ガンダムファイト跡地にて ◆PfOe5YLrtI


戦いを止めんとする者達の願いも虚しく、バトルロワイアルは順調に進行していた。
ゲームの開始より3時間も経たずして、既に各所で殺し合いが繰り広げられ、次々と命が散っていく。
この小さな星は、早くも殺伐とした空気に満ち溢れていた……はずなのだが。

「ふもっふ!!」

そんな中を、殺伐さに不釣合いなファンシーな物体が、颯爽と駆けていた。
みんなのアイドル、ボン太くんである。
だがその挙動は、遊園地などで見かけるマスコットキャラの着ぐるみのものではない。
動きのキレが違う。一つ一つに隙がなく、走るスピードも常人のそれを凌駕していた。
その中身は、キング・オブ・ハートにしてガンダム・ザ・ガンダム、ドモン・カッシュだ。
加えてこのボン太くんスーツは、バトルロワイアル仕様として極限までの強化改造が行われている。
武術の達人であるドモンと超強化ボン太くんの相性は、最高と言って差し支えはないだろう。
しかし……現実問題として、この広大なフィールドを徒歩で移動するのは、いささか無謀と言わざるを得ない。
鍛え抜かれたガンダムファイターの常人離れした体力と脚力、そしてこの最強の着ぐるみの機能をもってすれば、
ある程度はカバーできるが……それでもやはり、限りなく生身に近いが故の移動力の欠如は否めない。
現に、先程の斧の機体をみすみす取り逃がしてしまった。
もし乗っていたのがまともな機体であれば、追撃に出ることも可能だっただろう。
……それでも、扱いきれない下手な機体を支給されるよりはマシではある。贅沢は言えないということか。

やはり、仲間が必要だ。移動に限ったことではない。共にシャドウミラーに立ち向かえる、仲間が。
デビルガンダムをがむしゃらに追っていた頃は一人で粋がっていたものだが、今は違う。
共に戦い抜いてきたシャッフル同盟の4人、そして最終決戦に集まった全世界のガンダム連合。
彼らの存在あってこそ、ドモンは勝利を掴むことができた。
今ならわかる。卑劣なシャドウミラーを倒すために、ここにいる者達で手を取り合うべきであると。
だからこそ、こうして彼は走り続ける。共に戦う、仲間を求めて。



やがてボン太くんは、一つの戦いの跡へとたどり着いた。
周囲の地形は荒れ、そこにあったのは腹部を中心に破壊され横たわる一体のガンダム。
この破壊を行ったであろう犯人は、既にこの場にはいなかった。
その大破したガンダムに――ドモンは驚愕する。
「ふも……ふもぉっ!?」
(訳:これは……ライジングガンダム!?)
かつて対デビルガンダムを想定した機体として、ウルベ・イシカワ用に調整されたMF。
レイン・ミカムラが乗り、DG四天王が一体・ウォルターガンダムと死闘を繰り広げた機体。
大破していたものの、散らばった各部位のパーツから判別はできた。
(どうしてライジングがここに!?……まさか、これも支給機体なのか……?)
ライジングはあまりに無惨な姿を晒していた。
コックピットブロックは完全に潰されている。搭乗者が無事である可能性は皆無だ。
(惨いことを……もしや、さっきの斧の機体の仕業か?……いや、違う)
さらにそこから上半身へと視線を移す。
他の部位に比べてある程度原型は保っていたが、ガンダムの特徴的な頭は潰されていた――

そして、ドモンは気付く。
潰された頭部、その形状に。
それはドモン・カッシュだからこそ、気付きえたことだった。

――『握り潰されている』。

(まさか……これは)

形状から推測するに、これを握り潰した手はライジングとそう変わらない大きさの機体によるものだ。
また、単に力任せに潰されたわけでもない。むしろ、これには握力はさほど加えられてはいなかった。
頭を掴み、その手から何らかのエネルギーを叩き込まれた。それが、主たる破壊の要因。
だから厳密には、『握り潰した』という表現は的確とは言えない。
だが……あまりにも似すぎていた。
掌にエネルギーを収束させ、相手の頭部を掴み、そのまま粉砕する――
それを可能とする武器を、いや技を彼はよく知っていた。知り尽くしていた。
そして、それを使用することのできる機体も。
当然だ。彼はその技で、その機体で、幾多のガンダムファイトを制してきたのだから。
だからこそ、気付いた。彼でなければ、他に誰一人として気付く者はなかったに違いない。

(ゴッドフィンガー……なのか……?)

