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                         私は、呻吟の世界に在って

                         ひとり孤独の海に沈んでいた。

                         私の霊は澱み腐れた潮であった。

                                     ───エドガー・アラン・ポー『Eulalie』





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───それは、時に聖杯戦争が幕を開ける前夜のこと。

───それは、時に12月23日のこと。

深夜、この季節。
年季の入ったその古い家は、押し潰すような、密度の高い静寂に包まれていた。
深々と降る白雪が、喧騒さえも柔らかく吸い取っているのだろう。郊外から少し離れた場所にあるこの家は、元より騒がしい立地ではない分、夜半ともなれば張り詰めたような静けさを湛えるのであった。

ぽぅ、と小さな明かりが灯る。
それは古めかしい旧式のランプだ。朧気な光源が照らすのは昭和世帯めいた木造の間取りである。
四角状のテーブルに向かい、ちょこんと腰かける少女と、その傍らに立つ男。

奇妙な取り合わせの二人であった。
少女は、ファンシーな洋装に身を包んだ、フェアリーテイルの具現ともいうべき幻想的な容姿をしている。
男は、肌の一つも見えない金属の鎧で全身を覆う、あまりに武骨で剣呑な出で立ちだ。
現代日本の民家にいるには、あまりに不釣り合いに見える二人ではあった。
現実には在らぬもの。物語の中にしか居場所がないはずのもの。
その通りの二人ではあった。少なくとも、神秘の領域から零れ出たという意味では。

少女は、古めかしい装丁の本を両手で開いており、しかしそれを閉じると。

「ダメ、やっぱり納得できないのだわ!」

パンッ、とテーブルを叩いてそう言った。
可愛らしいその頬は膨れ、何をそんなに憤っているというのか。
その理由を、傍らの男は半ば悟りながらも尋ねる。

「随分とご立腹のようだね、ありすよ」
「トーゼンだわ! このご本、とっても意地悪なんだもの!」

そうむくれながらも大切に落とさぬよう抱える本には、『人魚姫』と題名がついていた。
なるほど、と男は思う。確かにこれは、感受性の強い子ならば悲しみ、或いはその結末に憤慨するのも止むを得ないだろう。

探し人を求める旅歩きの憩いとして、ひとまず足を止め休もうとこの家を選び、退屈を紛らわせるために読み聞かせをする流れと相成った。
シンデレラ、ラプンツェル、白雪姫といった女の子受けするものから、シンドバッドやアラジンといった冒険譚、あるいはありすの生まれ故郷である日本の民話なども滔々と語り聞かせた。
男の語り口調は思いのほか好評で、次よ次よとせがまれるがまま本を積み重ねていったのだが、今回はどうもお気に召さなかったらしい。

人魚姫。
アンデルセン童話の代表作。知らぬ人はいないであろう有名どころだ。

童話は必ずしもハッピーエンドを迎えるとは限らない。その中でも、特に有名なのが、この人魚姫だろう。
ある日、人間の王子に恋をした人魚の姫は、魔女と契約し人の足が生える秘薬を得る。
しかし彼女は代償として美しい声を奪われ、更には歩く度に針で刺されたような痛みを味わい、王子の愛を得られなかった時には泡になって消えてしまうことになった。
果たして陸に上がった人魚姫は、その美しさから王子に見初められる。聾唖ゆえに自らの愛を伝えることこそ叶わぬものの、二人は幸せな日々を送った。
しかしある時、王子に隣国の姫との婚姻の話が舞い込む。
人魚姫を助けるため、彼女の姉たちは美しい髪を代償に魔女の短剣を手に入れ、それを人魚姫に渡す。
このナイフで王子を刺し殺せば、お前は再び人から人魚に戻ることができるのだ。
それを聞いた人魚姫は、しかし愛する王子を殺すことを拒絶した。

『姫はナイフを海に投げ捨てて、自らも海に身を投げました。
 姫は、自分の体が泡になっていくのを感じました。
 しかし、人魚姫の心は泡を抜け出して、高く高く空にのぼっていきました、
 心から人を愛した人魚姫は、泡になって消えてしまうことはありませんでした。
 海の上の、船の上には、いなくなってしまった人魚姫を探す王子の姿が見えました。
 人魚姫は王子に微笑みかけると、更に空高くのぼっていき、やがては神の国にのぼって、光の娘となりました。
 魂を持たぬ人魚の姫は、そこで三百年の御勤めを果たせば魂を得て、やがて人間と同じ永遠の幸福を授かるのです』


