DMC狂信者からの刺客であるデュエリストのヘルカイザー亮から下から逃走した2つの野球チーム、イチローチームドラゴンズ
彼らは巨大な邪竜ギムレーに乗って空から東京湾を渡り千葉県へと移動した。
ヘルカイザーには高速で海路を渡る手段が無いという見通しから千葉県に進路を進めたのである。

そして、二つのチームは千葉県木更津市の浜にたどり着き、戦いに疲れた体を少しでも労わるべく休憩を取っていた。
しかし、その休憩も長くは続かぬだろう。
千葉は東京に隣接しており、東京のビッグサイトに本拠地を置いているDMC狂信者はすぐに兵隊を回してくるだろう。
おまけに殺し合いが続けば禁止エリアによって移動できる場所も狭まってき、最終的に逃げ道はなくなる。
故にイチローは決断し、皆の前で言った。
「このまま逃げ続けるだけじゃダメだ! DMC狂信者と戦おう!」と。

「イチローさんの言うとおりっス。
どうせ逃げられなくなるなら、戦った方が言いに決まってるっス」
「俺は……ハラサンの覚悟をくだらないとか言いやがったあいつらが許せねえ」

イチローチームの中に、思考や覚悟に差異こそあれどDMC狂信者と戦うことに反対する者はいなかった。
狂信者の横暴をこの目で二度も見てきた彼らには、なんとしても狂信者を倒したいという意思が生まれており、エースであるイチローのおかげで踏ん切りがついた形だ。

「イチローの言うとおりだ、あいつらがいる限りおちおち野球もできはしない」
「予言を成し遂げる前に邪魔者を排除しとくべきホルね」

イチローチームの面子と同じくドラゴンズもイチローの意見に賛成であった。
彼らは仲間であるオーバーロードを狂信者に殺されている。
狂信者と戦うにはそれだけの理由で十分であった。

「俺もイチローに賛成さ。奴らを止めなくては被害もどんどん拡大していく一方だしね」

影で世界の滅亡を望む者――久保帯人すらも同意見であった。
と言っても、善意から狂信者と戦うと発言していたわけではない。
某ご立派様同様、この殺し合いは世界を救う手段であると見抜いていた久保帯人は殺し合いを助長させてしまうDMC狂信者の存在は目の上のタンコブなのだ。
ダース・ベイダー達のやろうとしている救済の手段と、ハラサンの伝えた予言からの救済の手段は同じものかまではわからないため、万が一のために儀式の完遂阻止に加えて殺し合いも停滞させなくてはならないと久保帯人は見ている。
自分のチームの監督がそんなことを考えていることを知らず、イチローは二つのチームの方針を決めた。

「よし。ひとまず、DMC狂信者を倒すまでは試合は保留しよう。
無理に試合をしたところで奴らに邪魔されるだけだからね」
「でもイチロー、DMC狂信者の数は半端じゃないわよ。
千人ぐらい死んでも、まるで活動に支障がないって話だし、そいつら全員相手にするって言うの?」
「鬼の私でも、一万から先の敵を相手にして勝てる保証はないなぁ……」

霊夢と萃香の質問はもっともだ。
DMC狂信者の頭数は、現存するグループの中でもずば抜けて多い。
先の都庁への襲撃で実力者である魔竜と3000人の兵隊を失っておきながらも、狂信者の活動は傾くどころか僅かたりとも衰えを見せてない。
その総兵力は多すぎてどの組織も正確には把握できていないが、下手をすると百万人以上はいるかもしれないのだ。
クラウザーさんなら老若男女人外魔物問わず百万人程度の狂信的ファンを生み出す歌唱力を持っているのだから、それくらいの予想は誰でもつく。
もし仮に百万人も相手にするなら、例え理不尽級の力を持っているイチローチームやドラゴンズでも消耗して追い込まれて全滅するだろう。
そんな彼女らの疑問に答えたのはギムレーだった。

