照準が定められ、引き金が引かれる。
タン、タン、タン、と軽快な鉄が弾ける音が響く。
発射された弾丸が、メビウスの輪を模した的を射抜いたのはその直後の事だった。
「精が出るね、マスター」
喜ぶでもなく、落胆するでもなく、結果を静かに受け止める背中に、声がかけられる。
落ち着いた少年の声だ。誰のものであるかは一瞬で分かった。
海のすぐ傍に秘密裏に作らせた射撃場の的から、背後に立つ少年へと向き直る。
「あぁ、この聖杯戦争から帰還すれば、ホワイマンのいる宇宙へと漕ぎ出す事になる。
ストーンワールド初の宇宙飛行士のトロフィーは何としても───」
「欲しい?」
「そうだ。聖杯戦争中とはいえ、訓練を怠るわけにはいかん」
さも当然というような顔で、
七海龍水は不敵に笑った。
その笑みを見て、感嘆するような、呆れる様な感慨をライダー“
キャプテン・ネモ”は抱かざるを得なかった。
万能の願望器巡る争乱という超弩級の非日常ですら、自分の主にとっては踏破すべき通過点でしかないのだから。
「それで、訓練の時間にここへ来たという事は何か報告があるのか?」
「うん、僕の方もだけど、先ずはフランソワの報告を聞くと良い」
ネモが名を呼ぶと同時に「はい」と声を上げて、彼の傍らに控えていた礼服の紳士、或いは麗人が進み出る。
彼の名(ここでは便宜上彼としておく)を、フランソワと言った。
龍水の懐刀である執事兼シェフにして、彼が唯一この聖杯戦争の全てを明かしたNPCだった。
報告を頼む、と龍水が一言告げると、淀みなくフランソワは報告を開始する。
「まず、最初にご依頼された調査の結果ですが──やはり、石神千空という少年は、
この東京に存在する学府や研究機関の何処にも在籍していない様子です。戸籍のラインから辿る事も試して見ましたが、やはり此方も確認はできませんでした」
「クク、万能の願望器も流石に奴らは再現できなかったらしいな」
腕を組みつつ、泰然とした態度で龍水は報告を受け止めた。
予選期間中、彼がまず行ったのは同じ原始の世界(ストーンワールド)から集められた参加者、つまり仲間がマスターとして選ばれていないかの確認作業であった。
もし石神千空やあさぎりゲン等がこの街に存在しているのなら、聖杯戦争解明の上で絶対的に信頼を寄せられる同志となる。
そう目論んでの調査だったが、結果は全て空振り。
石神千空を筆頭に科学王国の仲間はそもそもこの東京に存在していないらしい。
本選通貨の通達が為された事で、これからマスターとして現れる可能性も潰えた。
「時に龍水様。その石神千空という少年についてですが───」
「科学屋だ。俺が知る限りでも一番の、な。奴が此処にいるなら絶対に欲しかったぜ」
「……そうですか、私は千空様を存じ上げませんが、私もその方の不在は残念に思います」
「居ないのならば仕方あるまい。調査は一旦ここで打ち切りその予算は別の所へ回す」
唯一の例外たったのが、龍水の腹心であるフランソワだ。
彼だけは、このストーンワールドから遠く離れた地においても変わらず龍水の隣にいた。
やはりと言うべきか、あの原始の世界を生きた記憶までは再現されていない様子だったが。
それでも、フランソワの龍水への忠誠は何ら変わることなく再現されている。
龍水が聖杯戦争の事を打ち明けた時、何の逡巡もなく受け止めたのがその証明だ。
それから彼は、日夜休むことなく聖杯戦争に纏わる調査に心血を注いでいる。
フランソワ以外の科学王国の仲間がいないことは痛手ではあるが、致命的ではない。
サーヴァントであるライダーと合わせて、十分“勝てる”手札だ。
その確信を抱きながら、龍水はもう一枚のエースカードに問いかける。
「ライダー、お前の艦の改修作業はどうなっている?」
「……あまり芳しくはないね。ここから先は僕ら単独だと頭打ちだ。
ま、実際に見てもらった方が話が早い、ついてきて」
かつかつとヒールの音を立てて先導するネモに連れられ、射撃場を後にする。
射撃場から目的地である船のドッグには一分ほどで付いた。
元々東京湾の港湾ドッグの内部に作らせた射撃場なので移動もあっという間だ。
