僕らは■■のなかで ◆HQRzDweJVY
わかってる
楽しいだけじゃない 試されるだろう その苦しさもミライ
――わかってる? 本当に?
* * *
少し肌寒い空気の中、
高坂穂乃果は通学路を歩いていた。
だがその足取りはいつになく重く、その表情は沈痛そのもので彼女のトレードマークであるサイドテールも力なく揺れていた。
……あれから
アマテラスの背中にしがみつくようにしてその場を離れた穂乃果は、家に帰っても布団を頭からかぶって震えていた。
瞼の裏に焼きついた、作り物めいた干乾びた死体。
鼻をつく、悪酔いしそうなほどの血の匂い。
そして自分に向けて言葉を放った、槍を構えた髪の長い男の人。
眠ろうとすると浮かび上がる非現実的そのものの光景は、穂乃果に"聖杯戦争"というものを意識させるには十分すぎた。
その光景を悪い夢だと思いたくて、普段は流し見で済ませる朝のニュースや新聞にもじっくりと目を通した。
ただ、『まだ事件が見つかっていない』という可能性に思い当たるのに大して時間はかからなかった。
そう、わずか数時間前の出来事なのだ。
たとえニュースになっていなくても、あれが夢だったという証拠になりはしない。
そのことに気づき、穂乃果は一人大きく肩を落とす。
『――発見された遺体は都内の高校に通う、本田未央さんと見て捜査を進めています』
代わりにニュースキャスターが起伏のない声で読み上あげたのは残酷なニュース。
事件現場は山手線のちょうど反対側あたり。
自分たちの住む場所と近くはない――だが決して遠くない場所で起こった凄惨な事件。
ただ普段ならそんなニュースも、日常の雑多な出来事に追いやられ、無意識の内に記憶の隅へとしまわれる。
けれども今朝は違った。
穂乃果が生まれて初めて接することになった凄惨な"死"そのもの。
昨日までTVの向こう側にしか無いと思っていた死が足元にまで忍び寄ってくるような感覚を覚え、朝食を半分以上残してしまった。
また彼女の足取りを重くしているのはそれだけではない。
今朝の事件が起こる前に、アマテラスが差し出してきた封筒の中身だ
――"ルーラー"という人から送られてきた"バーサーカー討伐クエスト"。
封筒の中に入っていたのは白塗りのピエロみたいな顔写真と簡単なプロフィール。
討伐、狂戦士、殺人鬼……書類の上を踊る穂乃果の日常には似合わない言葉たち。
正直な所、穂乃果は聖杯戦争についてもサーヴァントについても正確に理解できているわけではなかった。
アマテラスが人語を介せないせいでもあるし、穂乃果自身が積極的に触れてこなかったせいでもある。
けれどアマテラスの差し出した封筒の中身に記された情報は、今朝の出来事と合わせて否応なく聖杯戦争を意識させた。
この日常の舞台裏では凄惨な殺し合いが行われているという現実を、否応なく突きつけられた。
廃校なんて噂すら無い音ノ木坂学院。
仲違いしていない二人の大切な友だち。
どちらも自分が望んだものだ。だからここは自分が望んだ世界なんだと思っていた。
代わりに失ってしまったものはあるけれど、優しい夢の様な世界だと思っていた。
けれどもそれは表面を取り作っただけのおぞましい悪夢ではないのか。
そう考えた瞬間、嫌な汗が背中をつうと流れた。
「穂乃果ちゃん、おはよう」
「あ……」
顔を上げた穂乃果が見たのは親友の一人だった。
考え事をしていたせいで近くに来ていたのに気づかなかったらしい。
「穂乃果ちゃん……大丈夫? 顔色悪いよ?」
こちらの様子を察したことりが心配そうに覗きこんでくる。
「そ、それが昨日夜更かししちゃって……ちょっと寝不足なんだ」
とっさに口をついて出た嘘。
本当のことを話しても、信じてもらえないことはわかっている。
ことりちゃんは聖杯戦争のことなんて何も知らないのだから。