愛機、ゴッドガンダムの黄金の指――爆熱ゴッドフィンガー。

(ゴッドガンダムが、誰かに支給されているというのか……?)
潰された頭部を凝視する。技のかけ方が荒く、甘い。
完全に粉砕し切れていないことから、威力もドモンの放つそれと比べ大きく劣る。
だからこそ、こうしてドモンにも判別が付けられたわけではあるのだが……
これが、ゴッドフィンガーによるものだという前提で推測を行うならば。
見よう見真似で技を放ったため、握力が満足に加わらず、完全な形で技が決まらなかったのか。
この破壊の跡を見る限りでは、下手人はまだゴッドフィンガーを完全にものにはしていないようだが、
しかし遅かれ早かれゴッドフィンガー……いや、ゴッドガンダムを使いこなすだろう。
何故なら、ゴッドフィンガーを使えたということは、同時にハイパーモードを起動できたことをも意味する。
そう……ドモンが修行の果てに会得した明鏡止水の極意、それをもって発動させたハイパーモードを……だ。
それを踏まえると、ゴッドは相応の手練の手に渡ったと考えるべきだ。
……あくまで推測だ。ドモンといえど、この傷跡だけでゴッドフィンガーか否かを断定することは難しい。
(ゴッド以外の機体の可能性も、一応あるが……)
同種の技を使えるMFは存在する。いや、かつて存在した……と言うべきか。
例えば、ゴッド以前に彼が乗っていたシャイニングガンダムのシャイニングフィンガー。
だがシャイニングはギアナ高地で完全に燃え尽き、その役目を全うしている。
さらに彼の師である東方不敗マスターアジアが乗っていた、マスターガンダムのダークネスフィンガーと
いう線もあるが、こちらもまたランタオ島での決勝戦において、完全に破壊されていた。
これらの機体が支給されているとは考えにくいが、同様に大破したライジングがこうしてこの場にあるのだ。
修復され、このバトルロワイアルに使用されている可能性は否定できないだろう。

ここにある情報だけでは、下手人の詳細は完全には把握できない。
しかし、これらの推測のいずれかが当たっていたとすれば。
数多くのファイトを共に戦ってきた、自分達ファイターの魂の結晶ともいえるガンダムを、
こんな殺し合いのために利用するシャドウミラーに、改めて怒りがこみ上がってくる。
もしライジングガンダムと同様に、これらの機体も支給されているとしたら。
他の参加者が、自分の愛機を支給されて、そしてそれを使って殺戮を行っているとしたら。
……それを黙って見過ごすことなど、できるはずがない。

無論、それ以外の可能性もあるだろう。
似た特性の武器を持った、未知の機体という線もある。
全てを結論付けるのはまだ早すぎるが、一応警戒はしておくに越したことはない。

ドモンはライジングの搭乗者の冥福を祈る。
「ふもっふ、ふも、ふも」
(訳:せめて静かに眠れ。お前の無念は必ず晴らす……このバトルロワイアルを壊すという形でな)

実はライジングの搭乗者は殺し合いに乗っていて、元はといえば彼のほうから一方的に戦闘を吹っかけて。
その挙句、自滅同然の返り討ちにあっただけなのだが……
そんなことはドモンが知る由もなかった。
やはり、世の中は無情である。


【ドモン・カッシュ 搭乗機体:ボン太くん(フルメタル・パニック? ふもっふ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好、超強化改造済み、ガーベラ・ストレート装備
 現在位置:B-3 平原
 第一行動方針:斧の機体(ディアブロ・オブ・マンデイ)を倒す
 第二行動方針:他の参加者と協力して主催者妥当の手段を探す
 第三行動方針:ライジングの頭部を握り潰した機体を警戒
 最終行動方針:シャドウミラーを討つ】

【一日目 9:00】


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最終更新:2010年01月22日 22:58