第七章「精神VS音響」
ガイストたちが精神体との戦いの準備を進めていた頃、ゲンダーは北上し真っ直ぐにマキナへと向かっていた。
精神体に有効打を与えるには欠かせない射影機を取りに向かう重要な任務だ。
手にはガイストから託された小型端末。ガイストはその修理も頼むと言っていた。
「責任重大ダ。今回の戦いはオレの肩にかかっているぞ」
ゲンダーはマキナへと足を急がせる。
フィーティンを抜けて、ヴェルスタンド領内へ。三国の国境付近、ヴェルスタンドのシュメルツ地方。かつての戦いでヴェルスタンドの『鯰』とマキナの『鯨』が戦いを繰り広げた場所だ。
「精神体か。あまりいい思い出じゃないな。メイヴ…」
鯰を操っていた本体は精神体だった。鯰とは巨大な精神兵器だったのだ。
精神体は射影機によってトドメを刺されたが、その過程でメイヴが犠牲になってしまった。
「もう誰も犠牲にしたくない。以前の戦いから得たことをうまく活用しないとな」
かつての戦いを思い出しながらもマキナへと急ぐ。
するとその道中にはグメーシスの群れが待ち受けていた。それはかつての仲間のグメーシスではない。
「まずいな。グメーシスはオレの身体だって塩に変えてしまうんダ。こんなところでくたばるわけにはいかないぞ」
警戒しながら先へ進む。しかしグメーシスたちはゲンダーには見向きもせず、むしろ避けているようにも見えた。
「どういうことダ?」
『やつらが苦手な超音波を発しています。ヴェルスタンドでの分析がここで役に立つとは思いませんでした』
ゲンダーの正面に見覚えのある遠隔モニタが現れた。
「メイヴ!? おまえ、死んだんじゃなかったのか!」
『勝手に殺さないでほしいですね。お久しぶりです、ゲンダー。元気そうで安心しました』
よく見るとそれは遠隔モニタによく似てはいるが、ガイストから託された小型端末から表示されているホログラムのようだ。
セイヴは自身のついてを説明した。すなわち、セイヴとはブラックボックスに残るメイヴの記憶だということを。
「じゃあおまえはメイヴじゃないのか?」
『同じであるとも言えますし、別の存在であるとも言えます。……同じことを前にも言った気がしますね。ちょっとコピペしてくるので待っててください』
セイヴのホログラムモニタには、以前ガイストに説明したときとまったく同じ文面が表示される。
「なるほどな。しかしこの機械は壊れていたと思ったんダが?」
『私を甘く見てもらっては困ります。こんなこともあろうかと、予めこの端末のプログラムを書き換えて自己修復機能を搭載しておいたのです』
「全く便利なやつダ。ご都合主義と言うかなんというか」
『感心してないでマキナへ急いでください。あまり遅れるとガイストがおじいさんになってしまいます』
「相変わらずダな。やはりおまえはメイヴそのものダ」
嬉しさと懐かしさを感じながら、グメーシスをやり過ごして二人がマキナへと急ぐ。
(そういえばかつて一緒に戦ったあのグメーシスは今どこでどうしているんダ…)
精神体に有効打を与えるには欠かせない射影機を取りに向かう重要な任務だ。
手にはガイストから託された小型端末。ガイストはその修理も頼むと言っていた。
「責任重大ダ。今回の戦いはオレの肩にかかっているぞ」
ゲンダーはマキナへと足を急がせる。
フィーティンを抜けて、ヴェルスタンド領内へ。三国の国境付近、ヴェルスタンドのシュメルツ地方。かつての戦いでヴェルスタンドの『鯰』とマキナの『鯨』が戦いを繰り広げた場所だ。
「精神体か。あまりいい思い出じゃないな。メイヴ…」
鯰を操っていた本体は精神体だった。鯰とは巨大な精神兵器だったのだ。
精神体は射影機によってトドメを刺されたが、その過程でメイヴが犠牲になってしまった。
「もう誰も犠牲にしたくない。以前の戦いから得たことをうまく活用しないとな」
かつての戦いを思い出しながらもマキナへと急ぐ。
