大樹より虹の橋のかかる雲上の国、シレスティアル。
かつて大樹の頂上、バルハラ宮殿にはユミルという国があった。それはかつての戦争で失われて今は廃墟となってしまったが、そのユミル国の3つの主要な都市ルーン、ヘイムダル、そしてこのシレスティアルがそれぞれ3つの別々の国として再建されていた。
失われた第3世界の魔法の研究、復活を試みる首都シガムを置くルーン国。かつてのユミル国とはまったく関係のない新しい国となったヘイムダル国。そして魔法と科学の融合による錬金術に長けるシレスティアル国。
そのシレスティアルに天竜の姿があった。天竜は雲の崖から、大空の遠く向こうを眺めている。
「ゼロさまーっ!」
天竜を呼ぶ声があった。ゼロとはその天竜の名前だ。
「サクレ、戻ったか。何わかったか?」
サクレと呼ばれた天竜の側近はゼロに調査の結果を報告する。
「はい。やはり、リムリプスはまだ封印されていないようです。他の3体の封印は間違いなく確認されましたが、リムリプスの封石だけは空のようです」
「そうか……やはり不完全だったか。リムリプスの居所はわかったか?」
「いえ、それは残念ながら……。ですが、まだすべての捜索が終わったわけではありません。地上には空よりもずっと広大な大地が広がっています。それをすべて捜索するにはまだまだ時間が必要です」
「地上……か、懐かしいな。フロウや息子たちは元気にしているだろうか」
「ゼロ様は地上をご存じなのですか!」
「俺は地上で生まれたのだ。家族もそこにいる。それに、先代様のフェギオンやメロフィス封印の際にも地上でそれに立ち会っている。地上は俺にとって因縁深き場所だ…」
ゼロは雲の上から地上を見下ろす。眼下にはどこまでも雲海が広がるだけで、そこからは地上の様子は窺い知ることはできない。しかしゼロはその雲海の向こうに過去の記憶を見ているようだった。
「何としてもリムリプスを見つけ出せ! そして、必ずや封印するのだ!」
「はっ! 親衛隊たちにもより一層捜索に励むように伝えます」
サクレは天竜に敬礼してみせると、すぐに任務に励むべくその場を去って行った。
そしてゼロは月のない朔の夜空に向かって静かに一人呟いた。
「オーシャン様、すべてはあなたのために……」
かつて大樹の頂上、バルハラ宮殿にはユミルという国があった。それはかつての戦争で失われて今は廃墟となってしまったが、そのユミル国の3つの主要な都市ルーン、ヘイムダル、そしてこのシレスティアルがそれぞれ3つの別々の国として再建されていた。
失われた第3世界の魔法の研究、復活を試みる首都シガムを置くルーン国。かつてのユミル国とはまったく関係のない新しい国となったヘイムダル国。そして魔法と科学の融合による錬金術に長けるシレスティアル国。
そのシレスティアルに天竜の姿があった。天竜は雲の崖から、大空の遠く向こうを眺めている。
「ゼロさまーっ!」
天竜を呼ぶ声があった。ゼロとはその天竜の名前だ。
「サクレ、戻ったか。何わかったか?」
サクレと呼ばれた天竜の側近はゼロに調査の結果を報告する。
「はい。やはり、リムリプスはまだ封印されていないようです。他の3体の封印は間違いなく確認されましたが、リムリプスの封石だけは空のようです」
「そうか……やはり不完全だったか。リムリプスの居所はわかったか?」
「いえ、それは残念ながら……。ですが、まだすべての捜索が終わったわけではありません。地上には空よりもずっと広大な大地が広がっています。それをすべて捜索するにはまだまだ時間が必要です」
「地上……か、懐かしいな。フロウや息子たちは元気にしているだろうか」
「ゼロ様は地上をご存じなのですか!」
「俺は地上で生まれたのだ。家族もそこにいる。それに、先代様のフェギオンやメロフィス封印の際にも地上でそれに立ち会っている。地上は俺にとって因縁深き場所だ…」
ゼロは雲の上から地上を見下ろす。眼下にはどこまでも雲海が広がるだけで、そこからは地上の様子は窺い知ることはできない。しかしゼロはその雲海の向こうに過去の記憶を見ているようだった。
「何としてもリムリプスを見つけ出せ! そして、必ずや封印するのだ!」
「はっ! 親衛隊たちにもより一層捜索に励むように伝えます」
サクレは天竜に敬礼してみせると、すぐに任務に励むべくその場を去って行った。
そしてゼロは月のない朔の夜空に向かって静かに一人呟いた。
「オーシャン様、すべてはあなたのために……」
Chapter3「ときながれ」
水門の城の一件から数年。
ティルはリク、ウクツとともにアースガーデンの洞窟で暮らしていた。
アースガーデンはアース大陸の南西部。ステイブルからフリー川を越えて、さらにシルバルト平原と海をひとつ越えた先にあった。アース大陸は海溝を挟んで東西2つに分断された大陸だ。第2世界当時はひとつの大陸だったが、いつの間にか地殻変動を経て現在の姿になったらしい。アースガーデンはその西側のほうにある。ここはかつて、ナープ兄弟が幼少期を過ごした場所でもあった。
タネはかせがステイブル近辺の遺跡を崩壊させてしまったため、それを研究していたウクツもそれを諦めざるを得なくなり、今は海溝に近いこのアースガーデンの洞窟を拠点に大陸の地殻変動についてを調査していた。ウクツの研究は地質考古学が専門分野だ。たまに発明や薬の調合も行うがそれはあくまで趣味の領域だった。
あの一件でウクツと親しくなったタネはかせは、ウクツたちのもとへ時折遊びに来てはいつものように奇妙な発明品を自慢していくのだった。そして今日もタネはかせがウィルオンに乗ってやってくる。
あれから数年を経て立派な成竜へと成長したウィルオンはようやく自力で空を飛びまわることができるようになっていた。体長はナープを追い越すほどにもなった。もう蛇などとは言わせない。しかし、いいようにタネはかせに利用されていたのだった。
「まったく便利なアッシー君なのだ。いや、足というより翼かな」
「俺は乗り物じゃない!」
「じゃあ、料金取れば?」