龍水とフランソワ以外の立ち入りを一切禁止しているドッグの内部に入ると、ネモの“切り札”である巨艦が姿を現す。
全長にして約70メートルの潜水艦と、その周りをせわしなく動く、水兵服を纏ったネモにうり二つの少年たち。
潜水艦ノーチラス号と、ネモの分身体であるネモ・マリーンズだった。
「はーいマスター、早速ですが、私が現状の報告をさせていただきます~」
龍水がドックに入ってくると同時に、ぺたぺたと素足で音を立ててマリーンズとは別のネモの分身が歩み寄ってくる。
女性の様な長髪に大きな眼鏡をかけた、ネモ・プロフェッサーと呼ばれる個体だった。
ネモ達の中でも技術や電算能力を担当する彼女も加わって報告を行うらしい。
「まず現状ですが、キャプテンも報告した通り我々単体ではこれ以上の改修を行っても
これ以上のノーチラスの多機能化と性能向上は見込めません~。
霊基とノーチラス本体に残された情報から以前、大幅に性能向上した時の機体を再現しようとしましたが、
マスターの魔力と現状の我々のスペックでは従来通り潜水艦としての運用しか現実的ではないですね~」
と、そこでプロフェッサーは眼鏡をくい、と直し、ノーチラスの側面を指さす。
指を刺された側面には潜水艦にはおおよそ似つかわしくない翼と、エンジンのような物がついていた。
その他にも、飛空艇の様な回収が施されているのは龍水にも分かった。
「残った情報にあった飛行能力を再現してみましたが、現状では出力が余りにも足りないですね~。速度が出ないので実戦投入はとても無理かと。
例えばアーチャー相手にのろのろ飛んだりしたらただのでかい的ですから~」
プロフェッサーが語るには、現在の自分達はかつてノーチラス号の大幅な改修を行った時のスペックを発揮させるのは不可能だという。
今の自分達の手元にあるのは霊基に残された虫食いの情報…かすれた設計図くらいで、
大幅な性能向上を目的とした改修を行うための材料も、改修した機体を運用するための燃料も生憎持ち合わせてはいない。
そもそもの話をするのであれば、そのかすれた設計図が残っているだけでも座に情報を持ちこすことのできないサーヴァントの法則に背いているのだが。
「座の記憶は基本的に新しく召喚された時に持ち越されないけど…僕は成り立ちからして特殊なサーヴァントだ。最初にこの姿で成立した時の情報はある程度地続きで辿れる。
と言っても全てではないし、本当はこの姿で召喚される事自体がまずありえない事態ではあるんだけど……」
言葉の通り、ライダー…
キャプテン・ネモは特殊極まるサーヴァントだ。
本来であれば幻霊程の力しか持たないネモ船長とギリシャの神格、ポセイドンの一子である神霊トリトンを掛け合わせた霊基となっている。
故に厳密には彼は祖国インドのイギリスからの独立を悲願とし、ノーチラス号を操ったネモ船長ではなく。
誰からも愛された旅路の祝福者トリトンでもない。誰でもない者(ネームレス)。
通常の召喚を行った所で決して召喚されるはずもない英霊なのだ。
だというのに厳然たる事実として彼は此処にいる。
「あぁ、だがここでのwhyは重要ではないな。実際できてるんだ。
今はそれよりも……この船をより美しく、強靭にするために、まず最優先で何が必要だ」
龍水がそう尋ねるとほぼ同時に、プロフェッサーが「はーい」と手を挙げる。
そして、今最も欲している最優先対象を述べた。
「現状では何を置いてもまず燃料ですね~。マスターの魔力ではもう天井ですから。
我々の領海内(テリトリー)であれば機動戦闘を行っても魔力の枯渇の心配はありませんけどぉ…
ノーチラス号そのものの飛躍のためには霊基そのものの出力が向上するような良質な燃料が必要です~。強化手段、と言ってもいいかもしれません」
今、龍水がネモに供給している魔力が原油だとするならば。
ノーチラスのパワーアップを望むのであれば精製したガソリンが必要だとプロフェッサーは語った。
そしてそのガソリンに当たる代物が、現状の自分達ではどう頑張っても用意できない事も。
「はっはー!!無いのなら手に入れれば良い。違うか?