「うんうん、わかるよ。私もついつい取り貯めしてたドラマ見ちゃって――」
気づいているのかどうなのか、話を合わせてきてくれる。
そのまま他愛のない話をしながら通学路を進む。
なんて事のない会話。
しかし今まで過ごしてきた日常と何ら変わりないそれは穂乃果の心を癒していく。
「あれ、海未ちゃんじゃない?」
「あ、本当だ。おーい海未ちゃーんおはよ……って、ど、どうしたの海未ちゃん!?」
出会った海未の顔はひどいものだった。
血の気の引いた顔、少し腫れたまぶたとそこから覗く赤い目。
彼女にしては珍しい寝不足の顔であった。
「ごめんなさい……少し、考え事があって寝不足なんです」
悩み事……その言葉に思い出すのは"かつて"のことりだ。
私には言ってくれないのか。
また、私は一人ぼっちになってしまうのか。
そんな恐怖が顔に出ていたのだろう。海未は少し苦笑して答える。
「大丈夫ですよ。でも、これは私が一人で決めなきゃいけないことだから。
決めたら穂乃果にもことりにも……ちゃんと言いますから、もうちょっとだけ待っててください」
あの日もらえなかった一言をもらい、自分でもわかるぐらいに安堵した息を吐き出す。
そんな二人の様子を見てことりが話しかけてくる。
「ねぇ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、放課後気分転換に遊びに行かない?」
「……遊びに、ですか?」
「うん、この雑誌に載ってる"しぶりん"のおすすめコーデのがすごく可愛いの!」
そう言って手渡されたのはティーン向けの情報誌だった。
ポップな字体で描かれた「シンデレラガール オススメコーデ」の文字。
そして表紙を飾るのは切れ長の目をした整った顔立ちの女の子だった。
この東京と穂乃果たちの知る東京にはいくつかの違いがあったが、そのうちの一つだ。
シンデレラガール。
何百人といるアイドルたちの頂点に立った灰かぶり姫。
この"東京"で、その姿を見ない日はなかったと言っていい。
街に繰り出せば有線から彼女の歌が流れていたし、クラスでは彼女の出演するドラマで話題が持ちきりだった。
もちろん穂乃果も何回もその姿を見ている。
――キラキラしていた。
確かに綺麗な子だが、それだけじゃなく人を引きつける"何か"があった。
そしてその"何か"を高坂穂乃果は知っている。
その輝きを、知っている。
「すごいよね……、私達と同い年ぐらいなのにこんなにキラキラしてて……」
私達のやっていたことはプロの彼女たちから見たら子供の遊びみたいなものだったのかもしれない。
でも確かに自分たちはそのキラキラの中にいたのだ。
その輝きを犠牲にして、穏やかな過去を願ったのは自分だ。
でも、それでも……胸に穴が開いたような感覚は消えてはくれない。
「……いいなぁ」
口をついて出た無意識の言葉。
だがその言葉に劇的に反応した人物がいた。
「ことり……ちゃん?」
ことりが穂乃果の手にしていた雑誌をひったくるように取り上げたのだ。
そこに先ほどまでの笑顔はない。
その表情は今朝見た鏡の中に映っていた自分の顔によく似ていた。
何か形のないものに怯えるみたいな、そんな顔をしていた。
「ちょっとことり、どうしたの?」
「え……? あ……」
海未の問いかけに、やっと自分の行動を認識したかのようなことり。
その様子は明らかにいつもの彼女と違って見えた。
三人の間に、戸惑うような空気が流れる。
「あ、おっはよーっ!」
そんな空気を壊したのは後ろからかけられた明るい声だ。
そこにいたのはショートカットの少女とおとなしそうな少女。
星空凛と小泉花陽――彼女たちの後輩だ。
「おはようございます。ことりちゃん、何持ってるんですか……って、"しぶりん"じゃないですか!
