アットウィキロゴ

私の鳥籠の中の私 ◆devil5UFgA






どれほど貴方を追いかけても、貴方の色にはなれないから。

貴方の記憶に残るように、私を殺して。







癒えない傷はないと言うけれど、それでも決して癒えることはないのだろう。
傷という痕が薄くなり、痛みという想い出が忘れてしまうことがあっても。
忘れたものは無くなってしまった物ではない以上、ふと、いつかは思い出してしまう。

谷川柚子も、明智光秀も、そんな痕を抱えたものだった。

朝日に照らされる東京の中を歩きながら、目的もなく、ただ学校へと向かっていた。
着慣れた制服を押し上げる豊満な胸を隠すような前屈みの姿勢。
誰にも視線を向けることはなく、周囲に明るい髪色の頭部を向け続ける。
しかし、周囲もそんな柚子に視線を向けはしなかった。
慌ただしさだけが東京を這いまわり、朝日を眺めることもなく鬱陶しそうに目を細める。
不十分な自由を強制される、東京の再現のため用意された人々。
そう言った意味では、柚子も光秀も用意された舞台装置と大差なかっただろう。
能動的な方針を持たない彼女たちでは、ただ、聖杯に捧げられるための生贄に過ぎないのだから。

「……」
『……』

会話もなく、二人は歩いていた。
柚子は、一度抱いた願いを諦めた。
願って、願って、願ってやまなかったものを諦め、今ある世界を受け入れた。
誰よりも愛した人間を戻すために、世界を受け入れた。
彼だけが、『峯岸一哉』だけがあれば、あんな最低な世界でも良かったからだ。
その願いすらも、『峯岸一哉』自身に否定されたようだった。

「……」
『……結局のところ』

光秀は聖杯にかける積極的な願いはない。
したがって、現在の聖杯戦争における積極的な指針もない。
英霊であり戦国武将である彼女にとって、この聖杯戦争における脱落である死もまた、大きな恐れはない。
サーヴァント<従者>として方針を、マスター<主>に任せる。
光秀の考えは、現状ではそんなものだった。

『峯岸一哉は敵と見るべきなのかしら』
「……彼は」

その名前を光秀が口にした時、やはり俯いたまま、柚子は脚を止めた。
霊体化し、不可視の超人となった光秀へは視線を向けない。
光秀は背後からその背中を眺めた。
小さな背中だった、重荷には耐えられそうもない背中だ。

「……一哉は、一哉じゃない。だから、彼が東京に運ばれたわけじゃない」
『……』
「わかるよ、そんなの……一哉は絶対にあんな風じゃない。
 上手く、上手く、びっくりするぐらい上手く似せた……偽物」

柚子自身、もはや峯岸一哉の心境など理解できない。
だが、この場の『峯岸一哉』が何かしらの意図によって再現された『峯岸一哉でない何か』でないことはわかった。
決定的に違う、よく似せているからこそ、その違いがはっきりと浮かび上がっている。


「もうどうでもいいよ……」
『……そうね、貴女が求めないのなら、私もなにもしないわ。
 死なない程度に、生きていきましょう』
「……願いなんて、私には」

柚子の全てを捨てて、万魔の王となった恋しい人。
その一哉が柚子に残した唯一のもの、それが柚子自身だった。
生かされているから、柚子は生きている。
願いはない、願うはずの存在に棄却されたから。

『言葉に出来ないものは、無理に言葉にする必要はないわ』
「……」
『生きたいように生きるって、難しいものだから』

あの人を愛しいと思ったのも、あの人を殺したいと思ったのも、全部自らが恋しい人の中に居たいから。
一番になれないということは、それほどに辛い。
その時、光秀はある気配を感じ取った。
マスターである柚子の周辺人物であるから、すでに覚えてしまった気配。
峯岸一哉の気配だ。