…………………………………………。


「君はこの話が嫌いかね?」
「きらいではないわ。ないのだけど……でも、やっぱり意地がわるいと思うの。
 人魚姫はいっしょうけんめいがんばって、いたいのもガマンして、さいごまで王子様を想っていたのに、苦労が水の泡なんて……」

絞り出すように呟かれるのは、子供らしい素朴な感想だ。
確かに、子供向けのお話としては鬱々とした内容であろう。
主役である人魚姫に感情移入して読んだならば猶更だ。
或いはもう少しばかり年を経れば、思春期特有のニヒリズムに目覚め斜に構えた感想の一つでも捻り出すのであろうが、ありすは未だ素朴な感性を失ってはいないらしい。
男にとって、それは酷く好ましいものに思えた。

「優しい子だな、君は」

それはそれとして。

「いやしかし、『水の泡』とは。この物語を形容するに妥当な表現ではあるね」
「笑いごとではないのだわ」
「然り、君の怒りは尤もだとも。では知っていたかね、『泡』とは時に、髑髏と意味を同じくするのだと」

諧謔味を混ぜる彼の言葉に、子供らしい抗議の声を上げていたありすは、途端にきょとんとして。

「どくろ……がいこつ?」
「そう。人が死ねば後に残る、白い骨だ。恐ろしいかな?」
「ありすはそこまで子供じゃないわ」

けど……と、ありすは首を捻る。人魚姫が変じた泡という幻想的なモチーフと、髑髏という異質な言葉が、どうしても繋がらない。
言葉の通り怖がってこそいないが、彼女は不思議そうな、そして何処となく気味悪そうに、眉を寄せていた。

「不思議かね? だがそう難しいことではない。
 髑髏とはね、生の空しさを象徴しているのだよ。生じては弾けて消える泡と同じく、儚き泡沫の世を表すモチーフなのだ。
 君の言った通りだとも。髑髏は恐れるものではなく、儚むものである。死という終わりもまた、同じこと」

彼の口調は、心なしか弾んだものに変わっていた。生来蘊蓄語りが好きなのか、出来の良い教え子に講義するのを楽しむ教師のような素振り。

「昔の西洋画は描かれるものすべてに象徴としての意味が存在する。泡、とりわけしゃぼん玉は一時期かなり流行ったモチーフでね」

彼は若干身を乗り出して、本腰を入れた。

「主に静物画や宗教画、肖像画などに、しゃぼん玉や、しゃぼん玉を吹く人物やキューピッドが描かれていることがある。
 中にはしゃぼん玉と髑髏の両方が同時に描かれていたり、硝子玉がしゃぼん玉と同じ象徴で使われることもある。
 これらを主題にした絵画は、ジャンルとして『ヴァニタス画』と呼ばれている。
 そのままヴァニタスというタイトルが付けられた絵も多く、流行の題材として似た構図の絵がいくつも作られるほどに人気のモチーフだったのだ。
 ヴァニタスとはそのまま"空しさ"という意味で、昔の西洋画にしゃぼん玉が描かれていたならば、それは十中八九、人生や若さや栄華を儚む表現であると解釈していい。
 髑髏も、似たような意味を持つモチーフだ。貴族と平民の骸骨が輪になって踊る『死の舞踏(ダンスマカブル)』は、その近縁となる」
「うーん……?」
「どんな人生を歩んでも、死んでしまえば皆同じ、ということだ。
 東洋の仏教観においては、『諸行無常』や『もののあはれ』の価値観で知られるものになるのかな。私には馴染みの薄いものではあるが。
 君の生まれ故郷にも、女性の腐乱死体が朽ちる様を九段階に分けて描く『九相図絵巻』があったはずだが、あれも直接的な図象で同じものを描いている。
 地位も名誉も財産も、知識も記憶も美しさも、全てはいつかなくなる泡沫であり、空しい地上の幻でしかないという教訓だ」

そして彼は一拍を置き。

「大概の場合、この後に『真に価値があるのは信仰である』という宗教的な謳い文句が並べられるのだが」

全くそんなことは信じていないといった様子で肩を竦める。
対してありすは、純粋によくわかっていない顔だった。彼女は信仰に対する概念を持ち合わせていなかったし、知識として受け止めるには幼かった。
だから、彼女なりに咀嚼して浮かんだ疑問を口にする。

