えじゃないかとジョシュアは思った。
「朝の放送は聞いたよ。どうする?」
「・・・・・・」
ジョシュアが話題を変えた。アルマナの遺体をどうするかという意味だ。バラン・ドバンは一足先に
黄泉路へ旅立ってしまった。ここらで埋葬してやるのが良いのではないかとジョシュアは思う。
「・・・なあ、人間は死者を弔う時はどうやるんだ?人間式の弔いの方が娘も喜ぶだろう」
イキマが重い口を開いた。無情に殺された娘をせめて人間らしく弔ってやりたい。人間相手に
そんな事を考えるなんて邪魔大王国にいた頃は想像もしなかった事だった。
「お前のやり方で良いんじゃないか?弔いってのは、身近な奴が中心になって精一杯、供養するんだ。
その人を大事に思ってする事だから、その方がきっと彼女も喜ぶさ。それが人間式かな」
デタラメだ。人間といっても宗派、国、星が違えば弔い方も違うだろう。それを説明するより
イキマの流儀で精一杯の供養をしてやるのが良いと思うジョシュアの心遣いだった。
小島の北に位置する小高い丘。元は大きな公園だったのだろうか、周囲は廃墟に囲まれているが
ポッカリと空白のように自然が残っていた。そこでイキマはノルスを使って弔いの準備をしている。
それを見ながらジョシュアは見張りをしていた。相変わらずレーダーの有効範囲は狭いが、
周囲に背の高い建物はなく、ロボットが近づけば一目で分かる。
(歴史の授業で聞いた古墳作りってこんな感じだったんだろうな)
着々と進む準備を見て、ちょっと大袈裟じゃいかとジョシュアは思う。それはまさに古墳であった。
土を盛って丘を作り、瓦礫を使って棺室そして祭壇を器用に作ってゆく。
「巫女の墳墓にしては、あまりに粗雑で簡素だが許せよ・・・」
イキマの仕えるヒミカも巫女である。神は違えど同じ巫女であるアルマナを弔うならば、このくらい
の墓は当然だと思っているらしい。こうして人力ならぬハニワ力で2時間も掛からず墳墓が完成した。
ノルスから降りたイキマはアルマナの遺体を祭壇に寝かせた。アルマナの乱れた髪を簡単に整え、
自分の指を切った血で唇に薄く紅を塗ってやる。死に化粧のつもりだろうか。
「ヒミカ様、異国の巫女の為に祈りを捧げる事をお許しください」
イキマはヒミカに許しを請うと、祭壇の前で杖を振りかざし何やら熱心に祈り始めた。
それを聞きながらジョシュアはガンダムの中で黙祷を捧げた。
イキマ達が弔いを始める一時間ほど前、小島の北側。
湖上を走るブライサンダーとワルキューレの姿があった。イングラムやヒイロを捜索してしたはずが、
どこをどう間違えたのか水の上。
「地図の上下が繋がっている事くらい予想すべきだったな。溺死などしたら洒落にもならない」
クォヴレーが現在地を確認して呟く。捜索が捗らないのでE-8の路上からレーダーの届かない南側の
障壁を抜けてみたら、E-1の湖上に出てしまったのだ。一度は水没したが幸いにしてブライサンダーの
気密性は完璧だったので浸水はなく、それどころか水上走行もできる事を発見した。
「ひょっとすると空も飛べるかもしれないな・・・非常識だが」
既に水上走行というより空中走行しているのだが、気付いていない。原理は一切不明だ。
焦って色々と弄繰り回したのが良い方向に出たのだが、ダッシュボードの中にあった意味ありげな
狼マークのボタンは怪し過ぎるので触っていない。トウマの話によると、子供向けのTVアニメでは
目立つ場所にシンボルマーク入りの自爆ボタンが配置されており、何かの拍子に押してしまっては
爆発する事があったという。意地の悪いユーゼスの考えそうな事だとクォヴレーは呆れた。
「大体、仕様書をちゃんと読まないのが悪いんだろうが。人がどれだけ心配したと思ってる!」
トウマが声を荒立てた。トウマはちゃんと仕様書を読んでいたのでワルキューレが水上走行可能な