ティルの提案にそれはいい考えだと頷くウィルオン。しかし「家族割引でタダなのだ」と言い張るタネはかせ。
もちろん見た目も形も全然違うタネはかせとウィルオンは血がつながっているわけがなかったが、タネはかせはウィルオンの育ての親だった。親とはぐれてしまったらしい幼きウィルオンを発見し今日まで保護してきたのはタネはかせだ。タネはかせなりにウィルオンの両親を捜してみたこともあったが結局未だに見つかっていない。ウィルオン自身もタネはかせが本当の親でないことはよくわかっていたが、この生活がウィルオンにとっての当たり前だったので、顔も覚えていない両親のことを気にしたことすらもなかった。
「それで今日はどんな発明品を持ってきたの?」
ティルがタネはかせに問いかける。
「自信作なのだ! ついに私は常識を覆したのだ! なんとタイムマシンを発明してしまったのだよ!! ああ、私の名はきっと歴史に刻みこまれるだろう…」
「まぁなんでもいいが、ワシの研究の邪魔はするんじゃないぞ」
ウクツはまたか、という顔で話半分にそれを聞きながら海溝からリクが採取してきた地質のサンプルを弄っている。
「そうしてられるのも今のうちなのだよウクツ君。驚け、そして私の才能に嫉妬するがいい。見よ、これぞ私の最高傑作…………『ペンシルロケット』なのだ!!!」
アットロー号のときに同じく、どこに持っていたのかどうやって運んできたのか、どこからともなくタネはかせはその最高傑作を取り出した。それは廃棄されていた小型のミサイルでも拾ってきて少し手を加えた程度の代物に見えた。どう見てもタイムマシンには見えない。
「タイムマシンなのにロケット? もしかしてそれ、ペンシルロケット(5号)とか(20号)とかだったりする?」
「タイムマシンはまだこの世に存在していなかったものなのだ。だから見た目なんて誰にも断言できないものなのだよ。別に机の引き出しの中にある板状のものや、1.21ジゴワットで動いて時速88マイルで時間転移する車だけがタイムマシンとは限らないのだ!」
「どっかで聞いたような話だね」
「どっかで聞いたのだ。参考にしたのだ」
突然現れた小型ミサイルにリクもなんだなんだと話を聞きに来る。
タネはかせは待ってましたと言わんばかりにペンシルロケットの説明を始める。
曰く時空を飛び越えるためには光をも凌駕する速度を出す必要があるらしく、それで目をつけたのがこのミサイル。このミサイルにタネはかせが新たに発明したExpx(エクスペクス)改という燃料を搭載することによりそれが可能だという。
「Expx改? 聞いたことがないな。改のとれたExpxすらも聞いたことがないぞ。なんなんだ、それ」
「それは言えないのだ。企業秘密なのだ! これさえあれば核よりも安くて早くておいしくて、しかも強力なエネルギーを得られるのだよ! これから特許申請するのだ。だから秘密なのだ。これで私は大金持ちだぞ!」
「……安全が抜けてるぞ。大丈夫なのか」
「それをこれからテストするのだ。さぁ、記念すべき時空旅行者の二番乗りの座を譲ってあげるから私に協力したまえ。一番乗りはもちろん私だ」
そう言うとタネはかせはさっそくペンシルロケットに乗り込んだ。
「面白そう! 乗ってみようよ、リクっち!」
ティルは興味津々だ。
「い、いや……。俺の直感が告げている、これは絶対やばい」
「いいからいいから」
そんなリクをティルは半ば無理やりペンシルロケットに連れ込んだ。
「ウィルオン君、君も助手としてもちろん私についてくるのだ」
「俺はいいよ。どうせ俺はタクシーなんだから、おまえらの用事が終わったころにまた迎えに来るよ」
「そんな冷たいこと言わずにさぁ! 乗った乗った!」
「や、やめろ! 俺はまだ死にたくないぞ!!」
無理やりウィルオンを引っ張り込むタネはかせ。ウィルオンはウクツに巻きついてそれに抵抗する。
「こ、こら! ワシをそんな無謀なことに巻き込むんじゃ……うわっ!」
ウィルオンはウクツごとペンシルロケットの中に引っ張り込まれてしまった。こんなときだけに限っては怪力を発揮するタネはかせである。
「それではご登場のみなさま、この度は……ああ、面倒だからやっぱいいのだ。とにかくさっそく出発なのだ! ごーよんさんにーいちゼロ」
早口にカウントダウンを済ませると、タネはかせははやる気持ちに流されるがままに発射スイッチを押した。
轟音とともにペンシルロケットが空高く打ち上がる。それは雲を越えて霞を越えて成層圏へ。そして突然ロケットが頭の向きを変えたかと思うと、それは地上へ向かって真っ逆さまに墜落していく。
「お、おい! 墜ちてるぞ!!」
「これは違うのだ。落下による加速を利用してさらに速度を上げるのだ。横じゃなくて縦に移動して速度を得る……発想の転換なのだよ。さすが天才の私!」
「嘘だ! 絶対嘘だァ!! ちくしょう、このインゲン星人め! 呪ってやる怨んでやる化けて出てやるぅぅぅぅうううう!!!!」
ロケットは地上に向かって物凄い勢いで落下していく。エンジンは炎を吹き、船体は激しく軋む。そして三度の閃光を発した後、それは爆音とともに木端微塵になり……そして消えた。ただ紫色に輝く妖しい煙だけがその場に残されていた。
ティルはリク、ウクツとともにアースガーデンの洞窟で暮らしていた。
アースガーデンはアース大陸の南西部。ステイブルからフリー川を越えて、さらにシルバルト平原と海をひとつ越えた先にあった。アース大陸は海溝を挟んで東西2つに分断された大陸だ。第2世界当時はひとつの大陸だったが、いつの間にか地殻変動を経て現在の姿になったらしい。アースガーデンはその西側のほうにある。ここはかつて、ナープ兄弟が幼少期を過ごした場所でもあった。
タネはかせがステイブル近辺の遺跡を崩壊させてしまったため、それを研究していたウクツもそれを諦めざるを得なくなり、今は海溝に近いこのアースガーデンの洞窟を拠点に大陸の地殻変動についてを調査していた。ウクツの研究は地質考古学が専門分野だ。たまに発明や薬の調合も行うがそれはあくまで趣味の領域だった。
