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Who is it that she was summoned?  ◆RWOCdHNNHk


 本当にここは異界なのだろうか――?

 恐る恐る帰って来た自宅のドアの向こうにはただ平凡な日常が広がっていた。
 死んだはずの母がいて、こんなに遅くまで何をしていたのと叱られた。
 でも母はとても優しくて、テーブルの上に置かれた夕食を温め直してくれた

 サーヴァントと契約したことで自動的に桂は自身の人生と、このイミテーションの東京で与えられた役割を思い出す。
 現実では死んでいるはずの羽藤真弓との二人暮らし。そう、あの夏の出来事が起こる前の何ら変わらない日常がこの東京では続いていた。

 桂はほとんど食事に手を付けないままリビングを後にして自室に篭もった。
 その時の心配そうな表情の母が温かく、そして痛い。

 どさっと着替えることもなくベッドに倒れ込む桂。
 そんな桂の気も知れず実体化した夕立はのほほんとした口調で言った。

「うーん、ムーンセルも結構エグいことするねー。さすがの私もこんなのされらたらちょおーっと嫌な気分になるっぽい?」
「わたし、どうすればいいのかな……」
「いっそのことここでずうっと暮らすのもアリじゃないかな?」
「そんな、だって……元の世界にはサクヤさんや柚明さんが――」
「でもお母さんはいないよ――?」
「ッ――!」

 夕立は桂の血を啜ったと同時に彼女の記憶も垣間見ていた。
 桂に起こった過酷な運命。でも桂はその運命に折り合いを付けて前を歩き出した。
 そんな彼女の決意を嘲笑うようなムーンセルが与えたキャスティングだった。

「夕立ちゃん……こういう時こんなの偽物だ。とかこんなのまやかしだって言わないんだね……」
「戦争でいーっぱい、いーっぱい人が死んだからねー。真っ暗な海が艦が燃える炎で真っ赤に染まって、鉄の残骸と人がぷかぷか浮いてるの。
 私がその時の戦場にいた人なら夢でも優しい世界にいたいっぽい?」

 サバサバと無邪気に語る夕立に少しむっと来たのか桂は逆に意地悪な質問をしてみた」

「じゃあ夕立ちゃん自身はどうなの? さっきのは戦争に行った人の例えでしょ」
「そんなの決まってるよ。私は軍艦、鉄火場に赴き敵と砲火を交え敵艦を撃沈するのが私の使命。その結果沈むことになるのもまた本望。
 ずぅっと温存されて、もう戦いが末期になったら動かす油すらも尽きて、戦争が終わったら核爆弾の標的なった艦よりは私は戦って沈んだぶん悔いはないかな?
 でもこうして人の身体と心を持ってるぶん、平和に暮らしたいっぽい?」

「…………」

 軍艦として、人殺しの機械としての存在と、人の姿と心を持ったがゆえの平和な日常を望む存在が等価値で同居している。
 夕立は歪ではあるがあやふやでない存在だと桂は思った。

「そういやマスターって聖杯にかける望みって特に無かったよね。この際、お母さんも生きてる世界で暮らしたいと願ってみたらいいっぽい?」
「そ、れは……」

 願いなんてないと思っていた。
 母の死は辛いけどそれを乗り越えて、保護者役の浅間サクヤと羽藤柚明という大切な人たちと同居する現実。
 それに母が加わる。そんなあまりに都合が良すぎる世界。
 しかし、聖杯という万能の願望器はそれすらも実現する。

「……わたし、もう寝る」
「あれれ、機嫌悪くしたっぽい?」
「べつに」
「お風呂入らないのー?」
「入りたい気分じゃない」
「じゃあ私お風呂入るー」
「えっ!? お母さんに見つかったらまずいよ」
「大丈夫! マスターのお母さんならもう寝たし、仮に起きていてもマスターが入ってると思うっぽいー」
「大丈夫かなあ……」

 おっふろー、おっふろーと言い残し部屋を出て行く夕立。
 桂は布団をがばっとかけて潜り込む。
 ぐるぐる回る優しい世界の誘惑。
 柚明がいて、サクヤがいて、母が生きている世界。
 だけどそのためには他の参加者を――――

 自らに囁く誘惑の声を振り払うように耳を閉じる。
 そのうちに睡魔が訪れ桂は静かに眠りに落ちた。




 ◆




「行ってきまーす」

 朝。

 夕べ入らなかった風呂の代わりにさっとシャワー浴びる。
 長い髪をツインテールに結わえ制服に袖を通す。
 朝食をそそくさと済ませると鞄を引っさげて玄関を出た。
 昨日のことをなるべく思い出さないように。


 一応この東京にも通学の義務はある。でも正直学校に行く気なんておきない。要はサボリである。
 桂はどこにいくあてもなく山手線を乗って適当な駅――池袋に降りた

『あれ? マスター学校はサボリ? 悪い子なんだあ』

 霊体化している夕立が耳元で囁く。

「こんな時に学校なんていってられないよ。それに今後もこともあるし」

 午前中の池袋駅の構内は本物の池袋と同じように人でごった返している。さすがにこんな場所で襲いかかってくる参加者もいないはず。
 桂は東口方面に歩いて行く。

『見て見て、ふくろうの置物があるよー。へえいけふくろうっていうんだって』

 東口に向かう階段の手前に奇妙なフクロウ型のオブジェクトが鎮座しており、多数の人がそこを待ち合わせ場所にしているせいか非常に混雑している。

『――! マスター誰かが見てるっぽい。気を付けて』
「えっえっ! ゆうだ……アーチャーどこ?」

 きょろきょろ見回す桂にぴったりと視線が合う人物がいた。
 キャリアウーマン風の衣装に身を包んだ二十代前半の女性。
 ショートボブの髪型に独特の目付きが何となく少年っぽい雰囲気を感じさせる。
 彼女は桂と視線が合うとぺこりと会釈をしてこちらに近づいてきた。
 夕立が何もアクションを起こさないので少なくとも敵意はないようだ。

