閃光(後編)


「マイ!マイ!大丈夫か!?」
「う……あ……」
「おい!」
アーバレストがR-1の機体を揺らす。
「おい!」
「あまり、無茶をしてやるな。軽く揺らすだけなら、振動吸収で意味などないぞ」
離れたところで、庇った機体をゆするマシンに呼びかける。
「よし、駆動形には問題ない。まだまだ大丈夫だな」
のろのろと機体を起き上がらせたチーフは、アーバレストへと駆け寄った。
「いったい、何があった?俺にはまるでわからん」
「それは……」
エルマとリュウセイは、歯切れが悪いながらも全てをチーフに打ち明けた。
「……そうか」
何処か、質問したことを恥じるような声でチーフが言った。
「希望はすでに潰えし、か……」
「それは、違う!まだトウマたちだって生きてるだろうし、まだ何も終わっちゃいねぇ!ジョシュアや、セレーナのためにも、
まだまだやれることなんていくらでもある!俺は絶対にあきらめねぇ!」
リュウセイが、弱気な言葉を叱責するように、声を荒立てた。
その言葉に、少しチーフを面食らいながらも、一言試す意味を含めて言った。
「本気で、そう思っているのか?」
「当たり前だ!」
まっすぐチーフの目を見てリュウセイは即答した。
「どれだけ、困難があるか分かっているのか?首輪、あの空間操作装置、さらに待つであろう主催者……」
「分かってるさ。けどな、俺は絶対にあきらめないし、絶望もしない。必ず、もう一度ユーゼスのヤツをぶっ飛ばしてやる」
リュウセイの目に、一転の曇りもにごりもない。あれだけの出来事があっても、まるであきらめることを知らない。
「………まるでプレシアと同じだな」
「え?なんていったんだ?」
「気にするな。試すようなことを聞いて悪かった。ただ、そこまで言うお前の覚悟が知りたくてな」
今度こそ、この青年を必ず守らなくてはならない。
プレシアと同じく、優しく、強く、透き通った曲がらない心。
この青年は、希望だ。主催者のことを直接知り、そして絶対に絶望に染まらぬこの魂。
そうチーフは直感した。
「それより、リョウトはどうした?もちろん、拘束してあるな」
「ああ、一応してあるけど、気絶しているみたいだったし、柱にくくりつけおいた」
「時計も没収してありますが、そもそもジャイアントロボにもう戦闘能力がありません」
「それなら、一安心だな」
ちらりとチーフがリョウトを見る。
……しかし、あの少女がそんなこと望むはずもなかろうに」