あの一件でウクツと親しくなったタネはかせは、ウクツたちのもとへ時折遊びに来てはいつものように奇妙な発明品を自慢していくのだった。そして今日もタネはかせがウィルオンに乗ってやってくる。
あれから数年を経て立派な成竜へと成長したウィルオンはようやく自力で空を飛びまわることができるようになっていた。体長はナープを追い越すほどにもなった。もう蛇などとは言わせない。しかし、いいようにタネはかせに利用されていたのだった。
「まったく便利なアッシー君なのだ。いや、足というより翼かな」
「俺は乗り物じゃない!」
「じゃあ、料金取れば?」
ティルの提案にそれはいい考えだと頷くウィルオン。しかし「家族割引でタダなのだ」と言い張るタネはかせ。
もちろん見た目も形も全然違うタネはかせとウィルオンは血がつながっているわけがなかったが、タネはかせはウィルオンの育ての親だった。親とはぐれてしまったらしい幼きウィルオンを発見し今日まで保護してきたのはタネはかせだ。タネはかせなりにウィルオンの両親を捜してみたこともあったが結局未だに見つかっていない。ウィルオン自身もタネはかせが本当の親でないことはよくわかっていたが、この生活がウィルオンにとっての当たり前だったので、顔も覚えていない両親のことを気にしたことすらもなかった。
「それで今日はどんな発明品を持ってきたの?」
ティルがタネはかせに問いかける。
「自信作なのだ! ついに私は常識を覆したのだ! なんとタイムマシンを発明してしまったのだよ!! ああ、私の名はきっと歴史に刻みこまれるだろう…」
「まぁなんでもいいが、ワシの研究の邪魔はするんじゃないぞ」
ウクツはまたか、という顔で話半分にそれを聞きながら海溝からリクが採取してきた地質のサンプルを弄っている。
「そうしてられるのも今のうちなのだよウクツ君。驚け、そして私の才能に嫉妬するがいい。見よ、これぞ私の最高傑作…………『ペンシルロケット』なのだ!!!」
アットロー号のときに同じく、どこに持っていたのかどうやって運んできたのか、どこからともなくタネはかせはその最高傑作を取り出した。それは廃棄されていた小型のミサイルでも拾ってきて少し手を加えた程度の代物に見えた。どう見てもタイムマシンには見えない。
「タイムマシンなのにロケット? もしかしてそれ、ペンシルロケット(5号)とか(20号)とかだったりする?」
「タイムマシンはまだこの世に存在していなかったものなのだ。だから見た目なんて誰にも断言できないものなのだよ。別に机の引き出しの中にある板状のものや、1.21ジゴワットで動いて時速88マイルで時間転移する車だけがタイムマシンとは限らないのだ!」
「どっかで聞いたような話だね」
「どっかで聞いたのだ。参考にしたのだ」
突然現れた小型ミサイルにリクもなんだなんだと話を聞きに来る。
タネはかせは待ってましたと言わんばかりにペンシルロケットの説明を始める。
曰く時空を飛び越えるためには光をも凌駕する速度を出す必要があるらしく、それで目をつけたのがこのミサイル。このミサイルにタネはかせが新たに発明したExpx(エクスペクス)改という燃料を搭載することによりそれが可能だという。
「Expx改? 聞いたことがないな。改のとれたExpxすらも聞いたことがないぞ。なんなんだ、それ」
「それは言えないのだ。企業秘密なのだ! これさえあれば核よりも安くて早くておいしくて、しかも強力なエネルギーを得られるのだよ! これから特許申請するのだ。だから秘密なのだ。これで私は大金持ちだぞ!」
「……安全が抜けてるぞ。大丈夫なのか」
「それをこれからテストするのだ。さぁ、記念すべき時空旅行者の二番乗りの座を譲ってあげるから私に協力したまえ。一番乗りはもちろん私だ」
そう言うとタネはかせはさっそくペンシルロケットに乗り込んだ。
「面白そう! 乗ってみようよ、リクっち!」
ティルは興味津々だ。
「い、いや……。俺の直感が告げている、これは絶対やばい」
「いいからいいから」
そんなリクをティルは半ば無理やりペンシルロケットに連れ込んだ。
「ウィルオン君、君も助手としてもちろん私についてくるのだ」
「俺はいいよ。どうせ俺はタクシーなんだから、おまえらの用事が終わったころにまた迎えに来るよ」
「そんな冷たいこと言わずにさぁ! 乗った乗った!」
「や、やめろ! 俺はまだ死にたくないぞ!!」
無理やりウィルオンを引っ張り込むタネはかせ。ウィルオンはウクツに巻きついてそれに抵抗する。
「こ、こら! ワシをそんな無謀なことに巻き込むんじゃ……うわっ!」
ウィルオンはウクツごとペンシルロケットの中に引っ張り込まれてしまった。こんなときだけに限っては怪力を発揮するタネはかせである。
「それではご登場のみなさま、この度は……ああ、面倒だからやっぱいいのだ。とにかくさっそく出発なのだ! ごーよんさんにーいちゼロ」
早口にカウントダウンを済ませると、タネはかせははやる気持ちに流されるがままに発射スイッチを押した。
轟音とともにペンシルロケットが空高く打ち上がる。それは雲を越えて霞を越えて成層圏へ。そして突然ロケットが頭の向きを変えたかと思うと、それは地上へ向かって真っ逆さまに墜落していく。
「お、おい! 墜ちてるぞ!!」
「これは違うのだ。落下による加速を利用してさらに速度を上げるのだ。横じゃなくて縦に移動して速度を得る……発想の転換なのだよ。さすが天才の私!」
「嘘だ! 絶対嘘だァ!! ちくしょう、このインゲン星人め! 呪ってやる怨んでやる化けて出てやるぅぅぅぅうううう!!!!」
ロケットは地上に向かって物凄い勢いで落下していく。エンジンは炎を吹き、船体は激しく軋む。そして三度の閃光を発した後、それは爆音とともに木端微塵になり……そして消えた。ただ紫色に輝く妖しい煙だけがその場に残されていた。
リクは見知らぬ土地で目を覚ました。
