high on hope


【二日目 19:00】

市街地の外れ、荒廃したビルの並ぶ一角、そこに彼女はいた。
ラミア・ラブレス――
争いの因子を振りまかんとする者である。

新たに狂気に囚われた男に力を与えた後、
彼女は自身の力でもあるラーゼフォンと共にその羽を休め、自らの主との交信を行っていた。
今はまだ自分が表舞台へ出て行く時ではないと判断したためだ。
あくまで他の参加者どうしでの殺し合いを促すこと――
それが目的である。
現状、円滑にゲームが進行しているのであれば裏方にまわればいい――
どちらにせよ、今は情報を集め、整理する必要があった。

自分がこの舞台へと降り立ってから、それなりに時間も経過している。
ヘルモーズ内で確認していた他の参加者の位置もそろそろ意味を成さなくなってくる頃だ。
効率よくゲームを進行するには再度、主と交信を行い参加者の位置、状況を確認しなければならなかったのだ。

とはいえ、あまり何度も交信を行っては興を損なう恐れもあった
主が望んでいるのは、ゲームが円滑に進むことで新たな力を手にすることであるが
そのゲーム自体の進行具合をも楽しんでいるようでもあった。
あまり頻繁に主催者と通信を行うというのは無粋かもしれない。
しかし、今は新たに情報を得ねば今後うまく立ち回れなくなってくるかもしれないと結論付け
先程、ヘルモーズとの通信を開いたのであった。
主もそのことを承知していたのであろう、状況整理は滞りなく行われた。


「かなり荒れてきているな・・・」
通信を終了した時、ラミアはそう呟いた。
どうやら参加者達はうまい具合に三ヶ所に集まり始めているようだ。
しかも、どちらもただで済みそうではない。
好都合――、そう思う。
ただし、まだそれぞれの場所に接触していない参加者が数人程いるようだ、
ならば彼等をうまく、最も混沌としそうな場所へ誘ってやればいい
それが自分の次の仕事である。



(まずは東か――)
先程、ユーゼスとの通信で得た他の参加者の位置を再度確認し、彼女は舞い上がる。
自身の力であるラーゼフォンと共に――
その機械神はその目的地をまっすぐに見据えていた。




【二日目 19:05】

(非常にまずいことになった・・・)
チーフは思う。
目の前には両手足を失ったロボットとその損傷具合を確かめようと調査を行っているガルドが見えていた。
大方の外部損傷のチェックは終ったのだろう、次はコクピットへと乗り込もうとしている。
(初めて見る機体を、ここまで素早くチェックできるのはさすが戦闘機設計主任といったところか・・・だが・・・)
そう思いを馳せ、視線を少しずらす。
そこには一本の木と共に先程自分が作った墓が見えていた。
しかしそこに在るはずであったロボットの姿は無い――

別の参加者に拾われたのだろう・・・
すでにそこにグランゾンの姿は無く、代わりにボロボロの機体が乗り捨てられてあったのだ。
(プレシア・・・すまん・・・・・・)
そんなことを考えながら、行方をくらませたグランゾンを思い返す。
計器類がほとんどやられているとはいえ、その凄まじい攻撃力は健在だ・・・
熱が引いてしまえば運用にさほど問題は無いだろう――
そう、他の参加者を殺すということにおいては特に――

「やはりダメだな、乗り捨てていかれただけはある・・・これならば今の機体のほうが遥かにマシだ」
ガルドが急に通信を送ってきた、どうやら目の前の機体からチェックも兼ねて送ったのだろう
その声は低くどこか神妙な雰囲気をかもし出していた。
「そう・・・か・・・・・・」
対するチーフも表情は固い。

二人とも理解していたのだ、
これでは二手に分かれるのは危険であると――
もちろん他の参加者に渡ったグランゾンも気になる。
しかし、現状優先すべきはG-6の施設への急行、リョウトの追跡である。

そして、今やその両方の遂行が難しくなってしまった。
それが現在二人を、特に悩ませる要因となっていた。




テムジンは比較的大丈夫であろう。
エネルギーが減ってきているとはいえ、まだまだ半分以上ある。
加えてチーフが向かおうとしていた東側には、先刻ガルドが小島内で発見した補給ポイントもある。
これならばリョウトを追いながらも補給でき、かつ時間のロスも比較的少ない。
乗り手が万全の状態であるとは言えないが、先程の戦闘を鑑みるに致命的というわけではない。
むしろ機体がパワーアップした分、前以上に動きが良くなっている。

