海を前に
「参ったわね、こんな所で足止め食うなんて……」
すぐ目の前に広がる広大な海を見渡しながら、セレーナは苦々しげな表情で呟きを洩らしていた。
前に一度小島を出た時は、浅瀬の続く場所を見付ける事が出来たおかげで、なんとか海を渡る事が出来た。
だが、今は違う。前に通ったはずの浅瀬は、今は海に沈んでいた。
「おかしいですね……前に通った時は、こんなに海面が高くはなかったと思うんですけど……」
「そりゃまあ、満潮になったって事じゃないの?」
「だけど、セレーナさん。月の位置から計算したら……」
「……言いたい事は分かるけどね、ここで私達の常識が通用するとは考えない方がいいわ。
どうせまた、きっとユーゼスの奴の仕業よ。あいつの技術力を考えたら、それくらいは簡単でしょ?」
「そ、そうかもしれませんけど……」
「そうに決まってるわよ。だって、そうでもなけりゃ説明付かないもの」
「それは……確かに、そうかもしれませんけど……」
「ま、そう深刻に考え込まないの。これがユーゼスの仕業だって言うんなら、そのうち潮も引くはずよ。
あいつの目的は、あくまでも私達に殺し合いをさせる事。だとしたら、参加者を一つの所に閉じ込め続けておくはずがないわ」
沈んだ口調で言うエルマ。その頭をぽんぽんと叩きながら、セレーナは軽い口調で自分の考えを述べる。
「きっと、イングラムもあの島に閉じ込められているんでしょうね。考えようによっては、この状況は好都合かもしれないわ。
飛行能力の無い機体であの島を出ようとするなら、潮が引いた時に浅瀬を渡るのが一番手っ取り早いはず。
つまり、ここよ。このルートを進んで行けば、イングラムと行き違いになる事はないわ。
まあ、いつ潮が引くのか分からない事が、唯一の問題ではあるのだけれど……。
だけど、この満潮も長くは続かないはずよ。こうして待っていれば、そのうち島に渡れるようになるわ」
「それじゃあ、セレーナさん。潮が引くまで、ここで待っているつもりなんですか?」
「それしかないわね、イングラムに会うつもりなら」
そう言って、セレーナはやおら目を閉じる。
「せ、セレーナさん?」
「……今の内に、少し休んでいる事にするわ。エルマ、悪いんだけど、何かあったら起こしてちょうだい」
「は、はい、わかりました」
「それと、アル。周囲の様子を警戒しながら、ECSを作動させといてちょうだい」
<イエス、マスター>
イングラムの無事を疑う事無く、セレーナは目を閉じ眠りに就く。
……まだ、彼女は知らなかった。彼女が無事と信じている戦友が、もはや生きてはいない事を。
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ(ECS作動中)
現在位置:E-1南西部(海の目前)
第一行動方針:E-1の小島で、イングラムを探し接触する
第二行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
第三行動方針:リュウセイを捜索する
第四行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
【二日目 16:20】
最終更新:2008年06月02日 03:09