レジュメ「虚構機関」
1.作品集全体について
東京創元社から出版された国産SFの年刊傑作集。編集者は大森望と日下三蔵。2007年に発表された国産のSF短編が16作収録されている。
一応“SF”を謳っているが、序文によると大森望が「どこがSFだかよくわからないもの」を収録作に選んだため、作品の中にはなぜ収録されたのか首を捻らざるを得ないようなものもある(岸本幸子の「ダース考 着ぐるみフォビア」とか)。また、年刊傑作集であるにもかかわらず、2007年度には未発表の作品を収録するという掟破りの事もしている(円城塔「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」)。
ちなみに、この「どこがSFだかよくわからないもの」を混ぜ込むという編集方針は、2008年度の年刊傑作集である「超弦領域」にも引き継がれている。
2.作者紹介
スペースの関係上、今回の読書会で取り上げた作品の作者のみ紹介。ご容赦あれ。
小川一水
1975年生まれ。1933年にデビュー。代表作に宇宙SF「
第六大陸」。「
時砂の王」などSFを書く一方で、ライトノベルも執筆している。出版社はあちこち彷徨っている様子。
山本弘
1956年生まれ。と学会会長・SF/ファンタジー作家にしてゲームデザイナー。78年SF奇想天外新人賞でデビュー。その後もライトノベルから本格SF・トンデモ本評論まで活動は広い。
八杉将司
1972年生まれ。2003年に「夢見る猫は、宇宙に眠る」でデビュー。現在は執筆活動に専念するため、フリーター生活を送っている。
3.ストーリー
①「
グラスハートが割れないように」
現代日本を舞台にした話で、身に着けているだけで自然に増える奇妙な食べ物、「グラスハート」に魅せられた少女と青年にまつわる奇譚。(著者のブログより)
②「
7パーセントのテンムー」
脳科学者はfMRIで脳の働きを調べている中で、「I因子」なるものを発見する。どうやら人間の平均して七パーセントにはそれがないらしい。人間を人間たらしめるものがI因子ならば、それがないのは何なのか。恋人がI因子欠落者と知った主人公は模索を続ける。
③「うつろなテレポーター」
量子コンピューター内に構築された社会シミュレーション用の仮想世界、主人公はその中で平穏に暮らしていたのだが、社会実験の一環として行われた量子テレポーション実験の結果、恋人の存在そのものが消失してしまう。消失した恋人と再会するため、主人公はある決断を下す。
4.雑感
- →非日常的な物をガジェットとしながらも、主に描かれているのが主人公の人間関係であるところが面白い。爆発的にヒットした商品が、春の到来というささいな事で一気に廃れるというオチも利いている。
- →ラスト、主人公の達観ぶり、ないしは諦め。I因子欠落者の中にトンデモさんがいるのは作者の仕様だろうか。
- →作者はハッピーエンドにこだわらないが、希望の見える結末を描くのがポリシーだそうだ(雑誌へのインタビューより)。この作品はそのポリシーに沿って書かれたものかもしれない。
最終更新:2010年06月07日 13:02