「う……うう…。俺は、生きてる……のか? それともここが天国ってやつなのか?」
そこは見渡す限りの密林。アース大陸ともよく知る故郷の風景とも全く異なるものだ。
「もしかして……ここは原始時代!?」
どうやらティルも無事らしい。さっそく過去の世界にやってきたのかと大はしゃぎしている。近くでまだ気を失っているウィルオンの姿も見つけることができた。
「あれ、じいちゃんとタネはかせは……?」
「う……うう…。俺は、生きてる……のか? それともここが天国ってやつなのか?」
そこは見渡す限りの密林。アース大陸ともよく知る故郷の風景とも全く異なるものだ。
「もしかして……ここは原始時代!?」
どうやらティルも無事らしい。さっそく過去の世界にやってきたのかと大はしゃぎしている。近くでまだ気を失っているウィルオンの姿も見つけることができた。
「あれ、じいちゃんとタネはかせは……?」
ウクツは空中を漂っていた。もちろん見覚えのある場所のわけがない。
「こ、ここは……ワシは一体……。なっ…!?」
否、ウクツは落下していた。しかも真下には火山の火口があんぐりとその大口を開けているではないか。
「なっ、なんてことだ! あ、あのタネめェェェ!! いるならどうにかして責任をとってくれ!!」
しかしそこにタネはかせの姿はない。ただウクツのみが火口へ向かって真っ逆さまに落ちていく。
「い、いかん…。気圧の変化で……」
意識が朦朧とする。目が霞む。よりにもよってこんなときに。
しかし意識を保てたとこで一体どんな成す術があっただろうか。ウクツは一直線に落下していった。
「こ、ここは……ワシは一体……。なっ…!?」
否、ウクツは落下していた。しかも真下には火山の火口があんぐりとその大口を開けているではないか。
「なっ、なんてことだ! あ、あのタネめェェェ!! いるならどうにかして責任をとってくれ!!」
しかしそこにタネはかせの姿はない。ただウクツのみが火口へ向かって真っ逆さまに落ちていく。
「い、いかん…。気圧の変化で……」
意識が朦朧とする。目が霞む。よりにもよってこんなときに。
しかし意識を保てたとこで一体どんな成す術があっただろうか。ウクツは一直線に落下していった。
「……はっ! ついたのだ!? ここは過去か、未来か?」
タネはかせは気がつくなり勢い良く飛び起きる。すると、なんと目の前にはもう一人のタネはかせがいた。
「なっ、私がもう一人…? ま、まさか生き別れの兄弟が!」
「あ、あなたは死んだはずのお兄さんなのだ!?」
顔を合わせて驚き合う二人のタネはかせ。
「いや、よく考えたら私には弟がいるだけだったのだ」
「そういえば、私が長男だったのだ。それじゃあ、この目の前にいる私に似てハンサムなのは一体…」
すると、そこにさらに三人目のタネはかせが現れた。
「それは過去の私なのだよ。で、こっちの私がもっと過去の私で、私が未来の私なのだ」
「また出た! クローン!? それともドッペルゲンダー……じゃなくて、ドッペルゲンガーなのだ!?」
「みんな口調が同じでどれが誰の台詞かややこしいのだ! どういうことだ? 説明したまえ未来の私!」
三番目に現れた未来のタネはかせが状況を説明した。ペンシルロケットで過去へやってきたのが”現在”のタネはかせ。そしてこの時代の”過去”のタネはかせ。それを説明する”未来”のタネはかせだ。
「二人とも未来から……ということは私はついにタイムマシンを発明したのか! さすが私、天才なのだ!」
過去のタネはかせは全く疑うこともなく喜んでいる。
「おお、では実験は成功したのだな! さすが私、天才なのだ!」
「そして、それを小型化して実験をしてみたら成功しちゃったさすが未来の私も天才なのだ!」
「しかし、未来の私ともっと未来の私。過去の世界の自分に会ってしまって大丈夫なのかね? タイムパラドックスとか……ほら、なんかあるじゃないか」
「そ、そうだ! ということは過去が変わって私は消えてしまうのか!? あれ、でも未来の私がいるってことはえーっと…」
「よくわからないから、気にしちゃだめなのだ。パラレルワールドがまた一個増えたってことにしておいてとりあえず無視するのだ」
タネはかせたちは自分たちには理解できなかったのでタイムパラドックスについて考えるのをやめた。頭がご都合主義です。
「しかし、ウィルオン君たちはどこへ行ってしまったのだ?」
現代のタネはかせは辺りを見回すが、ここにいるのはどうやら自分だけのようだ。
「うぃるおん? 誰なのだ、それは」
過去のタネはかせはまだウィルオンに出逢う前のようだ。
「そのときのことなら私が覚えている。あとでみんな元の時代に戻った時に会えたと思うのだ」
「おお、さすがは未来の私! それで、私はどうやって元の時代へ戻ればいいのだ?」
「忘れちゃったのだ。まぁ、たぶんなんとかなるのだ。私は私の時代へ戻らなければならないから、この小型タイムマシンをあげるわけにはいかないのだ。未来のものを勝手に過去に持ってきちゃいけないしね。それじゃあさらばだ、懐かしき私たち」
未来のタネはかせが腕にはめたどこかバナーナにも似た小さな機械を操作すると、その姿は青い光に包まれて消えてしまった。
「ま、待つのだァ! 私はどうやって帰ればいいのだ!!」
現在のタネはかせは慌てて青い光に飛び込こもうとするが、それよりも先に光は消えてしまった。
タネはかせは気がつくなり勢い良く飛び起きる。すると、なんと目の前にはもう一人のタネはかせがいた。
「なっ、私がもう一人…? ま、まさか生き別れの兄弟が!」
「あ、あなたは死んだはずのお兄さんなのだ!?」
顔を合わせて驚き合う二人のタネはかせ。
「いや、よく考えたら私には弟がいるだけだったのだ」
「そういえば、私が長男だったのだ。それじゃあ、この目の前にいる私に似てハンサムなのは一体…」
すると、そこにさらに三人目のタネはかせが現れた。
「それは過去の私なのだよ。で、こっちの私がもっと過去の私で、私が未来の私なのだ」
