緑の交錯


  瓦礫が飛散する半壊した病院わき、そこに二人の男はいた。
  一人は自分の機体に搭乗しており、
  もう一人はこれまた己の機体を整備しているようであった。

  辺りには静けさが漂っている。
  男たちは押し黙っていた。
  張り詰めた静寂の中、カチャカチャと整備の機械音だけが響いている。

  不意に『キィッ』と扉が開く音がした。
  男たちが慌てて振り向く、だがそこに人影はなかった。
  半壊し、立付けの悪くなった病院の扉が風によって開いたのだろう。

「彼は何処へ消えてしまったというのか・・・」
  機体に乗っていたほう、自らをチーフと名乗った男がそう呟いた。
  もう一人のほうの男、ガルドもまた、しばらく扉を見つめ何かを考えているようであったが
  一度ため息を漏らすと再び機体の整備に取りかかっていった
  病院わきにまた機械音のみが響き渡る。

  彼らは元々寡黙な男達であった、だがこれほどまでに沈黙があたりを支配しているのには別の理由があった。
  1つは少し前に放送されたこのゲームの主催者による定時報告、
  そして2つ目、彼らが助けた少年の姿が消えてしまったということである。

  二人の男はレーダーであたりを警戒しつつも少年のことを――
  そして今後の自分たちの今後の行動を、思案せずにはいられなかったのである。

  チーフは考える。
  できることならば少年を探しにいきたい、だが迂闊に行動して戦闘が起こってしまえば
  まだこの辺りにいるであろう彼を巻き込んでしまう。かといって、ここで待ち続けているのも埒があかない。
  それにいずれにせよ、あまり長い間ここに留まっているわけにはいかないのだ。

  先程、放送が始まる前にガルドと情報を交換しあった時のことである。
  情報の交換によって得られたものは多かった。
  まず光の壁、そしてイングラム・プリスケンのこと、主催者へ向けて放たれた一筋の光とそれを防いだバリア
  そのバリアが光の壁と同様、空間の制御による物らしいということ、グランゾンにより発生した蒼い渦。
  空間制御装置が禁止エリア内にあるのではないかということ。
  セレーナ・レシタール、そして首輪の解除を試みている物たちの存在、そして木原マサキ――

  これらの話をまとめた結果、直にでもグランゾンを回収しG-6へ向かうべきだと結論付けたのである。
  その理由は首輪の解除によって、禁止エリア内の空間制御装置を捜索、破壊するためであり、
  急がなければならないわけは、木原マサキの存在であった。
  首輪の解除を目指している一団がG-6へ、そしておそらくマサキもそこへ向かっているであろうことから
  急がなければ取り返しのつかない事態になりかねない、
  いや、むしろ既に騒動が起こっているかもしれないと考えたのである。

(だが、そこへ向かうということは彼を見捨てるということになる・・・どうすればいい・・・)
  そこまで考えが至って、チーフは自問自答する。
  しかし答えはでない。

「俺はやはりG-6へ向かうべきだと思う」
  その時、急にチーフの心を読みすかしたかのように声が聞こえた、
  ふとモニターを見るともう一機の機体、エステバリスから通信が入っていた。
  いつの間にか整備を終えたのだろう、ガルドが乗り込んでいるようだ。

「ガルド・・・しかし、それでは・・・」
  チーフが言葉に詰まる、
「あの少年のことは気がかりだ、だが、どっちみち彼をつれて移動することはできん。
  戦う力が無いものを戦場に引き連れるわけにはいかんからな・・・
  それに、一刻も早く首輪の解除法を見つけることが彼を助けることにも繋がる、
  酷なようだが彼にはここに留まってもらったほうが一番いい」
  ガルドが言い切る。
  それを受けて、チーフがしばらく思案し答えを返す。

「・・・確かに、彼にはこの場で身を隠してもらっていたほうがいいか・・・
  しかし、それでも一度会って話をせねばいかんだろう、
  今の彼はおそらく精神的に不安定だろうからな・・・」
「うむ、そこでだ、ひとまず二手に別れるべきだと思う・・・」
「確かにそれが打倒なせんか・・・それでは俺が――――」
  そこまで喋った時チーフが突然言葉を切った。ガルドも直に異変に気がつく、

