それは不思議な出会いなの! ◆I0g7Cr5wzA
「……どういうことなのだろうな、これは」
ラウ・ル・クルーゼは一通り目を通し終えた名簿を閉じる。
あのホールでの出来事からそう時間は経っていない。場所は変わって、空に大地が見えることからコロニーの中のようだ。
正直なところクルーゼにも状況が把握できているとは言い辛いが、それでも座して狩られるのを待つ気はない。
気がつけばこの機体に乗っていたので、とりあえずは情報と参照した名簿にはいくつか知った名があった。
自身が隊長を務めるクルーゼ隊の部下、ディアッカ・エルスマン。
かつてクルーゼが憎しみの種を植え付けたカナード・パルス。
そして、もう一人のクルーゼとも言える存在――レイ・ザ・バレル。
スーパーコーディネイターたるキラ・ヤマトや、クルーゼのオリジナルである男の息子、ムウ・ラ・フラガの名はなかった。
どういう基準であのシャドウミラーと名乗る男達は参加者を選出したのか。いやそもそも奴らの目的は何なのか。
それらもろもろ、クルーゼにはどうでもいいことだった。
今ここに自らが存在している、その事実だけで。
記憶にある最期の瞬間、ラウ・ル・クルーゼは死んだ。
キラ・ヤマトが操るフリーダムに機体を破壊され、ジェネシスの光に灼かれて、塵も残さず宇宙に散ったはずなのだ
なのにこうして、五体満足で機動兵器のコクピットに座っている。
主催者たちに蘇生されたのだろうか。いずれにしろ、望む物を与えるという言葉に不可能はないと見ていい。
ならば、是非もない。
「理由などどうでもいい……踊れと言うなら踊って見せよう。だがその代わり……」
機体のレーダーに一つ、新たな反応が灯った。
ちょうどいい。こいつを喰って、狼煙を上げるとしよう。
「叶えてもらうぞ、ヴィンデル・マウザー。私の願い……全てを無に帰すほどの、激烈なる戦争の到来を!」
呟きと共に、身を潜めていた縦穴から飛び出した金色の巨人――名をアカツキ。
モルゲンレーテ社が総力を挙げ開発した、連合製でもザフト製でもない純粋なるオーブ製モビルスーツ。
全身に「ヤタノカガミ」なるビーム反射装甲を、背に「シラヌイ」なる機動砲撃システムを備えた、見たこともないタイプのMSだ。
幸い、クルーゼが直前まで乗っていたプロヴィデンスと同系統の機体と言える。
オーブ製のOSにも早々に慣れ、自身の才覚もあってクルーゼはすぐにこの機体を掌握できた。
飛び出しざま、右腕のビームを近づいてきた反応に向ける。
「…………ッ!?」
だが、その指が引き金を引くことはなかった。
敵機の姿を目にした瞬間、あり得ないという思いが心中を満たしたためだ。
クルーゼが目にしたのはその敵機の上半身、それのみなのだが――
その上半身だけで、既にこのアカツキ以上の大きさだったのだ。
落ち着いてみればおそらく全長60mほど。どう見ても、モビルスーツであるはずがない。
状況をあくまでコズミックイラの者による殺し合いと認識していたクルーゼは、そのギャップに呆けてしまったと言う訳だ。
それはあからさまな隙だったのだが――その機体も飛び出してきたアカツキをどう思ったか、攻撃してくることはなかった。
「……ッ!」
「待ってください!」
反射的に機体を退き、撤退しようとしたところで敵機から通信が入った。
「俺はミスト、ミスト・レックスと言います! 戦う気はありません、話を聞いてください!」
声色からするに若い男の声だ。
戦えばこのサイズ差だ、おそらくクルーゼに勝ち目はない。
(ここで退けば撃ってくるかもしれん……ええい、奴の話に乗るしかないか!)