穂乃果ちゃん達もしぶりんのファンなんですか!?」
「おお……相変わらず綺麗な髪……同じ"凛"でもこっちの"凛"は女の子らしくて羨ましいにゃ……」
「……私は凛も十分に可愛いと思うけど……」
二人の会話に加わる海未。
そして穂乃果達に投げかけられるアイコンタクト。
この話はここで終わり、という意味らしい。
その合図にはっとした様子でことりは慌てて頭を下げた。
「ごめんなさい……! そ、その学校が近くなってきたから先生たちに見つかる前にしまわなくちゃって思って……」
「う、うん。大丈夫だよ! こっちこそごめんね」
そんなはずはない。
尋常な様子ではなかった。
でも穂乃果はそこに踏み込むことを避けた。
その決断から、逃げ出した。
「……行こう、穂乃果ちゃん。置いてかれちゃうよ」
「……うん」
穂乃果は駆け出しながら、無意識のうちに自身の令呪に手を当てていた。
パスを通じて自身のサーヴァントのひだまりのような暖かさを感じる。
それと同時に自分に向けられた、アマちゃんの何かを訴えかけるような眼差しを思い出す。
何を言いたいかはよくわからない。
でも何かを促そうとしてることだけは明白だった。
(わかってる……でも、もう少しだけ……もう少しだけ、時間をちょうだい……)
周囲を徐々に侵食し始める血の香り。
僅かな、だが確実に軋みを上げ始めた3人の関係。
穂乃果も言葉に出来ないどこかで、日常の崩壊がすぐそこまで迫っていることを理解している。
でも、それでも、もうちょっとだけ彼女の望んだ過去に浸っていたかった。
誰も傷つかない、この優しくて愚かなぬるま湯のような世界に。
――高垣穂乃果はとにかく行動する少女だった。
何事にもひるまず前へと進む、そのエネルギーがμ'sの中核をなしてきたのだ。
けれども失うことへの恐怖は今や重い足枷となって彼女を縛り付けていた。
いつもなら何も考えずに踏み出せていたはずの足は、まるで縫い付けられたかのように動かなかった。
* * *
「しぶりんもいいですけど楓さんもいいですよね。大人っぽくて――」
「うーん凛は茜ちゃんが一番だにゃ」
「え、てっきり凛ちゃんはみくにゃんが好きなのかと……」
少し遅れてきた穂乃果とことりを加えてはずむ会話。
そんな4人を海未は一歩引いて眺めていた。
その瞳に浮かぶのはいつもの呆れながらも見守るような優しい色ではなかった。
代わりに浮かんでいるのは戸惑いと疑念の色だ。
――この世界は矛盾している。
それは世間的に見れば大きな矛盾ではないのかもしれない。
だが彼女たちにとっては見過ごせない矛盾だった。
――この世界には『μ'sは存在しない』、だが『μ'sメンバー同士は知り合いである』のだ。
彼女たちと知り合ったのはスクールアイドルを始めてからだ。
だから本来は『μ'sが存在しない』なら『彼女たちとも知り合いではない』はずなのだ。
けれどもここ数日、この東京で海未は彼女たちとある程度変わらない日常を過ごしている。
西木野真姫からCDを借りた覚えがある。
矢澤にことアイドルのやっているラジオについて会話した覚えがある。
絢瀬絵里や東條希と今度の文化祭について会話した記憶がある。
そして今、凛や花陽とも笑いながら話をしている。
それぞれ強いつながりではないが、先ほどのように出逢えば会話をする程度には仲が良い。
だれも傷つかない、ゆるやかな関係。
ただそれもついさっきまでは"そういう世界"なのだ、と割りきってきた。
……さっき、ことりの異常な様子を見るまでは。
後輩たちと楽しげに話すその姿はいつもと変わらないように思える。
けれどもさっきのことりは明らかにおかしかった。
そうでなくとも穂乃果を"アイドル"という存在から遠ざけるかのようなさっきの行動は、甘やかす傾向のある彼女らしくない――長い付き合いである海未はそう断言できる。
言ってしまえば異常――そう、異常である。
そして聡明な彼女はそれらから一つの可能性に至ってしまう。気づきたくなかった、目をそらしていた可能性に。
――すなわち"
南ことりが聖杯戦争のマスターである"という可能性に。
音ノ木坂学院が存続しているというだけならばよかった。
それだけならば"学園内に他のマスターがいる"という可能性だけで済んだのに。
けれどμ'sに関する矛盾だけはそうはいかない。
μ'sと関係ないのならば、そのままの関係で存続しているか、それとも最初からなかったかの2択のはずだ。
逆に言えばこんな関係の取捨選択を行うのはメンバー以外ではありえない。
それに何よりあの出来事で傷ついたのは自分だけではない。
ことりも同じように傷ついた。
だからあの紅い月に願ってしまってもおかしくないのではないだろうか。
太陽の輝きがない代わりに、月の光のように優しい世界を。
『……ランサー、聞こえますか?』
『……どうしたの、マスター?』
その声に不意に気づく。
ランサーはあれからずっと話しかけてこなかったのだ。
言いつけ通り、一人にしていてくれたのだ。
そのことに罪悪感を抱きつつも、それを表に出さず頭のなかで語りかける。
『放課後、ことりがマスターかどうかを確かめます』
『えっ……』
『不満があるなら今のうちに言ってください。
それとも今更、"友達を疑うのは良くない"とでも言うつもりですか』
思わず責めるような口調になってしまい、自己嫌悪に顔を歪める。
こんなのは唯の八つ当たりだ。
けれどもランサーに対する苛立ちを止めることができない。
そんな海未に対し、めぐみはおずおずと声をかける。
『ねぇ、マスター……一つだけ聞かせて欲しいの』
沈黙を肯定と受け取り、めぐみは言葉を続ける。
『……もしもことりさんが、聖杯戦争のマスターだったら……マスターはどうするの?』
『それは……』
めぐみの問いに海未はとっさに答えることができなかった。
……どうするというのだろう。
聖杯戦争という
ルールに従って、殺しあう?
