となりのリリカと紅魔館事件

となりのリリカと紅魔館事件 ◆27ZYfcW1SM




なぜ私にこれほどの力が……この力が力なき者に与えられていたとしたら……

その者は延命出来たかも知れないというのに……

なぜ私にこれほどの技術が……この技術にふさわしい者に与えられていたとしたら……

私よりも効率よく行動できたかも知れないというのに……


私はこのゲームが始まって運が強く働きすぎている。
私自身が恐怖を感じるほどに……

私が目覚めたところはなんと紅魔館であった。
私、四季映姫・ヤマザナドゥは紅魔館の図書館の中で目覚めたのだ。
これだけでも十分強運といえよう。
建物の中は行動が限定され、そして何より隠れる場所が多い。
殺人者が現れたとしても、逃げ切れる可能性が高い。広い館なのだ。なおさらである。
この利点はまだ序の口、まだ利点はある。

部屋の中にある本、冷めた紅茶、ベッド、イス……
備品が沢山だ。得物を奪われ、力を制限され、さらにはわずかな食料や水、道具しかない私たちにとって、豊富な飲食料、家具や道具は重要度が高い。
持っているだけで他者より一歩先に出ることが出来る。

長所ばかりで短所が殆ど無い場所なのだ。

私は沢山の本棚の影に隠れる。深い緑色と紺色の服なので、影に逃げ込んでしまえばカモフラージュ率は相当高い。
道具の入った袋……スキマを開くと……


第二の強運が始まった。

『武器』と思われる道具は3つ入っていた。しかも、そのすべてが金属製。
金は古代より武器に使われてきた。それを意味するはすべてがすべて、武器なのだ。

そのうちの一つ、銃といわれる鉄の筒をスキマから『引きずり出す』
そう、引きずり出すほど巨大な銃だ。
小町なら多少格好にはなるだろうが、自分にはあまりにも大きすぎる銃。
説明書によれば MINIMI軽機関銃 というらしい。
機関銃くらい知っている。弾薬を自動的に発射し続ける銃のことだ。
弾幕勝負ではなく戦争の道具だ。この種類の銃で命を落とした人物など沢山知っている。

銃は確かに強い武器だ。
そして、銃の中でも強い種類は存在する。
詳しくは知らないが、単発式の銃より連射式のほうが強い。
小さな弾を飛ばす銃より、大きなライフル弾を飛ばす銃のほうが強い。

だったら、この銃は最強ではないか?
銃の中に伸びるベルト状のライフル弾の列、そして機関銃の連射力。
この銃に敵う銃など存在するのだろうか?

……しかし、重い。

閻魔の私だから持てるだろうが、この重さは10kg位だろうか。
片手で扱おうものなら腕が肩からぶちきれて落としてしまいそうだ。流石に冗談ですよ。

もう一つ出てきたのは金属製のケース。真鍮かブリキ、ジュラルミンあたりの素材だ。
中を開けると白と黒の2つの小型の機械が入っていた。白い衝撃吸収剤に包まれて入っているので精密機械だろう。
蓋の裏に取扱説明書が貼り付けてあったので、はがして読む。



携帯電話 取扱説明書

このたびは、我社の携帯電話をお買い上げいただき、まことにありがとうございます。

【こんな使い方は絶対NG!】
クルマの運転中、飛行機や病院、指定品以外の使用
充電端子を接触させない、水や海水につけない/ぬらさない
分解/改造しない(ここにボールペンで横線が引いてある)
加熱しない。

【ココがすごい 新しい】
高性能大型液晶、高性能カメラ(5.2メガオートフォーカス)
自分の位置情報をしっかりキャッチ! GPSナビ
長時間バッテリー
1ボタン通話(なぜかここだけ手書きで書かれている)

 ・ ・ ・

このようなことがずらずらと書かれてある。説明書の癖に一冊の六法全書みたいだ。
一応図が載ってあり、簡単な基本操作はある程度分かった。

カコ、カコともう一台と通話が出来るようになるボタンを押す。1ボタンといいつつ実は2回だった。

『ちゃらららら~ちゃらららら~♪』

びくっ! っと思わず飛び跳ねてしまった。
この曲は「六十年目の東方裁判 ~ Fate of Sixty Years」
それも結構な音量だ。もともとの曲がそうであるように……

それより、音を出すほうが問題だ。すぐに白いほうの携帯電話を取り、通話ボタンを押す。

「も、もしもし……」
『――も、もしもし……』

……無言で通話終了ボタンを押した。マナーモードはどうやるんだっけ?


