宇宙――色とりどりの星が瞬き、生まれ、そして消えていく漆黒の海。
黒き海に点在するのはいくつもの恒星とそれを取り巻く惑星群、銀河。
そのうちのひとつ、ネイティオスと呼ばれる銀河に恒星ヌアヴはあった。
ヌアヴとは女神を意味する言葉。その女神が見守るは祝福されし12と忌み嫌われし1の惑星。
祝福されし第2の惑星、その名をフローティア。そこに今、漆黒の海より黒き雫がこぼれ落ちた。
そして運命は動き出す。黒き宿命がもたらされる。
すべてはここから始まった――
黒き海に点在するのはいくつもの恒星とそれを取り巻く惑星群、銀河。
そのうちのひとつ、ネイティオスと呼ばれる銀河に恒星ヌアヴはあった。
ヌアヴとは女神を意味する言葉。その女神が見守るは祝福されし12と忌み嫌われし1の惑星。
祝福されし第2の惑星、その名をフローティア。そこに今、漆黒の海より黒き雫がこぼれ落ちた。
そして運命は動き出す。黒き宿命がもたらされる。
すべてはここから始まった――
Black Drop
一番星「すべての始まり」
ここはとある島の南西部。北は燃え盛る炎のように赤い岩肌を持つ山脈、東は大砂丘、西と南は海に囲まれた台地。
台地の頂点には水源地があり、四方へと恵みの水を供給している。そこにカルストの村はあった。
世は狩猟時代。数々の狩人たちがこの村で生活を営み、グァンターと呼ばれる男もまたこの村で暮らしていた。
そんなある日のことだ、村を禍々しい気と強烈な衝撃波が襲ったのは。
家々は吹き飛ばされ、木々はなぎ倒され、一瞬にして村は荒れ果てた。
だがなんという幸い。人々は大きな被害を受けることなく、この災害を乗り切った。
村は徐々に復興されて以前のような活気を取り戻していく。災害から数日が経ったそんな日のことだった。
「や、やめろ……来るなッ!」
夜もまだ明けない薄闇の中に一人の男の悲鳴が響き渡る。
男は腰を抜かしてしまったようで立ち上がることができず、尻餅をついた体勢のままじりじりと後ずさる。
「うっ…!」
背が壁に当たった。追い詰められてしまったのだ。もはや逃げ場はない。
そんな男の正面には月影に照らされて一匹の獣の黒い姿が見える。
あれは犬? それにしてはずいぶん大きい。何よりも、あんなに禍々しい気を発する獣がこの島にいただろうか。
いや、いるまい。なぜならその獣は数日前までは存在し得なかったからだ。
黒き獣は一歩、また一歩と男へとその足を寄せた。男の表情が恐怖に歪む。
獣は呻り声を上げると大きく咆えて、そして目の前の獲物目掛けて飛びかかった。
「う、うわ……ぐ、ぎゃぁぁぁあああああぁ……ぁ…あぁ……」
紅の飛沫。それは空に浮かぶ月と同様に赤かった。
世は狩猟時代。弱肉強食が世の常なのだ。
台地の頂点には水源地があり、四方へと恵みの水を供給している。そこにカルストの村はあった。
世は狩猟時代。数々の狩人たちがこの村で生活を営み、グァンターと呼ばれる男もまたこの村で暮らしていた。
そんなある日のことだ、村を禍々しい気と強烈な衝撃波が襲ったのは。
家々は吹き飛ばされ、木々はなぎ倒され、一瞬にして村は荒れ果てた。
だがなんという幸い。人々は大きな被害を受けることなく、この災害を乗り切った。
村は徐々に復興されて以前のような活気を取り戻していく。災害から数日が経ったそんな日のことだった。
「や、やめろ……来るなッ!」
夜もまだ明けない薄闇の中に一人の男の悲鳴が響き渡る。
男は腰を抜かしてしまったようで立ち上がることができず、尻餅をついた体勢のままじりじりと後ずさる。
「うっ…!」
背が壁に当たった。追い詰められてしまったのだ。もはや逃げ場はない。
そんな男の正面には月影に照らされて一匹の獣の黒い姿が見える。
あれは犬? それにしてはずいぶん大きい。何よりも、あんなに禍々しい気を発する獣がこの島にいただろうか。
いや、いるまい。なぜならその獣は数日前までは存在し得なかったからだ。
黒き獣は一歩、また一歩と男へとその足を寄せた。男の表情が恐怖に歪む。
獣は呻り声を上げると大きく咆えて、そして目の前の獲物目掛けて飛びかかった。
「う、うわ……ぐ、ぎゃぁぁぁあああああぁ……ぁ…あぁ……」
紅の飛沫。それは空に浮かぶ月と同様に赤かった。
世は狩猟時代。弱肉強食が世の常なのだ。
翌朝、男の死はすぐに村中に知れ渡ることとなる。