「なら……人魚姫のやったことも、ぜんぶ無駄だったの?」
「ふむ……」

彼は一瞬考え込む素振りを見せ、生徒の意見を吟味するような口調で。

「人魚姫の著者であるアンデルセンは、作家であると同時に、敬虔なカトリック教徒でもあった。
 故に彼の著作には、故意にせよ無意識にせよ宗教的示唆を含む描写が数多存在する。
 そんなキリスト教的価値観を前提に置けば、なるほど確かに、人魚姫の行いは無為に帰すが相応ではあるが。
 しかし、私の見解はそれとは異なっている。
 全てが泡沫の世界において、泡となって消えようとも最後に残る尊きものとは、決して信仰などではない」

彼は、絶対の確信を以て断言する。

「愛だ。愛なのだよありす。人魚姫とは、やはり愛の物語であるのだ。
 彼女は魔女の誘いに乗って全てを失った愚か者ではなく、まさしく愛に殉教した聖者と言っていい」
「でも……それなら猶更、人魚姫は幸せにならなくてはいけないわ」

ありすは不満げな、納得できてない表情で返す。

「だってそうでしょう? 愛するふたりはむすばれて、手と手をとりあって、笑顔であしたをむかえるの。
 夢はいつかさめてしまうけれど、お話は幸せになるためにあるのよ」
「ふむ……確かに彼の著作は、露悪的な傾向にあることは事実であるね。
 では、話は変わるが……ありす、君は『魔女』というものをどのように考えている?」

問われ、ありすはきょとんとする。
魔女。
その言葉が意味するところは知っているが、今この時に問われた意味が分からない。

「魔女は魔女よ?
 黒づくめで、トンガリ帽子をかぶってて、鉤鼻のおばあちゃんで、しわがれた声をしてて、箒にのって空を飛ぶの。
 あとはわるいお薬をつくったり、魔法をつかったり……かしら?」
「概ねその理解で間違いはない。魔女とは古ヨーロッパ圏における俗信で、超自然的な力で人畜を害する者を指す。
 君の言ったものは、特に近世民間伝承の影響を強く受けたメルヘンの中の魔女像であろうね。
 長いヨーロッパの歴史において複雑な背景を持つ重層的な概念ではあるのだが、古来においてその定義は加害魔術の存在があった。
 簡単に言えば、魔法で人を傷つける者は等しく魔女とされたのだ。
 しかしそうした単純な善悪二元論の考えは、15世紀には新たに『超自然的存在と契約を結んだ者』という定義が与えられた」

つまり、と彼は諭すような口調で続ける。

「魔女と契約した者もまた、魔女とされたのだ」
「それって……」
「ああ。人魚姫のことだね」

足を得るために魔女と契約を結び、声を失った人魚姫。
愛の献身であるはずの行いは、中世においては許されざる悪徳と定められていた。

「中・近世のキリスト教的価値観において、これはどう足掻いても救われない。
 魔女の末路は例外なく、地獄行きだ。仮に王子の愛を得ようとも、いずれ避けられぬ永遠の離別が二人を引き裂くだろう。
 そう考えると、実のところ人魚姫のラストは非常に救いのある終わり方と言えないこともない。
 妖術によって目的を果たした罪を持つ魔女である人魚姫は、しかし自らの命と引き換えに魔女の唆しから脱する。
 かくして悔い改めた人魚姫は、神の許しを得て、数百年後に魂を得て王子と再会する可能性が、…………」

ふと。
彼の語りが途切れる。
どうしてしまったのだろう、とありすは思う。
ありすには、彼が語る言葉の多くが分からない。分からないが、それでも彼が嬉々と話す様が、そこにある確かな好意が、そして話の端々から時たま得られる知見が、ありすは好きだった。
だからもっと聞いていたいし、単純にお話がしたかったということもある。
どうしたものかと、怪訝そうに顔を見遣るも。

「騎士様?」
「……ああ、すまないなありす。君があまりにも可愛らしく憤慨するものだから、私としては出来るだけ人魚姫を擁護したかったのだが。
 しかし駄目だ。やはり私は、この物語を好きになれない」

苦々しく、そんなことを口にした。

「騎士様は、人魚姫のお話が嫌いなの?」
「そうだね。あくまで"苦手"とだけ言った君とは違い、私の心はどうも狭量であったらしい。
 私は人魚姫を愛の物語と言ったが……だからこそ、愛を裏切るこの物語を許すことができない」