古今東西の英雄が集っているのならそう言った力を持つサーヴァントもいるだろう」
「その根拠は?」
「勘だ。船乗りの勘は当たるものだぜ、ライダー」
「勘か…」
全く根拠が無いはずなのに、マスターが言うと不思議な説得力を持つから不思議なのモノだ、とライダーは思った。
だがまぁ、まだ確かめてもいないのに悲観的になる方がここでは愚かと言う物だろう。
実際当てがない訳でもない。件のサーヴァントが協力してくれるかどうかは別として。
「当てがない訳ではないけど…前に話した、関東卍會という組織を支配してる
サーヴァントとの接触は現段階では反対だ。いくら何でもリスクが高すぎる」
その当て、とはライダーが有するノーチラスのレーダーで捕捉した国会議事堂を占拠したサーヴァントだ。
関東卍會なる英霊に匹敵する尖兵を集め、国会議事堂を異界化した件のサーヴァントは、推論の段階でもかなり卓越した魔術師であることが伺える。
協力者にこぎつけられればノーチラスの改修作業も、聖杯戦争の解明でも大いに役に立ってくれるだろう。
だが、ライダーはそうなる可能性は低いと踏んでいた。
堂々と国会議事堂を乗っ取り、関東卍會なんて愚連隊を率いているのだ、
現状では議事堂を占拠した以外は目立った動き(?)は無い物の、聖杯戦争に対してとても消極的とは思えなかった。
補足している主従の中では、警戒度は最高値となるだろう。
無策で接触を図る事の出来ない手合いであることだけは間違いない。
そう考えての進言だった。しかし。
「あぁ、その関東卍會だが、既にアプローチはかけた」
「えっ」
龍水は、ライダーの想定を遥かに超える手の速さだった。
無論の事であるが、そんな話は聞いていない。
俄かに困惑した顔を浮かべるライダーに、龍水は笑みを浮かべて経緯を述べ始める。
「正確には、SNSを通じて関東卍會という組織に出資をしたいと持ち掛けた。
いずれその関東卍會を掌握しているマスターの耳にも入るだろう。SNSに登録している構成員のアカウントを探し出し、そのほぼ全てにローラー作戦を仕掛けたからな。」
「………?」
話が見えない。
国会議事堂を掌握できる様なサーヴァントが今更資金面で不自由するとは思えないからだ。
金などそれこそ魔術を使えば幾らでも手に入るだろう。
いや、百歩譲って向こうが乗ってきたとしても。
それはまず間違いなく此方を金づるとして使い倒そうという姿勢になるはずだ。
そんなライダーの思考を読んだように、龍水は引き続き話を続ける。
「幾ら魔術を使えば資金面に不自由しないと言っても、態々サーヴァントが出向かなければならないというのは中々に手間だ。翻って俺から融資を受ければ寝ていても金が入ってくる。
今の関東卍會が魔術を用いた資金調達をしているのか、それとも反社や半グレを資金源にしているのかは知らないが、前者だとしてもより効率よく、
後者だとしたら現在のスポンサーの最低五倍は出す。数百人規模の私兵を生み出し、それ維持する主従など絶対に欲しいからな!!」
相変わらず強欲な事だと思いながら、ライダーは顎に手をやり思案を巡らせる。
確かに、マスターの言葉を鑑みれば向こうにとってはメリットのある話かもしれない。
数百人規模の組織であれば維持には少なくない額の資金が必要だろうし、それを調達する為に態々都度サーヴァントが力を使うよりは手軽だ。
だが、逆に言えば此方に協力させるにはまだまだメリットが弱い。
結局のところ、資金は魔術を用いればどうにでもなる、と言う大前提は崩れていないのだから。
