愁桜
この街の一角には、周りがビルやマンションに囲まれた、
まるでそこだけ切り取られた空白のような広場がある。
おそらく開発予定として買い取られたものの、
そのまま使われる事なく忘れられた土地なのだろう。
まるでそこだけ切り取られた空白のような広場がある。
おそらく開発予定として買い取られたものの、
そのまま使われる事なく忘れられた土地なのだろう。
以前は売地だか借地だか、何らかの立て看板がおかれていたような気もするが、
今ではその看板すら置かれていない。
今ではその看板すら置かれていない。
その広場には、一本だけ、小さな桜の木が立っている。
当然周りの環境によって日当たりも悪く、土壌もよくなかったせいだろうか。
この街に来てから今までそろそろ結構な期間になるが、
花弁だけでなく、葉ですらも、その身につけている姿を見たことがない。
この街に来てから今までそろそろ結構な期間になるが、
花弁だけでなく、葉ですらも、その身につけている姿を見たことがない。
それでも毎年桜の季節になると、
なんとなく気になって確認するために立ち寄っている。
なんとなく気になって確認するために立ち寄っている。
近づいて幹に手を添える。
そのまま上を見上げて枝の様子を眺めてみると、
枝の隙間から、ビルとマンションによって切り取られた、小さな空が覗いていた。
そのまま上を見上げて枝の様子を眺めてみると、
枝の隙間から、ビルとマンションによって切り取られた、小さな空が覗いていた。
以前こうして近くで見たのはいつだったか。
その忘れかけた記憶にある姿と、今も全く変わりがない。
この街と同じように、時間が止まっているかのようだ。
その忘れかけた記憶にある姿と、今も全く変わりがない。
この街と同じように、時間が止まっているかのようだ。
幹や枝を見る限りは、枯れて死んでいるようには見えないのだが。
見る人がいないから花を咲かせる気も起きないんだろうか。
見る人がいないから花を咲かせる気も起きないんだろうか。
幹に寄りかかってタバコを咥える。
咥えたタバコから立ち上る紫煙が、春の穏やかな風に乗って流れていく。
さすがに街の雰囲気は、相も変わらず陰気な物だが、
陽気だけならすっかり春の様相を呈している。
さすがに街の雰囲気は、相も変わらず陰気な物だが、
陽気だけならすっかり春の様相を呈している。
(…いつになったら起きるのやら)
一度空に向かって煙を吐くと、
その場所をゆっくりと後にした。
その場所をゆっくりと後にした。