彼は深く、深く息を吐き、絞り出すように言った。
それは陰鬱な響きを湛えて、されど負の感情をありすに見せることだけはないように。

「人魚姫が助かるには王子の愛が必要だ。しかしそれは聞こえの良い修飾でしかなく、実際に必要だったのは教会による"神の承認"に他ならない。
 人魚姫はこの極限の状況に置いて最大限のハッピーエンドに辿り着いたと言えなくもないが、それさえ二人の愛の結果などではなく、どこまでも神の掌の上だ。
 これは愛の物語だが、しかし同時に、愛というものの価値を酷く滑稽なまでに貶めている。無価値で無意味であるのだと」

彼は淡々と、言葉を続ける。

「だから、私は人魚姫の話は嫌いだ」
「……」
「神は、奪うばかりだ」

そうして彼はため息を吐いて、椅子に深く沈みこむ。
ありすは今や言葉なく、視線を外し、窓の外へ目を向けた。
そこには満天の星空が、変わることなく綺羅綺羅と輝いている。
煌めく夜空、笑う星々。
見下ろす月の三眼が、まるで笑っているようだと、ありすは感じた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





その半開きの戸は、まるで無機質で巨大な口が、人間を生きたまま咀嚼したかのように、血に塗れていた。

「…………」

立ち込める血臭に、巌めいた表情を崩さない日車さえ、僅かに眉を顰める。
正午。一日の中で最も日が高く、差し込む陽光が明るく照らす時間帯であるはずの、今。しかし彼が足を踏み入れたその家は、まるで明かりが差し込まず、沈殿した水底のように暗く、鬱屈し、停滞していた。
掠れた音と共に力なく揺れる血濡れの戸は、人間を丸ごと噛み砕いた口を、そのまま開けて見せたかのよう。
その中は見るまでもない血の海だ。無惨に破砕された人体の破片と内臓が散乱し、床も壁も天井も関係なく赤黒く塗りたくられ、咀嚼した中身を垂れ流す状況そのままに、大量の血と肉片が木造の床板に浸み込んでいた。

「遅かった、か」

魔力反応───残穢を追ってこの民家を特定したのが、つい先ほど。
不気味なほどに音のない家の玄関を押し入って、中に踏み込んでみればこの有様だった。
中に転がる死体は、恐らく三人分だろうか。「恐らく」というのは、個体として認識できる程度に無事なパーツが、一つとして存在しない故だった。
事前の情報としてこの家の住人が親子三人であること、散らばる肉片をかき集めればおおよそ三人分の体積であることからの推測でしかない。
日車は検死官ではないため正確な検分こそできないが、死後数日は経過しているだろうことは察せられた。血は完全に乾いて固まり、零下に近い気温の中でさえ既に腐敗が進行しつつあった。

一目で否が応にも理解できる、最悪の惨劇。
しかし最も度し難い事実は、それとはまた別にあった。
"誰かが生活した痕跡"が、ありありと残っているのだ。
ココアを淹れたマグカップが、肉片の上に綺麗に置かれていた。
血を被った戸棚や扉は、そのうえで何度も開け閉めされた形跡がある。
シンクに溜まった血痕は、蛇口を捻って水を出したであろうところだけきれいに掃かれ、銀色の金属部分を露出させている。
殺された家族の生活痕ではあり得ない。この惨状の中で、腐臭と小蠅に充ちる中で、何者かが数日もの間日常生活を送っていたのだ。

『ケッ、空振りかよ』

日車の脳内に響く声。
彼の侍従たるパーヴァン・シーが、霊体化したままで念話を送ってきたのだ。
姿を現さない彼女を視認することはできないが、侮蔑の色が多く含まれた声音だけで、どんな表情をしているのか手に取るように理解できた。

「ここから追えるか」
『無理。つーかしたくない。失せモノ探しはキャスターの領分よ。
 まあ私の魔術もそれに負けはしないけど? 呪いや拷問用のばっかだし』
「そうか」

彼女の実際の魔術の腕はともかくとして、無理であることは確からしい。
日車自身、呪術を体系的に学んだわけではないので、そうした小技に関しては不自由な身の上だった。呪いの術など、積極的に学びたいとは思わないが。

「……」

ふと。
現場を検分する日車の目に留まるものがあった。
それは一冊の本だった。何もかもが赤黒く染まる室内で、それだけが血の一滴も付着していないまま、そっと置かれていたのだ。
何気なしに手に取り、題名を読む。
人魚姫。
古めかしい装丁に描かれたタイトルには、そう書かれてあった。

