破滅を望む者、破滅を呼ぶ物 ◆vtepmyWOxo


暗い空の下に作られた、隕石の衝突した跡――クレーター。
そのすり鉢状の地形に作られた街も、いまや住む者はいない。
響くのは、一機のモビルスーツの駆動音だけだ。

「やっぱりだ……俺の知っているフォンブラウンによく似ている……」

∀ガンダムのウィンドウから周囲を探索し、コウ・ウラキは静かにそうつぶやいた。
B-1の月面都市に飛ばされた彼は、移動しているうちに気付いたのだ。
街並みが、どことなく自分の知るものに近いことに。
もちろん、月面都市の構造物は重力その他から似通った形状になる傾向がある。
しかし、それでも通りなどの区画整理までがまったく同じというわけでない。
その、同じというわけでない部分が、確かにコウの知るものに似ていたのだ。

「どうなってるんだ? 俺の知る店もあることはある。けど……」

酷く、老朽化している。
自分の記憶の中で、一番新しくできたくらいの建物が、時代に取り残されたかのように古くなっているのだ。
既知のはずのものが、記憶と正確に繋がらない。大きさが合わないパズルのピースのような違和感。
それに戸惑いながらも、コウは機体をまっすぐに目的地へ進める。
彼が目指すものは、ここがフォンブラウンとするならUC世紀のモビルスーツパイロット誰でも探そうとする施設。
すなわち、アナハイム・エレクトロニクス。数多のモビルスーツを製造してきた軍事企業だった。

もしかしたら、何か機体が、いや機体ではなくてもパーツか何かがあるかもしれない。
もっともこの人っ子一人いない模型のような世界が、本当に自分が知るアナハイムのようになっているという前提だが。
ともかく現状具体的な移動方針がない以上、そこ以外今のところ目指すべき場所がコウには思いつかなかった。
しばらく時間をかけて、周囲を警戒しながらも辿り着いたアナハイム・エレクトロニクス。
心の中でニナに小さく謝りながらも、シャッターを破り工場内に∀ガンダムを押し入れる。

そこにあったのは―――

「なんだ、これは……?」

GP-03があることを期待していたわけではない。
何らかの機体でも、いや核を安置し隠せる場所があればいい。
そのくらいの期待度で工場に入ったコウだったが、入った工場内にあったものは、想像をはるかに超えたものだった。
地面に設置された円形のプールのような物体。その周囲に立っている4本の柱。
当然、こんなものがアナハイムにあるはずがない。
そもそも、モビルスーツ搬入に当たってこんなものがあれば邪魔以外何ものでもないのだから。
機材の意匠ともいうべきものも、UC世紀のものとは一線を画すデザインだった。



ピピッ、とコクピットに通信、いや録音されていたメッセージが機材から発信された。
コウが送られた音声データを再生すると、合成された機械音声が流れだす。

『空間転移装置使用者へ。空間転移装置は、宇宙と地上の特定の位置同士をつなぐ装置である。
 時間にラグなどは起こらないかわり、行先は初期設定された場所にしか飛べない。
 宇宙の任意の場所に移動したのであれば、別ブロックに存在するシャトルを利用すること』

さらにずらずらと表示される簡単な注意事項。

「空間転移だって?」

SF小説くらいでしか聞いたことのない技術。
それが現実に実用化されているなど、聞いたことがない。これは主催者の冗談か何かなのか。
踏み込んだ途端死んでしまうようなデストラップではないとは思いたい。だが、にわかに信じがたいのも事実。
どうするべきか――悩むコウだったが、彼は踏み込んでみることにした。
大きな理由があったわけでもない。ふとここと繋がっている場所を見て、踏み出すことを決めた。
空間転移など、信じているわけではない。だがちらりと思う部分があった。
もし、こんな装置が実用化されているとしたら、自分たちはもっと迅速に追いつけたのではないか。
あのような追い込まれた状態になる前に手が打てたのではないか。
そんな、気持ちが。