何百億積んだところで不可侵条約が限界、やはり此方に協力までさせるのは難しいだろう。
「問題ない。出資するにあたって此方から条件は一切出さない」
「…どう言う意味?まさか怖気づいて無償で反社組織の資金源になりに行くなら…
見損なったと言わざるを得ないけど」
ライダーの性格上、戦略的な合理性があれば関東卍會という犯罪や非道を働く組織に資金を流す事も飲み込める。
だが、「金は渡すからどうか見逃してください」という逃げ腰姿勢の話であればとても首を縦には振れない。
マスターとの関係性も見直す必要がある。
そのため、龍水の不興を買う可能性を承知の上で冷淡な言葉を吐いた。
しかし、龍水は気にする様子もなく、むしろ得意げに。
「フゥン、問題ないと言っただろう。何故なら向こうが話に乗ってきた時点で俺の目的は達成される。俺が関東卍會と言う組織に対して一番欲しいのは……
奴らと取引を成功させたという実績だ。これから協力者を集めるにあたってな。
これは俺の仲間の蝙蝠男が言っていた事だが───」
───龍水ちゃんは元から大富豪でモテモテだからあんまり馴染無い事かもだけど…
───良~い女の子がなびいたってウワサが、モテるのに一番手っ取り早いんだよねー
その言葉によって龍水が行おうとしている関東卍會への資金援助への真意が実像を結ぶ。
成程確かに、現状で他の主従に対して最もネームバリューを有している主従は関東卍會を牛耳るサーヴァントとそのマスターに他ならない。
強力な軍勢を率いた彼等と取引を成功させたという実績と、関東卍會と繋がりがあるという“ハッタリ”はそれだけで一定以上の力を持つ。
「もし奴らが精々金づるに使ってやろうと考えればむしろ僥倖だ。目下最大勢力の主従と繋がりがあるという事はそれだけで他の主従の牽制にも、勧誘材料にもなる。
資金源である此方を切るタイミングは奴ら自身が掌握したいと導線を引くことができれば、他の主従に勝手に討ち取られるのは困る、という方向にも持っていける」
───取引(ディールゲーム)のコツはねぇ。相手を凹ますんじゃなくて…
───しめしめ、してやったりって偽りの花道を用意してあげることだよ。
龍水の脳内で、そんなぺらっぺらの蝙蝠男の声がリフレインする。
「なるほど、筋は通ってる…かな。けど、それにしたってリスクが高くないかい?
向こうが話に乗るフリをして、此方を始末して資金だけ奪おうとする可能性だってあると思うけど」
「それについても手を打ってある。金を出すのは俺でも、七海財閥でもないからな」
パチンと指が弾かれ。
再び訝し気な表情を浮かべるライダーの前に、電子タブレットを抱えたフランソワが進み出てくる。
目の前に翳されたタブレットの画面には、とある会社の紹介が映っていた。
『新時代IT企業の雄。株式会社トリリオンゲーム』
デカデカと目立つポップ文字の下には、無駄に装飾されているがその実中身のない広告文が続いている。
会社情報や実績などは一切記載されていない。何の情報も得られそうにない。
早い話、どう見てもダミー企業のホームページだった。
「その会社に予選期間中俺が稼いだ資金を600億程電子クレジットでプールしている。もし関東卍會が話に乗ってきた場合交渉は電子上のやりとりで済ませ、
何人かの仲介人を通してそこから資金を放流する。当初に誰が資金を用意したのかは俺達にしか分からん」
「よく分からないな。そんな手間のかかる事をする必要があったのかい?