「また出た! クローン!? それともドッペルゲンダー……じゃなくて、ドッペルゲンガーなのだ!?」
「みんな口調が同じでどれが誰の台詞かややこしいのだ! どういうことだ? 説明したまえ未来の私!」
三番目に現れた未来のタネはかせが状況を説明した。ペンシルロケットで過去へやってきたのが”現在”のタネはかせ。そしてこの時代の”過去”のタネはかせ。それを説明する”未来”のタネはかせだ。
「二人とも未来から……ということは私はついにタイムマシンを発明したのか! さすが私、天才なのだ!」
過去のタネはかせは全く疑うこともなく喜んでいる。
「おお、では実験は成功したのだな! さすが私、天才なのだ!」
「そして、それを小型化して実験をしてみたら成功しちゃったさすが未来の私も天才なのだ!」
「しかし、未来の私ともっと未来の私。過去の世界の自分に会ってしまって大丈夫なのかね? タイムパラドックスとか……ほら、なんかあるじゃないか」
「そ、そうだ! ということは過去が変わって私は消えてしまうのか!? あれ、でも未来の私がいるってことはえーっと…」
「よくわからないから、気にしちゃだめなのだ。パラレルワールドがまた一個増えたってことにしておいてとりあえず無視するのだ」
タネはかせたちは自分たちには理解できなかったのでタイムパラドックスについて考えるのをやめた。頭がご都合主義です。
「しかし、ウィルオン君たちはどこへ行ってしまったのだ?」
現代のタネはかせは辺りを見回すが、ここにいるのはどうやら自分だけのようだ。
「うぃるおん? 誰なのだ、それは」
過去のタネはかせはまだウィルオンに出逢う前のようだ。
「そのときのことなら私が覚えている。あとでみんな元の時代に戻った時に会えたと思うのだ」
「おお、さすがは未来の私! それで、私はどうやって元の時代へ戻ればいいのだ?」
「忘れちゃったのだ。まぁ、たぶんなんとかなるのだ。私は私の時代へ戻らなければならないから、この小型タイムマシンをあげるわけにはいかないのだ。未来のものを勝手に過去に持ってきちゃいけないしね。それじゃあさらばだ、懐かしき私たち」
未来のタネはかせが腕にはめたどこかバナーナにも似た小さな機械を操作すると、その姿は青い光に包まれて消えてしまった。
「ま、待つのだァ! 私はどうやって帰ればいいのだ!!」
現在のタネはかせは慌てて青い光に飛び込こもうとするが、それよりも先に光は消えてしまった。
ウクツが目を覚ますと、そこは見覚えのある洞窟だった。
「ここは……アースガーデンの洞窟? まさか夢オチだったなどとは言うまいな」
「おお、目を覚ましたか」
ウクツの声に気がついて、その洞窟の主がウクツに声をかけてくる。そこにはウクツよりもウィルオンよりもずっと大きな年老いた火竜の姿があった。ラルガと同じく竜族原種だ。
「儂はバーニス。火砕竜と呼ばれている者だ。近くの山におぬしが落ちてきたので試しに拾ってみた。ふむ、竜ではあるようだが変わった姿をしている。おぬし、あれか。最近、人と竜との間に生まれたとかいう竜人族というやつか。これは面白い」
「ワシを助けてくれたのか! 感謝する。火砕竜……?」
「ちょうど退屈しておったところなのだ。よいぞ、教えてやる。火砕竜は天竜親衛隊のひとつだ。他に土石竜、離岸竜、乱気竜がいる」
「天竜? ふむ……どこかで聞いたような。それはどういうものなんだ?」
「うむ。天竜とはケツァル王国に仕える者のことだ。そういう名の竜がいるのではなく役職だ。そして、我々は天竜の補佐をする親衛隊。儂が火の火砕竜。それから土の土石竜、水の離岸竜、風の乱気竜だ」
「ケツァル王国……ワシの知らない国だな。その天竜というのは何をしているんだ?」
「かつてケツァル王国の敵だった封印されし4体の魔竜がいる。儂らはそれぞれ一体ずつその封印を守っている。儂が守るのは魔竜リムリプスの封印だ。そして天竜様はそれらを総轄する」
「ふむ…。その天竜様とは誰なんだ?」
「今の天竜はオーシャン様だ」
バーニスと会話を続けるうちに、どうやらここは今から数十年昔の世界だということがわかった。どうやら過去にはそのケツァル王国という国が存在していたらしい。現代ではその名を聞いたことがないのでおそらくはもう滅んでしまったのだろう。
さらにウクツはこのアースガーデンに少し前までナープ兄弟たちが暮らしており、その世話をしていたのがバーニスだったということも知った。親もなく5兄弟だけでひっそりと暮らしていたが、すべての兄弟が一人立ちできる頃になると兄弟たちはいなくなった親を捜すために巣立っていったらしい。
「おーい、ウクツ君。いるかーい?」
不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「む、タネはかせか。やつにはたっぷりと説教をしてやらねばならん…。バーニス殿、どうやら迎えが来たようなのでワシはこれで失礼する。助けていただいて、それから貴重なお話を重ねて感謝する」
「そうか。よいよい、気にするな。儂もちょうどいい暇つぶしになったわ。もしよかったらまた顔を見せてくれ。儂はいつでもここで退屈そうに封印を見守っているだけなのでな…」
火砕竜バーニスと別れてアースガーデンの洞窟をあとにする。現在の洞窟には火砕竜の姿はなかった。もしかするとケツァル王国とともに天竜や火砕竜たちも失われてしまったのだろうか……。
「時の流れとは儚いものだな…」
そしてウクツは説教の内容を頭に思い浮かべながらタネはかせのもとへと向かうのだった。
「ここは……アースガーデンの洞窟? まさか夢オチだったなどとは言うまいな」
「おお、目を覚ましたか」
ウクツの声に気がついて、その洞窟の主がウクツに声をかけてくる。そこにはウクツよりもウィルオンよりもずっと大きな年老いた火竜の姿があった。ラルガと同じく竜族原種だ。