「いや狂信者全員を相手にする必要はない」
「どうゆうこと?」
「狂信者共が虐殺を働いている理由は奴らが信仰している存在……すなわちクラウザーの蘇生のためだ。
だったら霊夢、あいつらの信仰しているクラウザーが絶対に生き返らない状況になったらどうなる?」
「……そんな絶望的な状況になったらまず戦意を失うわよね、少なくとも足並みは揃わなくなりそう」
「さすがその手の世界で生きている巫女だ。信仰に対する理解が深い」
「勿体ぶらずに言ってよ、具体的に何をすればいいの?」

ギムレーは東京湾――正確には、東京のビッグサイトがある方角を指でさす。

「僕達ドラゴンズはドラゴンネットワークで狂信者達がビッグサイトにて、クラウザーをなんらかの儀式で生き返そうとしているのを把握している。
彼らの本拠地でもあるビッグサイトさえ陥落させればクラウザーの蘇生が不可能になり、狂信者達は戦意を失い総崩れになるだろう」

ギムレーが目をつけたのはビッグサイトであった。
そこは現在は狂信者達の要塞と化しており、ここでヨハネ・クラウザー二世の蘇生が行われる噂が流れている。
ドラゴンネットワークで入手した情報が本当ならば、ここを落とせばDMC狂信者という組織は崩れる。

「拠点としても人員こそ密集しているものの、一箇所の土地に集まれる人数には限りがある。
少なくとも日本中の狂信者全員を相手にする必要もないハズだ」
「なるほど、なんという冷静で的確な判断だ……だったら!」

ギムレーからの話を聞くや否や、ナッパは腕にエネルギーボールを作り出し、投げの構えに入る。

「な、何をしてるんだナッパ?」
「決まってんだろ?
今からビッグサイトにこいつをお見舞いしてやるのさ!
そうすりゃ、DMCの奴らとも一発でカタがつく……」

サイヤ人、特にナッパほどの逸材となれば都市の一つや二つの破壊は朝飯前である。
多少大きな建造物を一つ瓦礫に変えるなど造作もないことだ。
狂信者との因縁を一瞬で終わらせるべく、ナッパは千葉からビッグサイトへ向けて直接攻撃を敢行しようとした。

「なんだって!?」
「ちょい待てストップストップ!!」
「ヤメロッ! 落ち着け!!」

ところがギムレー、オシリス、ファーマルハウトが今にも光弾を投げようとしたナッパに対して待ったをかけた。

「なんで止めるんだ?!
狂信者達をぶちのめしさえすれば安心して試合もできるようになるんだぞ!?」
「それはそうなんだけど、ビッグサイトを爆撃をしてはいけない事情があるんだ!」
「事情?」
「それは僕達も気になるな、是非聞かせてほしい」

ビッグサイトを直接攻撃してはいけない事情があると聞き、ナッパは攻撃を中断し、他の面々も耳を傾けるとオシリスが解説する。

「ビッグサイトには今、膨大な魔力が集中しているらしい。
言わば核融合炉入の箱みたいなもんで、そんな場所に強力な爆撃をしようものなら超反応を起こして大爆発を引き起こす危険がある。
最低でも東京中が瓦礫に変わって、罪のない人間達や世界の希望たるロリも巻き添えになる。
ロリコンたる俺はそんなことをさせるわけにはいかない」
「なん……だと!?」
「それが本当なら、ナッパだけじゃなく、僕のレーザービームも使うわけにはいかないということか?」
「それの回答は『イエス』だ。
……クソッ、こうなるならもっと早めにDMCを潰しておくべくだった!」

イチロー達は知る由もないが、ビッグサイトは狂信者を指導する上層部によって巨大な生体マグネタイト収集装置に変わっており、日本中の死者から抽出されたマグネタイトはここに集まっており、度重なる殺し合いやどこぞの自重知らずな集団がマップ破壊をしまくったことで犠牲者が増え続け、狂信者自体も大量の死者を出すことでマグネタイトの量は膨大なものになっていた。
最初は大した量ではなかったが、現在はオシリスやギムレーのような位の高い竜ならば肌でわかるレベルである。
そうなった以上、施設にあまりにも強力な攻撃を加えた場合、大爆発を起こすリスクも考えられた。