事を知っており、水上に出た時も慌てなかった。むしろブライサンダーが沈んだ事に心底驚いて
クォヴレーを助けに飛び込もうと決意した時、ブライサンダーが素知らぬ顔で浮かんできたのだ。
「過ぎた事にイラついても仕方ないだろう。そんな事ではいざという時に判断を誤るぞ」
「うるせぇ!俺は冷静だ!」
朝の放送を聞いてからずっとトウマは殺気立っていた。共に戦った武人の死。己の無力さを痛感し、
やり場のない怒りに自分を納得させられないのだ。
「気持ちは分かる。だが俺達は自分に出来る事をするしかない」
「それは俺だって分かってる。分かってるけどよ!」
「大体、誰が仇かも分からないのだから焦っても仕方がないだろう」
誰が仇か分かっても俺達では勝ち目はないだろうな、とクォヴレーは思ったが言わないでいた。
予期せぬ水上ツーリングは一時間足らずで終わりを告げ、廃墟巡りツアーへとシフトした。
かつては高層ビルの立ち並ぶ大都市だったのだろうが、何があったか今は見渡す限り瓦礫の山だ。
二人にとっては中途半端に原形を留めているビル郡は身を隠すのに絶好の場所だ。だが他の機体では
そうは行かない。数十分後、ビルの合間を縫うように走り捜索をしていた二人は、二機のロボットを
数百m先に発見した。ガンダム試作二号機とノルス・レイだ。まだ向こうは気付いていない。
「とりあえず見知った連中じゃないようだな。相手も二人みたいだし、声かけてみるか?」
「迂闊な行動は死につながるぞ。相手が複数だとしても打算で協力している可能性は捨てられない」
「んな事は分かってんよ!だけど疑ってばかりじゃ進まないだろ!」
「焦る気持ちは分かるが、賭ける命は一つきりだ。いつも都合よく助けが入ると思うなよ」
「・・・・・・分かったよ」
二人は今朝のマサキを思い出した。打算的な連中からすれば戦力にならない自分達は攻撃対象と
なるだろう。正面から相対すれば自分達には勝ち目はほぼゼロだ。自分達の機体が唯一、他の機体に
勝っている面があるとしたら、それは機体サイズしかない。相手が予想もしない程に小型である事を
活かしてレーダーを掻い潜り接近するしかない。接近してからどうするかが、次の問題なのだが。
(通信を傍受できると良かったんだがな。このポンコツめ)
ブライサンダーの無線機はカセットテープステレオ付きの骨董品だ。もはやどう操作するかも
分からないほど旧式で全く役に立ちそうにない。その骨董品が星間通信にすら対応しているなどと
誰が想像できるだろうか。
ブライサンダーとワルキューレはビルに隠れ、二機のロボットに約100m程の距離まで近づいた。
まだ相手からは発見されていないようだが、これ以上は視界が開けており接近は難しい。
「あんな所で機体から降りて何をしているんだ?トウマ、何か見えるか?」
「・・・・・・」
クォヴレーは上階から見ているトウマに声をかけた。返事はない。ジッと遠くを見つめている。
二機のロボットは古墳のような所で待機していた。古墳の上には祭壇らしき物があり、遠目だが
人が横たわっているのが見えた。もう一人、杖を持った異形の男が近くで何かしている。見るからに
怪しげな儀式だった。その僅かな情報からクォヴレーは様々な事を推測する。
(死体から首輪を外そうとしているのか。主催者へ対抗するためには首輪の解析は必須だ。いや待て、
あの二人がパイロットだとして片方が死んでいるなら労せず一機は手に入る。仮に死体以外に二人いる
としても降りている方を始末すれば、どちらかが手に入る。残る機体は一人が囮になって引き付けて、
もう一人が奪えばいい。・・・いや、俺は何を馬鹿な事を考えている。機体を奪うために問答無用で
殺し合いなど、それこそ自動車やバイクを支給したユーゼスの思う壺だ)
パイロットが機体から降りているという千載一遇のチャンスを前に心が揺れたが、クォヴレーは
