第222話
「戦闘の跡、か……」
二つ目の首輪を入手したシロッコは、D-6を経由してG-6基地へと向かうべく、北上していた。
だが移動を始めてからそう間もなく……左手に、大きな戦闘の跡を発見する。
破壊された街並み。倒壊した多数のビル。
(特にこれといった手掛かりはなさそうだが……む?)
中央の地面に、ロボットが一機通れそうな巨大な穴がひとつ開いていた。
その穴に違和感を感じたシロッコは、穴の中を覗いてみる。
その奥には、通路が広がっていた。
(人為的に作られたもののようだな……隠し通路か?)
少々調べてみる必要がありそうだ……グランゾンは、地下通路へと足を進めた。
それから、どれだけの時間が流れただろうか。
地下通路は暗い上に意外と広く、探索に思いのほか時間がかかってしまった。
そして今、シロッコの目の前には、蒼い粒子の舞う謎の渦があった。
(何だこれは……どうやら、未知の技術が使用されているらしいが……)
ほぼ機能を失ったはずのグランゾンのセンサーが、目の前の渦の異常に、僅かに反応する。
それは渦を中心に、周囲の次元交錯線に激しい乱れが、空間の歪みが生じていることを示していた。
隠し通路、その奥に隠されていた謎の渦。これらは何を意味するのか。
まずは目の前の渦のさらなる調査を行いたい所だが、このまま迂闊にこの渦に接触するのは危険だ。
この通路にはこの場所に来るまでにも、分岐がいくつか確認された。
渦の直接的な調査は、もう少しこの地下通路を探索してからでも遅くはない。
だが手に入れた首輪の解析、新たな手駒の入手などのためにも、G-6基地に早い所向かいたいのも事実。
(さて、どうしたものか……)
とりあえず、頭を落ち着けよう。この通路の探索中も、神経を張り詰めたままだった。
まさかこのような場所に他の参加者が来るとも思えない。シロッコは一息つくことにした。
傍らのカップに、コーヒーを注ごうとする。
「む……?」
そこで、手元のコーヒーが底を尽いたことに気付く。
C-8での最初の
コーヒーブレイク、そしてさっきのD-8での考察の間ずっと飲み続けていたのだから、それも無理はない。
「ふむ……まあいい」
コクピットの片隅に置かれた、食料の入ったザックに手を伸ばす。
その中から、やや大きめの箱を取り出し、箱の蓋を取る。
中には、ティーバッグが数個に、洒落たティーカップなど……紅茶セット一式が揃っていた。
コーヒーセットといい、主催者は殺し合いの真っ只中にこんなものを用意してどうするつもりだったのだろうか。
他愛のない疑問はさて置いて、シロッコはティータイムの準備に取り掛かる。
魔法瓶であらかじめ沸かしていたお湯を、カップに注ぎ込む。
しばらく待って、カップが十分に温まったことを確認してから、お湯を捨てる。
そしてティーバッグを入れ、新たに熱湯を注いだ後、カップに蓋をする。
熱や香りが外に漏れないように。ティーバッグで美味い紅茶を入れるには、重要な部分だ。
蒸らす時間は90秒ほどが目安か。
ふと、紅茶セットの箱の奥底に、一枚の紙切れを発見する。
「この紙は……?」
明らかに不自然に挿まれていたその紙には、何やらペンで文字が書かれていた。
これは何だ?参加者に向けられた、何らかのメッセージなのだろうか?
書かれた文字には、どこか怒りのようなものが滲み出ていたようにも思えた。
シロッコは、それを読んでみる。
ティーバッグでいれた紅茶など、邪道だ
何これ。
手掛かりとなる可能性は極めて低そうだが、とりあえずその紙をポケットにしまった。
蓋を取る。すると、カップから心地よい香りが漂ってくる。
十分に香味が抽出されたことを確認し、静かに、ティーバッグを引き上げる。
この時、ティーバッグを絞ったりしてはいけない。後味の悪い苦味が出て、不味くなってしまうからだ。
ティーカップに口をつけ、紅茶の味をゆっくりと楽しむ。
なかなか、悪くはない。
この紙に書かれてあるように、邪道だと頭から全てを否定しているようでは、美味い紅茶など入れられはしない。
単純な味ではリーフティーに劣るかもしれないが、入れ方、そして気の持ち方次第でその差は補えるものだ。
シロッコは、この文字を書いた者に若干の哀れみを抱きつつ、一時の休息を楽しむ。
そして、これからの行動について、ゆっくりと検討するのであった。
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:良好
機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
現在位置:D-7地下通路
第1行動方針:まずはティータイム
第2行動方針:地下通路の探索・蒼い渦の調査、及びそれらの考察
第3行動方針:G-6基地への移動
第4行動方針:首輪の解析及び解除
第5行動方針:新たな手駒を手に入れる
最終行動方針:主催者の持つ力を得る
備考:首輪を二つ所持】
※目の前の蒼い渦の行き先が、イングラムの時同様E-1に繋がっているかどうかは不明
【二日目 21:25】
こうしているうちにも、時間は刻一刻と確実に流れていた。
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最終更新:2008年06月02日 16:27