「魔力って、まさかクラウザーを蘇らせるためのエネルギーなのか?」
「ああ、魔力の詳しい正体まではわからねえけど、たぶん生体エネルギーの類だろうな。
ロワによる死人が増える度に、ビッグサイトに集中している魔力がどんどん大きくなってやがるし」
「奴らはクラウザー一人を生き返らせるために大量の生贄を捧げる必要があると言っていたっス。
気が触れた連中の狂言だとばかり思っていたけど、あながち眉唾でもなさそっスね……」
「しかし、それだけの魔力を集めてどうやって奴らはクラウザーを生き返そうとしているんだ?
大災害以降、ザオラルのような蘇生呪文が使いものにならなくなったらしいのに……」
「方法までは流石に見当つかないな……もっと俺らより位の高い神ならそれもわかるんだろうけど……」
「オイオイ、奴らのクラウザーを生き返す方法なんてどうだっていい。
問題なのは、この俺様やイチローの爆撃を行うべきじゃないとわかった今、どうやってビッグサイトを攻めるかだろ?」

DMC狂信者の凶行を止めるために攻撃しようものなら、関係のない者達まで大量虐殺しかねないことがわかったナッパ達。
だからといってDMCを野放しにする理由はイチローチームやドラゴンズにもなかった。

「まあ、そう慌てるなナッパ。
ようはビッグサイトを爆発させないように戦えば良いんだ」
「となると……遠距離から強力すぎる一撃を叩き込むより、直接ビッグサイトに乗り込んで白兵戦を仕掛けて制圧した方良さそうだ」
「肉体一つでの殴り込みによる特攻っスか……」
「コノ面子ナラ、ホトンドガ殴リ合イニモ対応デキソウデスネ」

ちなつのような非戦闘員は例外として、幸いにも白兵戦に優れた猛者は両チームに揃っている。
イチローチームの戦闘要員は拳や剣だけでもモブ狂信者を一度に十人は倒せそうな実力を持っており、ドラゴンズの竜達は爪や尻尾の一薙だけで戦車を粉々にできる戦闘力を持ち合わせてはいる。
だが――

「でもww俺達だけであの異常な数を捌けるわけがないっすよww
全員相手にする必要ないにしてもビックサイトに一万人ぐらいはいるっしょwww」
「それが問題ホルね。
あそこを攻めるならもっと多くの戦力を掻き集める必要があると思うホル(特におっぱいが大きい子なら大歓迎ホル)」
「ヘルカイザー亮への対抗手段もないし、このままではどのみちダメだろうな。
東京に戻るまでに多種多様な戦力を集めたいところだ」

ビックサイトを攻めるには今以上の戦力を集める必要があると一行は決断づける。
そして力を貸してくれそうな目ぼしい対主催グループを、竜達の情報ツールであるドラゴンネットワークを織り交ぜつつ考える。

「危険集団らしい拳王軍は論外として、都庁の魔物達も世界の危機を救うためと聞けば力を貸してくれるかな?
関東でDMCと真正面から渡り合えそうな戦力を持っていそうなのはアソコぐらいなものだし」

そう発言したのはロイだ。
都庁の魔物は危険視されてはいるが、そのトップは竜である以上ドラゴンズの竜達ならば交渉できるだろう。
元々DMCとは戦争状態であり単純な戦力は向こうも欲しいだろうし、世界を救うためなら一時的でも人間への攻撃を止めて協力してくれるだろう。
都庁に所属するウォークライはフォーマルハウトと関わりがあり、オオナズチは黒炎竜と面識はある。
話し合いの余地は十分にあると、ロイは思っての発言なのだ。
しかし、それは彼のパートナーであるイドゥンの言葉によって一行から却下される。