アナハイムの空間転移装置と繋がっている場所は――コロニーだった。




「……というわけです」

クルーゼは、突然目の前の装置から現れたモビルスーツの話を聞き、眉を寄せた。

「空間転移……なるほど、にわかに信じがたい話だ。ミスト君、君はどう思うかね?」

そう言いながらも、同行者に話を振るクルーゼ。
すると、顎に手を当て悩んでいた様子のミストが口を開いた。

「空間転移システムは、アトリームにはありましたよ……既に実用化され、機動兵器にも組み込まれていたものが」
「……アトリーム? それは一体どこの地方の名前なのかな?」
「地方じゃありません。俺の生まれた星の名前です」

そう言った後、データウィンドウシステムなる、
兵器をデータ化した後、転移することで呼び出し使用するシステムがあったとミストは告げた。
しかし、コウとクルーゼにとっては、そこよりももっと気にかかる部分ができてしまった。

「星……アトリーム!? それじゃ、もしかして宇宙人……!?」
「そうですけど……別にメンタルはそこまで変わりませんよ、多分」
「いや待ってほしい。先程君は地球と言った。地球のことを知っている宇宙人……ということになるのか?
 宇宙クジラから、そういった生物がいるかもしれないという話は聞いていたが……」
「『宇宙クジラ』? また聞いたことがない言葉が……」
「ナチュラルでも『宇宙クジラ』くらいは聞いたことがあると思ったのだが」
「ナチュラル?? ニュータイプみたいなものなのか?」
「ちょっと待ってください、地球に来て日が浅いとはいえ、コウさんの言葉もクルーゼさんの言葉も俺は聞いたことがありません」
「……なんだって?」
「確かに。先程の話で気になっていたがアナハイム・エレクトロニクスという大手軍事企業は聞いたことがない……」

世界間の齟齬、ここに極まれり。
誰もが自分の世界を当然として語っているため、激しい食い違いが生じている。
なにしろ、前提となる知識が違うのだ。かみ合うはずがない。
にわかに不穏な空気が漂い始めた時、それを過敏に察知しクルーゼが言った。

「……どうやら、我々は認識している常識が違うらしい」

クルーゼは口を挟まないように、と前置きした後コズミック・イラの世界における常識を説明した。
顔を歪める二人に、次はコウに説明してくれと話を振ると、コウもいぶかしんだ様子ではあったが話し始めた。
最後は、当然ミストの番だ。
話し終えて残ったのは、なんともいえぬ雰囲気。

「……どうやら、あのヴィンデル・マウザーは想像以上の力の持ち主のようだ」

一番にこの現実へ適応したのは、クルーゼだった。
なにしろ、他でもない自分自身があの主催者の超技術のおかげで生存しているのだから。
あれほど克明な死の感触を覚えている。塵も残らなかった自分が生きている以上、そういうのもありかもしない。
だがそれよりも大きな理由がある。クルーゼが二人の説明する世界を肯定した理由は他でもない、戦争の存在だ。

(実に、愉快だと思わんかね? 君は世界はそうものではないと言ったが……どの世界も変わらないぞ?)

クルーゼの脳裏に浮かぶのは、死の直前まで戦っていたフリーダムのパイロット、キラ・ヤマト。
彼は、世界はそんな絶望するものではない、人は手を取り合えると言った。
だが、これは何たる喜劇か。どの世界も、宇宙と地球に分かれて、終わらない戦いに明け暮れている。
宇宙人から見ればあきれるほどに戦争を続け、戦争が終わればテロリズムという形で憎しみの環を広げる地球人の姿。
それは、クルーゼにとってなによりもリアルな人間の姿に思えた。

「なんてことだ……なら、こんなガンダムもありえるのか……?」

コウの呟きを聞き、クルーゼはどうかしたのかと問う。

「このガンダムには……核ミサイルが搭載されているんです。しかも二発も。
 その他の性能も、自分が知るガンダムよりはるかに強力な仕様になっていて……」
「……なるほど、考えられないわけではないな」

ジェネシスという殺戮兵器を生み出した世界があるのなら、世界を滅ぼすため核兵器を搭載したモビルスーツを作った世界があってもおかしくない。
むしろ、広い数多の世界をめぐればそんな兵器も多く転がっているのかもしれない。