「お前がリオを語るな」

通信機に入る、底冷えした声。
「そんな!?時計はちゃんと没収してます!」
そこの言葉を聞き、リョウトがせせら笑う。しばられて動けないため、袖に歯をかけ、上にあげる。
そこにあるのは、時計。本物の、ジャイアントロボの操縦機。
「でも、ジャイアントロボに戦闘能力はありません!何もできないはずです!」
溶けたチーズが横に避けるように、口の端がつりあがる。
「ロボ。自爆しろ」
命令は簡潔だった。
しかし、ジャイアントロボはその命令に従い、腕を胸へと差し込む。
ギチギチと音を立て、姿を現す動力炉。人間の感覚で言うと、リンゴ程度の大きさだろうか?
しかし、それはぬめるような輝きを放ち、太陽のように輝いていた。
つながったチューブから、何かが流れ込み、心臓のように脈打つ。
「まさか……核!?死ぬ気か!?」
「ハッ……ハハハ……ハハハハハハハハハハハ!僕からリオを奪ったヤツも!リオを守れなかったヤツも!
レビ・ト-ラーも!皆!殺せないなら死んでしまえばいいんだ!ハハハハハハハハッハハハハ!!!」
リュウセイに負けたことが、最後の一歩を踏み出させた。死神でも一歩下がるような狂った笑い声を上げるリョウト。
「ロボォォォォ!!そのまま握りつぶせェェ!!」
しかし、その命令が実行されるよりも早く、チーフが腕を切り飛ばし、空中でキャッチした。
「でも無駄さ……もう、臨界は始まった!数分もしないうちに爆発する!リュウセイ!リオを奪ったことを後悔しろ!!」
「どうすりゃいいんだ!アル、エルマ何かないか!?」
<ラムダドライバは、爆心地で核を受けるような状態は想定しておりません>
「とにかく、距離をとるしか……だめです、計算だと、時間が……!」
「何か解決策はないのか!?」
叩き落したところまではいい。しかし、このままでは、僅か数分で、また希望が失われる。
そんなことは絶対に許容できない。なら、どうする?落ち着け。冷静になれ。慌てても、状況は好転しない。
この惨事を回避する方法は?
1、爆発をとめる。
―――だめだ、とても虚言とは思えない。臨界は始まっているだろう。弄ってどうにかなるレベルではない。
    それに、モニターでも熱量の状態は、はっきり表示されている。
2、距離をとる。
―――これもだめだ、そこまで遠投する能力などテムジン747Jにはない。これを置いて走ったところで、間に合うのは難しい。
3、それらの複合。
―――これも、無理だ。爆発を遅らせて逃げるには、冷却が必要だ。だが、そんな手段はない。走って、投げる?
    これは確かに遠投の距離は伸びるが、距離をとるという意味ではあまりよくない。
4、どうにもならない。現実は非情である。
―――こんなところであきらめられるものか……!折角、見つけたこれほどの希望!あの青年だけでも……!
どうする?落ち着け、執着を捨てろ、冷静に……冷徹になれ。逆から考えろ。
爆発を遅らせない以上、安全圏まで距離をとれば助かる。どうすれば距離を取れるか?
走ること。これでも足りない。先程、考えた複合案。走って、投げる。速度を上げる方法以外に、相対的に距離をとる方法。
断片的な言葉が、意味を持つ言葉となり、結論を作る。
「バリアを、ここではって、そのマシンを庇え!決してついてくるな!」
「どういう意味だよ!?」
しかし、チーフはその答えを返す暇も惜しいと、走り出した。
(テムジン747Jの最高速度は、時速1200km……いけるはずだ!)
あまりに急に推力をあげたため、背中が爆発したように見える。
次の瞬間には、リュウセイの目に映らぬ速度でテムジン747Jは駆け出した。
地面だけでなく、ビルの壁も使い、ピンポン玉のように多角的にテムジン747Jが翔ける。
足場とした地面や、ビルの壁面が、砂糖菓子のように砕けて散った。
「ぐ……うおおおおッ!!」
猛烈にかかるGがチーフをシートにめり込ませる。
目の前に広がる廃墟の隙間をぬい、速度を落とさずどうしてもかわせない建物を砕く。
光が激しく降り注ぐ。あまりに加速しすぎて、光が流れるように見えるのだ。
(操縦を誤るな……意識をたもて……今、気を失えば……)
―――また、プレシアの時と同じ結果になる。
摩擦で、テムジン747Jが一つの太陽のように光る。彼の後ろには、移動のさい生じた衝撃波により粉砕された瓦礫が広がっていた。
もし、上空からこの周辺を見れたなら気付くだろうが、チーフの跡に、1度の角度の乱れもない。
まっすぐ、島の最も遠くへ。
しかし、無情にも、彼の努力は打ち砕かれる。
「まずい……!摩擦で、炉心の熱まで上がりだしているのか!?」
いくら、かかえるように抱いたところで、完全に炉心を包み込めるわけではない。
指の隙間や、地面から吹き上げる熱せられた風が、炉心を加速的に温める。
爆発までの予測時間が、1分20秒から飛んで突然50秒に表示が変更された。
例え、時速1200kmだろうとこれでは、届かない。
「こんな……こんなとこで全て終わるのか……そんな……」
ついに、心が折れる。
テムジン747Jが転倒した。
「ッ!」
体に染み付いた条件反射から、とっさに受身を取り、宙返り。
しかし、速度は落ちる。現在速度は時速980kmまで減速していた。
―――すまん、プレシア、ガルド。俺には、どうしようもない……
それでも走らせながら、顔を下げる。
『ヘイブラザー!こんなとこであきらめちまうのか!』
テムジン747Jを包む摩擦熱の色が、緑に変わった。
この太い声。それに、暑苦しく人をブラザーなどと呼ぶものなど、一人しかいない。
だが、すでに死亡しているはずだ。だから、このテムジン747Jがある。では、あの声はいったい何者か?
驚きで、顔を前へと向ける。
そこには、おぼろげに光るハッターが、テムジン747Jを導くように、ビルの隙間を進んでいる。
「お、おい待てハッター!」
その後をついてテムジン747Jも走る。
ぐんぐんテムジン747Jをまた加速させるが、一向にテムジン747Jは追いつかない。
妙な違和感をチーフは感じた。
風景が流れるのが早すぎる。速度計に目をやり、その違和感の正体を知った。
現在のテムジン747Jの速度は、時速1360km。限界速度よりはやい。
だが、チーフは限界速度を超えているということより、1360kmに驚いた。
時速1360km。それは、ハッターの最高速度のはずだ。
テムジン747Jが、前のハッターに導かれるように進み、ハッターと同じ速度を出している。
「アーイルネヴァーギブアップだ、フレンド!」
「I will never give upか……いい言葉だ」
そうだ。
ここであきらめてはいけない。守るべきものがあるんだろう?
守りたいものが、本当にあるからこそ、大きな恐怖にも、立ち向かえるのだ。
視界が開く。
目の前に広がる青い平面。
「もう少し……付き合ってくれ、テムジン」
テムジン747Jの足が水面に足が触れる。水が蒸発する音。
そして……足が沈み込むより速く、次の一歩を踏み出す。
蒸発する水蒸気と、激しい動きで巻き上げた水がテムジン747Jを濡らす。
ついに、テムジン747Jの体が前につんのめる。
「さぁ、最後の仕上げだブラザー!」
「……ああ!」
2つの影が一つに重なる。
『フィニッーシュ!!』
腕を後ろにそらし、チーフが光るリンゴを投げる。