死体の傷跡や目撃情報から、これが例の黒い獣の仕業だということはすぐに判った。
このような獣を野放しにしておいては村の危機。緊急に長老たちが顔をそろえて会談が執り行われた。
かつては名の馳せた狩人だった彼らも今となっては老いて久しく、もうかつてのように己の力を振るうことはできなかった。そこで長老たちは一人の男を呼んだ。それがこの大男、グァンターだ。
グァンターは集会場へ現れると、礼儀正しく片膝を立てて腰を落とした。
「長老、グァンターここに参りました。例の事件のことでしょう。さっそくですが俺の使命とは?」
一人の長老が身を乗り出して、まずは顔を上げてくれと言った。
このカルスト村は東西南北の四区画に分かれて四人の長老たちによってまとめられている。
グァンターは北の出身、そして声をかけたのは北の長老。グァンターには馴染みの深い顔だ。
「うむ。理解してくれているのなら話が早い。実はだな…」
話は数日前に遡る。そう、突如として村を襲ったあの災害のあった日だ。
村を襲った禍々しい気、そして衝撃波。その正体は隕石の墜落によるものだったのだ。東の区画の者が、空から星が落ちてきて大砂丘の向こうへと消えるのを目撃しているという。
さらに村の呪術師の予言によると『星の海よりこぼれ落ちた黒き雫が世界に災いを呼び起こす』のだという。この黒き雫とは件の隕石のことを指しているのだろう、というのが長老たちの見解だ。
「黒き雫……それが例の黒い獣と関係していると?」
「それが確かだとは言えん。だが村の呪術師殿の予言はいつも正確だった。空から来たもの、そして例の災い。関係がないとは言い切れん」
「黒、か。それで長老、一体俺は何をするために呼ばれたのでしょう」
拳を強く握り締めるグァンターに長老は最初の指示を下した。
「村で一番の狩人であるおまえだからこそ頼む。あの黒き獣を討伐し、村を危機から解放してほしい」
黒き雫と黒い獣。今はまだそれが何の関係があるのかはわからない。だが黒い獣が村の脅威であることに変わりはないのだ。
グァンターはこれを力強く了解した。俺の双肩に村の命運がかかっている、ここでやらねば男ではない、と。
死体の傷跡や目撃情報から、これが例の黒い獣の仕業だということはすぐに判った。
このような獣を野放しにしておいては村の危機。緊急に長老たちが顔をそろえて会談が執り行われた。
かつては名の馳せた狩人だった彼らも今となっては老いて久しく、もうかつてのように己の力を振るうことはできなかった。そこで長老たちは一人の男を呼んだ。それがこの大男、グァンターだ。
グァンターは集会場へ現れると、礼儀正しく片膝を立てて腰を落とした。
「長老、グァンターここに参りました。例の事件のことでしょう。さっそくですが俺の使命とは?」
一人の長老が身を乗り出して、まずは顔を上げてくれと言った。
このカルスト村は東西南北の四区画に分かれて四人の長老たちによってまとめられている。
グァンターは北の出身、そして声をかけたのは北の長老。グァンターには馴染みの深い顔だ。
「うむ。理解してくれているのなら話が早い。実はだな…」
話は数日前に遡る。そう、突如として村を襲ったあの災害のあった日だ。
村を襲った禍々しい気、そして衝撃波。その正体は隕石の墜落によるものだったのだ。東の区画の者が、空から星が落ちてきて大砂丘の向こうへと消えるのを目撃しているという。
さらに村の呪術師の予言によると『星の海よりこぼれ落ちた黒き雫が世界に災いを呼び起こす』のだという。この黒き雫とは件の隕石のことを指しているのだろう、というのが長老たちの見解だ。
「黒き雫……それが例の黒い獣と関係していると?」
「それが確かだとは言えん。だが村の呪術師殿の予言はいつも正確だった。空から来たもの、そして例の災い。関係がないとは言い切れん」
「黒、か。それで長老、一体俺は何をするために呼ばれたのでしょう」
拳を強く握り締めるグァンターに長老は最初の指示を下した。
「村で一番の狩人であるおまえだからこそ頼む。あの黒き獣を討伐し、村を危機から解放してほしい」
黒き雫と黒い獣。今はまだそれが何の関係があるのかはわからない。だが黒い獣が村の脅威であることに変わりはないのだ。
グァンターはこれを力強く了解した。俺の双肩に村の命運がかかっている、ここでやらねば男ではない、と。