しかしエステバリスはやや厳しい
ガルドの操縦技術はかなりのものだ、先の戦闘でも結局被弾は無かった。
今後も回避に徹すればそうそうやられることは無いだろう。
だが、それは裏を返せば回避するしかないと言う事でもある。
武装も弱く、装甲も薄い、これでG-6へ向かったとしてもできることはたかが知れている。
そこで何事も起こっていないのであれば問題は無いが、あのマサキがいるであろう場所である
騒動が起こっている可能性は高い。
結果、たどり着いたとしても何も成せないといったことが大いに有り得る。

だからこそ、グランゾンを回収する必要があったのだ・・・
だからこそ、二手に分かれると言う案も承知できたという物なのだ・・・
これでは、ガルド一人で基地に向かうには心もとない、危険度はかなり倍増する。
こうなれば、いっその事どちらかに向かうのを諦めるべきであろうか?
そういう考えが二人の頭をよぎる。

「しばらく共に東へ向かうのが打倒だろうな・・・」
ガルドが再び通信を送る、やはり声は沈んだままだ。
「うむ・・・こうなった以上なるべく素早く少年を確保し、それから施設に向かうべきだろう・・・残念だが・・・・・・」
チーフが答えを返す。
そう、施設に向かうのであればG-1まで東へ向かってから北上しても遅くは無い、
光の壁を通り抜ければ直接向かうのと時間的には大差はないのである。
ただし、直ぐに北上できればの話であるが――

「おそらく・・・唯ではすまんだろうがな・・・」
チーフはその視線を、リョウトが飛び去った方向へと向け――
「先程のプレッシャーはかなりの物だったからな・・・」
そう付け加えた。
ガルドも黙って頷く――
そう、何か起こる可能性は高い。
さっきリョウトの駆る巨大なロボットを見て以来、不思議とそんな直感があったのだ。
リョウトだけからそんな不安を感じているわけではない・・・
リョウトが自分たちの居場所を知っていたのにも関わらず、少しも構う気配を見せず飛び去っていったこと
それが何かしら別の違和感を覚えさせ――
東に何かいる、と言う直感を抱かせ――
そして、そのことが後々さらに重大な何かを巻き起こすような
そんな不思議な予感が二人の頭をかすめていた。




(朝までに施設には向かえない可能性もでてきたな・・・)
ガルドは思う。
だが現状では仕方のないことだ――
これから夜を迎え、ますます暗くなる。
そんな中レーダーの効きにくいこの世界で装甲の薄いエステバリスで移動する。
そんな事は自殺行為にも等しい。
自分はまだ死ぬわけにはいかないのだ。
友を元の世界へと送り返すためにも。

何とか自分たちがたどり着くまで施設と解析を行っている連中が無事であること、
そしてそこにイサムがいないこと、それを願うしかない。
(ともかく、今は急いで東へ向かうしかないか・・・案外イサムの奴がいる可能性もあるしな・・・・・・)
そう思い直し、このボロボロの機体から降りることにした。
早くエステバリスに乗りなおしたほうがいいだろう。
コクピットから出ようとハッチ足をかける

だがその瞬間、チーフが声を荒げる――
「まずい!ガルド早く機体を乗り換えろ!!・・・何か向かってくるぞ」




【二日目 19:15】

飛ぶ――
飛ぶ――
疾風のごとく――
翼を羽ばたかせ、ラーゼフォンは一陣の光となって薄暗くなった空を駆け抜けていく――

ラミアは今G-5エリアへむけて全速で向かっていた。
(これでいい――)そう思いながら。
先程、共に行動しようか、二手に分かれようかと悩んでいた二人組みに指標を示してやったのだ。

リョウトの時と同じように暗に自分が何者なのかをほのめかしつつ

チーフが追っているリョウトが何を目的としているのかを――
そこに何者が待ち受けているのかということを――

そしてG-6施設にガルドの探している人物がいること――
そこに彼らが危険視している男がいることを教えてやったのだ。

(『馬鹿な・・・』そんな顔をしていましたわね・・・)
ラミアはほくそ笑む。
通常ならば、いきなり現れた人物がそのようなことを話したとしても本気には取らないだろう。
だが私は、彼らしか知らないであろう特定の人物の名前や、目的をしゃべってやった
これが何を意味するのか、私が何者であるのか読み取れないような奴等では無いだろう。
主催者との繋がりを持つものだと理解したはずだ。
感が鋭ければ、私の目的がゲームの進行であることにも気づいたかもしれない