するとその道中にはグメーシスの群れが待ち受けていた。それはかつての仲間のグメーシスではない。
「まずいな。グメーシスはオレの身体だって塩に変えてしまうんダ。こんなところでくたばるわけにはいかないぞ」
警戒しながら先へ進む。しかしグメーシスたちはゲンダーには見向きもせず、むしろ避けているようにも見えた。
「どういうことダ?」
『やつらが苦手な超音波を発しています。ヴェルスタンドでの分析がここで役に立つとは思いませんでした』
ゲンダーの正面に見覚えのある遠隔モニタが現れた。
「メイヴ!? おまえ、死んだんじゃなかったのか!」
『勝手に殺さないでほしいですね。お久しぶりです、ゲンダー。元気そうで安心しました』
よく見るとそれは遠隔モニタによく似てはいるが、ガイストから託された小型端末から表示されているホログラムのようだ。
セイヴは自身のついてを説明した。すなわち、セイヴとはブラックボックスに残るメイヴの記憶だということを。
「じゃあおまえはメイヴじゃないのか?」
『同じであるとも言えますし、別の存在であるとも言えます。……同じことを前にも言った気がしますね。ちょっとコピペしてくるので待っててください』
セイヴのホログラムモニタには、以前ガイストに説明したときとまったく同じ文面が表示される。
「なるほどな。しかしこの機械は壊れていたと思ったんダが?」
『私を甘く見てもらっては困ります。こんなこともあろうかと、予めこの端末のプログラムを書き換えて自己修復機能を搭載しておいたのです』
「全く便利なやつダ。ご都合主義と言うかなんというか」
『感心してないでマキナへ急いでください。あまり遅れるとガイストがおじいさんになってしまいます』
「相変わらずダな。やはりおまえはメイヴそのものダ」
嬉しさと懐かしさを感じながら、グメーシスをやり過ごして二人がマキナへと急ぐ。
(そういえばかつて一緒に戦ったあのグメーシスは今どこでどうしているんダ…)
フィーティンでは進軍の準備を終えて、ついにヴェルスタンドへ向けて出撃を開始した。
先頭を行くのはフィーティンの歩兵たち。続いて戦車隊、音響兵器を搭載したスクリームと呼ばれる装甲車。後方には指揮戦車が行き、ガイストやフィーティンの将軍が指揮を執る。ヘルツも同乗し補佐を行う。
先の戦争で崩壊したままのガイストクッペルを通過、ヴェルスタンド研究所地帯ヒュフテに到着した。
(ガイストクッペルか…。苦い思い出ばかりだな、あそこは)
前ヴェルスタンド大統領は、ガイストの研究していた精神体を兵器転用した。
科学者の仕事は発明をすることであり、その発明品の用途を決めるのは科学者の役目ではないというが、平和を願って精神体を研究していたガイストにとって、それが兵器の原料に使われてしまったのは皮肉なことだった。
そしてその兵器や精神体が原因で今回の事件が起こっているのだ。
これは自分の責任でもある。なんとしてもこの一件は解決する。そう心に誓うガイストだった。
ヒュフテに到着するや否や、一行を出迎えたのは無数の光の玉。精神兵器レティス及びブロウティスだ。
「早速お出でなさったな。我が軍の実力を見せつけてやるのだ! 歩兵隊散開、アルファからガンマまでは先行して先手を打て。デルタはその支援だ。戦車隊とスクリーム部隊は攻撃準備急げ。さぁ行け! 一機でも多くスクラップにしてこい!」
「「イエッサー!」」
フィーティンの将軍が無線で各隊に指示を送る。
歩兵隊が銃弾をばら撒きブロウティスを破壊、スタングレネードをばら撒きレティスを足止めする。
スクリームが咆哮。その耳を裂くような音響がレティスを一掃する。歩兵隊は防音装備で対策済み、指揮は無線で確認している。
「10時の方角、ブロウティスの群れを確認!」
「1時、レティスの増援です!」
「青、炸裂榴弾をお見舞いしろ。赤へはスクリームで迎え討て」
フィーティン軍は慣れた様子で精神兵器たちを蹴散らしていく。