「儂はバーニス。火砕竜と呼ばれている者だ。近くの山におぬしが落ちてきたので試しに拾ってみた。ふむ、竜ではあるようだが変わった姿をしている。おぬし、あれか。最近、人と竜との間に生まれたとかいう竜人族というやつか。これは面白い」
「ワシを助けてくれたのか! 感謝する。火砕竜……?」
「ちょうど退屈しておったところなのだ。よいぞ、教えてやる。火砕竜は天竜親衛隊のひとつだ。他に土石竜、離岸竜、乱気竜がいる」
「天竜? ふむ……どこかで聞いたような。それはどういうものなんだ?」
「うむ。天竜とはケツァル王国に仕える者のことだ。そういう名の竜がいるのではなく役職だ。そして、我々は天竜の補佐をする親衛隊。儂が火の火砕竜。それから土の土石竜、水の離岸竜、風の乱気竜だ」
「ケツァル王国……ワシの知らない国だな。その天竜というのは何をしているんだ?」
「かつてケツァル王国の敵だった封印されし4体の魔竜がいる。儂らはそれぞれ一体ずつその封印を守っている。儂が守るのは魔竜リムリプスの封印だ。そして天竜様はそれらを総轄する」
「ふむ…。その天竜様とは誰なんだ?」
「今の天竜はオーシャン様だ」
バーニスと会話を続けるうちに、どうやらここは今から数十年昔の世界だということがわかった。どうやら過去にはそのケツァル王国という国が存在していたらしい。現代ではその名を聞いたことがないのでおそらくはもう滅んでしまったのだろう。
さらにウクツはこのアースガーデンに少し前までナープ兄弟たちが暮らしており、その世話をしていたのがバーニスだったということも知った。親もなく5兄弟だけでひっそりと暮らしていたが、すべての兄弟が一人立ちできる頃になると兄弟たちはいなくなった親を捜すために巣立っていったらしい。
「おーい、ウクツ君。いるかーい?」
不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「む、タネはかせか。やつにはたっぷりと説教をしてやらねばならん…。バーニス殿、どうやら迎えが来たようなのでワシはこれで失礼する。助けていただいて、それから貴重なお話を重ねて感謝する」
「そうか。よいよい、気にするな。儂もちょうどいい暇つぶしになったわ。もしよかったらまた顔を見せてくれ。儂はいつでもここで退屈そうに封印を見守っているだけなのでな…」
火砕竜バーニスと別れてアースガーデンの洞窟をあとにする。現在の洞窟には火砕竜の姿はなかった。もしかするとケツァル王国とともに天竜や火砕竜たちも失われてしまったのだろうか……。
「時の流れとは儚いものだな…」
そしてウクツは説教の内容を頭に思い浮かべながらタネはかせのもとへと向かうのだった。
「じゃあ、ここは過去の世界じゃないのか!?」
密林にリクの驚いた声が響き渡る。
「ああ、ここは間違いなく現在だぞ。とは言ってもおれはおまえに会ったことがないから、おまえが”現在のおまえ”かどうかはわかんねぇけどな。でも、おれはウィルオンをよく知ってるぞ。これは現在のウィルオンだから、きっとおまえも現在のおまえなんだろ」
紫色の変な生き物がリクに向かって答える。
「じゃあ、ここはどこなのメタっち?」
ティルはその生き物をメタっちと呼んだ。
「ここはニワって島だな。ずいぶんでかい島だけど誰も住んでないし、同じような密林しかない。密林なのにトリも虫もいない」
ここはかつて科学や機械の発展していた第2世界の頃は観光地として知られている場所だった。しかし第2世界が滅んだ頃、地上のほとんどは酷く汚染され何者も棲めない環境になってしまい、人々は大樹を登って空の国々へと移り住んだのだ。このニワもそんな汚染され放棄された島のひとつで、長い時を経てここまでの復活を遂げたものの、誰にもその存在を再発見されることもなく取り残された”復活した大自然の秘境”のひとつだった。
「無人島ってことか…。ウィルオンはまだ気絶したまんまだし、どうやってここから脱出すればいいんだろう。おまえに乗せてってもらうのは難しそうだしなぁ」
メタっちには小さな白い翼が生えていた。紫色の羽の生えたアメーバのような何か。それがメタっちの姿だ。
「船はないけど、何か役に立つものなら入ってるかもしれねぇぞ」
「”入ってる”…? どういう意味だ」
「ちょっと待ってな」
メタっちは大口を開くと、その中からなにやら様々ながらくたを吐き出し始めた。
「な、なんだ!? おまえの身体はどうなっているんだ!」
「おれの腹の中は倉庫になってるんだ。ひとつはおれ専用の倉庫、ひとつはおれの仲間たちと共有してる共通空間に繋がってる倉庫、もうひとつはおれの腹ってわけだ」
「腹の中に倉庫!? しかも共有してるって!!? わ、わけがわからない……。リクさん頭ぐるぐるしてきたぜ」
「まぁ、そういうもんだと思っとけよ。おっ、こんなの出てきたぞ」
メタっちの腹の中からなぜか犬が出てきた。とりあえず、脱出に役立つものではない。
「あれ……オレはいったい……。どうしてこんなところに……」
「おれもわかんねぇや。いつ食ったんだろ」
「おまえの腹はどうなってるんだ!」
遭難者が増えてしまった。
「あっ、こんどはなんかの肉が出てきたぞ。焼いて食おう。食料はおれから出るやつでばっちりだな。そうだ、みんなでここで暮らそう」
「出るやつよくねぇ!! おまえの腹から出てきたものなんて食えるか!」
そうこうしているうちに日が暮れようとしている。未知の密林の中で夜を迎えるのはとても危険だ。
「ティルは呑気だな。遭難してるってのに遊びに行っちまったみたいだし。迷子になる前に見つけてこないと…。ああ、あと水と食料もいるな」
「そんなこと気にしてても腹がへるだけだぞ。おれは水も出せるぞ。肉いらないのか? じゃあ、おれが食べちゃう。あ、そっか。もしかしたらこんなときのために取っておいた非常食だったかも……」
こんどはメタっちは炎を吐き出している。本当に変な生き物だ。
「オレは非常食だったのか…!!」
犬はショックを受けている。
「そういえば、おまえは何なんだ? まさか、おまえまで火を吐いたり空飛んだりしないだろうな」
