五番星「希望の光」
グァンターとイザベルが森を駆ける。墜落した隕石のもとへと急ぎ走る。
「すべての原因を断つ。そうすれば、黒い液体に触れて化け物になってしまったデッシュも元に戻るかもしれない!」
「可能性を信じるわ。だって、諦めない限り希望はあるんだもの!」
カルストの呪術師はこう予言した。
『星の海よりこぼれ落ちた黒き雫が世界に災いを呼び起こす。しかし宿命の終わりが訪れるとき、黒き力は時を超えて遠く時の狭間に消ゆ』
終わらせるのだ、宿命を。黒き雫の災いを。
そして救い出すのだ、大切な仲間を。友を。
木々の間を抜け、森を抜け、そしてとうとう見えてきた。かつては平原だった荒地。大地に深い傷跡を残した隕石墜落地点。地面には大きな穴が空いている。そしてその最深部、中央にはひとつの岩が今もまだ燃え盛っている。あそこにすべての原因がある。
二人は大穴の淵に立って、その底を覗きこんだ。
傾斜は急ではあるが、隕石墜落の衝撃で露わになった岩を伝っていけばなんとか下まで降りられそうだ。
「行けそうか。おまえはここで待っていても構わないぞ」
「いいえ、私も行くわ。デッシュさんのためにも!」
「わかった。じゃあ、それは俺が持とう」
グァンターは水の入った木のバケツをイザベルから受け取った。
このバケツは森の中でグァンターが木から削り出したものだ。隕石はまだ燃えているため、それを詳しく調べるためには消火する必要があるだろうと、森の泉の水を汲んで持ってきたのだ。
「あなたの言ったことは正しかったわね。たしかにこうして他の用途があったわ」
「そういうことだ。降りるぞ、足下に気をつけろ」
二人は岩を伝って慎重に、地面に穿たれた大穴の急斜面を下りていく。
目的の隕石はすぐそこに見えているが、足場が悪いため思うように進めず、なかなかそこまで到達できない。しかし、焦ってはいけない。ここまで来て足を滑らせて、別の意味ですべてを終わらせてしまうわけにはいかない。
「大丈夫か?」
「平気よ。私はスサの村長の娘だもの。これくらいのことで弱音は吐かないわ」
距離で見れば大したものではない。しかし、実際にそこまで辿り着くには遠い。二人は時間をかけて慎重に斜面を下って行った。そしてあともう少しで墜落した隕石のもとまで辿り着くというところまでやってきた。
「あともう少しね」
「最後まで気を抜くなよ。降り切った時が終わりじゃない。原因を断って初めてすべてが終わるんだ」
そんな時だった。
奇声とともに木々の葉の擦れる音。何者かの走る足音が聞こえてきた。
「デッシュ……!」
音の聞こえたきたほうを見上げると、黒化して暴走したデッシュの姿があった。デッシュはちょうどグァンターたちの対岸にあたる大穴の淵に立ってこちらを見下ろしていた。黒化デッシュの赤い眼が真っ直ぐにこちらを睨みつけている。
今やつに襲われては、この不安定な足場だ、まともに対処することができない。だが、たとえ黒くなって化け物染みていたとしても人間は人間。そう簡単にその身体の限界を超えられるものではない。翼が無ければ空を飛ぶことはできない。いくらなんでも、あそこからすぐにここまで接近することはできないはずだ。足場が悪いという条件は同じなのだから。
「急げ! 今のうちに降り切ってしまうんだ!」
すぐに底に降りて防御体勢を取るか、あるいはやつが底まで到達する前にすべてを終わらせてしまおう。グァンターはそう考えていた。だがその考えは甘かった。黒き雫は星の海より飛来した未知の脅威。この惑星での常識など通用しない。
デッシュは呻り声を上げながら両手を真っ直ぐ伸ばしてこちらへと向けた。そして聞いたことのない言語で叫んだ。すると、彼の両手から雷光がほとばしりグァンターの頬をかすめたのだ。その一撃は斜面の岩を容易に粉々にしまった。
「な、なんだ今のは!?」