「だが、これで謎は解けたというわけだ。見たこともないような兵器、食い違う組織名やその実態。
 『世界』そのものが違うと考えれば無理はない。ところでミスト君、アトリームは地球より技術が発達していたようだが……」
「確かに、無数の平衡する次元世界があるという決定的な論文は出ていたはずです。けど、その間を移動する技術までは……」
「……勝てるのか? あのヴィンデル・マウザーに……」

こちらの想像だにできない超技術を持つ以上、当然それは兵器に転用されていると見て間違いはない。
となれば、アカツキのようにあくまでこちらの技術の延長で考えられるレベルの機体では、太刀打ちすら難しいだろう。

「大丈夫です! こうやって、仲間を増やして首輪を外せれば……絶対に勝てます!」

明るいミストの声。なるほど、これほど純粋に人を信じられるのは宇宙人だからなのか。
だが、それはあまりにも無知と言うしかない。何故なら地球人は―――

(憎しみに曇った目と、引き金を引くことしか知らぬ指で、なにが出来るというのかね?)




――ああ、滑稽だ。




さらに仲間を探そうとコロニーの探索を再開した三人の頭上に、穴が開く。
ビームの光が、空から降り注ぐ。

「敵襲だ!」
「くそっ! こんな時に争ってる場合じゃないのに……!」

浮足立つ二人。それを見つめるクルーゼ。

「……こんな時だからこそ、人は争うのだよ」

呟きは、どこにも届かず消えていった。





小型の二機が建物の陰に隠れ、ヴァルシオン改は高層ビルを盾にする。
もちろん60mを超える巨体は隠しきれるものでは到底なかったが、ヴァルシオン改にはABフィールドが搭載されている。
ヴァルシオン改の厚い装甲と合わせれば、ビーム兵器である限り被弾してもたいしたダメージではない。
∀ガンダムとアカツキが、ビームライフルを抜き、応戦しようとするのが見える。
ミストは、慌てて二人の行動を止めるために叫んだ。

「待ってください! もしかしたら、恐慌状態か何かなのかもしれません!
 先に警告……いや話をさせてください!」

射撃のため建物から身を出そうとしていたのを引っ込めると、クルーゼが言う。

「しかし、既に引き金は引かれてしまった。それでも、話そうと言うのかね?」
「わかってます! けど……俺は地球人全体がそこまで愚かとは思わない!」

クルーゼの返事も待たず、ミストは蒼い飛行機体に通信を繋げる。

「攻撃をやめてくれ! 俺たちが殺し合う理由なんてどこにもないはずなんだ。
 あの男の言うことを聞くなんて間違っ――っ!」

ヴァルシオン改に向けられる射撃。
巨体を動かすために全身に据え付けられたスラスターが一斉に火を噴き、機体を後ろに飛びすさらせる。
ミストは、改めてこの殺し合いを開いたヴィンデル・マウザーへの怒りを感じた。
今、こちらに攻撃を仕掛けている蒼い飛行機体のパイロットは――

「まだミドルスクールくらいの子じゃないか……!」

そう、中学生だったのだ。
こんな子供まで殺し合いに巻き込むとは、明らかに常軌を逸している。

「どうかしたのか!?」
「子供です! 子供が乗ってます!」

その言葉を聞き、軍人であるコウも息をのむ。
ゲリラなどでは確かに少年兵などもあるのはコウも知っている。
しかし、彼が向かい合ってきたのは誰もがコウよりも戦い慣れた古兵ばかりだった。

「きみ、止まってくれ! 頼む!」

ミストが攻撃を回避しながらも何度も呼びかける。
しかし、帰ってくるのは「守るんだ」「守らなきゃ」といった呟きのみ。

「なるほど、まだ新兵か。若い兵隊にはまれによくあるものだ」

クルーゼがそう言いながら、ついに発砲した。
クルーゼの言う通り、まだ慣れていないのか、撃たれて一度身動ぎしてから蒼い飛行機体は回避した。
距離が開いていなければ、間違いなく直撃だったろう。空に昇っていくアカツキ。
さらに制止の言葉をかけようとするミストの声を遮り、クルーゼはすらすらと説明の言葉を紡いでいく。