「ロイ様、申し訳ありませんが……都庁の魔物はロイ様が思っているほど穏健な者達ではなさそうです」
「イドゥン、どういうことだ?」
「東京の対主催グループである警察組が都庁の魔物によって壊滅させられたとの情報が入りました」
「なんだって? それは本当かい!?」
「先に仕掛けたのも魔物側であり、警察組は一方的にやられる形になったそうです。
特に警察組でもリーダーシップを取っていたメタルヒーローのジバンは頭を砕かれて全身を焼かれた残骸を発見されています。
ただ敵を倒すためならこんな酷い殺し方をする必要はないはずですし、都庁の魔物は信用するべきではないマーダー集団でしょう」
「そんな……」
「狂信者や拳王連合と何も変わりゃしねえじゃねーか!」
「あのおチン○ども、やっぱりやっつけにいくべきだったわ!」
「オバロが抜けた分、オオナズチをチームに加えようかと思ってたけど……
ゴメンww俺が間違ってたわwwやっぱオオナズチはw早wよw死wねw」

イドゥンが話した情報の真実は、警察組を血祭りにあげたのは都庁の魔物がではなく天魔王軍である。
これは魔物と魔族の区別がつかない人々による誤報によるものだ。
だがイドゥン始め、両チームにそれがわかるハズがなかった……ドラゴンネットワークとて万能ではないからだ。
それに気づかず、他のドラゴン達も畳み掛けるように都庁の情報を口に出す。

「おまけにグロくてヤバイ怪物まで召喚したようだ……この魔力はガチでやべーな。
この俺、オシリスとイチロー……いや、二つのチームが死ぬ気で挑んでも勝てるかどうかわからないレベルだ」
「さっきの地震の正体はそれか」
「そんなもの呼び出してどうするつもりなのかしら?」
「支配か破壊、もしくはその両方に決まっておるダロウ? ワレならそうする」
「場合によっては都庁の軍勢とも戦うことを念頭に入れた方が良さそうだな……」

ドラゴンズがもたらした情報により、真実を知らぬ両チームから多大なバッシングを受ける都庁の軍勢。
これによって二つのチーム間で都庁の軍勢は信用すべきではないと結論に至った。

「オシリス、他に狂信者に対抗できそうなグループや組織はないのか?」
「ええい急かすなよイチロー。
今、ドラゴンネットワークで全力で探しているんだよ!」

自分達と共に戦ってくれそうな集団を探す一行。
残る有力対主催グループになのは組や狸組などもいるが、彼らはまだ存在を知らない。
ドラゴンネットワークでも、すぐに探し当てるには多少の時間を要するようだ。



その最中に突然の来訪者が現れた。


「おい、アンタら」
「「「!?」」」

全裸でヒゲが触手状で、なんか全身がヌルヌルしたキモいオッサンがいきなり現れた。
両チームは一旦、仲間探しに関する考察を中断し、皆がキモいオッサンへの警戒に移った。

(なんだこのクッソキモい奴は……)
(狂信者かマーダーかもしれんし、警戒しておくに越したことはないな)
(ああ! ヒゲが触手オ○ンポまみれ!)
(ソウルセイバー、少し自重しろ)

警戒を強めていく一行に、オッサンは構わずに声をかけていく。
受け答えに応じるはイチローである。

「東京の公園で寝てたハズなんだが、寝る前と明らかに景色が違う……ここはどこだ?
それから俺のガンダムはどこに行ったか知らねえか? 赤いガンダムなんだが」
「ここは千葉県の木更津だ。赤いガンダムに関しては知らない」
「そうか……」
「ところで率直に聞くけど、アンタは殺し合いに乗っているのか?」
「いや……俺は殺し合いはやらねえ」








「俺がやるのは『戦争』だからな!!」

キモいオッサン――アリー・アル・サーシェスは確かにそう言った。
サーシェスはニタリと怪しい笑顔を浮かべると、次の瞬間には強い殺気と共にヒゲの触手が総毛立ち――


「 エ ン ド ブ レ ス 」


――サーシェスが仕掛けてくるよりも早く、フォーマルハウトは殺気を感じたと同時にブレス攻撃を放った。
衝撃で浜辺の砂煙が辺りに立ち込め、煙が収まった頃にはサーシェスは跡形もなく消えていた。