ぎりぎり扱える銃を付属のベルトで肩に掛け図書館から出る。
紅魔館はシンとしていた。うわさで聞いていた妖精メイドたちは残らず姿を消し、当主も妹も魔法使いもメイドもいない。
ただ、真紅の絨毯が廊下を一線走っている。
少し歩くと、扉があった。中に入ると其処はキッチン…

キッチンの癖に、調理道具は少ない。食料は1に紅茶、2に紅茶……殆どが紅茶で埋め尽くされていた。
7くらいにようやく小麦を見つけることが出来た。
以前から変わった家だとは思っていたが、やはり予想は正しかったようだ。
変わり者でも一応は使えるから目をつぶることにする。

さらに廊下を先に進むと其処はエントランスが広がっていた。
私がエントランスについた瞬間、第3の強運が始まった。


ところ変わって、ダイニングルーム。
私の前には妖怪と騒霊がいた。
私がエントランスについた瞬間外への扉が開いた。
入ってきたのはこの2……人。
リリカ・プリズムリバーと黒谷ヤマメ。



いち早く気がついた私は机を蹴っ飛ばし、それを盾にミニミを扉に向けた。
机を蹴っ飛ばした音に反応した2人は銃を構える私に気がつく。
「うわぁ! わ、私たちはこのゲームに反対なのよ!」
「そうそう! 反対反対!!」
と、二人は両手を挙げながら震える声で言った。銃の知識は幻想郷では乏しいはずなのに……銃は向けられると強制的に腕を上げる能力でもあるのだろうか。

そして、現在に戻る。
本当にゲームに乗っていないようなので、一応は信用することにした。

「まったく、困ったことをしてくれるわ。今日はお昼から友達と遊ぶ予定だったのに」
「それなら私もだよ。明日の夜はライブだったのに」
「私は仕事が現在進行形で溜まっているのですけどね」
乾いた笑いしか出ずたはははと笑う。
するとヤマメがやれやれと肩をすくめながら
「まぁ、それも運命だとしてあきらめるしかないんじゃない?」
とぼやく。リリカも
「そうだよ。どうせなら早く異変を解決して明日に間に合わせればいいじゃん」
と、どうも二人は前向きな性格のようだ。
「ちょっと、だったら今日の昼に間に合わせてよ」
それは流石に無理じゃない?

「兎に角、お二人の異変を解決したいという気持ちは分かりました。
 私もそう願っています。しかし、方法が分かりません。
 何をするにもとりあえずこの首輪を外さない事には私たちの勝利はありえないでしょうから」
「そうだよね。あの人みたいにボンッって爆発したらひとたまりもないもの」
「あの音ははじめて聞いたよ」
「そうです。今ここにいる私たちでは首輪をはずすことは無理。それでも幻想郷全土から萃められたこの面子です。誰か一人くらいならはずすことが可能かもしれません」
「大方、あの河童だけだけどね」
「あのミサイルを撃ってくる奴?」
「アレは魔理沙……のオプション。ミサイルじゃなくて魚雷らしいよ」
「河童の保護ですか……難しいでしょう。どこにいるかも分からない。ゲームに乗らないとも限らない。
 協力してくれるとも限らない……はぁ……」

あの性格の河童だ。自分からゲームに乗る可能性は0じゃないし、協力してくれない可能性も0じゃない。
最悪、既に殺されている可能性もあったりする。

「さぁ、どうするんだい? 閻魔さん。私はあまり頭の回転が速くないから、あんたが行動方針ってのをきめてくれる?」
「……私が言うことが絶対だと、絶対に思わないでください。
 そして、私が出した命令を拒否する権限が貴方たちにはあります。
 自分が違和感を感じた命令はそむいてくれて結構です。
 異議も許可します。理由を求めることも許可します。
 それをしっかり理解した上で私の話を聞いてほしい」
「なんだか難しい話ね。まあいいわ自分の考えは大切にってことでしょ」
「そうです。分かってくれたなら言います。
 私たちはこの紅魔館に篭城します。」


『篭城!?』
二人は異口同音に声を上げた。
「そうです。時に……なぜ、禁止エリアというものがルールにあるか分かりますか?」
ヤマメは顎に手を添えて「そうねぇ……参加者を追い詰めるため?」と疑問系で答えた。
「そのとおりです。もっと言うなら参加者を歩かせるためです」
リリカはぽんと腕を叩き
「なるほど、かくれんぼで見つからないようにするには動かないこと。だって動いたら鬼に見つかっちゃうもん」
「またまた正解。例えば一つの壁をはさんで二人の人間がいたとします。二人が人形のように一歩も動かなければ、仮に1mも近くにいたとしても気がつかないでしょう」
リリカが映姫の考えを代わりに言葉にする。
「だけど動く、つまり音を奏でると壁の向こうの人間は音を聞いて壁の向こうの存在を認識する」



「そう、では一人だけ動いていた場合はどうなる?」
「簡単、動かなかったほうは向こうが動いていることを認識できるけど、動いたほうが認識できないわ」

「先に攻撃が出来るってわけね……」
「攻撃だけではなく、防御、逃走……なんでも対応できるわ」

「しかし、不利な点もいくつかあります。一つにここが紅魔館であるということ」
「主人の帰りね」
「あー。あの吸血鬼が帰ってきたら面倒だな」
「それだけでなく、貴方たちみたいに訪れる者が多いって事です」