「待ってください! まだ……」
「まだ戦場に慣れていない兵隊に、まれにあることだ。撃たれる恐怖などから集中、いや熱中し引きこもり、
 その状態が慢性的になることで一種自閉的な状態になる。もっとも、戦場全体を見ればよく見るものでもあるが。
 矛盾しているが、まさに『まれによくある』ものだよ」

クルーゼの正確な射撃が、蒼い飛行機体を正確に追い詰めていく。

「そういう場合、呼びかけて駄目な場合、機体をどうにかして止めて、コクピットから降ろすしかない。
 伊達にモビルスーツ隊の隊長はやってはいないさ」

最小限の動きで簡単に回避するクルーゼ。高い空間把握能力のたまものだった。

「というわけだ。ひとまず機体を停止させるため、戦って止めるべきだと私は提案するが?」
「わかりました! そういうのなら任せてください! 暴動の鎮圧などは慣れてますから!」

ミストは、最初にクルーゼという同行者を得ることが出来たことに感謝した。
大局的に物を見られる隊長としての広い視野。そして、確かなパイロットとしての腕前。
味方になってくれるのであれば、これほどありがたいことはない。

ミストの機体が、一気に前に出る。逆に、∀ガンダムとアカツキは、後ろに下がる。
機体を停止させるため狙うのは、手足と、スラスター部分。となれば、ただ撃墜するだけではだめだ。
狙ってやる場合、撃墜の三倍捕獲、鹵獲は難しいと言われている。
だが、その困難もミストにとっては対して気になるものではなかった。
何故なら、これほど心強い仲間がいるのだから。

「見ていろ……! すぐ救ってやるからな!」

ヴァルシオン改に搭載された射撃兵器を起動。あえて照準を右18ほどずらす。
こちらが攻撃シークエンスに入ったのを見たのか、手に持った巨大な携行火器を撃つ相手。
しかし、AB(アンチ・ビーム)フィールドの名が示す通り低威力のビームはいとも簡単に弾き飛ばす。
逆に、ヴァルシオン改から放たれた一撃は、強烈無比。

「いけっ! クロスマッシャー!」

赤と青。二色の光が混じり合い、螺旋を描きながらも一体化して打ち出される。
その一撃は、直撃せずとも蒼い飛行機体の姿勢をあおり、安定を乱すに十分だった。
しかし、

「なんて威力だ……コロニーの中でそんな武器を使うんじゃない!」

それだけに飽きたらず、いとも簡単にコロニーの外壁を貫通した。
コウからの忠告を、ミストは嫌な汗を流しながら肯定する。
想像以上の一撃がまき散らした破壊を見て、直撃コースで使うはめにならなくてよかったと思う。

「前に出すぎだ! 行けぇー!!」

その隙に、コウが一気に飛び出る。
その手にもったビームサーベルが勢いよく振り下ろされるが、携行火器から銃剣に似たものが現れ、それを受け止めた。

「くっ! 空中戦は宙間戦闘と勝手が違いすぎる!」

戦闘にスラスターを回しているため、半ば落下しながらでも蒼い飛行機体と互角以上に切り結ぶ∀ガンダム。
相手が素人同然とはいえ、それでも慣れてないとは思えないコウの戦闘への順応性の高さに、ミストは驚嘆する。

「もう少しで捕縛できる高度です! コウさん、お願いします!」
「わかってる!」
「私も忘れてもらっては困るな」

アカツキが蒼い飛行機体の背後から、銃剣型のビームサーベルを抜き放ち、切り掛かる。

「ウラキ君。君は先に降りて、あの武器の準備を。あとは私に任せてもらおう」
「わかりました!」

∀ガンダムが地上に落下する。そして、地面を踏みしめた。

「あの武器ってなんなんですか!?」
「見れば分かる! 離れてくれ!」

そう言って、∀ガンダムがとりだしたのは――

「鉄球!?」

鎖のついたトゲ鉄球。これ以上ないほどに原始的な武装だった。
それを、頭上で回転させる∀ガンダム。その回転はどんどん勢いを増していく。
どういうことなんだと考えるミストをよそに、自体は進行する。