……と言うか、君が勝手に使ってる取締役の写真、これ僕だよね」
ホームページの下部に唯一表示されている代表役は名前こそ偽名なものの、写真は間違いなくライダーだった。
予選期間中、スーツに着替えて髪型も変え、ついでにサングラスをして欲しいと頼まれたことがあったがこんなことに使われるとは思わなかった。
ライダーの姿が子供にしか見えないのも相まって、胡散臭い事この上ない。
それを見て釈然としない己の従僕の問いに対して、主は淀みなく「当然だ」と返した。
「七海財閥の資金は強大だが自在に動かせるものではないし、兎に角目立つ。
だから取り回しがきいて、俺に直接繋がらない資金が必要だった
財閥の資金が大砲だとするなら、これは俺自身が持つ拳銃だな」
「今誤魔化さなかった?…しかし、よく予選期間中にここまで資金を用意できたね」
「昔取った杵柄だ。七海一族と言う幻の信頼をチップにあらゆるトレードで保険数理的に有利なオプション売りやアンダーライターを掘って膨らませた。
一族の力に依らず俺個人でもここまでできるという証明にもなるからな」
理解する。
七海龍水は金を生む天才だ。
例え無一文で原始の世界に放り出されたとしても、彼は一日で富を為すはずだ。
同時に、納得もできた。
話に乗って来るかは分からないが、関東卍會に対しては現状では待ちの姿勢でいいだろう。
ライダーがそう結論付けるのを計ったかのように、龍水は話題を切り替える。
「勿論、向こうがアクションを起こすまで何もせず待っているというわけにもいかん。
そこでだ……フランソワ!!」
「はい、龍水様が依頼されていたお二人の所在については既に調査済みです」
フランソワがその手にあるタブレットの画面を切り替える。
映し出されたのは、二人の少年の写真だった。
一人は、染めたと思しき金髪をリーゼントに纏め、特攻服を着た少年。
「八三抗争、血のハロウィン、聖夜決戦、関東事変などで数々の活躍をされた
関東卍會の前身組織、東京卍會の中心人物───
花垣武道様」
画面が切り替わり、もう一人の写真が拡大される。
もう片方の少年も金の髪をしており、学ランを着た育ちの悪そうな少年だった。
「もう一人───此方は巷で実しやかに囁かれている正義のヒーロー、チェンソーマン…の関係者と思わしき
デンジ様ですね。この二名については、聖杯戦争の関係者の可能性が高いかと」
「関東卍會もいずれ手に入れる以上、事情に通じている人間は是非とも欲しい。
そこで現在関東卍會に非所属であり、尚且つ関東卍會の前身組織の中心人物だったこの男に当たりをつけた」
関東卍會がこの東京に台頭してきた頃、七海財閥の資金を投入してその調査を行ったが、大した情報を得る事は出来なかった。
龍水の意向で関東卍會の構成員に調査員を接触させることを控えさせたからだ。
となれば後できる事は警察や周辺関係者からの聞き込みしかないが、その過程で関東卍會の前身組織である東京卍會の中心人物の姿が殆ど確認できない事に龍水は気づいた。
情報ではいるはずなのに、
花垣武道以外の幹部はその殆どが姿を確認できなかった。
まるで聖杯がただの不良であるはずの彼らを再現することを厭った様に。
よって、龍水は得た情報の中の特異点となる
花垣武道にコンタクトを取ることを決めた。
マスターであれば早速協力体制を取る勧誘をしたいし、そうでなくとも関東卍會に対する貴重な情報源と成り得るからだ。
「もう一人の
デンジと言う男についてだが…こいつに関して言えば、聖杯戦争の関係者である可能性はより高いと踏んでいる」
何故、龍水がこの
デンジと言う少年に目を付けたか。
理由は非常にはっきりとしている。
その答えはこの東京で、既にテレビなどでもツチノコ扱いで取り上げられる怪人、
もとい正義のヒーロー、チェンソーマン本人ないし非常に近い関係者である可能性が高いからだ。
夜な夜な東京の街に現れ、悪魔を狩っていくと噂される電ノコ男。
サーヴァントかマスターかは定かではないが、そんな者が聖杯戦争と無関係なはずがない。
それはライダーも理解できる。だがその少年が、正義の味方チェンソーマンの関係者である根拠は?