低い声で笑いながらデッシュは続けて数発の雷撃を放つ。蒼白い光が一直線に二人に迫り、激しい音を立てながらその周囲の岩を次々に砕いていく。
「や、やめて! デッシュさん、やめてッ!」
イザベルが声をかけるが、その言葉はデッシュには届いていない。表情を変えずにデッシュはさらに雷撃を放ってくる。
「くそっ、まるで理解できねぇ! なんだこの力は!? 今までの黒いやつらとは違うのか!?」
この世は狩猟時代、当然ながら科学やそれに準ずるような概念はまだ存在していない。雷は大自然の脅威であり、そして神の怒りであると信じられている時代だ。雷とは畏れ多いものなのだ。
「大自然の力を操るなんて……まさか黒き雫は神様の化身なの!?」
「そんなはずはない。もしあれが神の化身であるならば、なぜあらゆる生き物を黒くして苦しめる。なぜ災いを与える。そんな神がいるものか。だとすればあれは悪魔の化身に違いない!」
たしかに黒き雫は悪魔の化身なのかもしれない。デッシュの放った雷撃、これは後に魔法と呼ばれる概念として発展していくものだ。だがそれはずっとずっと未来の話。当然グァンターもイザベルもそのことはおろか、マホウという言葉すらも知らないのだ。黒き雫は強力な魔力の源。恐ろしいほどのエネルギーを秘めた物質。そういう意味では黒き雫は悪魔の化身と言っても過言ではない。
デッシュからの攻撃をなんとかかわしながら、二人はようやく大穴の底へと辿り着くことができた。
気がつくとデッシュからの攻撃が止んでいる。雷撃は効果がないと判断したのだろう。黒化した怪物の能力は元の生命体の能力に比例する。知能に優れる人が黒化した場合、黒化した人間もまた優れた知能を有しているのだ。
「大人しくなったな。今のうちに隕石を調べるぞ。あいつが下りてくる前になんとかしよう」
だが恐ろしいのは、黒化した生物は凶暴化し強大な魔力を身につけることにある。大抵の獣は凶暴化が原因で暴走して辺りかまわず目についたもの全てを攻撃するようになる。狙っていた獲物とはまた別の獲物がより近い間合いに入った場合は、本能的により近いほうに狙いを変えるのだ。だが知能に優れる人はそうはいかない。一度狙った獲物は執拗に追いかけ回す。自分が一体何を狙っているのかをしっかりと理解しているのだ。
また大抵の獣は強大な魔力を得たところで、ほとんどはその力をうまく操れずに終わる。しかし呪術師の孫であるデッシュは潜在的にその魔力を操ることができる力を持っていたのだ。
強大な力を持ち魔法を操り狙った獲物を執拗に追い続ける暴走した存在。それがどんなに恐ろしいものか。狙われたら最後、相手を倒すか自分が倒されるまで、永遠に追われ続けることになってしまうのだ。
雷撃はあまり有効ではないと判断したデッシュは身を屈めると、勢い良く大穴の底へと向かって飛び下りた。
「ば、馬鹿な! あの高さから落ちればひとたまりもないぞ!」
たとえ化け物であってもあれはデッシュだ。かけがえのない仲間だ。みすみす死なせるわけにはいかない。グァンターは水の入ったバケツをイザベルに預けると、なんとかデッシュを受け止めようと飛び出した。
「間に合えッ!」
グァンターは両手を前に突き出して思い切って宙に身を躍らせた。
地面をグァンターの身体が滑る。手ごたえは……なかった。
「ちくしょう! あいつは無事か!?」
慌てて身を起こして振り返る。しかし、どこにもデッシュの姿はない。
正面に目を向けると、イザベルが驚いた顔で上空を見上げている。同様にグァンターも上を見上げてみると、
「お、おい……嘘だろ」
デッシュの姿はそこにあった。黒い液体を身体のあちこちから垂らしながら、デッシュは空中に浮遊していたのだ。
血のように赤い眼で地上の二人を見下ろすと、デッシュは再び知らない言語を呟き始めた。そしてそのまま両手を頭上に掲げる。すると両手の上に光が集まっていき、そこに巨大な火の玉を形成した。あの炎で大穴を丸ごと焼き払うつもりなのだ。
(まずい――!)