通りの少し離れたところに、二機がもみ合いながら落下した。
上になってイニチアチブを取っているのは、もちろんアカツキだ。
蒼い飛行機体を蹴り飛ばし、距離を取るアカツキ。

「これでダウンだ! でやぁぁぁっ!!」

起き上がろうとする蒼い飛行機体を、鉄球が正確に打ちすえた。





声が聞こえる。

「そうか……! 機体にダメージを与えないように機体内部にだけ衝撃を伝えたんですね!」
「仲間に引き入れるにしても、機体が危険な状況では困るのでね。
 むしろ、そう言った武器があることを伝えてくれたウラキ君のアイディアだ」
「けど……これ以上強い相手じゃ手加減は難しいかもしれない」
「大丈夫ですって! こっちもどんどん仲間も増えるんです、絶対に……助けられます!」

誰かの声が聞こえる。
誰の声かわからない。聞いたことのある声かすら思い出せない。
記憶力には自信があった……気がした
けど、何があったのか、少し前自分がなにをしていたのか思い出せない。

助けなきゃ。
守らなきゃ。

そう思っていた。
けど、どうやって助ける? 守る?
そうだ――殺さないと。そうればいい、と誰かが言っていた。
それだけが、守るための方法だと。

――守れた――守らなきゃ――守れなかった――守りたかった――

とても悲しいことがあった。
思い出したいと思うのに、忘れちゃいけないと思うのに、思い出せない。
ただひたすらに、悲しい。


――本当に?

――本当に何故悲しいのか思い出せない?

――守りたければ、悲しめばいい。

――悲しみが、もっともっと守るための力になる。

矛盾している。

守れなかったから悲しかったはずなのに、守るために悲しめと何かがささやく。


お前の見ているものを。
お前の聞いているものを。
お前の味わっているものを。
お前の感じているものを。
お前の痛み――悲しみを。
もっともっとなにも考えずに渡せばいい。
悲しむためのココロを取り戻せ。
それ以上でもそれ以下でもない。ちょうどただ悲しむためだけのココロを。

自分でない何かが、そう嘯く。けれど、自分の声のようにも思う。



大食らいのナニカが、自分に向かってニヤリと笑った気がした。




直結されるガナリー・カーバー。
スフィアに取り付けられた外付けの装置に火が灯る。
悲しみの乙女のスフィア――悲しめば悲しむほど力に変換される。
力を使えば使うほど、五感を奪う。
大いなる因果律の果て、大極と結び付くことによって組みだされるエネルギー。
春日井甲洋は選ばれた存在ではない。正しく力を引き出すことはできない。
しかし、変換効率は悪くともレモン・ブロウニングの取り付けた装置は強引に両者を繋ぎ止める。
中枢神経が侵され、思考すら奪われ外部に反応することすら不可能なはずの春日井甲洋が、何故マシンを操縦できるのか。
その答え。
魂の融合ともいえるスフィアと結ばれるため、外付けされた思考するための経路。
廃人ともいえる人間に、さらなる過酷な戦いを強要する思考回路。
悪魔の装置――あるいは、女神の装置。


レモン・ブロウニングの声――
『こんなタイミングで呼び出すつもりはなかったのだけど……そうなってしまった以上仕方ないわ。
 自分という存在を失ったあなたが、それでもあなたであり続けたいのなら……私は可能性をあげる。
 完全に自分に戻れるのか、『自分がここにいる』と証明できるのか……見てあげる。
 フフッ、いや違うかもしれない。私が見たいだけ、かもね』


フェストゥムと同化したはずの脳を、強引にスフィアの力が潜り込み、彼の意識を呼び戻す。
覚醒したとは言い難い混濁した意識のままの春日井甲洋。
しかし、彼はこの状態とよく似たものを知っていた。
スフィアと機材を通して強引に接続された状態を。