集会場を抜けるとすぐにグァンターは黒獣狩りの準備に取り掛かった。
家に戻ると愛用の弓と矢を手に、いざというときのためにナイフをひとつ懐に、黒い獣を見たという東の崖へと向かった。
カルストは台地の中央にある水源を囲むように東西南北に分かれた村で、台地の上にあるためその周囲は崖に囲まれている。
水源周辺を除いて木々こそ少ないものの、石灰質の岩でできたこの崖には空洞が多く、ひらけた場所でありながらも死角は多い。
「どこから飛び出してくるかわからないか……警戒しなけりゃな」
グァンターは矢を一本取り、弓を引き絞り構える。いつ現れるかもわからない黒き獣を待ち構える。
その状態を長く維持するのは並大抵の筋力では困難なこと。だがこの男は違った。逞しい肉体、鍛え上げられ引き締まった筋肉、そして2メートルは優に超えるであろうその巨体。身体に刻まれたいくつもの傷は歴戦の兵の証。まさに戦士、まさに筋肉美。これこそまさに彼が村一番の狩人たる所以だ。
彼は待った。その時を待った。黒き獣が現れるのを待ち続けた。
「くっ、さすがの俺も腕が痺れてきた。黒い獣なんて本当にいるのか?」
その存在を疑いかけたとき、グァンターは跳んだ。唐突に、いや咄嗟に跳んだ。
理屈や理由なんてそんな安易なものではない。これは長年の勘だ。彼は咄嗟に感じたのだ、身の危険を。
前転して受け身を取り急いで振り返る。と、さっきまで自分が立っていた地面には大きな穴が空いていた。
「危ねぇ、上から襲ってきやがったか!」
穴の中からは低く呻り声が響き出でる。そしてついに黒き獣がそこから姿を現したのだ。
犬と言うにはあまりに大きい。狼というにはあまりに筋肉質。獅子ほどの存在感を持った黒き獣の姿がそこにあった。
石灰質であるとはいえ、硬い岩を貫くとはなんという力の持ち主。あるいは溶かしたとでもいうのか。
「だが……見逃さん!」
急ぎ再度矢をつがえて引き絞り――放つ。
矢は一閃を描いて飛び獣を貫いた、かに見えた。しかし、次の瞬間にはそこに獣の姿はなかった。
「ぐッ、残像だと!?」
走る鋭い痛みに遅れて現状を把握する。黒き獣の居場所は……腕だ。左腕に獣の牙が深く突き立っている。
手にしていたはずの弓がなくなっている。それもそのはず、獣に噛み砕かれた弓はふたつに割れて落ちていたのだ。
武器を失い陥った窮地、だがこの歴戦の戦士は決して焦らない。
利き腕を狙わなかったのが獣ゆえの浅はかさ、肉を斬らせて骨を断つ。
新たに矢を一本右手に、勢い良く左腕に喰らい付く獣の眼に突き刺した。
続けて懐より護身のナイフを取り出し、怯む獣の胴に突き立てそのまま殴り飛ばす。
黒き獣は断末魔の叫びと共に弧を描いて宙を舞い、その獣が空けた穴へと落ちてその叫びと生気は消えた。
「油断したか、大切な弓をやられるとは。だがこれで村の脅威は去ったはずだ」
使命完遂。獣の亡骸を肩に背負い、グァンターは村へと報告に戻った。
だがここでただひとつ疑問が残った。彼がそれを拾い上げたときには既に獣の亡骸は黒くなかったということに。
家に戻ると愛用の弓と矢を手に、いざというときのためにナイフをひとつ懐に、黒い獣を見たという東の崖へと向かった。
カルストは台地の中央にある水源を囲むように東西南北に分かれた村で、台地の上にあるためその周囲は崖に囲まれている。
水源周辺を除いて木々こそ少ないものの、石灰質の岩でできたこの崖には空洞が多く、ひらけた場所でありながらも死角は多い。
「どこから飛び出してくるかわからないか……警戒しなけりゃな」
グァンターは矢を一本取り、弓を引き絞り構える。いつ現れるかもわからない黒き獣を待ち構える。
その状態を長く維持するのは並大抵の筋力では困難なこと。だがこの男は違った。逞しい肉体、鍛え上げられ引き締まった筋肉、そして2メートルは優に超えるであろうその巨体。身体に刻まれたいくつもの傷は歴戦の兵の証。まさに戦士、まさに筋肉美。これこそまさに彼が村一番の狩人たる所以だ。
彼は待った。その時を待った。黒き獣が現れるのを待ち続けた。
「くっ、さすがの俺も腕が痺れてきた。黒い獣なんて本当にいるのか?」
その存在を疑いかけたとき、グァンターは跳んだ。唐突に、いや咄嗟に跳んだ。
理屈や理由なんてそんな安易なものではない。これは長年の勘だ。彼は咄嗟に感じたのだ、身の危険を。