せっかくエンカウント率が下がったというのに場所自体のエンカウント率が高かったら意味が無い。

「だから、あえて他人との遭遇率の高さは無視します。訪れるものは片っ端から裁判に掛けましょう」
「そんなこと出来るの?」
「ええ、出来ますよ。今までの話はこのまま動かなかった場合。これからは篭城の話です」



紅魔館一階…
本来ならメイドが掃除しつくし、ごみ一つ落ちていない真紅の絨毯が敷かれているはずである。
しかし、今はその面影が無かった。
外へと続く扉には巨大なテーブルやベッド、クローゼットが子供が作った積み木のお城のように積まれている。

「あーあー本当に聞こえるのかな? こちらヤマメ。異常ないわ」
「了解、一度戻ってきてください」
「了解ーっと」

廊下をヤマメが歩く。手にはMINIMI軽機関銃、そしてスカートのポケットには携帯電話が入っている。


「おっと、確かこっちは罠が張ってあるんだったな」

廊下のT路地を曲がろうとして足を止める。

よく目を凝らさないと見えないが、ピアノ線が最初に首の辺りの高さに……
あとは蜘蛛の巣のように張ってある。実際何のワイヤーかは知らないが、倉庫のほうに置いてあったものだ。
細く鋭いピアノ線なので、走って蜘蛛の巣に突っ込もうものなら、その肉体は16分割されてしまうだろう。
まぁ、実際になるのは首が刎ねられるだけどね……
後に続くピアノ線は、行く手を妨害するためだ。ここを突破されてしまっては私たちが待機している部屋へとすぐに到達されてしまう。

「ただいまー。結構疲れるね」
「お疲れ様です。では次は私が見張りに行きます」
映姫はイスから立ち上がるとヤマメに手を出す。ヤマメはMINIMI軽機関銃と携帯電話を渡した。
その2つを受け取ると、映姫は廊下を歩いていった。
つまり、篭城とはこういうことである。

1階の出入り口はすべてバリケードで封鎖。そして、私たちがいる2階は1人が外に沿って巡回、哨戒。
1人が休憩をとり、1人が正門のあたりを監視。
このサイクルを一コマ30分。

この状況をサッカーで例えるならディフェンスが8、ミッドフィルダーが1、フォワードが1の超フルディフェンスな陣だ。

守りを固めることによって相手は動きを制限される。相手とは紅魔館を訪れるすべての者を指す。
相手がゲームに乗っているなら、迎撃。乗ってなかったとしても、足止めをすることによって相手が本当に乗っていないのか判断することが出来る。
そして、何より、この要塞化はマーダー避けにもなる優れものの布陣だった。
マーダーの基本的な考えは多くの者を殺したいであろう。
だったら篭城=人がいるという方程式が成り立ち、狙われるのではないか?
それは安直な考えだ。マーダーは殺したいという欲求のほかに、自分は死にたくないという殺人衝動を越える欲求を持っている。
マーダーはこの要塞を見てこう考えるだろう。
「この要塞を落とすには手がかかりそうだ」
たとえ要塞を落とすことが出来るほどの力を持っていたとしても、簡単にはいかない。下手をしたら手傷を負うかも知れ無い。
自分が傷つくくらいなら、もっと他の簡単に殺せる参加者を探したほうが安全だ。他のマーダーに任せればいい。

抑止力が働くのだ。
ハリボテの要塞だが、これでしばらくは持ってくれる。果報は寝て待てだ。

今交代したばかり、私は休憩、リリカは監視、映姫さんは哨戒。
私たちの篭城は始まったばかりだ。



【C‐2 紅魔館F2・一日目 黎明 】
【四季映姫・ヤマザナドゥ】
[状態]健康
[装備]MINIMI軽機関銃 残弾(200/200)、携帯電話
[道具]支給品一式
[思考・状況]紅魔館に篭城。哨戒中

【リリカ・プリズムリバー】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明アイテム(1~3)
[思考・状況]紅魔館に篭城、正門監視中

【黒谷ヤマメ】
[状態]健康
[装備]携帯電話、MINIMI用マガジン30発(空)、5.56mm NATO弾(100発)
[道具]支給品一式、不明アイテム(1~3)、不明アイテム(金属製の武器)
[思考・状況]紅魔館に篭城、休憩中


※紅魔館1階の出入り口はすべてバリケードが張られています。
※紅魔館2階にはブービートラップが張られています。

映姫に支給されたのはMINIMIと携帯電話2つと不明1です。
携帯電話は電波が立っていて、通常機能のほかに、2台を1ボタンで通話可能に出来る機能がついている特殊仕様です。
哨戒に必要ない荷物は休憩中の者が預かっています。




20:奇跡のダークサイド 時系列順 23:揺れる第三の瞳
20:奇跡のダークサイド 投下順 22:家族が笑うとき
四季映姫・ヤマザナドゥ 27:消えないこだま/Haunting Echoes
リリカ・プリズムリバー 27:消えないこだま/Haunting Echoes
黒谷ヤマメ 27:消えないこだま/Haunting Echoes


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最終更新:2014年05月31日 03:48
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