ひデブ@みくるたんと愉快な仲間たち

短編1

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愁桜

この街の一角には、周りがビルやマンションに囲まれた、
まるでそこだけ切り取られた空白のような広場がある。
おそらく開発予定として買い取られたものの、
そのまま使われる事なく忘れられた土地なのだろう。

以前は売地だか借地だか、何らかの立て看板がおかれていたような気もするが、
今ではその看板すら置かれていない。

その広場には、一本だけ、小さな桜の木が立っている。

当然周りの環境によって日当たりも悪く、土壌もよくなかったせいだろうか。
この街に来てから今までそろそろ結構な期間になるが、
花弁だけでなく、葉ですらも、その身につけている姿を見たことがない。

それでも毎年桜の季節になると、
なんとなく気になって確認するために立ち寄っている。


近づいて幹に手を添える。
そのまま上を見上げて枝の様子を眺めてみると、
枝の隙間から、ビルとマンションによって切り取られた、小さな空が覗いていた。

以前こうして近くで見たのはいつだったか。
その忘れかけた記憶にある姿と、今も全く変わりがない。
この街と同じように、時間が止まっているかのようだ。

幹や枝を見る限りは、枯れて死んでいるようには見えないのだが。
見る人がいないから花を咲かせる気も起きないんだろうか。


幹に寄りかかってタバコを咥える。

咥えたタバコから立ち上る紫煙が、春の穏やかな風に乗って流れていく。
さすがに街の雰囲気は、相も変わらず陰気な物だが、
陽気だけならすっかり春の様相を呈している。

(…いつになったら起きるのやら)

一度空に向かって煙を吐くと、
その場所をゆっくりと後にした。



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