それは――ファフナーを操縦していた時によく似ていた。


「俺は絶対に、仲間を見捨てるようなことはしない……絶対に……絶対に、助けるんだ……!!」


スフィアとの融合――変性意識の影響で零れる本音――いや魂の叫び。

虚ろな金色の瞳に、僅かに光が灯る。





「なんだ……あの光は!?」

突然、蒼い飛行機体から漏れ出した輝きに、コウが声を上げる。

「まだ戦えるのか!?」
「くそっ、戦う必要なんてないのに……っ!」

三者三様のリアクション。しかし、その一切を無視し、パイロットが叫ぶ。


「俺は絶対に、仲間を見捨てるようなことはしない……絶対に……絶対に、助けるんだ……!!」


そして――爆発。
先程まで蒼い飛行機体がいたはずの場所が、一瞬でえぐれとんだクレーターにかわる。
光の粒子が空まで軌跡となって伸びたいたことで、ミストも気付く。それが、スラスターによる衝撃だったことに。

そして、次の瞬間降り注ぐビームの雨。
ヴァルシオン改のABフィールドが、その雨を防ぐ。しかし、その衝撃は殺しきれるものではない。
クルーゼが、空へうって出る。

ビームライフルが、蒼い飛行機体へ向けられた。
しかしそれを、慣性を無視したような動きで回避すると、一瞬でアカツキに肉迫している――!
携行火器から現れた、機体の倍はあらんというビームサイズ。それが、アカツキに振り落されようとしている。

「くっ!」

コウがビームライフルで両者を割る。
その隙に、アカツキはどうにか距離を取った。

「先程までとは別人……いや、別の機体だな……! ミスト君、引くぞ!」
「引くって……このまま放置するっていうんですか!?」
「そうだ! 撃破するならいざ知らず、殺さないと言うのは不可能だ。ここは引く……!」

ヴァルシオン改を∀ガンダムとアカツキの前に出す。

「俺の機体が一番頑丈です! しんがりを務めるので早く逃げてください!」
「合流する場所は、『ウラキ君とあった場所』だ! そこならば逃げられる!」
「了解しました!」

クルーゼの言った符号に、ミストも納得する。
空間転移装置なら、移動した後破壊すれば転移を防げるし、相手が転移装置と気付かなければ見過ごされることも期待できる。
ヴァルシオン改が、ディバインアームを引き抜くと、横薙ぎに振るう。
いとも簡単にビルの上部が吹き飛び、瓦礫となって空を舞った。
蒼い飛行機体は、瓦礫の隙間を抜こうとはせず、後ろに下がる。

「確かに機体性能は上がったけど……別にパイロットの腕が上がったわけじゃない。いける!」

ヴァルシオン改の巨体が空に舞い上がる。
回り込むように眩く輝くビームキャノンを相手は放ってくる。
先程より威力があがっているのだろう。しかし全包囲をカバーできるABフィールドはいまだ健在だ。
一撃を決めれば、特機は通常勝てると言われる。それは、圧倒的な質量その他で一撃で相手を粉砕できるから。
だが、ミストはそんな結末を望んでいない。
だから。

ミストは、敢えて周りの建物をディバインアームで壊し、飛礫を空に舞い上げる。
相手は、散弾のように降り注ぐコンクリート片をかわしながら攻撃を繰り返すが、ヴァルシオン改はびくともしないのだ。
時間を稼ぎつつ、致命的な一撃を避けあくまで『制圧』にこだわるミスト。
しかし、繰り返すうち、相手はこちらの攻撃を、余裕を持って回避するようになってきている。

「まさか……こちらのモーションを読んでるのか!?」

単調に見えて、角度やタイミングなどをこう見えても織り交ぜて変えている。
そのはずなのに、相手はこちらの行動の出掛りを正確に判断し、動き始めているのだ。
攻撃こそABフィールドが防いでくれるが、確かに被弾量が増えている。

別の攻撃を織り交ぜるべきだとは思っている。
しかし、クロスマッシャーは威力が高すぎて、コロニーそのものを破壊しかねない以上使用できない。
となれば残弾が二つしかないエナジーテイカーしかヴァルシオン改は持たない。
元々、さまざまな汎用兵器を元に戦うタイプの機体を使っているミストは、
武器の種類がある程度ある前提での戦術しか分からない。
こうやってヴァルシオン改で戦っている今も、だましだましと言っていいのだ。