羽藤桂さん――ですね。私は公安局刑事課一係――じゃなかった。ルーラーの使いの常守朱と申します」
「ルーラー!?」
「あ、そんなに身構えなくてもいいです。今回はルーラーからの通達とちょっとした調査事項がありまして。ここで立ち話はあれなので近くのカフェででも」
「アーチャーは実体化していたほうがいいですか?」
「いえ、どこで誰が情報収集してるかわかりません。サーヴァントを晒すという参加者に不利益な行為はルーラーとして避けておきたいです」
「へえー、そんなことまでルーラーは考えてるんですか」
「ええ、私どものルーラーは公明正大をモットーとしてるそうですから」

 公明正大という部分にそこはかとなく毒を含んだ宮守朱。
 口調こそ事務的だがどこか親しみを覚える女性だった。




「それで、わたしたちに一体どんな……」

 近くのカフェに移動した桂たち。朱はコーヒーを頼み桂はパフェを頼んだ。

「まずこれを」

 朱は懐から茶封筒を取りだした。

「内容は一読してもらったらわかりますが。本日、聖杯戦争運営から全参加者に討伐クエストが通達されました。マスター・ジョーカーとそのサーヴァント・ギーグの討伐です」
「討伐って……これって聖杯戦争ですよね?」
「ええ、しかしジョーカーは聖杯戦争に参加するどころか無関係なNPCに強盗に放火、殺人、――それに女性の尊厳を踏みにじる行為をただ無差別に繰り返す」

 朱の遠回しに述べた犯罪に桂は目を伏せる。
 そんな危険な人物がこの東京で好き勝手に暴れているというのだ。

「なんでっ、そんな人を呼んだんですかっ!」
「ほんとそう思いますね。自分で呼んでうまく動いてくれないから始末しろとは」

 どうもこの常守朱という女性、自分の上司――ルーラーを快く思っていないフシがある。 

「書面を見ての通り討伐成功には令呪等報酬が与えられますが、無理に討伐クエストに参加することはありません。自分の力量を見計らって挑むとよろしいでしょう。
 とりあえず討伐クエストの通達はここまでです。では本題に入ります」
「本題……ですか?」
「はい、単刀直入に言いますとあなたに聖杯戦争への不正参加の嫌疑がかかっています。証拠もなにもありませんが、運営の一部はそう疑っています」
「え、え、え? わたしが不正参加!? 勝手に連れて来られたのに!」

 思わず声を荒げる桂。
 当然だ。日常をぶち壊されて無理矢理聖杯戦争に参加させられたのに参加自体が不正とはあまりにもふざけている。

「落ち着いて下さい。まだ疑いの段階です。疑わしきは罰せず。それが法のあるべき姿ですから」
「不正と……判断されたらどうなるんですか」
「しかるべき処分が下されると思いますが詳細は私も伝えられていませんので。でもひとつだけわかりました。
 あなたは自力でムーンセルに介入し参加権を得たようには思えません」
「…………」
「あの、羽藤さん」
「はい……」
「これはルーラーの使いとしての言葉でなく、常守朱一個人の言葉ですが……諦めないでください。私も諦めませんから――」

 彼女は何かを伝えようとしている。
 とても大切な何かを。しかしまだ桂に彼女の真意に触れる術はなかった。





 ◆


『常守監視官、いささか恣意的な言動だったように思えるが』


「恣意的? 都合の良いときだけ恣意的に解釈を変えるあなた達が私を恣意的だと弾劾するの?」


『……まあいいだろう。して羽藤桂の不正参加疑惑についてはどうかね』


「現状、彼女一人でムーンセルに進入できるような技量を持ち合わせていないわ。
 確かに資料に莫大な魔力を保有してるとあるけどそれを行使する魔術の知識もない
 なのにあなた達はどうして彼女にそこまで拘る」


『我々シビュラ、東京聖杯、ムーンセルは公正な聖杯戦争を求めるためお互いを監視しあっている
 その中で我々はムーンセル内において羽藤桂の召喚タイムチャートログに不審な抜けを発見した』


「それは東京聖杯もムーンセルを監視しているんでしょう? なら東京聖杯は何と」


『不正はないと報告している。だが考えても見たまえ、あのムーンセルがログを記録し忘れるはずがない――まあこの件は調査中としておく。常守監視官は通常の職務に戻れ』


シビュラシステム、ひとつ質問がる。どうして東金朔也を使っている? あの男は参加者にどんな影響を及ぼすか分からない。それを分かっていて使っているのか」


『東金美沙子はすでに我々からは排除されている。彼にノイズを与える者はもはや存在しない。今や彼は立派なシビュラの番人だ。公正に職務を行うだろう』


「公正? 笑えるわね。あなた達の前に狡噛慎也槙島聖護が現れた時、聖杯戦争の運営として公正な判断ができるか見ててあげるわ」





【A-1/池袋駅/1日目 午前】

【羽藤桂@アカイイト】
[状態]やや精神的に不安定
[令呪]残り3画
[装備]通学用鞄
[道具]なし
[所持金] 数千円
[思考・状況]
基本行動方針:戦わず聖杯戦争から脱出したい……はず
1:勝手に連れて来られて不正参加の疑いってどういうことなの……
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。



【アーチャー(夕立)@艦隊これくしょん】
[状態] 健康、霊体化中
[装備] なし(装備を実体化させていません)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:桂の言うとおりに動く
1:マスターは願いについていろいろ考えてみてもいいっぽい?
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。



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最終更新:2015年04月18日 22:38