聖杯戦争が本格的なものになってから。
夏油傑はより一層、勝つ為にはどうしたらいいか、といった問題に頭を悩ませた。
主は役立たず。自身も生前に形成した呪術師の仲間達はおらず。呪霊の数もはいないことはないが、数としては物足りない。
つまり、手持ちの戦力が足りなさすぎるのだ。
予選内にて揃えた持ち駒だけで、聖杯戦争を勝ち抜けるかといえば、厳しいと言わざるをえなかった。
これは、夏油が黄金の軌跡を辿るにはといった質問の回答としては、赤点だ。

主が協力的であったのなら、もっと違う道があったのかもしれない。

宵崎奏という主は夏油から見て、言うことだけは大層ご立派な使えない駒だ。
聖杯戦争。生きる為には、求める為には、殺し合うしかない。
少なくとも、彼女に戦争の運命を変えられる程、才覚があるとは夏油は思えなかった。
家に引きこもって何かに熱中しているその後姿に何度ため息をついたことか。
もっとも、変に正義感を発揮させ、自分の行動についてくると言わないだけマシか。
通常、引きこもりで存在感がない女だ、よっぽどの不運を引かない限りは襲われることはない。
それだけは、夏油にとって利点だったか、これが活発に外出し、戦場に躍り出す主であったなら、目も当てられなかった。

彼女を見ていると、捨て去った何かを思い出しそうで苛立たしい。

嘗て得ていたはずのもの。嘗て自身で切り捨てたはずのもの。
人間は汚い。そうした結論を抱き、親友を踏み越えて、見た果ては何にもなかった。
後悔はない、そうするべきだと自身が信じたから。
曲げる気はない、それはこれまで奪ってきたものに対しての冒涜だから。
聖杯戦争という舞台になっても、自身が英霊に成り果てても。
夏油傑は理想の果てを目指し、この汚れきった両手を振るう。
だからこそ、勝利に対しては貪欲であり、最短最適を追求する。
その観点から見て、夏油は眼前の“城”を観察し、秒で結論付けた。
あれは無理だな。
ため息混じりに心中で呟いた言葉には実感がこもっていた。
夏油は眼前に広がる城を見て、即座に攻略を打ち切った。
低級の呪霊が消し飛んだ痕跡を見に来たら、藪蛇を突いたみたいだ。
あの城は難攻不落という言葉でも生温い。
少なくとも、自分一人で乗り込んだら、即座に座へと還ってもおかしくはない。

重ねて言うと、あくまでも、自分一人の場合だ。
英霊になる前、百鬼夜行を束ねた時もそうだった。
手数を揃え、多角的に世界を奪ろうとした。
結果的には負けてしまったが、手法としては間違っていなかった。
故に、舞台と戦争が変わっても、夏油がやることは変わらない。

「――とまあ、あの“城”について、推論はした。
単独の撃破は不可能。城主をどうにかして引っ張り出すのが最適の手段だとも。
もっとも、君も、私と同じ考えに至っていると信じているけれどね。
それに、――あの城で君臨する者は“悪”だということも」
「同感だ。目立つ形で城を奪う化性だ、自身の強さに疑いがないのだろう」

相対する金髪の男――クリストファー・ヴァルゼライドは黙って聞いている。
自分の推論、国会議事堂に巣食う主従は単体での撃破は厳しいことを。
その推論を聞き、表情を変えず、思考にふけっている。
接触したのは偶然だった。お互い、あの国会議事堂をどうしたものかと偵察に来た際、遭遇してしまった。
出会って秒で殺し合わなかったのは、国会議事堂が前にあったからだ。
敵のお膝元で、消耗など愚の骨頂。勝利が至上である二騎のサーヴァントは効率的に戦いをしないことを選択した。

「だからこそ、攻城戦をするなら、手数がいる。
最低限、あれを潰す……もしくは消耗させるには単体では足りない。
私はね、この聖杯戦争でアレは渦中になると読んでいる」

ヘイトコントロールとして、国会議事堂に君臨するあれは最上級だ。
思想、方針問わず、危険視する主従は少なくないはず、と。
ならばこそ、そこに勝機はある。

「それに、とても“臭い”。早急に潰さない限り、力は膨れ上がる一方だ」
「ならば、一人で突っ込めばいいだろう」
「君はわかっている返答をそんなに聴きたいのかい。悪を滅するのに最善を尽くさない理由が何処にある?
戦いというのは質も大事だが、量で決まる」
「……手数を揃えたとして内部から腐るぞ」
「知ってるよ。だからこそ、新鮮な内に食べてしまうんだ」