『……あ? なんだそりゃ』
「童話だな。人に恋した人魚の姫が、想い叶わず泡と消える悲恋の話だ」
『ガキ向けの茶番かよ、つか内容まで聞いてねーっての』

心底見下げ果てたと言わんばかりの彼女の声を横目に、日車は無感動な視線を降ろす。
或いは、この絵本は惨劇を起こした犯人を特定する物的証拠になるかもしれない。
若しくは、犯人の人物像を見定める手がかりになるかもしれない。
だが、しかし。

「この物語の主人公は、皆に愛される少女だった。
 皆に愛され、誰かを愛した。その愛は報われず、しかし彼女は己が愛に殉じた」

淡々と、事実のみを陳述する裁判官のような口調で、彼は続ける。

「君はこの娘を蔑むか。報われぬ愛に溺れた愚かな娘だと」
『はあ? 意味分からねえこと聞くなっつーの。
 馬鹿に向ける感情なんて、それ以外に何があるってんだよ』

…………。
そうなのだろう、お前は。
だが、しかし。
お前はきっと気付くまい。自らが蔑むその娘は、かつてのお前自身なのだと。
報われぬ愛に殉じ、誰をも憎むことなく消えていった。
欲望渦巻く人の世ではとても生きられぬ、儚き徒花の娘よ。

童話「人魚姫」のラストでは、娘は天へ昇り、巡礼の果てに魂を得る救いを与えられる。
それは時に、神の傲慢とも揶揄される。地上の悲劇を見放した神の、あまりにも遅すぎる救いの手であるのだと。
日車の考えは違った。
神はそれしかしなかったのではなく、それしかできなかったのではないか、と。
信じる者は救われる。逆を言えば、信じぬ者は救われない。
それは決して、神の傲慢なのではなく。
神でさえ、そして異聞帯の王でさえ。
"全てを救うことはできないのだ"という、慟哭なのではないかと。

「益体もつかない愚想だ」

全ては無意味な思索の海である。
僅かに練り上げられた呪力が、携えた絵本を発火させ、瞬く間に黒ずんだ灰へと変える。
ぱらぱらと、手を汚しながら絵本は無価値な塵へと変じた。呪力の波長を覚えた以上、この本はもう必要なかった。

「だから私は、人魚姫の話が嫌いだ」

踵を返し、日車は玄関口に足を向ける。
その動きに迷いはなく、その声に惑いはなく。
己が道を見定められず、願いさえ不確かな心持のまま。
しかし、確たるものであったはずの信念の残滓だけは、その輪郭を露にして。

「善はただ、失うばかりだ」

それを厭うたが為にかつて道を選んだのだと。
胸を張ることさえできない今の自分が、酷く滑稽でさえあった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





     水はどこにあるのか。風の背にある

     神が全てを創られた時、風に水を支配する力を与えられた。

     水は波となり、泡となり、煙となる。

     煙は水の上にたまり、神はそれを"天"と名付けた。

                   ───『聖クルアーン・フッスィラ章』、或いは『タフスィール・アル=ジャラーライン』より。



【練馬区・住宅街の一角/一日目・午後】

日車寛見@呪術廻戦】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:少なくとも不自由はしない程度
[思考・状況]
基本方針:せめて、悪なる娘に救済を
0:この惨状を生み出した者を……
1:結局、私は何がしたいのだろうな
[備考]
  • ありす&グリムが起こした惨殺現場(練馬区・民家)を確認しました

【アーチャー(パーヴァン・シー)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:敵を殺し、甚振り、蹂躙する
[備考]



【???/一日目・午後】

【ありす@Fate/EXTRA Last Encore】
[状態]:健康、形質変容、意識混濁
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:おにいちゃんはどこ?
1:ワンダーランドを楽しむ。次はどこに行こうかしら?
[備考]

【バーサーカー(グリム)@BLACK SOULSⅡ】
[状態]:健康、精神汚染(SEN:100)
[装備]:全身鎧
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:アリスは何処だ?
1:アリスが不足している
2:アリスをよこせ
3:アリスを訪ねる
4:アリスはどこにいる
5:お前がアリスを隠しているんだろう
6:アリスを見つけた
7:お前がアリスか?
8:俺がアリスだ!
9:「貴方にとっての一番はやっぱり、アリスですよね?」
[備考]
  • 23日深夜の時点では練馬区住宅街の民家に潜伏していました。現在はどっかその辺をほっつき歩いていると思います。

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000:空白と逆光 日車寛見
アーチャー(バーヴァン・シー
000:空白と逆光 ありす
バーサーカー(グリム)

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最終更新:2022年10月02日 01:11