前転して受け身を取り急いで振り返る。と、さっきまで自分が立っていた地面には大きな穴が空いていた。
「危ねぇ、上から襲ってきやがったか!」
穴の中からは低く呻り声が響き出でる。そしてついに黒き獣がそこから姿を現したのだ。
犬と言うにはあまりに大きい。狼というにはあまりに筋肉質。獅子ほどの存在感を持った黒き獣の姿がそこにあった。
石灰質であるとはいえ、硬い岩を貫くとはなんという力の持ち主。あるいは溶かしたとでもいうのか。
「だが……見逃さん!」
急ぎ再度矢をつがえて引き絞り――放つ。
矢は一閃を描いて飛び獣を貫いた、かに見えた。しかし、次の瞬間にはそこに獣の姿はなかった。
「ぐッ、残像だと!?」
走る鋭い痛みに遅れて現状を把握する。黒き獣の居場所は……腕だ。左腕に獣の牙が深く突き立っている。
手にしていたはずの弓がなくなっている。それもそのはず、獣に噛み砕かれた弓はふたつに割れて落ちていたのだ。
武器を失い陥った窮地、だがこの歴戦の戦士は決して焦らない。
利き腕を狙わなかったのが獣ゆえの浅はかさ、肉を斬らせて骨を断つ。
新たに矢を一本右手に、勢い良く左腕に喰らい付く獣の眼に突き刺した。
続けて懐より護身のナイフを取り出し、怯む獣の胴に突き立てそのまま殴り飛ばす。
黒き獣は断末魔の叫びと共に弧を描いて宙を舞い、その獣が空けた穴へと落ちてその叫びと生気は消えた。
「油断したか、大切な弓をやられるとは。だがこれで村の脅威は去ったはずだ」
使命完遂。獣の亡骸を肩に背負い、グァンターは村へと報告に戻った。
だがここでただひとつ疑問が残った。彼がそれを拾い上げたときには既に獣の亡骸は黒くなかったということに。
グァンターが獣の亡骸を手に村へと帰ると、人々はこぞって胸をなで下ろし戦士の帰還を歓迎した。これで脅威は取り払われた。これで安心して夜を迎えることができると。
しかし宿命は終わってはいなかった。否、まだこれは序章に過ぎない。
翌朝、また別の者の死体が発見されたのだ。犠牲が出たのは前回と同じく東の区画、情報を総合すると今度は黒き怪鳥が出たのだという。長老たちはこれには頭を抱えざるを得なかった。
「たしかに黒い獣は倒したと思った。だが俺が持ち帰った亡骸は黒くなかった。……やはり俺の責任です」
「頭を上げてくれ、グァンター。おまえのせいではない。それに今回現れたのは黒き鳥だというではないか」
「しかし…! 亡骸から消えた黒……まさか別の個体に……その鳥に逃げ出した黒が憑依して……?」
考え込む男たち。そこに一人の老婆が声をかけた。
「まぁ落ち着くのじゃ」
「おお、呪術師殿か」
「わしの予言では『星の海よりこぼれ落ちた黒き雫が世界に災いを呼び起こす』と出たが、例の隕石が気になって再び占ってみたところ、こんな結果が出たのじゃ」
すなわち『宿命の終わりが訪れるとき、黒き力は時を超えて遠く時の狭間に消ゆ』と。
宿命の終わりとは? よくある終末論の予言なのか。その黒き力が消えるとき、世界が終るというのか。
それとも、黒き力が消えれば宿命すなわち災いもまた消えるのか。そしてこの黒き力とは黒き雫を意味するものなのか。
「だがせっかくだから俺は後者を選ぶぜ。その黒をなんとかすればすべてが終わる……希望はある」
「希望か…。しかし、そのすべての終わりに世界の最期が含まれるならそれは希望ではなく絶望だ」
「なるほど、こいつはパンドラの箱というわけですね。しかし長老、このまま何もしなければ明日も明後日も、これから毎日犠牲が出るでしょう。それを俺に指を咥えて見ていろと? 何もしなくても絶望、やれば希望か絶望か。それならば俺はその希望に賭けてみたい!」
予言の黒き雫が隕石のことを、そして黒き力が黒き雫と同じものを意味するならば、きっと数日前に飛来した隕石に何か原因があるに違いない。その原因さえ断てば黒い獣や怪鳥も現れなくなるはず、グァンターはそう考えていた。
何より村を危機から救えと命じられたのだ。黒き生き物の脅威が去っていないとわかった今、その使命はまだ果たされていない。だから俺はやらねばならないのだ。
「隕石は大砂丘の向こうに落ちたという話でしたね。俺に行かせてくれませんか、長老!」
「グァンター…! そこまで村のことを……わかった。行くがいい、隕石の元へ。そしてすべての元凶を断ち切ってくれ!」
俺がやらずに誰がやる、ここでやらねば男ではないッ!