だからこそ、示された指標へと向かわずにはいられないはずだ。
全てを知っている主催者側からの情報である。
嘘である可能性を危ぶみながらも、向かうしかない
万が一この情報が本当である可能性を考えると、そうするしかないのである。
それが、彼女が今までヘルモーズ内で通信機から彼らの会話を傍受し続けて推測した答えであった。
この二人のみに言えることではない、人には何かそれぞれ守りたい何かがある。
それが何であるかさえ知っていれば行動を操ることなど比較的容易なことなのだ。
それが失われそうな状況にあると教えてやれば、必死にそれを守ろうとするのだから。



とにもかくも、これで彼らは分断され、それぞれ新たな混沌の地へと赴くであろう。
ゲーム進行もはかどると言う物だ。


しかし――
彼女は少し悩む
(しかし、こいつはどうするべきか)と――
その原因となっているのは先程の二人以外にもう一人混沌を免れている者
パプテマス=シロッコ、グランゾンの存在であった。

グランゾン、それが争いを免れていることはハッキリ言ってユーゼスにとって都合のいいことであった。
偶然を誘発する因子、その源である『それ』は戦地から離れるほど良い。
少なくともユーゼスが望む力が発現するまでは何としても残しておかなくてはならない存在なのだ
へたに戦闘に巻き込んで破壊された――、なんてことはあってはならないのである。

だが――

ラミアは思う。グランソンは危険であると――

確かに『それ』は、我々、いや自らの主にとっては有益な偶然を幾つもおこしてきている。
今後、主が新たな力を得るためにも必要な物であろう。

しかし本当にそんなに都合よくいくのであろうか?
ラミアはそう危ぶむ。
これから先、我等にとって不都合な偶然をも誘発してしまう可能性もあるのではないか――、と
だとすれば『それ』は倒しておくべき存在なのではないだろうか。



答えは出ない――
主の命を確実に守ると言うのであれば話は簡単である。
今すぐにでも、グランゾンを破壊してしまえばいい。
しかし、それではこのゲームの目的を潰してしまうことにもなる。
自分に命じられた使命、それはあくまでゲームの進行なのだ。

あのイングラムを葬った時も主は言われた、『余計なことをするな――』と
結局のところ、今グランゾンは放っておくしかないのだ
「うまくいけば良いのだが・・・」
そう呟きモニターに目を向ける
今、自分が目指している目的地、そこにあるグルンガストのデータが映し出されていた。

ふと考えてみる。
今のこの状況すらもグランゾンの巻き起こす偶然の渦の中なのではないか、と――
都合が良すぎるのだ――
ほとんどの参加者は三ヶ所へと集いつつある、まるで導かれるように
たしかに自分も他の参加者を戦いへと導いている。
しかし、この状況はどう考えても出来すぎである。
そして、当のグランゾン自身のみがこの混乱から離れた場所に位置しているのだ。

先程、主から情報を聞いたところ、
グランゾンのパイロット、パプテマス=シロッコは呑気にコーヒーなんぞを飲んでいるらしい
いい気な物だ――
心からそう思う。

ユーゼス様は言われた。
この世界は自分に掌握されていると。
だが、本当に掌握しているのは、もしかするとグランゾンなのではないか?
そういう考えが頭をよぎる。

今、自分が向かっている場所
そこは参加者が集まっているそれぞれの箇所の成り行きを見守るには最適な場所に位置していた。
上に行っても、下に行っても、さらには光の壁を越えて右に行っても接触できる。
状況を見て、グルンガストを新たに誰かに与えるには、なかなかの位置だ。
やはりこれも出来すぎている――

「いいだろう――」そう呟く、
首輪の通信機にすら拾えないような小さな声で。
(今は思うとおりにさせてやろう、どのみち我が主にはこの力が必要なのだから)
だが――
我が主が力を手に入れたなら――
もしくは奴が主に不都合な偶然を巻き起こしたならば――
(その時は私が奴を消す!!)
それまでは――、一杯と言わずに何杯でものんびりコーヒーを飲んでいるがいいさ。
そう心に決め、彼女は機械造りの神と共に飛び去っていった。