そうライダーが尋ねると、フランソワは無言で動画のアプリを起動した。
『俺の予想じゃチェンソーマンは猫を食べてねぇと思いますネ!』
『俺の学校じゃチェンソーマンはみんな好き。いいよねカレ!』
『グロいけどそこが格好いいんだよね!』
『チェンソーマンは俺の予想だときっとすげぇマジでいい奴です!』
『ちなみに俺の予想ではチェンソーマンの電話番号は───』
あぁ、うん。
これはきっと。まぁ、間違いないだろう。
ライダーは凄く納得がいった。
この少年がチェンソーマンなのか、それともサーヴァント・チェンソーマンを従えているのかは分からないが。
「理解したようだな。先ずはこの二人だ。
俺達の最終目標を達成するにあたってまず──この二人を仲間として手に入れる」
そこでぱちんと指を鳴らし。
龍水は再び不敵な笑みを浮かべる。
そして、指を一本立てて、ライダーに宣言した。
「報酬は100億。当然協力期間中は七海財閥が全力で衣食住の面倒を見る。
正式に組むなら同じ船に乗る仲間になる以上、不自由はさせん」
二人合わせて二百億。一瞬で億万長者(ミリオネア)
十分出せる金額とは言え、まるで小学生が考えたような数字だ。
だが、これがスタートダッシュになる事を考えれば倍額出しても惜しくはない。
関東卍會とのつながりはまだ使えず(と言っても、使える可能性はもともとそう高くはないが)、ライダーの船も未完の大器である現状、
一番自分達が持っている中で強力なカードは七海財閥の資金力を置いて他にない。
聖杯戦争が進みサーヴァントの戦闘が激化すれば社会的混乱も広がるだろう。
そうなっても金の力というものは早々喪われるものではないが、一番唸るほどの資金力が力を持つのは今この瞬間であると龍水は判断した。
故に、全力投球。
相手方からしても、七海財閥と言う後ろ盾ができるのはマイナスにはならないだろう。
協力者が増えれば、戦力も増え、今よりも更に積極的に協力者を募ることができる。
この二人を足掛かりに、聖杯戦争の解明と言う壮大な計画は始まるのだ。
「…マスター、追加で欲しいものと、言っておきたい事がある。いいかい?」
自信に満ちた主にある種の水を差すように、語り掛ける。
一つはそう大したことではない。ノーチラスをかつてのフルスペックでの運用を目指すならば、絶対に欲しい物がもう一つあるというだけの話だ。
だが、代わりになる物が見つかる公算は低いと踏んでいる。
だから、話の優先度で言えばその後に続く話よりも幾段か落ちる。
「もう一つ、欲しいのはペーパームーンと言う礼装…僕の宝具を使った時の切り札になる虚数潜航って技術を補助する羅針盤みたいなものなんだけど、
この技術を安定してつかうならこれに類するものが絶対に欲しい」
現状でも虚数潜航は行えるが、羅針盤たるペーパームーンが無ければ精々潜航出来て最大で数十秒。
それ以上の時間を潜れば異空間である虚数空間から実数空間に戻れず、虚数空間の藻屑となる可能性が高くなる。
逆にそれらが揃えば───ノーチラスは時空を超える箱舟となる。
この異界の東京から脱出することすら、現実味を帯びてくる。
そうなれば、聖杯戦争を解明するという最終目標にも必ず役に立つはずだ。
勝ち残らずとも、帰還の手段を確保できればその分だけ選択肢は増える。
交渉で協力者にできる消極的な参加者もいるかもしれない。
最悪でも、マスターが生きて元の世界に帰る事を保障することができるのだから。
勿論、簡単に見つかると思うほどライダーは楽観的ではないが。
「はっはー!任せろ!!船乗りにとって羅針盤と言われれば是が非でも欲しい!違うか?」
マスターはやはり、欲しいという欲求に何処までも真摯なのだった。
何処までも、欲しい物を諦めるという事を知らない。
本当に、つくづくとんでもないマスターに呼ばれたものだ。
でも、だからこそ言っておかねばならない。
「もう一つは…ノーチラスに、同じ艦に乗せるかどうかは僕も判断させてもらう。
総司令(アドミラル)は君だけど、船長(キャプテン)は、僕だ。
当然、君がよくても僕がダメだと判断した人間を乗せるわけにはいかない」
マスターは基本的に来るもの拒まずだ。
彼自身のスタンスはそれでいい。
けれど、だからこそ、同じ艦乗る人間が信用できるかどうかは自分が見極めなければならない。
マスターを利用し、艦を危険に晒そうとする主従が近づいてこないとも限らないし、これからコンタクトを取ろうとしている二人がそうでないとも限らないのだから。
だから、憎まれ役は自分がやる。
そう、決意しての言葉だった。