しかし宿命は終わってはいなかった。否、まだこれは序章に過ぎない。
翌朝、また別の者の死体が発見されたのだ。犠牲が出たのは前回と同じく東の区画、情報を総合すると今度は黒き怪鳥が出たのだという。長老たちはこれには頭を抱えざるを得なかった。
「たしかに黒い獣は倒したと思った。だが俺が持ち帰った亡骸は黒くなかった。……やはり俺の責任です」
「頭を上げてくれ、グァンター。おまえのせいではない。それに今回現れたのは黒き鳥だというではないか」
「しかし…! 亡骸から消えた黒……まさか別の個体に……その鳥に逃げ出した黒が憑依して……?」
考え込む男たち。そこに一人の老婆が声をかけた。
「まぁ落ち着くのじゃ」
「おお、呪術師殿か」
「わしの予言では『星の海よりこぼれ落ちた黒き雫が世界に災いを呼び起こす』と出たが、例の隕石が気になって再び占ってみたところ、こんな結果が出たのじゃ」
すなわち『宿命の終わりが訪れるとき、黒き力は時を超えて遠く時の狭間に消ゆ』と。
宿命の終わりとは? よくある終末論の予言なのか。その黒き力が消えるとき、世界が終るというのか。
それとも、黒き力が消えれば宿命すなわち災いもまた消えるのか。そしてこの黒き力とは黒き雫を意味するものなのか。
「だがせっかくだから俺は後者を選ぶぜ。その黒をなんとかすればすべてが終わる……希望はある」
「希望か…。しかし、そのすべての終わりに世界の最期が含まれるならそれは希望ではなく絶望だ」
「なるほど、こいつはパンドラの箱というわけですね。しかし長老、このまま何もしなければ明日も明後日も、これから毎日犠牲が出るでしょう。それを俺に指を咥えて見ていろと? 何もしなくても絶望、やれば希望か絶望か。それならば俺はその希望に賭けてみたい!」
予言の黒き雫が隕石のことを、そして黒き力が黒き雫と同じものを意味するならば、きっと数日前に飛来した隕石に何か原因があるに違いない。その原因さえ断てば黒い獣や怪鳥も現れなくなるはず、グァンターはそう考えていた。
何より村を危機から救えと命じられたのだ。黒き生き物の脅威が去っていないとわかった今、その使命はまだ果たされていない。だから俺はやらねばならないのだ。
「隕石は大砂丘の向こうに落ちたという話でしたね。俺に行かせてくれませんか、長老!」
「グァンター…! そこまで村のことを……わかった。行くがいい、隕石の元へ。そしてすべての元凶を断ち切ってくれ!」
俺がやらずに誰がやる、ここでやらねば男ではないッ!
こうして一人の男がこのカルストより旅立った。漆黒の海より飛来した黒き雫の元へ。
そして運命は動き出す。惑星フローティアにもたらされた黒と、それに翻弄される者たちの時代を超えた宿命が。
すべてはここから始まった――!
そして運命は動き出す。惑星フローティアにもたらされた黒と、それに翻弄される者たちの時代を超えた宿命が。
すべてはここから始まった――!