「よくやったフォーマルハウト。おかげで被害もゼロですんだ」
「真竜として当然のことをシタまでだ、ハーハッハッハッ!」

フォーマルハウトはあからさまに怪しいサーシェスに対して、一目見た時から危険な匂いがしたことを察して、いつでも殺せる準備をしていた。
結果的には正解だったと言え、真竜としての株をまた一つ上げられたと思ったフォーマルハウトは高笑いを上げる。



だが、しかし。
彼の一瞬の慢心が不幸を呼ぶことになった。

「ハーハッハッ――ガッ!?」

フォーマルハウトの高笑いのためにアギトを広げていた瞬間を狙って、何者かが彼に向かって突進し、その口元を無理やりこじ開ける。

「そうれ、お返しだ」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

そして聞き覚えのある声と共に、口移しのように黒い火炎が放たれた。
容赦のない黒い炎がフォーマルハウトを体内から焼き尽くし、やがて限界を迎えると、宝石を散りばめたような真竜の肉体が爆散した。
辺りにドラゴンズの仲間を失ったことに対する悲痛な叫びが木霊する。

「フォーマルハウトッ!?」



【神体フォーマルハウト@セブンスドラゴン2020-? 死亡確認】


そしてフォーマルハウトを殺したのは、今しがた倒したはずの触手男サーシェス――ではない。
フォーマルハウトの残骸の前に立っていたのは――






「な、な、何をしてるんだホルスの黒炎竜ーーーッ!!!」

――ドラゴンズの一員であり、仲間であるはずのホルスの黒炎竜Lv8であった。
仲間が自分を殺そうと思わない……それが両チームにとっての精神的な死角となった。
オシリスすら仲間が凶行に走ったことに理解が追いつかず、いつもの軽いノリを忘れて叫ぶ。
そして仲間を殺したホルス自身は台詞に草を生やしながらも、酷く焦った様子で仲間に訴えるのであった。

「お、俺の意思じゃないよ……てかw助wけwてw先w輩w!!
体wのw自w由wがw効wかwなwいwんwだ!!」
「やれやれ、危うく死ぬところだったぜ……」
「!?」
「おまえは!」

黒炎竜が仲間の方に向き直ったとき、仲間達の視線は非難から驚愕に変わった。
胸元には倒されたと思われた男、サーシェスが触手を使って彼の胸元に張り付いていたのだ。
その触手は深々と黒炎竜の胸に刺さっている。



――サーシェスはテラカオス化進行によって他の進行者同様に能力を手に入れていた。
しかし最初に手に入れた『いびきを一回する度に周囲に爆発のエフェクトが発生する』のように役に立つのかよくわからない能力であり、次に手に入れたのは『髭が触手みたいになって粘液が出てくる』という(フォレスト・セルが地上に出る際にはいちおう役に立ったが)ビジュアル的に致命的な能力だけだった……



 と こ ろ が ギ ッ チ ョ ン 。



東京から千葉まで吹っ飛ばされた後の短時間の間にサーシェスはさらに進化し、新たな能力を手にしていたのだ。
それは……『触手を通した他者への寄生と肉体の支配』である――


「俺自身もなんだかわからねーが、おもしれえ能力だぜ。
くっついたらこいつの体を自分のものみてえに動かせるようになったぜ」
「うほおおおおおwwwやめてくれえええwww俺は男に触手攻めにされる趣味はねぇwwww」

体を覆う触手からの粘液によってエンドブレスのダメージがあまり通らなかったサーシェスは、舞った浜辺の砂を隠れ蓑にして皆の目を欺いて黒炎竜の体に寄生して支配し、操った黒炎竜のブレス『ブラック・メガフレイム』でフォーマルハウトを殺害したのだ――イチロー達はそう理解した。

ちなみに明らかに人間の枠を外れた肉体の変化を起こしているが、サーシェスがそれを疑問に思うことはない。
クルルが作成した新型ナノマシンによる異常な闘争心にテラカオス化所以の精神汚染が重なり、狂乱状態に陥っているのだ。
サーシェスは戦争がやりたいという欲求のみに従う破壊者と化しており、疑問はとっくの昔に置き去りになっていた。
そして確定的に明らかなのは、サーシェスはもう人間ではないということだ。

(こんな自重しない奴は、僕のレーザービームを投げつけてやりたいところだが……レーザービームの威力では寄生されているホルスまで巻き添えになる危険がある……どうすればいい?)