「そんなことできるもんか! オレはリシェだ! ただのしがないきいろいわんこだぞ!」
「で、そのきいろいわんこは何ができるんだ?」
「何って言われても……。あ、そのティルってやつを見つけるぐらいならできるかも」
リシェは鼻が利くので、何かティルの臭いの残ったものがあればティルを捜せるらしい。
「これでいいか」
リクはティルの写真を取り出した。
「そうそう、こうやって臭いを嗅いで……って臭いわかんねぇ!!」
「わぁー! なんかもふもふがいる! もふもふもふもふ!!」
結局、当のティルは心配する間もなくリシェにつられて自分から帰ってきた。
そしてとうとう日は暮れて辺りは闇に包まれる。明かりはウィルオンとメタっちの吐き出す炎だけが頼りだった。
「くそー、腹へったよ。俺たちどうすりゃいいんだよ。ああー寒いよ暗いよ怖いよ眠いよ!」
「おれに任せろ。この犬焼いて食おう」
「やめて!!」
リシェを追いかけ回すメタっち。既に寝息を立てているティル。まともな話相手になるのはウィルオンだけだった。
「おい、ウィルオン~。なんとかならないのかよ」
「俺は自分で飛んで帰れるけど、それじゃおまえが困るだろ? ティルやリシェぐらいなら乗せてやれるけど、おまえはさすがに重量オーバーだよ」
「だよなぁ。くそっ、タネはかせめ! こんど会ったらただじゃおかないからな!!」
リクが途方に暮れていると、そこに懐かしい声が聞こえてきた。
「フフフ…。お困りのようだね、リク君。そんなときは困ったときの天才ターネ……」
リクはタネはかせをつかみ上げて揺さぶる。
「よぉぉおおお! 待ってたぜタネはかせぇぇえええ!! 俺もウィルオンの言ってたことがわかった。おまえに関わるとロクなことがない!!」
「ままま、まあまあリクく、あ痛っ舌噛ん…ちょ、リク君や、やめ、たま……あばばばばばばば」
「まぁ、落ちつけよ。よう、どこから湧いて出たんだ、タネはかせ?」
もはやウィルオンは慣れたもので冷静にそれを対処する。この数年でウィルオンもよく成長したものだ。こんなタネはかせとともに暮らしてきたのならそれも当然か。
「う、うむ。私はうっかり過去に飛ばされてしまったのだが、そこで過去の私と協力して新たなタイムマシンを発明して帰ってきたのだ。あいるびーばっく、なのだ! 見よ、これぞペンシルロケットに対を成す存在『ケシゴムUFO』(ちょっと使いかけ)!!」
また奇妙な発明品がどこからともなく現れた。そこには消しゴムを模したと思われる四角い巨大な機械があった。ちょっと使いかけとは一体何なのか。新品や使い古しなども存在するのだろうか。
「またジャングルのようだが、こんどこそ現在に戻ってこれたのだろうな? また第1世界で恐竜に追いかけられるのはワシは勘弁だぞ……」
どうやらウクツも乗っているらしい。
「ふははは! これはただのタイムマシンではない! なんと飛行機能もついてて世界中どこでも行き放題だぞ!! さぁ、もう暗くなってしまった。これに乗って帰ろうじゃないか」
「くそっ、もうコリゴリだ! 俺は泳いで帰るッ!!」
「俺も自分で飛んでくよ」
「そんな冷たいこと言わないのだ。なにやら知らない犬と……おお、あれはメタメタ君ではないか、すごく懐かしい顔だ。とにかく全員乗った乗った! さあさあ!!」
ペンシルロケットのときのようにその場にいる全員が無理やりケシゴムUFOに押し込まれると、一同はそれに乗ってこのニワの島を脱出したのだった。
UFOは音もなく浮かび上がると、アースガーデンに向かって発進する。
「どうだ、私がいて良かっただろう。無事に現代へ帰ってこれたし、無人島からも脱出できたのだ。貴重な経験だったろう?」
「むしろ、全部おまえのせいだ! まさか、毎回こんな感じで最後にタネはかせがでてきてトンデモメカで解決ってパターンじゃないだろうな……」
「それは大丈夫なのだ。次回はナープ君サイドのお話だから私の出番はないのだよ」
「メタいこと言ってんじゃねぇ!」
「呼んだ?」
「メタっちは黙ってろ!!」
「や、やめるのだリク君操縦が……あわわゎゎわゎわわわ」
そしてUFOはふらふらしながら夜空を行くのだった。
密林にリクの驚いた声が響き渡る。
「ああ、ここは間違いなく現在だぞ。とは言ってもおれはおまえに会ったことがないから、おまえが”現在のおまえ”かどうかはわかんねぇけどな。でも、おれはウィルオンをよく知ってるぞ。これは現在のウィルオンだから、きっとおまえも現在のおまえなんだろ」
紫色の変な生き物がリクに向かって答える。
「じゃあ、ここはどこなのメタっち?」
ティルはその生き物をメタっちと呼んだ。
「ここはニワって島だな。ずいぶんでかい島だけど誰も住んでないし、同じような密林しかない。密林なのにトリも虫もいない」
ここはかつて科学や機械の発展していた第2世界の頃は観光地として知られている場所だった。しかし第2世界が滅んだ頃、地上のほとんどは酷く汚染され何者も棲めない環境になってしまい、人々は大樹を登って空の国々へと移り住んだのだ。このニワもそんな汚染され放棄された島のひとつで、長い時を経てここまでの復活を遂げたものの、誰にもその存在を再発見されることもなく取り残された”復活した大自然の秘境”のひとつだった。
「無人島ってことか…。ウィルオンはまだ気絶したまんまだし、どうやってここから脱出すればいいんだろう。おまえに乗せてってもらうのは難しそうだしなぁ」
メタっちには小さな白い翼が生えていた。紫色の羽の生えたアメーバのような何か。それがメタっちの姿だ。
「船はないけど、何か役に立つものなら入ってるかもしれねぇぞ」
「”入ってる”…? どういう意味だ」
「ちょっと待ってな」
メタっちは大口を開くと、その中からなにやら様々ながらくたを吐き出し始めた。
「な、なんだ!? おまえの身体はどうなっているんだ!」
「おれの腹の中は倉庫になってるんだ。ひとつはおれ専用の倉庫、ひとつはおれの仲間たちと共有してる共通空間に繋がってる倉庫、もうひとつはおれの腹ってわけだ」