  空気が――、振動しているのだ。

  それはまるで巨大な何かが向かってくるかのような、不気味な振動である。
「これは・・・何か来るぞ!!」
  ガルドがそう叫んだ時、それと同時に破壊された建物の隙間から、
  遠目にもはっきりと分かる、巨大な機体を二人は眼にした。
  自分たちのいる地点よりやや北のほうを、まっすぐ東に向かって飛んでいる。

  幸いにも自分たちは相手の死角になる場所に陣取っている。
  また、この一帯はレーダーがかなり阻害されている、このままやり過ごすことも可能だ
(この場で戦闘になると厄介だ、幸い相手はレーダーの範囲外を飛行している、
  この場はやり過ごしたほうが得策か――つっ!?)
「どうした!何かあったのか!?」
  突如、言葉を発したチーフに対し、ガルドが呼びかけ、テムジンを見る。
「何だ!?」
  テムジンが発光している、いや正確に言えば背中の出力機であるが――
  それが淡く緑色に光っているのだ。

(これは・・・一体?・・・先程テムジンを復活させた時と同じ光なのか?)
  チーフはそのテムジンの内部で困惑していた。
  突如Vコンバーターが光を発し始めたのだ。

(まずい!これでは相手に見つけてくれと言っているような物だ)
  あわてて、機体を病院の影へ移動させる。
  巨大な機体は、今や自分たちのちょうど北を飛んでいる。

  不意に声が聞こえたような気がした。
  耳をすませてみる。
  コクピットの後ろでVディスクが回転している音が聞こえていた。
  気がつくとコクピット内も緑色の光が包み込み始めている
  そして――――

『・・・・・・あの人を・・・・・・止めて・・・・・・』
(!!)
  確かに聞こえてくる
(これは一体・・・テムジンに何が起こったというのだ?)
『・・・お願い・・・・・・リョウト君を・・・止めて・・・ください・・・』
  再び聞こえた。
(プレシアか?いや違う声・・・誰だ?)
  緑色の光が再び瞬いた
「君は一体誰なのだ!あの機体にはリョウトという人間が乗っているというのか!?
  なぜ俺にそのようなことを頼む!?」
『あなたにしか頼めないの、私たちを助けようとしてくれたあなたにしか・・・
  だから・・・お願いします・・・・・・』
「何!!・・・君はあの少女なのか!?・・・ならばそのリョウトというのは、あの少年か!?」
  そう叫んだ時、光は急に晴れた。

「チーフ!大丈夫か!!・・・今のは一体何が起こったんだ!」
  我に返った時、目の前には、モニターに移ったガルドの顔があった。
「わからん・・・テムジンを復活させて以来、何か不思議な力が働いているかのようだ、
  死者が語りかけてくる・・・」
  そう答え、思い出す。

  たしかハッターの援護に向かっていた時にも同じような光があたりに降り注いでいた。
(あれの影響なのか?)
「死者の声だと・・・それはどういうことだ?・・・あの光は一体なんなのだ」
  ガルドが尋ねる。
「あれも、ハッターの、プレシアの導きなのかもしれんな。
  大丈夫だ、不安はなかった。それよりも、やらなければならんことが増えてしまったがな」
  そういって辺りを見渡す、どうやら先程の機体は飛び去ってしまったようだ。
「ガルド、予定変更だ・・・俺は奴を追う、あの少年が乗っているらしい、お前はグランゾンを回収したらG-6へ向かってくれ」
  チーフはそう告げた。



【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
  パイロット状況:全身の打撲・火傷の応急処置は完了
  機体状況:ゲッター線による活性化、エネルギー消費(中)
  現在位置:B-1
  第一行動方針:リョウトを追って東へ
  第二行動方針:ガルドのグランゾン回収を助ける(C-1への移動)
  第三行動方針:G-6へ向かいガルドと合流、首輪・マサキの情報を集める
  第四行動方針:空間制御装置の破壊
  最終行動方針:ゲームからの脱出】


【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
  パイロット状況:良好
  機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り
  現在位置:B-1
  第一行動方針:チーフに光のことを聞く
  第二行動方針:グランゾン回収(C-1への移動)
  第三行動方針:G-6へ向かい、首輪・マサキの情報を集める
  第四行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
  第五行動方針:イサムとの合流
  最終行動方針:イサムの生還および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる】

【二日目 18:55】





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第191話「リョウト チーフ 第213話「high on hope
第191話「リョウト ガルド・ゴア・ボーマン 第213話「high on hope


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最終更新:2008年06月02日 04:09