イチローを始め、多くのメンバーが黒炎竜を助ける方法を考える。
あまり威力や範囲のありすぎる攻撃はサーシェスのみならず黒炎竜をころしてしまう危険があるので慎重にならざる負えなかった。
……約一名を除いて。

「夢想封……」
「ちょ、霊夢!?」

イチローチームの一員である霊夢は、サーシェス及び黒炎竜に向けて奥の手であるボムこと夢想封印を解き放たんとし、仲間がそれに待ったをかける。

「何を考えてるんだ霊夢!?」
「私だって考えなしに撃つわけじゃないわ。
ホルスは魔法が効かないんでしょ?
だったら、私のボムで触手男を倒しても、黒炎竜の方は無効化して無傷で済むはずよ」
「そ、そういえばそうだった!」

黒炎竜自体は常時魔法無効化の能力があることを思い出した仲間達。
加えて黒炎竜自体に魔法は効かないが、サーシェスはそうではなく焼き殺せるだろう。
それを見通した霊夢は、仲間を納得させて今度こそ夢想封印を放たんとする。


「こんなとこでゆっくりしている暇はないわ!
私には世界を救う祈りの巫女としての仕事も残ってるしね!」
「いや、祈りの巫女はたぶんおまえじゃないと思「 夢 想 封 印 ッ!!」」

二次創作のクッキー☆出典とはいえ、この霊夢も紛れもない博麗の巫女。
原作通りの戦闘力はちゃんと備えている。
彼女がハラサンの言っていた予言にある祈りの巫女かは不明であり、皆もそれに関しては首を傾げてツッコミを入れるが、それを押し切るように夢想封印を黒炎竜に放った。
周辺が眩い光に包まれる……この光の後に最良の結果がまっていると誰もが信じていた。












「……あれ?」
「ずいぶん温いじゃねえか、お嬢ちゃん」

目論見は失敗に終わった。
どういうわけか黒炎竜の胸に張り付いた触手男は焼け死ぬどころかピンピンしている。
そして目のくらむような光が晴れた後に、触手男に操られた技発動直後の硬直で動けない霊夢の目の前に立っており、そして――



ブツンッ



――彼女の体から首が千切り取られた。
頭を失った体が噴水のように赤い血を噴き出しながら浜辺に横たわる。
その凄惨な光景に仲間達のぬか喜びは、一瞬で悲鳴と戦慄の叫びに変わった。


「れ、霊夢ゥーーーーーーーーッ!!」


【博麗霊夢@クッキー☆ 死亡確認】


二人もの仲間を失って怒りと恐怖でパニックになりかける両チーム。
その中でホルスBが疑問を口にする。

「奴には霊夢の攻撃が全く通じてなかったホル。 なぜホルか!?」
「……まさか! 寄生している奴自身も、宿主の能力を得られるんじゃ?」
「ギムレー、どういうことホル?」
「ホルスには魔法無効化の能力がある、触手男が乗っ取った相手の能力を使えるとすれば……触手男もホルス同様に魔法無効化の恩恵を受けているんだ!」

ギムレーの考察通り、サーシェスは黒炎竜を通して魔法無効化の力を得ていた。
魔法に準ずる霊夢の夢想封印は効果がなかったのである。
それを聞いた仲間達が歯噛みする。
すなわち、蛮の蛇眼による催眠術でホルスから触手男引き剥がすことも、ナッパのエネルギー弾やギムレーとイドゥンの書物による雷撃魔法や体力吸収魔法も、触手男には通じないとわかった以上、その戦法も使えなくなったのだから。
そんな両チームをサーシェスは嘲笑うように、霊夢の生首を弄る。