グッと踏み止まった。トウマ程ではないが己の無力を憂いているのは事実だ。しかし手段と目的を
履き違えるわけには行かない。
「トウマ、そこからは何か見えるか?」
「あれは・・・あれはアルマナだ!」
「アルマナだと・・・」
驚いてトウマを見上げたクォヴレーは言葉を詰まらせた。トウマの表情は怒りとも喜びとも付かぬ
形相に歪み、祭壇を睨みつけている。
「おい、落ち着け・・・」
「見つけたぁぁぁぁっ!!!」
言うが早いかトウマはワルキューレで飛び出すとクォヴレーが止める間も無くロケットブースターを
作動させる。再三に渡った友の忠告は、アルマナの遺体の前に消え失せていた。
イキマの厳かな祈りと静寂をワルキューレの爆音が切り裂いた。祭壇に向かって一直線に向かって
いる。イキマはもちろん、奇襲に備えていたジョシュアも戸惑いを隠せない
「ミサイル?違う、バイクだ。そんな馬鹿な!」
レーダーだけでなく肉眼でワルキューレを確認したジョシュアが信じられない物を見たような声を
上げる。あまりに無謀、あまりに無力。生身を剥き出しのワルキューレでは、バルカンでも当たれば
確実に死ぬだろう。だが、それがジョシュアに引き金を引かせる事を躊躇させた。その僅かな時間に
ワルキューレはイキマへと迫る。
「オートバイだと?!まさか・・・まさか?!」
そのあまりの無謀さに、イキマはかつて仇敵を思い出さずにはいられなかった。あの不死身の男も
こうだったのだ。『例え倒れようとも第二第三の・・・』その言葉が脳裏に蘇る。
「うおぉぉぉっ!!!」
雄叫びと共にトウマがワルキューレからイキマの目前で跳ぶ。イキマはミサイルのように高速で
迫る無人のワルキューレをギリギリで避けながらも、空中のトウマから目が離せない。
「まさか鋼鉄ジーグか?!!」
「アルマナの仇だ!死ねぇ!!!」
空中で変身するのかと思ったイキマに対し、トウマは加速を殺さずその力の全てを込めた渾身の
跳び蹴りを叩き込む。イキマは咄嗟に両手で構えた杖で防いだが、まるで枯れ枝の様にへし折られ
そのまま跳び蹴りは正確に鳩尾に叩き込まれた。全ての力を一点に集中させ蹴り砕く、大雷凰の為の
特訓は確実にトウマの力となっていたのだ。
「げはぁっ!」
イキマの体がくの字に曲がり後方へ吹き飛ばされた。しかしイキマは倒れず、己の足で大地を掴む。
トウマは蹴った反動で祭壇の近くへと降り立つ。変わり果てたアルマナの姿を目の当たりにし、
怒りの形相でイキマを睨みつけた。ただでさえ顔色の悪いイキマの顔は痛みと衝撃で醜く歪み、
とても人間とは思えない。
「良い蹴りだ小僧!だがこんなものでは俺は倒せん。俺を倒したければ鋼鉄ジーグを連れて来い!」
険しい表情のイキマが声を絞り出す。片手は腹部を押さえダメージは隠せないが決して膝は着かず、
トウマを睨み返した。鋼鉄ジーグに敗れ去った同胞の為にも、幹部たる自分が生身の人間などに
倒されるわけには行かないのだ。
「そんな奴、知るか!アルマナの仇め!貴様はバラン・ドバンに代わって、この俺が蹴り砕く!」
アルマナの前に立ちトウマが構えを取る。必殺の一撃ですら致命傷にできかった相手にどう戦うか、
策はなかったが蹴り砕くのみとイキマへ突進する。
「待て、俺は・・・」
イキマが口を開きかけた瞬間、無数の銃弾がイキマの言葉とトウマの突進を阻んだ。躊躇していた
ジョシュアが、二人が離れたのを見てバルカンを放ったのだ。
「イキマ、大丈夫か?!」
ジョシュアは生身の相手に攻撃することに抵抗があるのか、バルカンはイキマとトウマの間を
遮るように撃たれていた。突然の砲撃にトウマは大きく飛び退く。
「くそっ、ここまでかよ。悪いなクォヴレー、ヒイロに謝っといてくれ」
ガンダムの存在を忘れていた。流石に生身では勝負にならない。向こうに転がってるワルキューレが