アカツキを停止させ、クルーゼもまた回線を開き、
「私はラウ・ル・クルーゼ。済まない、襲われると思い気が逸ってしまった。もちろん私もこんな殺し合いをする気はない」
平然と嘘をついた。
◆
「ディアッカさん、カナードさん、レイさん……が、クルーゼさんの知り合いですか」
「ああ。みな腕は立つが、いかんせん子どもばかりだ。特にレイはまだスクールに通っているはず……ああ、無事でいてくれればいいが」
「クルーゼさん……よし、俺も手伝います! 仲間を集めて、あのシャドウミラーって奴らを倒しましょう!」
「私としてはありがたい話だが、いいのか? 君に探す人はいないのかね」
「ええ、俺の知り合いはこの名簿には載ってません。敵なら載ってましたけど」
「ほう……誰だ?」
「イスペイルって奴です。俺の故郷はあいつらに滅ぼされたんだ……! だから、あいつだけは俺がこの手で倒します!」
どうやら警戒するほどのこともなかった。
オレンジの髪も眩しいミストと名乗った青年は、殺し合いに乗る気はないらしい。
クルーゼもそう返すと、何を安心したか自分から機体を降りた。
罠かと疑いはしたが、話してわかった。単にこいつは大して深く物事を考えていないだけだ、と。
仮面を疑わしそうに見ていたので、傷を隠すためだと言ったらあっさり納得したことからもそれは明らか。
とにかく扱いやすいタイプではあるようだ。
だからクルーゼは彼が望むであろう性格、つまり正義に燃え悪を憎むという体裁を取って会話を続けていた。
予想通り、ミストはシャドウミラー、そして自分の仇に反逆すると言う。
「そのイスペイルと言う者の他にも戦いに乗る者がいるだろう。そういった輩にはどう対処する?」
「……倒しましょう。俺は、そんな勝手に誰かの命を奪うやつは許せない!」
「危険人物は排除、か。レイやディアッカへの危険も減る……私もそれに異論はない。
だがナチュラルが私たちコーディネイターを信用してくれるだろうか?」
「ナチュラル……自然? ああ、地球人のことですか。そうですね……確かに、地球人の意識は……。
いやでも、こんな状況じゃあさすがに地球人だって内輪の小さな戦争なんてやってる場合じゃないってわかりますよ!」
「そうだといいのだが……では、そろそろ行こうか、ミスト君。こんな無益な戦いは即刻止めさせなければな」
「はい! 俺、最初に会えたのがクルーゼさんでよかったです……! じゃあ、まずはその三人を優先的に探しつつ、仲間を集めましょう!」
意気揚々とミストが機体に戻っていく。その横顔からはすでにクルーゼを信頼しているという様子が読み取れた。
今なら簡単に殺せる――そう思ったクルーゼだが、止めておいた。
機体を奪うのも手だが、それでは結局一人で戦うことになる。
ミストの口ぶりからすればそれなりに腕に自信があるようだ。
弾避けの盾に、あるいは邪魔者を間引く剣として精々利用させてもらうとしよう。
そしてディアッカ、カナード、レイと合流し適当な悪人を仕立て上げ撃破させていき、用済みになれば処分する。
ディアッカやカナードは抵抗するだろうが、レイは確実にこちらにつく。
(優勝した後で主催者に働きかけ、レイだけは蘇生するように計らえばいい……わかってくれるな、レイ?)
レイはもう一人のクルーゼ自身。クルーゼの望みはレイの望みでもあるのだから。
前を行くミストの機体を見る。
そう、必要になったらあれももらうだけだ。
(信頼した者に背中から撃たれる――君はどんな絶望を見せてくれるのだ、ミスト・レックス君……)
その顔を想像し、一人、邪悪に笑う。
◆
こうして仮面の男とアトリーム人は手を組んだ。
しかし実際に銃火を交えることのなかった二人は、まだ知らない。
ミストが乗る機体、最強ロボヴァルシオンに秘められた機能、ゲイム・システムを。
ひとたび戦い始めれば際限なくパイロットの力を高めるが、同じだけの高揚感を生み出し己を見失わせるシステムを。
誰かを守りたいと願う青年がその手に取った剣は、その実誰をも守ることなどできない毒でしかないということを。
そしてもう一つ。
クルーゼが身を預ける機体。
彼が最も憎み、そしてある意味では最も愛する男の愛機だということも。
闇の呪縛から彼を解放し、愛する女を守った機体だということも。
まだ、二人は知らない。
【ミスト・レックス 搭乗機体:ヴァルシオン改@スーパーロボット大戦OGシリーズ
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:a-1 コロニー内部
第1行動方針:仲間を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
第2行動方針:イスペイルを倒す
第3行動方針:戦いに乗った危険人物は倒す
最終行動方針:シャドウミラーを倒す】
【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:アカツキ(シラヌイパック装備)@機動戦士ガンダムSEED DESTINY
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:a-1 コロニー内部
第1行動方針:手駒を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
第2行動方針:できるだけミストに戦わせ、自身は安全な位置に置く
第3行動方針:ミストを使い邪魔者を間引き、参加者を減らしていく
最終行動方針:優勝し再び泥沼の戦争を引き起こす 】
【一日目 6:15】
最終更新:2010年02月21日 17:24