『……近づいていくるわね』
「彼かぁ……憂鬱、もう帰っちゃおうか……」

柚子はピタリと歩みを止める。
しかし、振り返ることはしなかった。
その先に峯岸一哉が居ることを知っていたから。
その顔を見るだけで、柚子は辛かったからだ。
そして、そのまま流されるように、偽りの峯岸一哉とともに学校へと向かうのだろう。

「おはよう、柚子」

どれだけ足掻いても、一哉の想いを、柚子は棄却することが出来なかった。
きっと、『柚子が扱う聖杯』では一哉を止めることは出来ない。
願えば、一哉を手に入るかもしれない。
しかし、それはきっと、この東京で出会う、目の前の偽物と同じ。
柚子が欲しくて、手を伸ばした者とは異なる存在だ。

「……おはよう」

柚子はあらゆる色が混じった感情を隠しながら、そう応えた。
生かしてくれた人が居たから、ただ、柚子は生きていた。
光秀はその想いを否定するつもりは欠片もなかったし、同時にその想いを晴らす方法も知らなかった。





バビル2世様、一哉様……いっそ、先に仕掛けますか?』
『焦るな、ロデム。目の前の少女はまず黒だが、行動に移るのは早い』

人工的な青に染まった学生服を纏ったライダーのサーヴァント、バビル2世は念話を続ける。
相手は自身の宝具『三つの下僕』の一体、不定形生物ロデムだ。
不定形であるロデムはいかなる姿にも変身できる。
そのスキルを活かして、主人であるバビル2世を召喚したマスター、峯岸一哉として動いている。
峯岸一哉はバビル2世を向き合っている。
表立って動くのは、常にロデムだ。
そこから情報を仕入れ、バビル2世と『三つの下僕』の他の二体で戦闘を行う。
峯岸一哉とバビル2世は、ひとまずの基本的な戦法として、そんな方法を取っていた。

「柚子……」
「間違いなく、敵マスターだ。聖杯を手にする資格を持つ」
「なんで、柚子なんだ」
「特別な理由なんてないさ、多くの人間は自らの手に届かないものを願う。
 彼女にそんな願いがないだなんて誰にも言い切れないし、願いがある以上、紅い月に観測される可能性も生まれる」

バビル2世はまくし立てるように言い切った。
一哉は谷川柚子がマスターであることに、
一週間にも満たないような、閉鎖された東京の暮らしによって麻痺していた感情が蘇ってくる。
何かをしなくてはいけない、そのために強い力を手にしなければいけない。
強い力を手に入れる過程に誰かの生命が失われることも、誰かの生命を奪う可能性があることも理解していた。

「…………」

しかし、その奪う可能性がある相手に、自らの友人が含まれることを直面した。
眉を寄せ、眉間に指をつけた。

「……柚子が失われなくても、聖杯を手に入れる方法はあるのか?」
「通常はない。通常はないが……聖杯、すなわち万能の願望器を手にする方法は、僕なら出来る可能性がある。
 この宝具『御主へと至る塔<バ・ベル>』は、あらゆる事象の抜け道だ」

バビル2世はその詳細は語らなかった。
ただ、外宇宙人が残した偉大なる聖遺物であるこの宝具は、ただの城ではない。
元々が外宇宙との交信用のために造られた電波塔なのだ。
ハッキング。
そこに意味がある、とだけバビル2世は言った。
バベルの塔が巨大な奇跡と結ばれることに意味があるのだと。

「……なら」
「だが、彼女を殺すかもしれない。彼女が向かってくれば、殺さざるを得ない。
 なにせ、相手は英霊だからね」
「……」
「いっそ、聖杯を諦めてしまうかい?」

バビル2世は興味がなさそうに言った。
砂漠のように乾いた言葉だった。
義務感だけで生きているようだ、一哉はそう思った。


「聖杯を作り出すことが出来る……あるいは、聖杯に直結することが出来る。
 僕たちは、たった一組になるまで戦う必要がない。
 だが、それは誰とも戦わないということじゃない」
「……」
「戦いたくないというのならば、戦わなければいいさ」

