「とりあえずライダー君の言う通り、特に変わらず普段通り過ごすつもりではあるんだけどさ」
「うん、それがいい。下手に普段と違うことをするとその違和感を気取られてしまうからね。
その点については、君の胆力は大したものさ。今のところ、振る舞いから違和感を持たれていることはないだろうね」
「けどさあ……学校、終わっちゃったじゃん?」
十二月二十四日、午後。
東京都における大抵の学校においてそれは冬季終業式の日であり、それは再現された異界東京都においても同じことだった。
宮薙流々という少女にとっても同じことであり、彼女以外の大抵の学生にとってもまた同じことだった。
午前のみで終了した学校から帰り、テーブルで納豆ご飯を食べながら茶を啜り、食器を洗い会話に興じる。
そんな中唐突に訪れた、予選終了の知らせ。
ともなると、流石にその話題の方向性は一つに絞られた。
「こうやって時間ができちゃうとねー、流石に色々気になっちゃうんだよね。
別に聞いたところであたしに何ができるとか思ってるわけじゃないけどさ……ライダー君は、これからどうするの?
っていうか、予選期間中って何かやってたの? こう、無茶してないか聞いた手前さ……」
「そうだねえ、気にしなくてもいいとは言ったものの、その意味に拘わらず知的好奇心を満たしたくなるのが人というものか。
それに良くも悪くも君は聞いたところでそれを気にせずありのままに生きる才能がある。ならば、問われるがままに答えるとしよう」
そんな様子に、ライダー・
スメラギは苦笑いする。
彼女と彼の間には、いくつかのささやかな約束事があった。
どれも真っ当に生きる分には破りようもない、平凡な約束事。
しかしこの聖杯戦争の只中においては維持することの難しい平凡だ。
そんな平凡を、今も守れているかどうか。
無論、問題はないと
スメラギは自答する。
マスターである流々の日常が曇るような行動を慎むこと、それを第一義に彼は動いてきた。
そう、無理をしない程度に、最適な手段を選んできた。
「予選をどう過ごしてきたかだけど……僕が君の側をほとんど離れていないのは知っての通りだ。
実際僕は自分で動くタイプのサーヴァントではないからね」
「うんうん、そんな話してたね。頭脳派だって」
「無論、情報収集はしていたけれど……僕たちの目標と君の安全を顧みるに、そちらも特に今力を入れる理由が無かった。
情報収集は大切だ、しかし情報というものは水物であり流動的だ。予選を様子見で流し隠遁に徹すると決めた以上、集めた情報は八割方無駄になる。
せっかく集めた敵の情報も、予選が終る頃には皆くたばってパーになっている可能性もあるわけだ。
だからそんなことに無茶を通すより、君の傍にいることの方が大切だった」
「うーん……つまり、本当に無茶も何も、特に何もしてなかったってこと?」
流々には小難しいことは分からない。なので半分は聞き流し、自分にとって大事そうな部分だけを捉えて質問する。
そのことは
スメラギも承知しており、聞き流した上で後で思い出すこともあるだろうと、解説を重ねていく。
「無茶と言われるような何かはしていなかった、という話さ。深夜にちょくちょく出かけてただけでね。
それにこの情報社会においてはただ座っているだけでも情報は集められる。
君だって学校にいれば色々と胡散臭い噂を聞くだろう? チェンソーの怪物だの、夜な夜な歩き回る亡霊だの」
「あー、聞いた聞いた。ちょっとおかしなくらい一杯。実際に見たって人も結構いたよ」
「無論その大半は与太話……と、いうよりも、マジの話に煽られて流行化した作り話、というべきか。
目撃証言の数や実際の被害を手繰っていけば、その実在性の是非は容易に確認できる。
そういう目立ちたがりの参加者が事件を重ねていくことで、僕もまあ安楽椅子に座りながら状況を分析できるわけだ。
それにこういうバトルロイヤルにおいてはセオリーってものがある。セオリーと情報を組み合わせることで、必要なものの半分は見えてくる」
「おおー、じゃあライダー君には見えてるの? その……状況、ってやつ?」
「勿論。千年の経験は伊達じゃあないとも。ではちょっとした質問だ。この予選を突破した二十四組の主従って連中は、どんな奴らだと思う?」
「どんな……?」
流々は眉間に皺を寄せ、首を傾げる。
その頭の中でイメージするのは、数十もの敵をバッタバッタとなぎ倒す邪神っぽい何かの姿だった。
「そりゃー、予選を突破する、ってくらいだから、ものすんごい強い人達なんじゃない?」
「うん、それは間違っていない。けれどまだ見えてない側面があるね。それは『君』もまた二十四組の主従の一人ってことさ」
「あ! それって」
言葉を受け、視界が一気に拓けた。
そう、彼女はただ日常を過ごしていただけだった。
その結果他のサーヴァントに出会うこともなく、予選を乗り切ってしまったのだ。
「そう、予選を突破した主従には大雑把に分けて二種類の主従があると思う。
一つは君の言ったように聖杯を狙い積極的に戦い勝ち上がってきた精強な主従。
そしてもう一つは」
「あたしたちみたいな主従……」
「積極的に戦う理由のない主従だね。
人を殺してまで叶える願いなんてない主従だとか、戦略的に戦うことを避け隠れることを選んだ主従だとか、理由は色々あるだろうけど。
けどここで重要なことは各々の理由ではなく『予選を突破した主従のすべてが必ずしも強いとは限らない』ということなんだ。
本戦開始まで戦いを避け隠れることを選んだ主従はどうしても自力では強力な主従に及ばない。なら、どうするべきだと思う?」
「んー……逃げるか、別の主従に助けてもらうか?」
「同盟だね。日本の戦国時代とかでもよくやっていただろう? 大名同士の同盟。
小さな勢力が大きな勢力に抗うための手段。やがて小勢力の集まりが大勢力を凌駕し更なる大勢力になると、今度は大勢力が小勢力となる。
さて、小勢力が大勢力になる手段は?」
「えっと、小さい方が大きくなったから、大きい方が小さいってことになって……?