そんなことができる訳がない。
マスターであるということはすなわち彼女は本物の"南ことり"であるということ。
小さい頃からずっと一緒だった、大切な親友なのだ。
『……わかりません。でも、放っておく訳にはいかないでしょう』
今、この街には裁定者(ルーラー)ですら制御できない危険極まりない殺人鬼がいるのだ。
それだけじゃない。他のマスターやサーヴァントからも狙われるだろう。
それにサーヴァント自体が危険である可能性も捨てきれない。
目の前の少女が血だまりに沈む光景を想像してしまい、思わず顔がこわばるのを感じる。
『……わかった。私はマスターに協力するよ。
でも覚えていて。私はやっぱりみんなを幸せハピネスすることを諦めたくないんだ。
マスターも……ことりさんも、だよ』
「……もう、黙っていてください!」
最後の言葉は思わず口をついて出ていた。
これ以上話していたら更にきつい言葉を口にしてしまいそうで、そのまま会話を打ち切った。
正面に目を向ければ笑顔で会話することりたちの姿がある。
ずっと見てきた変わらない日常。けれども今の彼女にとってそれはひどく脆いもののように感じられた。
* * *
南ことりは幸せを甘受していた。
授業が終われば穂乃果や海未と遊びに行ける。
また一つ大切な思い出が増えていくのだ。
さっき自分が何であんな行動をとってしまったのか……自分でもよくわからない。
バイトのし過ぎで疲れているのかもしれない。
お願いして少しシフトを減らしてもらうのもいいかもしれない。
そうしよう。そしてその分彼女たちとたくさん思い出をつくろう。
大丈夫。これから時間はいくらでもあるのだから。
心配することなんて、何もない。
『マスター……確認したいことがある』
『アーチャーさん?』
頭のなかに響く超自然的な声。
あまりにも日常にふさわしくない声だが、今のことりはそれを受け入れている。
『……ルーラーからの手紙はいいのか?』
『え……だって知らない人からの手紙を開けちゃうのはダメじゃないかな?』
今朝、郵便受けに入っていた手紙は封も切っていない。
だってことりは裁定者(ルーラー)なんていう知り合いはいないのだから。
多分、郵便局が配達ミスをしてしまったのだろう。
でも、何も起こるはずがない。
だってこんなにも平和なのだから。
だってこんなにも平穏なのだから。
穂乃果ちゃんがいて、海未ちゃんがいて、誰も欠けることのない優しい日常がここにはある。
ずっとこんな平和な日が続きますようにという――私の願いは叶ったのだ。
『……そうか。いや、何でもない』
そのまま沈黙するヴィンセント。
『? 変なアーチャーさん』
首を傾げながら後輩たちのとの会話に戻る。
いつもと変わらない日常。
血の匂いも、不幸な出来事も全てはTVの向こう側にしか無い。
だから何も心配することはないのだ。
そのはずなのだ。
……なのに、この胸騒ぎは何なのだろう。
* * *
重なりあったはずの3つの願い。
それはよく似てはいるが、けれども決して同一ではない。
その僅かな違いは違和感となり、次第に日常そのものを軋ませていく。
彼女たちが試される未来――それは、もう始まっているのだ。
【B-3/千代田区 音ノ木坂学院前/1日目 朝】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]健康、精神的動揺
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:どうすればいいのか、わからない。
[備考]
※
ジョーカー討伐クエストについて把握しました。
※ 聖杯戦争について、資料で把握しています。
【アマテラス@大神】
[状態]健康
[装備]三種の神器
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:穂乃果と穂乃果の大事なものを護る。
【
園田海未@ラブライブ!】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:?????
1:ことりがマスターであるか確かめる。
【愛乃めぐみ/キュアラブリー(ランサー)@ハピネスチャージプリキュア!-人形の国のバレリーナ- 】
[状態]健康
[装備]プリチェンミラー、ラブプリブレス
[道具]なし
[所持金]一般女子中学生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:海未のことは守りたいし、誰のことも犠牲にしたくない。
1:海未に従う。
【南ことり@ラブライブ!】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:
1:日常を謳歌する。
※
ジョーカー&バーサーカーの情報を確認していません。確認する気もありません。
【
ヴィンセント・ヴァレンタイン(アーチャー)@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]健康
[装備]デスペナルティ
[道具]なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守る。
1:マスターを守る。
最終更新:2015年10月22日 23:07