グァンターは咄嗟に鉄の肩当てを外してそれを投げた。肩当てはデッシュの頭に当たり、詠唱を妨害されたためか火球はそのまま消えてしまった。そしてデッシュはふらふらと穴の底へと下降してきた。
「デッシュ!」
イザベルが思わず駆け寄る。
「待て! 近付いちゃ危ない!」
そこでイザベルが慌てて立ち止まった。そのとき彼女の手にした木のバケツから少量の水の飛沫が舞い、それがデッシュの腕にかかった。するとどうだろう、黒化していたデッシュの腕が一時的にではあるが元に戻ったのだ。腕はすぐに滴る黒い液体に覆われてまた黒くなってしまったが、たしかに水の飛沫が黒い液体を掃ったのだ。
「これは…!!」
そう、黒き雫の弱点は水だったのだ。
目には目を、歯には歯を、液体には液体を。その手が黒く汚れてしまったのなら、水で清めて洗い落とせばいいのだ。
「イザベル、そのバケツをしっかり持っていろ! 俺がデッシュを引き付けるから後は…」
「ええ、わかったわ! これで彼を救い出せる!」
希望はたしかにあった。それもこんなに近くに!
俺がデッシュを引き付けている間にイザベルが水を被せる。忌々しい黒い液体を洗い流す。これであいつに関してはすべて完了だ。黒の雫の本体、隕石のことがまだだが、それはあいつを救い出してからゆっくり考えればいい。今はまずあいつのことが先だ。前を見ろ、そして集中しろ。ここでやらねば男じゃないッ!
「来い!」
ナイフを片手に挑発する。イザベルが水をかけられるように、あいつに隙を作る必要がある。またあいつを傷つけるわけにはいかない。そして俺が黒い液体に侵されるわけにはいかないので、あいつに触れることもできない。
さて、どうする。
挑発に乗せられてデッシュはこちらに向かってきた。そして片腕をこちらに向けて再び呪文の詠唱を始めた。さっき水を浴びた腕では魔法をうまく扱えないのか、その腕は下げたままだ。
「また大自然の力を使うつもりか」
離れたところから攻撃されるのは厄介だ。それに流れ弾がイザベルを襲うかもしれない。となれば、なんとかしてもう一方の腕も封じてしまいたいところだ。
水が有効なのはわかり切っている。だがあの黒い液体からデッシュを解放するためには、あれを完全に水で洗い落としてしまわなければならない。そうでなければ、またさっきのように滴る液体が再びデッシュを呑み込んでしまうだろう。そのためにも十分な量の水が必要になる。バケツの水は森の泉から汲んで来たものだ。水を汲みに行くためには再びこの急斜面を登り森を抜けなければならないが、とてもそんな余裕はない。だから限られた水を無駄にすることなく有効に活用しなければならない。
さて、いかに少量の水でやつのもう一方の腕をピンポイントで狙うか。
「ならば……イザベル、あのカップはまだ持っているか」
そう、それは森の泉の中でイザベルがグァンターを気遣って差し出した木のカップだ。
「それならここに……どうするの?」
「それに水をすくって俺に渡せ! やつの攻撃を封じる!」
「わ、わかったわ」
そのときグァンターの頬を火球がかすめた。
どうやらデッシュは詠唱を終えたらしい。見るとやつの背後には無数の小さな火球が浮かんでいる。
「チッ……やってくれるじゃないか、デッシュのくせに。さァ…て、いつ水を受け取ったものか」
デッシュが号令をかけると、火球は一斉に飛びかかり始めた。十分に引き付けた上でグァンターは横に飛び退いてこれを回避する。やり過ごされた火球のいくつかは地面にぶつかって燃え上がり、そして消えた。だがまだ残る火球たちはまるで鳥のように群れとなって、身をひるがえして再びグァンターを襲う。
「くそっ、しつこいやつらめ」
火球たちはそれ自体が意思をもっているかのように、執拗にグァンターを追い回す。そしてその様子をただ黙って眺めているデッシュではない。火球をさけるのにできた隙を狙って拳を突き出してくる。もちろん、この一撃をもらうわけにはいかない。もしグァンターまでもが黒い液体に侵されてしまっては、こんどこそ希望が断たれてしまうだろう。
身体を捻ってこの一撃をかわす。しかしそれによっていくつかの火球の直撃を受けてしまい、さらにそれが原因でバランスを崩して転倒してしまった。この隙をデッシュは見逃さない。これでトドメだと言わんばかりに拳を振り下ろす。
「そうはさせない!」
イザベルの声、と同時にデッシュの腕が止まった。
そして次にデッシュは片膝をついて屈みこんだ。その足下には木のカップが転がっている。
グァンターの窮地にイザベルはその手にしていたカップを咄嗟に投げたのだ。それは狙い通りに腕には当たらなかったが、飛び散った水はデッシュの足にかかった。それにより一瞬ではあるが黒い液体は足の支配を失った。ゆえにデッシュもまたバランスを失い体勢を崩してしまったのだ。そして今、やつには大きな隙ができている。あとはもはや言うまでもない。
「今だ、イザベルーッ!」
「えェェーいッ!!」
この好機、見逃すわけにはいかない。イザベルは急いでデッシュに駆け寄ると、勢い良く託されたバケツを頭上に掲げ、そして力一杯それをぶちまけ――ようとしたまさにその瞬間。