じゃあ小さくなった大きい方はもっと大きくならないと、って、あれ? んん?」
「分かってきたかな。そう、余程自分の腕前に自信のある主従でない限り、ここから先『勢力化』は絶対条件なんだ。
けれど勢力の肥大化はイタチごっこにはならず限界が訪れる。
それは陣営同士の利害の一致が成るかどうかもあるけど、それ以上に残る主従は二十四組しかいない、という数の上の現界点だ。
この本戦における本質は『勢力戦』だ。それが例え終わりには瓦解することが前提のものだったとしても。
より先んじて強力な勢力を築き上げた陣営が出遅れた単騎の主従を駆逐し、やがて勢力同士のぶつかり合いになる。
そしてこのビジョンは、軍略に明るい人物であれば共通見解として認識していることだろう」
「同盟同士の戦いってこと? あぶれちゃったところが弾かれて……えっ。
ら、ライダーくん! それってあたしたちすごいまずいってことじゃない!?」
「お、気づいたね。そう、予選終了までは良かったけど、ここからは勢力戦だ。
つまり協調できる陣営の存在しない場所は一転窮地に陥る事になるんだ。それがどういうことかっていうと」
スメラギがぴんと指を立て流々に向ける。
慌てて右往左往していた流々の視線が指に向かい、落ち着きを取り戻していく。
「どういうことかというとね」
「ど、どういうことかっていうと?」
「無論、僕は既に『同盟候補』にアタリをつけているってことだね」
「…………えー!?」
本日二度目の右往左往。
彼女は困惑のまま、なんとか現状を認識するべく真意を問い質す。
「けどライダー君さっき言ってたじゃん! 予選中は特に何もしてなかったって!」
「おいおい無茶はしてないとは言ったけど、何もしてないとは言ってないぜ。
確かに僕はこの予選中君の近くにいることを第一としたし、情報収集にもそれほど力を入れていない。
ただ、最低限必要な情報一つに的を絞って、それ以外を切り捨てただけでね」
スメラギの予選中の行動といえば、なるほど確かに数える程度で事足りるものだった。
千年を生きる不死者、神祖たる大国主の手腕としては極めて消極的、怠惰と謗られても仕方のないものだろう。
しかし、それでも何もしなかったというわけではない。
「僕は大っぴらに姿を現すわけにはいかなかった。それは君の安全面というのが第一ではあるけど、他にもちょっと嫌な勘が働いてね。
根拠のない勘だけど……僕の姿はおろか、『アメノクラト』を目撃されることさえも危険だと思う。
僕は大抵の相手に負けない自信はあるけど、生前と違って魔力に縛られる身であるし、本戦以降も現在の姿勢をある程度維持する必要性を感じた。
なら必要なものは何か、それは僕たちに代わり外の情報を集めてくれる協力者の存在だ」
「うん……けど、そんな人達あたしは知らないよ? ライダー君が予選で見つけてくれたの?」
「道すがら、たまたま君と同じようにただ帰還を願う主従を発見する。そしてその主従が予選を生き残ってくれることを期待する。
そんなことは全くもって不毛なことだ。だから僕が探したのは、スタンスはどうあれ隠密と生存能力に長けた主従。そして何より、情報収集に長けた主従。
さて、この二つの条件を満たすものが、サーヴァントのクラスには存在する。
僕はそのクラスのサーヴァントであるという一点のみに着目し、情報を集めた。そして……いたんだよ。少なくとも『協定』は結べそうな相手がね」
そして、着信音が響く。
備え付けの家電話ではない、聞き覚えのないシンプルな着信音は、
スメラギから聞こえてくる。
スメラギは見慣れない携帯電話――それは、ただの携帯電話ではない。
『鹵獲』スキルによって低ランクの神秘が付与された、サーヴァントが携帯することを可能としたアイテムだった。
「――やあ、もしもし。始まったようだね。うん、こちらも把握しているさ。どうやらサーヴァントが聖杯から受け取る情報に差異はないらしいね」
着信に応じ、
スメラギが電話の向こうの相手に語りかける。
そう、同じサーヴァントに対し、状況を共有するべく。
「連絡をくれたということは、その気になってくれたかな? まあ、無くてもこちらからかけるつもりだったんだけどね。
けれども、憶測でものを語り続けることほど愚かなことはない。答えを聞こう」
スメラギがちらりと流々を見る。
その視線を受け、彼女も感じた。
彼は変わらぬ日常を送ることを大切にしてくれている、けれど、やはりここから何かが変わろうとしている。
そのために、何かができるのかもしれない。それは決して特別なことではなくて、いつもの日常の延長線にあることで。
「――アサシンのサーヴァント。答えは如何に?」
例えば、電話の向こうの人と、仲良くなれるのかもしれない、ということだ。
*
「――招待を受けるわ、ライダーのサーヴァント。会合場所は……」