「本当に楽しいぜ、戦争ってのはよう。
もっともっと血の匂いを嗅ぎたくて嗅ぎたくて堪らないぜ~」

瞳には狂気・口には愉悦の笑顔を振り向けながら、サーシェスはMSを操るのと同じ要領で、黒炎竜の手に握られていた霊夢の生首を苺ジャムが入った饅頭のように握りつぶした。
黒炎竜の握られた掌の隙間からグチャグチャパキパキという音と血肉が漏れる。

「この下衆め! よくも霊夢を……殺してやるゥッ!!」

サーシェスの所業には多くの者が恐怖だけでなく怒りを覚えていたが、その中でもっとも激情に駆られていたのは萃香だった。
友の死を目の前で陵辱されて怒り狂ったのだ。
萃香は腫瘍のように黒炎竜に張り付いたサーシェスに拳を叩き込む。

「ぐはあッ!!」

拳はサーシェスの横っ腹にクリーンヒットした。

「物理攻撃は効き目があるようだな。
どうだ痛いか!! このまま嬲り殺しに……」
「いってええええええええwwwwwwぐぼぁッ!!」
「なッ?!」

粘膜で多少は防がれるとは言え、打撃が効くとわかった萃香はすかさずニ撃目を叩き込もうとしたが、その直前に黒炎竜も苦しみだし吐血したのを見て拳を止めてしまう。

「そんなバカな……後ろのホルスに力が届かない程度には計算して殴ったのに……うわぁ!」

萃香は鬼として絶大な腕力をもってはいたが、打撃が仲間に入らないようにあえてサーシェスを横から殴りつけたのだ。
しかし実際にはサーシェスのみならず黒炎竜もダメージが入った。
それに驚いている隙に萃香は尻尾で反撃を受け突き飛ばされる。

「どうやら俺がダメージを受けると、こいつにもダメージが入るようだな」
「な、なんだと!」
「こいつを痛めつけるとホルスも傷つく……それじゃ誰もこいつを攻撃できねえじゃねぇか!」

サーシェスが受けたダメージは黒炎竜にも及ぶという理不尽な事実に一行は困惑し憤慨する。
しかし、仲間が傷つくとあらば誰しも攻撃を躊躇せざる負えなかった。
高い攻撃力や仲間を徹底的に強化するの能力も、味方相手に使うわけにはいかなかった。


「……このままじゃダメだッ! みんな、一旦退くぞ!」

そう切り出したのは6/である。
魔法こそ使えないとわかったが、素手でも強いナッパや萃香などが本気になればサーシェスを殺すことはできる。
だが、それすなわち黒炎竜の死であり、仲間を殺せる非情な判断を下せる者は、良くも悪くもお人好しばかりな2チームの中にはいない。
さらに言えば触手男の実力も未知数で、まだ自分達の知らない能力がある可能性もある。
それを鑑みた6/はイチローチームやドラゴンズに撤退させようとするべくディパックから大量の胡桃を取り出し、それらを両手で粉になるまで砕いていき、その粉を周囲に放出した。

「クルミボール番外技! クルミスモークだ!!」
「なんだこりゃ!? ゲホッ、ゲホッ!!」

胡桃の粉で作った茶色い煙幕が周囲を覆い尽くし、サーシェスの視界を覆った。

「敵の視界が潰れた! 今の内に逃げるんだ!!」
「しかし、ホルスが……」
「どのみち今の俺達にホルスを助け出す手段はない。
逆にここで逃げ切れれば、触手男からアイツを助け出せる方法や参加者を見つけられるかもしれない!
今は耐えるんだ! モタモタしていると煙幕が晴れちまうぞ!」

6/が逃げることを渋る仲間達を一喝すると、各々が煙幕に紛れて一目散に逃げ出した。
飛べる者は自力で、飛べない者は最寄りのドラゴンの背に乗り、その場から飛び去った。
煙幕が晴れた時にはサーシェスの周囲には誰もいなくなり、遠くを見ると集団は南北の二つに分かれて移動していた。

「クソッ、逃がすかよ!」

せっかくの獲物を逃がすかと言わんばかりに、サーシェスは黒炎竜の翼を使って集団の片割れを追う。
目をつけたのは……北側に逃げた集団だ!
最終更新:2015年02月05日 18:55