「腹の中に倉庫!? しかも共有してるって!!? わ、わけがわからない……。リクさん頭ぐるぐるしてきたぜ」
「まぁ、そういうもんだと思っとけよ。おっ、こんなの出てきたぞ」
メタっちの腹の中からなぜか犬が出てきた。とりあえず、脱出に役立つものではない。
「あれ……オレはいったい……。どうしてこんなところに……」
「おれもわかんねぇや。いつ食ったんだろ」
「おまえの腹はどうなってるんだ!」
遭難者が増えてしまった。
「あっ、こんどはなんかの肉が出てきたぞ。焼いて食おう。食料はおれから出るやつでばっちりだな。そうだ、みんなでここで暮らそう」
「出るやつよくねぇ!! おまえの腹から出てきたものなんて食えるか!」
そうこうしているうちに日が暮れようとしている。未知の密林の中で夜を迎えるのはとても危険だ。
「ティルは呑気だな。遭難してるってのに遊びに行っちまったみたいだし。迷子になる前に見つけてこないと…。ああ、あと水と食料もいるな」
「そんなこと気にしてても腹がへるだけだぞ。おれは水も出せるぞ。肉いらないのか? じゃあ、おれが食べちゃう。あ、そっか。もしかしたらこんなときのために取っておいた非常食だったかも……」
こんどはメタっちは炎を吐き出している。本当に変な生き物だ。
「オレは非常食だったのか…!!」
犬はショックを受けている。
「そういえば、おまえは何なんだ? まさか、おまえまで火を吐いたり空飛んだりしないだろうな」
「そんなことできるもんか! オレはリシェだ! ただのしがないきいろいわんこだぞ!」
「で、そのきいろいわんこは何ができるんだ?」
「何って言われても……。あ、そのティルってやつを見つけるぐらいならできるかも」
リシェは鼻が利くので、何かティルの臭いの残ったものがあればティルを捜せるらしい。
「これでいいか」
リクはティルの写真を取り出した。
「そうそう、こうやって臭いを嗅いで……って臭いわかんねぇ!!」
「わぁー! なんかもふもふがいる! もふもふもふもふ!!」
結局、当のティルは心配する間もなくリシェにつられて自分から帰ってきた。
そしてとうとう日は暮れて辺りは闇に包まれる。明かりはウィルオンとメタっちの吐き出す炎だけが頼りだった。
「くそー、腹へったよ。俺たちどうすりゃいいんだよ。ああー寒いよ暗いよ怖いよ眠いよ!」
「おれに任せろ。この犬焼いて食おう」
「やめて!!」
リシェを追いかけ回すメタっち。既に寝息を立てているティル。まともな話相手になるのはウィルオンだけだった。
「おい、ウィルオン~。なんとかならないのかよ」
「俺は自分で飛んで帰れるけど、それじゃおまえが困るだろ? ティルやリシェぐらいなら乗せてやれるけど、おまえはさすがに重量オーバーだよ」
「だよなぁ。くそっ、タネはかせめ! こんど会ったらただじゃおかないからな!!」
リクが途方に暮れていると、そこに懐かしい声が聞こえてきた。
「フフフ…。お困りのようだね、リク君。そんなときは困ったときの天才ターネ……」
リクはタネはかせをつかみ上げて揺さぶる。
「よぉぉおおお! 待ってたぜタネはかせぇぇえええ!! 俺もウィルオンの言ってたことがわかった。おまえに関わるとロクなことがない!!」
「ままま、まあまあリクく、あ痛っ舌噛ん…ちょ、リク君や、やめ、たま……あばばばばばばば」
「まぁ、落ちつけよ。よう、どこから湧いて出たんだ、タネはかせ?」
もはやウィルオンは慣れたもので冷静にそれを対処する。この数年でウィルオンもよく成長したものだ。こんなタネはかせとともに暮らしてきたのならそれも当然か。
「う、うむ。私はうっかり過去に飛ばされてしまったのだが、そこで過去の私と協力して新たなタイムマシンを発明して帰ってきたのだ。あいるびーばっく、なのだ! 見よ、これぞペンシルロケットに対を成す存在『ケシゴムUFO』(ちょっと使いかけ)!!」
また奇妙な発明品がどこからともなく現れた。そこには消しゴムを模したと思われる四角い巨大な機械があった。ちょっと使いかけとは一体何なのか。新品や使い古しなども存在するのだろうか。
「またジャングルのようだが、こんどこそ現在に戻ってこれたのだろうな? また第1世界で恐竜に追いかけられるのはワシは勘弁だぞ……」
どうやらウクツも乗っているらしい。
「ふははは! これはただのタイムマシンではない! なんと飛行機能もついてて世界中どこでも行き放題だぞ!! さぁ、もう暗くなってしまった。これに乗って帰ろうじゃないか」
「くそっ、もうコリゴリだ! 俺は泳いで帰るッ!!」
「俺も自分で飛んでくよ」
「そんな冷たいこと言わないのだ。なにやら知らない犬と……おお、あれはメタメタ君ではないか、すごく懐かしい顔だ。とにかく全員乗った乗った! さあさあ!!」
ペンシルロケットのときのようにその場にいる全員が無理やりケシゴムUFOに押し込まれると、一同はそれに乗ってこのニワの島を脱出したのだった。
UFOは音もなく浮かび上がると、アースガーデンに向かって発進する。
「どうだ、私がいて良かっただろう。無事に現代へ帰ってこれたし、無人島からも脱出できたのだ。貴重な経験だったろう?」
「むしろ、全部おまえのせいだ! まさか、毎回こんな感じで最後にタネはかせがでてきてトンデモメカで解決ってパターンじゃないだろうな……」
「それは大丈夫なのだ。次回はナープ君サイドのお話だから私の出番はないのだよ」
「メタいこと言ってんじゃねぇ!」
「呼んだ?」
「メタっちは黙ってろ!!」
「や、やめるのだリク君操縦が……あわわゎゎわゎわわわ」
そしてUFOはふらふらしながら夜空を行くのだった。
これはギャグ回ですか? いいえ、この回は重要な意味を持ちます。
”天竜”の話、よく覚えておくといいでしょう。私は決して諦めませんよ。くっくっく……。
”天竜”の話、よく覚えておくといいでしょう。私は決して諦めませんよ。くっくっく……。