あっても結果は変わらないだろう。こうなる事は分かっていたはずだが、後悔する暇はない。
「こうなりゃ蜂の巣になってでも、もう一撃蹴り込んでやる!」
トウマが覚悟を決めた時、ガンダムの足元に爆音が轟きバルカンの雨が止んだ。振り向けばブライ
サンダーがヘッドライトビームでガンダムを牽制しながら突っ込んでくるのが見えた。
「今度は自動車?!最後は大型トレーラーでも出す気かよっ!」
ジョシュアはバルカンを撃ち帰すが、小型機を相手に躊躇しているのか攻撃に精彩がない。ブライ
サンダーは銃弾を掻い潜り、猛スピードでドリフトする。そのままトウマの盾になるように車体を
滑り込ませ急停止すると右後部ドアを開けた。
「逃げるぞトウマ!早く乗れ、犬死にする気か!」
クォヴレーが珍しく言葉荒く叫んだ。無謀なトウマに腹が立っていたし、まるでどこかのイカレた
タクシーの様に助けに入ってしまった自分にも腹が立っていた。
「すまない!」
トウマはアルマナの遺体を抱え、ブライサンダーへ転がり込む。攻める事は無謀と分かっていたが、
退く事にも抵抗があった。しかし危険を冒してまで助けに来てくれたクォヴレーの好意を無駄にする
訳にはいかない。ドアが閉まると同時にバルカンがブライサンダーを捉えるが、小さな車体だというのに
撃ち抜けない。見た目以上に装甲は厚いようだ。
「防弾仕様にも程があるだろ。スパイ映画じゃあるまいし!」
ジョシュアが驚きの声を上げた。ビームを撃っている時点で普通の自動車という考えは捨てるべき
だったと舌打ちしたが既に遅い。ブライサンダーは激しい銃弾の雨の中、お構いなく急発進すると
廃墟へと逃げ込んで姿を消した。
廃墟の中、背の低いビルの間を縫うようにブライサンダーが走る。悪路をものともせず、まるで
空中を走るかのように駆け抜けてゆく。
「追撃はないようだが、油断は出来ないな」
バックミラーを確認したクォヴレーが呟く。周囲に機影は見えないが、飛行できる機体ならば上空
から強襲する事は用意だ。攻められない以上、今は出来る限り距離を取って身を隠すしかない。
「アルマナ・・・仇は取ってやるからな」
トウマは後部座席でアルマナの遺体を抱えていた。肌に伝わる冷たさが、彼女の無念を訴えている
かのように思えた。トウマはアルマナに、そしてバランに誓う。
「あのイキマと呼ばれていた怪人は必ず俺が蹴り砕く。この命に代えても!」
右足が痛む。杖で防がれた分、跳び蹴りが不完全だったのだろう。だが、この優しい少女を殺した奴を
許す事は絶対にできない。その仇討ちの矛先が根本的に間違っている事には気が付かなかった。
怪人が少女の死体を祭壇の上に乗せ儀式をしていたのだから無理もない。
「・・・」
熱く闘志を燃やし続けるトウマをバックミラーで見ていたクォヴレーは溜息を吐き、ミラーを指差す。
「トウマ、ちょっといいか?」
「なんだよ・・・ッ?!」
ミラーを覗き込んだトウマの顔面にクォヴレーの裏拳が叩き込まれた。予期せぬ一撃は綺麗に入り、
トウマの顔から鼻血を噴出させた。何が起こったのかとトウマは目を白黒させている。
「少しは血の気が抜けたか?本当に仇を取る気があるのなら勇気と無謀を履き違えるな。それと
命を賭けているのが自分一人だと思うなよ」
「・・・サンキュウ、少し頭が冷えた」
顔の痛みは、前しか見えなくなったトウマを少し冷静にさせた。無茶無理無策の三無主義では
仇討ちどころか無駄死にだ。おまけに仲間を危険に晒していたのでは空回りにも程がある。
「なぁ、やっぱり俺、自分でヒイロに謝るわ」
「・・・何の話だ?」
「ハハ、すまねぇ。こっちの話だ」
様々な思いを乗せ、ブライサンダーは廃墟を駆け抜けていった。
ガンダムのレーダーは廃墟へと逃げ込んだブライサンダーを早々にロストしていた。まったく