必要な条件を詰め会合を約束し、通話を切る。
アサシン、アンジェは使い捨て携帯電話を見つめ、予選中の出来事を想起した。
予選の間彼女は戦闘を行うことはなく、マスターの日常は保たれていた。
ただ、そう、接触がなかったわけではない。たった一度だけだが、接触はあった。
まさか『アサシンのサーヴァント』かつ『非戦に徹している存在』を予選期間中に徹底的に洗い出そうとするものがいるとは。
ライダーのサーヴァントは諜報を行っていたアンジェの存在を割り出した。それは気配の感知などではない、もっと恐るべき経験則の産物だった。
そして恐らくスキル化しているであろう話術を用い、戦う意志の有無を探り、また戦うつもりのないことを主張した。
その主張を受け、アンジェは一先ず連絡手段として鹵獲済みの使い捨て携帯電話を譲渡したのだ。
そして予選が終了し本戦が開始した今、
「協力、できそう?」
「そうね。恐るべき力の持ち主と見たけど、あの戦意の無さと言葉の内容に嘘はなかったわ。
マスターは同行しなくてもいい、という言質も貰ってるし」
「そっか、ボクにはわからないけれど……アサシンが信じるに足るって思ったなら、アサシンの判断を信じるよ。
同行するかどうかはちょっと、考えるね」
「危険だから私だけで行く、と言いたいところだけど。マスターの判断を尊重するわ。
このワイヤーの続く先が、光明であれば良いのだけれど」
今が、決断の時であるとアンジェは判断し、マスターである
暁山瑞希に情報を開示した。
そして、双方の意思が今重なった。
そう、一先ずは話をしよう。
この先に来る非日常、その災厄を乗り越えるために。
【大田区・流々の自宅/一日目・午後】
【宮薙流々@破壊神マグちゃん】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:日々やっとこさ暮らしていける程度
[思考・状況]
基本方針:冬休みに突入したけど、日常を過ごす。釣りにでも行こうかな
1:と思ったらライダー君が突然爆弾を投下してきた件
2:同盟候補ってどんな人だろう……仲良くできるかな
[備考]
聖杯戦争に対し自分なりにできることを模索しています。
ただしそれはあくまで日常の延長線として可能なことで、彼女の芯は変わりません。
会合に参加するか否かは後続の書き手さんに一任します。
【ライダー(
スメラギ)@シルヴァリオラグナロク】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:使い捨て携帯電話
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:マスターの安全を第一とし、それ以外を第二とする
1:仕事をせずにのんびりするのって素敵だねえ(仕事はしている)
2:『勘』だけど、嫌な予感がするな……まだ表に出るべきじゃない
[備考]
予選段階でアサシン・アンジェと接触し通信手段を確保していました。
また『勘』により神祖又は使徒が聖杯戦争に参加していることを確信しています。
具体的に誰がいるかはまだ感知していませんが、これにより自身の姿はおろか『アメノクラト』を展開することも今は危険だと認識しています。
アサシンと会合の約束をしました。
会合場所は後続の書き手さんに一任します。
【品川区・瑞希の自宅/一日目・午後】
【暁山 瑞希@プロジェクトセカイ】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:生きて帰る
1:同じことを考えている人がいるのなら、協力できるのかも……?
2:アサシンを見つけ出すなんて、きっとすごい強い相手なんだろうな
[備考]
予選までは日常を過ごしており、ライダー陣営については本戦が開始した後アサシンから開示されました。
現在は半信半疑ですが協力には若干前向きであるとします。
会合に参加するか否かは後続の書き手さんに一任します。
【アサシン(
アンジェ・ル・カレ)@プリンセス・プリンシパル】
[状態]:健康
[装備]:鹵獲武装一式
[道具]:使い捨て携帯電話
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:得手を活かし暫くは諜報に徹する
1:本戦が始まった……もう猶予はないわね
2:話術に長けたライダー、彼からは一国の王の風格を感じたわ
[備考]
予選段階でライダー・
スメラギと接触し通信手段を確保していました。
ライダーの交渉力を驚異に感じていますが、その言葉に嘘はないと思ってもいます。
ライダーと会合の約束をしました。会合場所は後続の書き手さんに一任します。
最終更新:2022年12月16日 18:37