フォマルハウトの炎が輝いた。



【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)  パイロット状況:死亡 機体状況:消滅 】



「ふん、全て終わったか」
風を切るような音が鳴ると同時、突然何もない空間から黒い巨体がアーバレストとR-1の前に現れた。
「まったく、機体が動かなくなったときはどうしようかとも思ったが……結果的には行幸というわけか」
そう言いながら一口紅茶を飲む。
もうこのアクションで誰かお分かりだろう。パプテマス・シロッコである。
空間転移でここにきた彼は、補給を住まえたあと、自身の生理現象を処理するため、機体をビルの中に隠して降りていたのだ。
あんだけコーヒーやら紅茶を飲んでりゃ誰だってそうなる。
そのおり、突然リョウトが襲来したため、処理したあと、機体に戻ったわけだが、これがどっこい動かない。
(注 グランゾンには、念動力による外部コントロールシステムがあるため、強力な念に当てられて、動かなかったのだ。
自身が念動力者なら、ともかく、そうでないシロッコじゃどうしようもない)
かといって切ると性能が落ちるので急いで動けるようにプログラムに修正をかけていた。
で、仕方なくエンジンを切って『いないフリ』をしていたのだ。
正直言って、驚異的なスピードだ。彼らの戦闘が始まって、終わるまで20分たらず。その間に、全て終わらせたのである。
世間からは、超天才に分類されるレベルだ。
「あの核には驚かされたが……にしても」
リョウトのことは予想外といえた。まさか、あそこまで狂気に染まっているとは……見つかっていた場合を考えると、寒気がする。
だが、まぁ脅威は過ぎた。彼にとって恐ろしいのは、話の通じない相手であり、
コミュニーケーションを取れさえすれば、その限りではない。
かといって、襲ってくる相手や、使えないと判断できる駒には容赦はしないが。
アーバレストと言うほうは、どうやら、自機とR-1を守るために力を使いすぎでパイロットが力尽きて気絶中。
R-1とやらのほうは、どうも昏倒状態。しかし、こちらは利用できるのか。あのとき見せた、力と性格の豹変。
とりあえず、このままどちらかが起きるまで待つか………
そう思い、もう一口紅茶を飲む。