一日。もしくは二日で手数を揃えて叩く。夏油が出したプランは早急な決着だった。
長々と味方も相手を肥え太らせる気はない。

「早期決戦は君も望むところだろう。向こうが居城から出てきてくれる愚鈍な豚なら嬉しいがね」
「長々と推論を聞かされたが、結局は殺すだけだろう?」
「できれば、ね」
「できればではない、できなくてはいけない」

これは戦いではなく、戦争である。最後に生き残った主従こそが勝者だ。

「…………ひとまず、アレを倒すまでは仲良くやってくれるということで構わないね?」
「いいだろう。過程がどうであれ、この戦争に勝つのは“俺”だ」
「その自信が口だけではないことを祈ってるよ」

二騎のサーヴァントの邂逅は数十分で終了した。
一日目、二日目と合流する場所を決めて。簡潔すぎる交渉は終わりを告げた。
百鬼夜行の再現を目指し、夏油は再び東京の街を駆け上がる。
それはかつてとった杵柄でもある。謀略、暗殺何でもやろう。
理想の成就は穢れ切った奇跡を以て叶えられる。






実を言うところ、クリストファー・ヴァルゼライドは集団形成による討ち取りを全く期待していない。
あくまでも、プランニングの並行進行――あくまでも、メインプランニングは単独での討伐を仮定している。
刃を収めたのは勝利への確実性が高まるなら、と。夏油の提案を飲んだに過ぎない。
彼の言う通り、あの国会議事堂を一人で攻めるには手が折れる。
無論のこと、城主に単独で勝利する自信はある。不可能を可能とせん気合と根性があれば、何でもできる。
とはいえ、真正面からの激突は消耗を避けられない。城の主とはまだ相対していないが、そう判断できるだけの要素は揃っている。
なればこそ、相手の陣地で戦うならば、数を揃えて攻め立てる。
夏油の提案は、一国を収めたヴァルゼライドからすると、当然のプランニングであった。
しかし、それはそれ、これはこれだ。素直にそのプランニングだけに頼る気はさらさらないし、何なら期待もそこまでない。
ヴァルゼライドは集団の脆さを知っている。
ましてや、聖杯戦争という群雄割拠の世界で、心から背中を預けられるなどあり得ようか。
人は、簡単に歪み、壊れる。生前も、そうだった。
人は善悪問わず、単一なモノこそ、一番強い。

――上手く誘い込めるか。それとも、攻め立てるしかないか。

最終的に殺すことには変わりないが、過程は変わる。
重ねて言うが、ヴァルゼライドからすると、集団を形成することによる期待はない。
ただうまい具合に歯車が噛み合えば、使える可能性はある。
集団にしろ、城主にしろ、歯車の破綻の際、派手に壊れてくれたら、後はもう突き進むのみ。
結局、頼りになるのは自身だけだ。状況を構築してくれる周りはあくまで付随物。
様々な戦場を渡り歩いた真ん中を悠々と歩くのは総統としての当然の行い。

……小難しい事を考えた。

戦場なんて簡単な律で成り立っている。
難しくこねくり回す必要なんてない、正義を証明するべく――思いのままに暴れればいい。
夏油のプランニングが失敗したら、堂々正面から入り、潜む敵を叩き斬る。
最悪、あの城ごと叩き斬ってしまえばいい、と。
どうにもならない場合はそうする他ないのが悲しいところだが。

「――是非もない」

あの城を壊すのは、主の意向とも合致する。機があるなら、逃さない。
そして、城主の次は――誰を斬ろうか。
夏油は知らない。ヴァルゼライドの“刀”が翻る速度は早い。
国会議事堂という巨悪を斬った次を見定めていることを知らない。


【千代田区・国会議事堂(『城』)付近/一日目・午後】

【キャスター(夏油傑)@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:軍団の形成。『城主』が手を付けられなくなる前に、1日~2日で『城』の攻略を目指す。

【バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)@シルヴァリオ・ヴェンデッタ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:勝利を。正義を成す。『城主』は殺さないといけない。
※夏油傑の案についてはスペアプラン程度の期待しか持ってません。


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000:空白と逆光
キャスター(夏油傑)
000:空白と逆光
バーサーカー(クリストファー・ヴァルぜライド)

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最終更新:2022年12月16日 18:36