「前方より大群! 対処間に合いません!」
「よし、戦車隊前へ。主砲ぶちかませ! 装甲車隊は対地ミサイル装填!」
爆炎が戦場を舞い、精神兵器の残骸が散る。
それに紛れて紫色の極限的な機械が巻き込まれて儚く散ったような気がするが敢えて気にしない。
フィーティンの軍勢は精神兵器たちを圧倒する。
すると爆炎の向こうから銀色の群れが現れた。グメーシスだ。
銃弾や砲弾はグメーシスの身体を通過し、背後の研究ドームを瓦礫の山へと変えた。
「戦車隊後退、歩兵はスタンで援護! スクリーム最大出力、放て!」
しかしグメーシスたちはスクリームの音撃をものともせず突撃、歩兵数名と戦車数台が粉と化して散った。
「音響、効果ありません!」
「先陣撤退! 音は周波数調整、再度放て!」
ゲズィヒトでのグメーシスとの戦いを思い返す。
グメーシスには罪の刻印と天の刻印の二種類の個体が存在する。やつらの司令塔は天のグメーシスだ。
司令塔を撃退すればグメーシスたちは混乱する。その旨をガイストが告げる。
「よし。戦車隊、音響弾を装填。狙撃隊は天の個体を探してペイント弾斉射。音響弾一点集中!」
天のグメーシスに音響弾が命中。グメーシスたちの撃退に成功する。
「クリア。残存勢力なし」
「進撃再開!」
その後も続いて精神兵器レティス、ブロウティス、グメーシスの攻撃が続くがこれを突破。
前方にはヴェルスタンドを象徴するタワーが見えてきた。首都ゲーヒルンは目前だ。
「オールクリア。このまま首都へ突入します」
するとそのとき、前衛の歩兵たち突然倒れ始めた。
これはヴェルスタンドで起こっている現象と全く同じものだ。
「出たか、精神体!」
ガイストの指揮に従い、全兵士たちは対精神体ゴーグルを装着する。
これは一見ただの軍用ゴーグルに見えるが、射影機の構造を応用した特殊なレンズが使用されており、これを通して見ることで精神体の姿を捉えることができるようになる。出撃前にフィーティンの整備士に手伝わせてガイストが準備したものだ。
精神体が蒼白いオーラを放つアメーバのような姿で浮かび上がる。前方に多数、左右にもその姿が確認でき、包囲されるのは時間の問題と見える。
「やつらめ、いつの間にこんなに…!」
歩兵たちが銃弾を撃ち込むが、精神体には物理的な攻撃は通用しない。
「音響で精神体を倒すことはできないが、足止めぐらいはできるはずだ。その間に一旦退くべきだ」
「よし。スクリーム斉撃しつつ後退!」
音響兵器が唸りを上げる。
すると一回り大きな精神体が複数出現。パワー不足か、どうやらこの個体には音響兵器が効かないようだ。
「なんだと!」
「これが親玉か!?」
残るスタングレネードを次々と投げ込むが、まるでびくともしない。
そうしている間にも精神体たちはじわじわと距離を詰め、また数人の兵士が精神体に呑み込まれて犠牲になった。
ゴーグルを装着しているのでこんどはよく見える。犠牲になった兵士から蒼白い光の玉が飛び出すと、それは精神体に吸収された。
「くそっ、退け退け!」
「た、退却!!」
大きな精神体は周囲の精神体と融合しさらに肥大化。戦車と同程度の大きさとなった精神体が十数体。
それが前方に一群体、左右に、後ろにも同様に立ちはだかる。いつの間にか囲まれてしまっていた。
「だめです! 逃げ場がありません!」
「止むを得ん…。なんとか切り抜けろ!」
精神体たちはじわじわと、しかし確実に距離を詰めてくる。
指揮戦車の中にいたとしても安全とは言えない。精神体には装甲など全く意味を成さない。
「ガイスト殿、どうしたものだろうか」
将軍がガイストに助言を求める。
「射影機さえあればどうとでもなるんだが…。ゲンダーの到着はまだなのか? 頼む、急いでくれゲンダー!」
頼みの綱の音響兵器が効かないとあっては成す術もない。なんとか精神体に触れないように逃げ回るしか方法はない。