大地を強烈な揺れが襲う。なんという不幸、こんなときに地震か。否、東の空を見るがいい。空が黒い煙と激しい炎に覆われている。煙を辿ってそのまま視線を下ろすとそれはひとつの山に行き当たる。紫色の雲が冠状にたなびくその山の名はシシバ。山頂からはマグマが噴き出し、なおも爆発を繰り返しながら火口から噴煙と火山弾を吐き出し続ける。そうだ、この原始の時代にはまだ活火山が数多く存在する。そして先程の揺れはその噴火によるものだったのだ。
しかしその揺れが地震によるものであるのか噴火によるものであるのか、なんてことは大した問題ではない。
揺れの治まった大地をよろよろと立ち上がる。噴火の影響だろう、地面には大きな地割れができており、足下には空になったバケツが転がっている。水は限られていた、果たして作戦はうまくいったのか。
「や、やったのか!?」
だが敢えて言おう。こういった場合の「やったか」は往々にして失敗しているパターンを意味すると。
デッシュは気を失っているようだったが、その身体は黒い液体に覆われたままであった。
「な、なんてことなの…」
「待て、慌てるな! こうなっては仕方ない、こいつが気絶している間に急いで戻って水を汲んでくれば…」
しかしそこに追い打ちをかけるように再び噴火による振動が。その揺れによって、バケツは地割れの隙間に転がり落ちてしまった。これでは水を運んでくることはできない。急いで泉まで戻ったところで、今から新たに木を削ってバケツを作り直しているようではとても間に合わない。その間にデッシュは目を覚ましてしまうだろう。
ではデッシュを運んで泉に投げ込めばどうか。いや、それも不可能だ。この大穴の急斜面を人ひとり担いで昇るのは怪力のグァンターであってしても極めて困難であり、それ以前に黒い液体に侵された今のデッシュには迂闊に触れることさえできないのだ。
「なんてこと……こんどこそすべて終わりなの!?」
「いや、それは違う。最後まで諦めては駄目だ…!」
デッシュを信じろ。思い出せ、やつの取り柄は何だ。
それは逃げ足が速いことと、そしてどんな窮地からも必ず生還するその並外れた幸運。そうだ、ラッキーボーイはこの程度のことでは終わらない! たとえ少しでも可能性があるなら、つまりそこには勝算があるということ。諦めない限り、信じ続ける限り、その可能性が失われることはない。可能性はゼロではない!
そう、まさにそのとき希望の光は空より舞い降りた。
「これは…」
ぽつりと光の粒が空より降り注ぐ。
「雨…?」
火山の噴火によって上空の冷えた水蒸気が急激に温められ膨張、発達し雲を生んだ。そして噴煙を取り込み重さを増したそれは上空の空気によって再び冷やされにわかに雨を降らせる。雨はすべての黒を清め、そして洗い流した。天よりもたらされた希望の水によってデッシュはようやく己を取り戻すことができたのだ。
「あ、あれェ? オレ……こんなとこで何やってんだぁ…」
「デッシュ!!」
「うおっ、ベルじゃん……あッ、それにアニキも! 元気になったんですね、いやァ~よかったぜェ」
そして何も知らないデッシュは呑気にもグァンターの心配をするのだった。
「は……ハハ…。なんてこった、俺たちが助けなくてもこいつ、勝手に自分で助かりやがった…。まったくとんだ激運野郎だよ、おまえは」
「アニキ? それ何の話ですか」
「何でもねえ……何でもねえよ…!」
雨はすべてを洗い流す。腹が立つこともあったが、辛いこともあったが、それは全部水に流そう。グァンターの目からは雨とは別の水が流れ落ちたような気もしたが、それは雨に流されて本当はどうだったのかはもうわからなくなった。
「やっぱりおまえがいないと張り合いが無くてつまらんな。さぁ、立て。隕石は目の前だ、さっさと俺たちの目的を果たしてしまおうじゃないか」
「そうでしたね! って……アニキ、隕石なんてどこにあるんすか」
「何?」
振り返ると既にそこには隕石はなかった。さっきまで隕石があった場所には少量の黒い液体が残るのみ。そしてその液体も雨水によって地割れの底へと流されつつあった。
「グァンターさん、これは……もしかして」
「どうやらこの地割れの下に落ちたみたいですねェ。ってことは俺たち、やったんじゃないすか! なァーんだ、あっけない」
隕石は火山の噴火とともに既にその姿を地中深くへと消していたのだ。思い出してほしい、呪術師の予言の続きを。
『宿命の終わりが訪れるとき、黒き力は時を超えて遠く時の狭間に消ゆ』
隕石が地中に消えたとき、宿命は終わりを告げた。そして時間差による雨によって、時を超えて黒き力は洗い流されて消えた。予言に則して考えるのならこういうことになるだろう。何はともあれ、我らが戦士たちはついにその目的を果たしたのだ。
「ふ……呆気ない、か。まぁ、おまえにとってはそうかもな」
「そうね。デッシュはずっと悪夢を見ていたのよね」
「え? え? 何だよ、二人とも何を知ってるんだよォ。ケチケチしないでオレにも教えてくれよ~」
さぁ、急いで村に戻って知らせるのだ。
すべては終わった、希望はあったのだと…!