だが、その言葉を告げられた龍水の反応は、当然の事を大仰に言われた様に訝し気な物で。
「何を無粋な事を言っているライダー。そんな事は当たり前だろう。
貴様は俺が一人で勝手に何でも決めると思っていたのか?」
「え…?」
「俺達は“一緒に”全てを手に入れるんだぞ?お前の判断も仰ぐのは当然だ」
想定とは違っていた。
てっきり、俺を信じてついてこい何て返答が帰ってくると思っていた。
だって
キャプテン・ネモの瞳から見て、
七海龍水と言う男は。
自信家で、諦めを知らず、何処までも唯我独尊で───
「──ライダー様。龍水様は、一度でも貴女に…何かをやれと命令しましたか?」
フランソワが穏やかな笑みで、そう尋ねてくる。
…そう言えば、何時もマスターは一緒にやる事を前提に、していた気がした。
「結局の所、少数精鋭の内は一緒にやりたいかどうか、タッグを組みたいかどうかだ。
命を預けるかもしれない相手ともなればなおさら、本音でいい」
……どうやら、まだ自分はマスターの事を十分に測りかねていたらしい。
認識を修正する。
マスターは欲しいという欲求に対して諦めを知らないかと思えば、酷く現実的な視座も持ち合わせている。
単に寝物語を語る夢追い人では決してないのだ。
「これは一本取られてしましたね~キャプテン」
脇を見ればプロフェッサーがにやにやと笑いながら此方を見てくる。
いやはや全くもってその通り。完全に見誤っていた。
嘆息して、マスターを見つめなおす。
交わった視線の先のマスターの瞳は、何処までも真っすぐだった。
「マスター、どうやら僕の中で君の認識に対してズレが生じてたみたいだから修正したい。
そのために、もう一つ、聞きたいことがあるんだけど…」
「何だ、ライダー」
「君は、魔法(ファンタジー)を科学にすると言っていたけど、どうしてそこまで科学を信じられるんだい?」
唐突に過ぎる確認作業。主に対する認識のすり合わせ。
だが、特に問われた本人は動じることなく、世界一の欲張りの返答は簡潔だった。
「そんなものは決まっている。奇跡(せいはい)はたった一人にしか微笑まん、だが……」
それを聞いた時、確信へと変わる。
あぁ、このマスターは本当に、世界一の欲張りだ
何もかもを諦めたくないのだ、自分の事も、他人の事も。
「科学は万人を平等にする。だからこそ、賭けられる」
その言葉を聞いた後、一呼吸おいて。
不思議と、笑みが零れた。
冷静沈着で感情表現が苦手な
キャプテン・ネモにとって珍しい出来事だった。
そして、浮かべた笑みの形は、彼の主が浮かべる物とよく似ていた。
「一日だ」
「何?」
「約束するよ、物さえ揃えば───」
「僕は一日で、必ず君の“欲しい”を満たす、最高に唆る艦を用意する。
あらゆる嵐を超えて、どんな過酷な航海も踏破する最高の艦を」
ニッと不敵に笑って。
その小さな体躯に自信を漲らせた様相で。
ライダー“
キャプテン・ネモ”はそう宣言した。
「───はっはー!!その意気だライダー!
始めるぞ、この聖杯戦争で全てを手に入れる、その第一歩を。
俺達の欲しいは────世界一だ!!」
───先ずは、これから来る客人のもてなし。
世界一の欲張りと、その欲張りに呼ばれたもう一人の船長と、執事の。
全てを手に入れるための聖杯戦争(トリリオン・ゲーム)はきっとここから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
未知なる道を既知に 弱点をCharm Pointに
幼き夢を現実に 愛を力に変えて
進もう明日はいつだって 前人未到の秘境だ
その叡智と勇気が 生きている証
【港区・七海財閥管理下の港/一日目・午後】
【七海龍水@Dr.STONE】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:石化装置(使用不能)
[道具]:
[所持金]:超莫大
[思考・状況]
基本方針:全てを手に入れる。
0:先ずは見つけたマスター候補二人にコンタクトを取る。
1:他の協力者を募る。魔術に精通したサーヴァントが望ましい。
【ライダー(
キャプテン・ネモ)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[装備]:我は征く、大衝角の鸚鵡貝
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:マスターとの航海の遂行。
[備考]
最終更新:2022年10月02日 01:09