幸い敵の足は速くはない。ここにいる精神体がすべてとは限らない。増援が現れればひとたまりもないだろう。
しかし、こういうときに限って悪い予感は的中するものだ。精神体の数は見る見るうちに増えていき、周囲には蒼白い光の環ができあがっていた。そしてそれらはもうすぐそこまで迫っている。
「う、うわああっ!」
「おれには家族がいるんだ! こんなところで死んでたまるか!」
「ちくしょう! この化け物どもめッ!」
混乱した歩兵たちが叫び、銃を乱射する。
「お、落ち着け! 訓練を思い出せ。統制を乱すんじゃない!」
部隊長が声を張り上げるが、兵士たちのどよめきに混じって掻き消えてしまう。
その声に反応したかのように精神体たちが一斉に飛びかかる。
「これまでか…!」
そのときだった。
鋭く高い音が響き渡り閃光と衝撃波が駆け抜けたかと思うと、精神体たちが弾き飛ばされて痺れたかのように痙攣し始めた。
『まだ慌てるような時間じゃありませんよ!』
上空にマキナの新型飛行艇が姿を現した。
先頭を行くのはフィーティンの歩兵たち。続いて戦車隊、音響兵器を搭載したスクリームと呼ばれる装甲車。後方には指揮戦車が行き、ガイストやフィーティンの将軍が指揮を執る。ヘルツも同乗し補佐を行う。
先の戦争で崩壊したままのガイストクッペルを通過、ヴェルスタンド研究所地帯ヒュフテに到着した。
(ガイストクッペルか…。苦い思い出ばかりだな、あそこは)
前ヴェルスタンド大統領は、ガイストの研究していた精神体を兵器転用した。
科学者の仕事は発明をすることであり、その発明品の用途を決めるのは科学者の役目ではないというが、平和を願って精神体を研究していたガイストにとって、それが兵器の原料に使われてしまったのは皮肉なことだった。
そしてその兵器や精神体が原因で今回の事件が起こっているのだ。
これは自分の責任でもある。なんとしてもこの一件は解決する。そう心に誓うガイストだった。
ヒュフテに到着するや否や、一行を出迎えたのは無数の光の玉。精神兵器レティス及びブロウティスだ。
「早速お出でなさったな。我が軍の実力を見せつけてやるのだ! 歩兵隊散開、アルファからガンマまでは先行して先手を打て。デルタはその支援だ。戦車隊とスクリーム部隊は攻撃準備急げ。さぁ行け! 一機でも多くスクラップにしてこい!」
「「イエッサー!」」
フィーティンの将軍が無線で各隊に指示を送る。
歩兵隊が銃弾をばら撒きブロウティスを破壊、スタングレネードをばら撒きレティスを足止めする。
スクリームが咆哮。その耳を裂くような音響がレティスを一掃する。歩兵隊は防音装備で対策済み、指揮は無線で確認している。
「10時の方角、ブロウティスの群れを確認!」
「1時、レティスの増援です!」
「青、炸裂榴弾をお見舞いしろ。赤へはスクリームで迎え討て」
フィーティン軍は慣れた様子で精神兵器たちを蹴散らしていく。
「前方より大群! 対処間に合いません!」
「よし、戦車隊前へ。主砲ぶちかませ! 装甲車隊は対地ミサイル装填!」
爆炎が戦場を舞い、精神兵器の残骸が散る。
それに紛れて紫色の極限的な機械が巻き込まれて儚く散ったような気がするが敢えて気にしない。
フィーティンの軍勢は精神兵器たちを圧倒する。
すると爆炎の向こうから銀色の群れが現れた。グメーシスだ。
銃弾や砲弾はグメーシスの身体を通過し、背後の研究ドームを瓦礫の山へと変えた。
「戦車隊後退、歩兵はスタンで援護! スクリーム最大出力、放て!」
しかしグメーシスたちはスクリームの音撃をものともせず突撃、歩兵数名と戦車数台が粉と化して散った。
「音響、効果ありません!」
「先陣撤退! 音は周波数調整、再度放て!」
ゲズィヒトでのグメーシスとの戦いを思い返す。
グメーシスには罪の刻印と天の刻印の二種類の個体が存在する。やつらの司令塔は天のグメーシスだ。
司令塔を撃退すればグメーシスたちは混乱する。その旨をガイストが告げる。