「結果を報告するまでが使命だ。村へ帰るぞ、デッシュ」
「あッ、アニキ。今オレをおまえじゃなくてデッシュって呼んで…!」
「うるさいやつだな。やっぱりおまえはおまえで十分だ」
「ああ、そりゃないっすよアニキィ~」
グァンターはわざとデッシュから顔をそらせて歩き始めた。
しかしそれは決して機嫌が悪かったからではなかったことは言うまでもない。
「すべての原因を断つ。そうすれば、黒い液体に触れて化け物になってしまったデッシュも元に戻るかもしれない!」
「可能性を信じるわ。だって、諦めない限り希望はあるんだもの!」
カルストの呪術師はこう予言した。
『星の海よりこぼれ落ちた黒き雫が世界に災いを呼び起こす。しかし宿命の終わりが訪れるとき、黒き力は時を超えて遠く時の狭間に消ゆ』
終わらせるのだ、宿命を。黒き雫の災いを。
そして救い出すのだ、大切な仲間を。友を。
木々の間を抜け、森を抜け、そしてとうとう見えてきた。かつては平原だった荒地。大地に深い傷跡を残した隕石墜落地点。地面には大きな穴が空いている。そしてその最深部、中央にはひとつの岩が今もまだ燃え盛っている。あそこにすべての原因がある。
二人は大穴の淵に立って、その底を覗きこんだ。
傾斜は急ではあるが、隕石墜落の衝撃で露わになった岩を伝っていけばなんとか下まで降りられそうだ。
「行けそうか。おまえはここで待っていても構わないぞ」
「いいえ、私も行くわ。デッシュさんのためにも!」
「わかった。じゃあ、それは俺が持とう」
グァンターは水の入った木のバケツをイザベルから受け取った。
このバケツは森の中でグァンターが木から削り出したものだ。隕石はまだ燃えているため、それを詳しく調べるためには消火する必要があるだろうと、森の泉の水を汲んで持ってきたのだ。
「あなたの言ったことは正しかったわね。たしかにこうして他の用途があったわ」
「そういうことだ。降りるぞ、足下に気をつけろ」
二人は岩を伝って慎重に、地面に穿たれた大穴の急斜面を下りていく。
目的の隕石はすぐそこに見えているが、足場が悪いため思うように進めず、なかなかそこまで到達できない。しかし、焦ってはいけない。ここまで来て足を滑らせて、別の意味ですべてを終わらせてしまうわけにはいかない。
「大丈夫か?」
「平気よ。私はスサの村長の娘だもの。これくらいのことで弱音は吐かないわ」
距離で見れば大したものではない。しかし、実際にそこまで辿り着くには遠い。二人は時間をかけて慎重に斜面を下って行った。そしてあともう少しで墜落した隕石のもとまで辿り着くというところまでやってきた。
「あともう少しね」
「最後まで気を抜くなよ。降り切った時が終わりじゃない。原因を断って初めてすべてが終わるんだ」
そんな時だった。
奇声とともに木々の葉の擦れる音。何者かの走る足音が聞こえてきた。
「デッシュ……!」
音の聞こえたきたほうを見上げると、黒化して暴走したデッシュの姿があった。デッシュはちょうどグァンターたちの対岸にあたる大穴の淵に立ってこちらを見下ろしていた。黒化デッシュの赤い眼が真っ直ぐにこちらを睨みつけている。
今やつに襲われては、この不安定な足場だ、まともに対処することができない。だが、たとえ黒くなって化け物染みていたとしても人間は人間。そう簡単にその身体の限界を超えられるものではない。翼が無ければ空を飛ぶことはできない。いくらなんでも、あそこからすぐにここまで接近することはできないはずだ。足場が悪いという条件は同じなのだから。