焦る心からか、行動が本当に単調になってしまっていたことを、懐に飛び込まれてから知る。

「まずいッ!?」

相手の携行武器から、アカツキ相手に使った巨大なビームサイズが伸びる。
慌ててディバインアームで受け止めた。

「しめた……! これならいける!」

相手の機体の倍近い巨大なビームサイズと、ディバインアームはほぼ同じ大きさだ。
しかし、それを支えている機体の全長は、3倍以上の差がある。
力による押し合いなら、圧倒的にヴァルシオン改が上なのだ。

「このまま地面に抑える!」

ディバインアームに力を込め、相手を上から抑えようとする。
相手も、必死にスラスターを吹かせて、踏ん張っているが、こちらのほうがなお上だ。
このままならいける。そうミストが確信した時だった。


カチリ、とどこかでスイッチの入る音がした。


一気に身体が沸き立つ感覚。脳が痛むほどに負担がかかる。

「が、ァああああああああァァァッッッ!!!?」

ゲイムシステムに抵抗できたのは、一重に彼の救護魂、人を殺すのではなく助けようという思いからだろう。
すぐさま殺意にのまれなかった分――その苦しみは、激痛となってミストを襲う。
だが、そんな状態で機体を正常に制御できるはずがない。ディバインアームが上に引き上げられ、相手が解放される。

「しまっ――――!」

ゲイムシステムを拒否するミストが頭を押さえたその一瞬。
その隙に、空に舞い上がった蒼い飛行機体は、別の場所をロックオンしていた。
ロックオンしている先は――逃げるクルーゼとコウ。
割って入ろうとする。しかし、ヴァルシオン改の動きはあまりに鈍重だった。
防ぐことは叶わず、今までにないほどの巨大な光の柱が打ち出された。


ザ・グローリー・スター。栄光の星を意味する一撃は、この偽りの宇宙に浮かぶコロニーを、星のように輝かせるに十分な一撃だった。


「うあああああああああああああああああああ!!!」


ミストの絶叫。ゲイムシステムへの抵抗の放棄。
仲間を撃った蒼い飛行機体へ、思考の全てを放棄し突撃する。
即座に携行武器がヴァルシオン改に向けられ、ビームキャノンが打ち出された。
ABフィールドと、巨大なビームキャノンがぶつかり合い、金属を蒸発させるような音を立てる。
勢いを増すビームキャノン。スラスターの全てを焼ききれんばかりに燃やすヴァルシオン改。
しかし弾き飛ばされたのはヴァルシオン改だった。
コロニーの街並みをえぐり飛ばしながら、どこまでもビームの勢いに押され転がっていく。
ミストが、身体を起こそうとする。しかし、できなかった。
ヴァルシオン改は――偶然にも空間転移装置に触れていたのだから。


ヴァルシオン改の姿が消えさる。
カチン、とどこかでシステムのブレーカーが落ちる音がした。






「……大丈夫かね?」
「ええ、こっちもなんとか……」

月面都市に辿り着いた∀ガンダムとアカツキがその場に崩れた。

「多分、このガンダムじゃなかったら蒸発してるでしょうね……」
「まったくだ……戦艦の主砲にも耐えるとあったがそれ以上と言うことか……今回ばかりはオーブの技術とやらに感謝しよう」

あの超砲撃から咄嗟に彼らがとった方法は、∀ガンダムのIフィールドを限界まで張ったのち、
少しでも弱めたものを全身ビーム反射装甲で覆い尽くしたアカツキの装甲で受け止めると言うものだった。
戦艦の主砲にすら耐えるさしものヤタノカガミも、
因果律から組み上げられる一撃の前には防ぐのがやっとで跳ね返すことなどできなかった。
全身が黒ずみ、手足など末端はもはや燃え尽きているも同然である。