「よし。戦車隊、音響弾を装填。狙撃隊は天の個体を探してペイント弾斉射。音響弾一点集中!」
天のグメーシスに音響弾が命中。グメーシスたちの撃退に成功する。
「クリア。残存勢力なし」
「進撃再開!」
その後も続いて精神兵器レティス、ブロウティス、グメーシスの攻撃が続くがこれを突破。
前方にはヴェルスタンドを象徴するタワーが見えてきた。首都ゲーヒルンは目前だ。
「オールクリア。このまま首都へ突入します」
するとそのとき、前衛の歩兵たち突然倒れ始めた。
これはヴェルスタンドで起こっている現象と全く同じものだ。
「出たか、精神体!」
ガイストの指揮に従い、全兵士たちは対精神体ゴーグルを装着する。
これは一見ただの軍用ゴーグルに見えるが、射影機の構造を応用した特殊なレンズが使用されており、これを通して見ることで精神体の姿を捉えることができるようになる。出撃前にフィーティンの整備士に手伝わせてガイストが準備したものだ。
精神体が蒼白いオーラを放つアメーバのような姿で浮かび上がる。前方に多数、左右にもその姿が確認でき、包囲されるのは時間の問題と見える。
「やつらめ、いつの間にこんなに…!」
歩兵たちが銃弾を撃ち込むが、精神体には物理的な攻撃は通用しない。
「音響で精神体を倒すことはできないが、足止めぐらいはできるはずだ。その間に一旦退くべきだ」
「よし。スクリーム斉撃しつつ後退!」
音響兵器が唸りを上げる。
すると一回り大きな精神体が複数出現。パワー不足か、どうやらこの個体には音響兵器が効かないようだ。
「なんだと!」
「これが親玉か!?」
残るスタングレネードを次々と投げ込むが、まるでびくともしない。
そうしている間にも精神体たちはじわじわと距離を詰め、また数人の兵士が精神体に呑み込まれて犠牲になった。
ゴーグルを装着しているのでこんどはよく見える。犠牲になった兵士から蒼白い光の玉が飛び出すと、それは精神体に吸収された。
「くそっ、退け退け!」
「た、退却!!」
大きな精神体は周囲の精神体と融合しさらに肥大化。戦車と同程度の大きさとなった精神体が十数体。
それが前方に一群体、左右に、後ろにも同様に立ちはだかる。いつの間にか囲まれてしまっていた。
「だめです! 逃げ場がありません!」
「止むを得ん…。なんとか切り抜けろ!」
精神体たちはじわじわと、しかし確実に距離を詰めてくる。
指揮戦車の中にいたとしても安全とは言えない。精神体には装甲など全く意味を成さない。
「ガイスト殿、どうしたものだろうか」
将軍がガイストに助言を求める。
「射影機さえあればどうとでもなるんだが…。ゲンダーの到着はまだなのか? 頼む、急いでくれゲンダー!」
頼みの綱の音響兵器が効かないとあっては成す術もない。なんとか精神体に触れないように逃げ回るしか方法はない。
幸い敵の足は速くはない。ここにいる精神体がすべてとは限らない。増援が現れればひとたまりもないだろう。
しかし、こういうときに限って悪い予感は的中するものだ。精神体の数は見る見るうちに増えていき、周囲には蒼白い光の環ができあがっていた。そしてそれらはもうすぐそこまで迫っている。
「う、うわああっ!」
「おれには家族がいるんだ! こんなところで死んでたまるか!」
「ちくしょう! この化け物どもめッ!」
混乱した歩兵たちが叫び、銃を乱射する。
「お、落ち着け! 訓練を思い出せ。統制を乱すんじゃない!」
部隊長が声を張り上げるが、兵士たちのどよめきに混じって掻き消えてしまう。
その声に反応したかのように精神体たちが一斉に飛びかかる。
「これまでか…!」
そのときだった。
鋭く高い音が響き渡り閃光と衝撃波が駆け抜けたかと思うと、精神体たちが弾き飛ばされて痺れたかのように痙攣し始めた。
『まだ慌てるような時間じゃありませんよ!』
上空にマキナの新型飛行艇が姿を現した。