肝心な時に頼りにならない。
「大丈夫か?!凄く顔色が悪いぞ」
ジョシュアがイキマに駆け寄る。追跡とイキマを天秤に掛けて、迷う事なくイキマを選択した。
「これは地顔だ、ほっとけ!」
怒鳴り返せる元気はあるようだが、イキマの顔色は普段より更に悪くダメージの大きさを物語って
いる。ふらつくイキマをジョシュアが支えようとするが、その手は振り払われた。
「大丈夫だ。生身の人間に倒されたとあっては、鋼鉄ジーグに倒された同胞に地獄で顔向けできん」
「いいから機体に乗って休め、アレで回復できるかもしれない。俺は奴らを追う!」
ノルスの能力の事を言っているのだろう。ジョシュアはイキマへ強引に肩を貸すとノルスへと向かう。
「・・・いや、必要は無い」
「じゃあ普通に休め。その間に俺は彼女を取り戻してくる」
「違う、追う必要は無い」
イキマの言葉にジョシュアが顔を覗き込む。
「なんでだよ?だって・・・」
「あのトウマと呼ばれていた小僧は娘の名を叫んでいた。従者の名も知っていた。捨て身とも思える
蹴りに強い思いが込められていた。あの娘を知る者が、思う者がいたのだ。これは喜ぶべき事だろう?
人間式の弔いは、身近な者が精一杯供養するのだろう?あの娘を大事に思う者がいたのだ。だから
俺よりもあの小僧達が弔った方がきっとあの娘も喜ぶさ」
淡々と言うイキマに、ジョシュアは言葉がない。
「それで・・・本当にいいのか?」
「ああ、これでいいんだ・・・」
優しい心をくれた娘は、仲間の所へ帰っていった。それだけの事だと、イキマは言う。
ジョシュアが思わず見上げた空には、太陽が眩しく輝いていた。
【トウマ・カノウ 搭乗機体:なし(ブライサンダーの左後部座席に乗っています)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
現在位置:E-1より逃走中
第一行動方針:イングラムを捜索する
第ニ行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流。及びイキマ、ユーゼスを倒す
備考1:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好
機体状態:サイドミラー欠損、車体左右に傷(変形不能)、装甲に弾痕(貫通はしていない)
現在位置:E-1より逃走中
第一行動方針:イングラムを捜索する
第ニ行動方針:トウマと共に仲間を探す
第三行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考1:左後部座席にトウマ、右後部座席にアルマナの遺体が乗っています
備考2:水上・水中走行が可能と気が付いた。一部空中走行もしているが気が付いていない】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:腹部にダメージあり(無理をすれば歩ける程度)
機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし。応急処置程度に自己修復している)
現在位置:E-1
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】
【ジョシュア・ラドクリフ 支給機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:E-1
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】
【備考:アルマナの遺体はブライサンダーへ。ワルキューレはE-1の墳墓付近に転がっています】
【二日目 12:20頃】
最終更新:2025年01月25日 02:12