「咄嗟に盾になってもらえなかったら、こっちが大破していたかもしれない……」

アカツキの有様に息をのむコウ。
それにクルーゼは飄々と答えた。

「なに、仲間や部下を助けるのは当然だろう。
 ……すまない、機体を起こせない。こちらの手を握って起こしてくれないだろうか」
「わかりました!」

助けてもらったという信頼感。
そして戦闘後と言うことから多少緩んだ意識のまま、伸ばされたアカツキの左腕を掴む。
アカツキの左腕は、焼けて指を失い黒ずんでいる。それを∀ガンダムは掴むと、一気に引き起こし――

「さよならだ。核を持つそのガンダムは、私が貰い受けよう」

アカツキの右手が、ちょうど目の前にきた∀ガンダムのコクピットをまっすぐに突いた。



【コウ・ウラキ 死亡】



「なるほど……これがナノスキン装甲と言うものか」

コウの死体を降ろし、あらかた血を拭き取った∀ガンダムのコクピットに乗り込んだクルーゼは静かに呟いた。
この∀ガンダム、全ての名を冠する通り、凄まじい能力を秘めている。

「機体は失ったが……結果としてもっといい機体と情報を確保することが出来た。
 結果的には、幸運ということか」

強力で、しかも世界を滅ぼす『核』の力を持つガンダム――それは、まさに自分にこそふさわしい。
その時、横で空間転移が起こった。そこにいたのは、全部装甲を破壊されこそしたが、まだまだ健在なヴァルシオン改の姿。
呼びかけるが、返事はない。気絶しているようだ。
さらに都合がいい――このお人よしの青年は、おそらくこちらの嘘を信じてくれるだろう。
なにしろ、アカツキの装甲さえ知らなければ生き残ったこと自体奇跡と思うだろうから。

「人は争う……何故か? ミスト君、それは……それが人間だからだよ」

クルーゼの顔には、邪悪な笑みが広がっていた。




【ミスト・レックス 搭乗機体:ヴァルシオン改@スーパーロボット大戦OGシリーズ
 パイロット状況:気絶
 機体状況:前面部装甲破損 エネルギー消耗(中)
 現在位置:B-1
 第1行動方針:仲間を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
 第2行動方針:イスペイルを倒す
 第3行動方針:戦いに乗った危険人物は倒す
 最終行動方針:シャドウミラーを倒す】
 ※ゲイムシステムは、戦闘が終了すると停止します。一定時間戦闘していると再び発動。


【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:∀ガンダム@∀ガンダム
 パイロット状況:良好
 機体状況:全身にダメージ(小) コクピットブロックのガラス等を破損 (どちらも短時間で再生します)
      核装備(2/2)
 現在位置:B-1
 第1行動方針:手駒を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
 第2行動方針:できるだけミストに戦わせ、自身は安全な位置に置く
 第3行動方針:ミストを使い邪魔者を間引き、参加者を減らしていく
 最終行動方針:優勝し再び泥沼の戦争を引き起こす 】
※マニュアルには月光蝶システムに関して記載されていません。



【アカツキ(シラヌイパック装備)@機動戦士ガンダムSEED DESTINY
 機体状況:ほぼ大破、黒こげ】がB-1に放置されています。


【春日井甲洋 搭乗機体:バルゴラ・グローリー(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:同化により記憶及び思考能力低下&スフィアと同調することで思考能力の一部回復
機体状況:良好
現在位置:a-1 コロニー内
第一行動方針:見敵必殺
最終行動目標:守るんだ……】
※フェストゥムに同化された直後から参戦です。
※具体的にどのくらい思考能力や記憶を取り戻しているか、どの程度安定しているかはその場に合わせて一任します。
 好きなように書いてもらって構いません。

【09:00】


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041:サバイブ 投下順 043:貧乏クジの行方
039:野性を縛る理性はいらない 時系列順 046:ガンダムファイト跡地にて

BACK 登場キャラ NEXT
009:求めていた夢 コウ・ウラキ
011:それは不思議な出会いなの! ミスト・レックス 064:人間爆弾の恐怖~序章~
011:それは不思議な出会いなの! ラウ・ル・クルーゼ 064:人間爆弾の恐怖~序章~
031:JOKER 7 春日井甲洋 056:忘却~たいせつなひと

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最終更新:2010年01月24日 19:28