「うむ、うまい」



【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:ARX-7アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状態:全身に激しい痛み、左腕を骨折、気絶中
 機体状態:全身に損傷、ENほぼ空 ※エルマもオーバーヒートで、倒れています
 現在位置:E-2 】

【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
 パイロット状況:かなりレビ化? サイコドライバーを感知  昏倒中
 機体状況:G-リボルバー紛失。全身に無数の傷(戦闘に支障なし) 
      ENを6割ほど消費。バランサーに若干の狂い(戦闘・航行に支障なし)
      コックピットハッチに亀裂(戦闘に支障なし)  T-LINKシステム起動中
 現在位置:E-2
 第一行動方針:???
 備考:精神的に非常に不安定】


【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
 パイロット状況:良好
 機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
 現在位置:E-2
 第1行動方針:2人が起きるのを待つ。利用できない場合排除も考える
 第2行動方針:G-6基地への移動
 第3行動方針:首輪の解析及び解除
 最終行動方針:主催者の持つ力を得る
 備考:首輪を二つ所持、リュウセイとチーフの話を全て聞いていたため、かなりのことを知っています】



「ハハハ……ぼくは……まだ生きてる……」
フラフラとリョウトが廃墟を進む。彼は、非常に運がよかった。
あの爆発で瓦礫が飛ぶ中、、偶然彼を縛り付けていた柱が崩れ、縄がゆるくなったのだ。
おぼつかない足取りではあるが、目標を目指して歩き続ける。
「あった……!」
目標は、ビッグオー。あの時リュウセイがアーバレスト人って現れたことから、よもやと思ってみれば案の定、
ビッグオーはそのまま放置されている。
しかも、修理のためか乗りやすいように横倒しになっていた。
「ハハハ……これなら殺せる……殺してやれる……殺してやる……ハハハハハ!」
痛む体を引きずり、コクピットの中に落ちるように入る。いたせりつくせりなことに、マニュアルまである。
起動の操作を、マニュアルに従って打ち込む。
「ハハハッ待ってろよ……すぐに殺しにいってやる……」
電子音と共に、目の前の丸型のモニターが点灯する。
「ハハハッ………」

   “CAST IN THE NAME OF GOD”
   我、神の名においてこれを鋳造する

「ハハハハハハハッ!」

   “YE ……
     汝……

「ハハハハハハハハハハハッ………ハ?」

―――GUILTY”
―――罪人なり

『人の業をもち、それに目をそむける者のにTHE BIGを駆る資格なし!』
厳かな声が朗々と場に響く。
「う……ああああああああッ!?」
コクピットのあちこちから計器類を吹き飛ばし、コードが溢れる。
さらにそれは、どこにこれほどあったのかと思うほどに飛び出し、リョウトを締め付ける。――まるで意思を持つように。
「や……やめろ!そこのヤツ!僕を助けろ!ひ!い、嫌だ!やめろぉぉぉぉぉ…………!」
リョウトの声に、答えを返すものはいない。
彼の姿は、コードに押しつぶされ、まったく見えなくなった。圧死したか、体をコードに引きちぎられたか。
最後に彼は、包帯で全身を包むコートを着た男を見たような気がするが、果たしてそれが現実にあったことかは分からない。
客観的に言うなら、いなかったのだろう。
いえることは一つ。
彼に『正義』などなかったし、ましてや『救い』などというものは最後までなかったと言うことだ。



【リョウト・ヒカワ パイロット状態:死亡】





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第224話「last moment リュウセイ・ダテ 第231話「目覚め
第214話「マリオネット・メサイア マイ・コバヤシ 第231話「目覚め
第222話 パプテマス・シロッコ 第231話「目覚め
第224話「last moment リョウト・ヒカワ


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最終更新:2008年06月02日 17:03