「どうしても行くと言うのか?」
チーフが再度尋ねる
ラミアが飛び去ってしまった後、彼らもまた遂に決断を下そうとしていた。
すなわち、別れてそれぞれの目的地へと向かう決断である。
突如現れて、言うだけいって去っていってしまった来訪者について意見を交し合ったため
また少し時間をロスしてしまったのだ。
あの女の正体が主催者側ということは明白で、自分たちに新たな戦いをけしかけていると言うことは推測できたが
それでも得た情報は無視できる物ではなかったし
これ以上はさすがに時間をさけない。
「あぁ、こればかりは危険だからと言って後回しにはできん・・・俺の・・・贖罪だからな・・・
 あいつだけは何としても元の世界へ返してやらねばならん・・・俺の命にかえてもな・・・」
ガルドが神妙な面持ちで答える、その目には一片の揺らぎも存在していなかった。
「そうか・・・」
決意を感じ取ったのだろう、チーフはその答えに短く言葉を返す。
「ではな・・・先に行かせてもらうぞ・・・」
そうしてエステバリスはゆっくりと浮かび上がる、だが・・・
「何のつもりだ、チーフ?」
テムジンがエステバリスを掴んでいた、そして軽く機体を小突く。
「その目をして戦場に向かった奴は決まって死んでいった・・・」
「な・・・に・・・?」
「自分が死ぬことで誰かが救えるかと思ったら大間違いだぞ・・・」
静かに言葉を続ける。
「ガルド・・・貴官を信じよう、君が仲間を助けて元の世界へ送り返すと言う言葉を・・・だが・・・」
チーフが通信機越しにガルドを見つめる。
「だが・・・その時は俺も、貴官も一緒だ・・・・・・死ぬなよ?」
「・・・」
ガルドは無言で見つめ返す。
しばらくの沈黙、そして――
「ふっ」思わず笑みがこぼれた。
目の前の男は固い男だと思っていたが、意外に熱いところもあるようだ。
なんだか、少し懐かしい感じがした。
「チーフ、これは指導なのか?」
「・・・いや・・・個人的な忠告だ、仲間としてのな・・・」
「そうか・・・」
ガルドは少し何かを考えるように目をつぶる、そして
「ならば今の一発はかりだな?」
聞き返す。
「むっ・・・」
突然の言葉に意表をつかれたのだろう、チーフは眉をひそめる。
だがその後、軽く笑い、掴んでいたテムジンの手を離した。
「次にあったとき、お返しはさせてもらう・・・また会おう」
「あぁ、お互いの武運を祈ろう」
互いに最後の通信を交わす。
そして再度バーニアが吹かされ、今度こそ浮き上がる。
エステバリスは、最後に地上で敬礼をしているテムジンを一瞥すると飛び立ち
光の壁の中へと飛び込んでいった。



【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:E-3
 第一行動方針:G-5へ向かい、グルンガストの取得・状況を見て誰かに渡す
 第二行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる
 第三行動方針:グランゾンの様子を見て、用済み・もしくはユーゼスにとって危険と判断したら破壊する
 最終行動方針:ゲームを進行させる
 備考:ユーゼスと通信を行い他の参加者の位置、状況などを把握しました 】

【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り
 現在位置:D-8
 第一行動方針:G-6でのイサムの存在の確認・合流
 第二行動方針:G-6にて、首輪・マサキの情報を集める
 第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
 第四行動方針:チーフとの合流
 最終行動方針:イサムの生還および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる )
        ただし可能ならばチーフ、自分の生還も考慮に入れる】


【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
 パイロット状況:全身の打撲・火傷の応急処置は完了
 機体状況:ゲッター線による活性化、エネルギー消費(中)
 現在位置:C-1
 第一行動方針:リョウトを追って東へ
 第二行動方針:E-1小島内で補給
 第三行動方針:G-6へ向かいガルドと合流、首輪・マサキの情報を集める
 第四行動方針:空間制御装置の破壊
 最終行動方針:仲間とゲームからの脱出】

【チーフとガルドはラミア(主催者側)の存在に気づきました】


【二日目 19:20】





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第217話「兇 ―Devil Gundam― 時系列順 第201話「ミダレルユメ

前回 登場人物追跡 次回
第197話「復讐の闇 ラミア・ラヴレス 第223話「全ての人の魂の戦い
第204話「緑の交錯 ガルド・ゴア・ボーマン 第227話「東方不敗が死ぬ時、殺意は暴走する
第204話「緑の交錯 チーフ 第225話「閃光


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最終更新:2025年02月11日 01:19