ア・ベルではないベルの因子を持つ少年、バビル2世は突き放すように言った。
それが逃げであることを言外に含んだ言葉だった。

「……いや、戦うさ」
「世界を救うために?」
「そんな理念はわからないけど、あそこはダメだ。
 あそこは嫌なんだ、みんな……死んでいった」

様々な他者の言葉と姿が蘇る。
混乱した人々がそこにいて、悪魔が地上を跋扈する。
人が限界に達していたのが、閉鎖された東京の内部だった。
そこに神は居なかった。
救済を求める人と、悪魔だけが居た。
死んでいった人が居る。
地獄を救わなければいけない、そんな似合わない使命感を覚えてしまう。

「なら、僕が超能力で洗脳しても良い」
「それは……」
「そう。マスターは嫌がるだろうし、僕自身、何の罪もない人を洗脳するのは気が引ける。
 時と場合によりけりで、今はまだ、手段を選んでいられる時期だ。
 ……いっそ、マスターが交渉してもいい」

それは言外に、敵ならばどのような手段を取ることも辞さないと言っているようなものだった。
バビル2世がその良心を口にすれば口にするほど、そこに含まれない物への容赦の無さが浮かび上がってくる。

「………………ジョーカーについて考えよう」

露骨なまでに一哉は話題を変えた。
バビル2世は表情を動かさず、その話題に対して答えを口にする。

「その話題なら簡単だ、『ジョーカー』を殺すべきだ。
 ジョーカーを見つけ次第、隙が見つかるまでロデムを常に監視につける。
 後は、その令呪でジョーカーの場所まで飛ばしてくれればいい」

バビル2世は簡単に言い放った。
報酬である令呪一つを捨て、情報だけを手に入れるために。
アサシンとしてのクラス適正を持つバビル2世ならば、サーヴァントではない通常のマスターの暗殺はたやすい。

「……令呪は足し引きで0か」
「一つさ、他者に渡る令呪を妨害できるんだからね」

バビル2世は、とにかく事もなしに言葉を口にする。
感情というものは乾いたものしか感じ取れない。
砂の嵐に隠されているのはバベルの塔ではなく、バビル2世の感情だった。
その感情を発露させた時こそ、バビル2世は恐ろしい。
すなわち、バビル2世の敵として認識された時なのだから。


【A-3/1日目 朝】

【谷川柚子@デビルサバイバー オーバークロック】
[状態]健康、憂鬱
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:方針はない。
1:このままなんとなく過ごす

【アサシン(復讐ノ牙・明智光秀)@戦国コレクション(アニメ)】
[状態]健康
[装備]銃、日本刀
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:方針はない。
1:行動方針は柚子に任せる。特別な行動を起こすつもりはない。

【B-3/港区、東京タワー(バベルの塔)/1日目 朝】

【峯岸一哉@デビルサバイバー オーバークロック】
[状態]健康、憂鬱
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:ひとまずはジョーカーを殺す。
2:柚子がマスターであることに動揺している。
3:混乱した東京を見たからこそ、自分が何かをしなければいけない
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※谷川柚子がマスターであると考えています。
※宝具『三つの下僕』の一匹であるロデムが一哉に変身して、一哉として生活しています。

【ライダー(バビル2世)@バビル2世】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:ジョーカーを殺す。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※谷川柚子がマスターであると考えています。
※宝具『三つの下僕』の一匹であるロデムとは離れていても念話で会話できます。



BACK NEXT
011:誰も知らないあなたの仮面 投下順 013:Dear your friend
011:誰も知らないあなたの仮面 時系列順 016:Who is it that she was summoned?


BACK 登場キャラ NEXT
000:DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 峯岸一哉&ライダー(バビル2世 018:遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路-
谷川柚子(ユズ)&アサシン(復讐ノ牙・明智光秀 018:遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路-

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年04月18日 22:48