「急げ! 今のうちに降り切ってしまうんだ!」
すぐに底に降りて防御体勢を取るか、あるいはやつが底まで到達する前にすべてを終わらせてしまおう。グァンターはそう考えていた。だがその考えは甘かった。黒き雫は星の海より飛来した未知の脅威。この惑星での常識など通用しない。
デッシュは呻り声を上げながら両手を真っ直ぐ伸ばしてこちらへと向けた。そして聞いたことのない言語で叫んだ。すると、彼の両手から雷光がほとばしりグァンターの頬をかすめたのだ。その一撃は斜面の岩を容易に粉々にしまった。
「な、なんだ今のは!?」
低い声で笑いながらデッシュは続けて数発の雷撃を放つ。蒼白い光が一直線に二人に迫り、激しい音を立てながらその周囲の岩を次々に砕いていく。
「や、やめて! デッシュさん、やめてッ!」
イザベルが声をかけるが、その言葉はデッシュには届いていない。表情を変えずにデッシュはさらに雷撃を放ってくる。
「くそっ、まるで理解できねぇ! なんだこの力は!? 今までの黒いやつらとは違うのか!?」
この世は狩猟時代、当然ながら科学やそれに準ずるような概念はまだ存在していない。雷は大自然の脅威であり、そして神の怒りであると信じられている時代だ。雷とは畏れ多いものなのだ。
「大自然の力を操るなんて……まさか黒き雫は神様の化身なの!?」
「そんなはずはない。もしあれが神の化身であるならば、なぜあらゆる生き物を黒くして苦しめる。なぜ災いを与える。そんな神がいるものか。だとすればあれは悪魔の化身に違いない!」
たしかに黒き雫は悪魔の化身なのかもしれない。デッシュの放った雷撃、これは後に魔法と呼ばれる概念として発展していくものだ。だがそれはずっとずっと未来の話。当然グァンターもイザベルもそのことはおろか、マホウという言葉すらも知らないのだ。黒き雫は強力な魔力の源。恐ろしいほどのエネルギーを秘めた物質。そういう意味では黒き雫は悪魔の化身と言っても過言ではない。
デッシュからの攻撃をなんとかかわしながら、二人はようやく大穴の底へと辿り着くことができた。
気がつくとデッシュからの攻撃が止んでいる。雷撃は効果がないと判断したのだろう。黒化した怪物の能力は元の生命体の能力に比例する。知能に優れる人が黒化した場合、黒化した人間もまた優れた知能を有しているのだ。
「大人しくなったな。今のうちに隕石を調べるぞ。あいつが下りてくる前になんとかしよう」
だが恐ろしいのは、黒化した生物は凶暴化し強大な魔力を身につけることにある。大抵の獣は凶暴化が原因で暴走して辺りかまわず目についたもの全てを攻撃するようになる。狙っていた獲物とはまた別の獲物がより近い間合いに入った場合は、本能的により近いほうに狙いを変えるのだ。だが知能に優れる人はそうはいかない。一度狙った獲物は執拗に追いかけ回す。自分が一体何を狙っているのかをしっかりと理解しているのだ。
また大抵の獣は強大な魔力を得たところで、ほとんどはその力をうまく操れずに終わる。しかし呪術師の孫であるデッシュは潜在的にその魔力を操ることができる力を持っていたのだ。
強大な力を持ち魔法を操り狙った獲物を執拗に追い続ける暴走した存在。それがどんなに恐ろしいものか。狙われたら最後、相手を倒すか自分が倒されるまで、永遠に追われ続けることになってしまうのだ。
雷撃はあまり有効ではないと判断したデッシュは身を屈めると、勢い良く大穴の底へと向かって飛び下りた。
「ば、馬鹿な! あの高さから落ちればひとたまりもないぞ!」
たとえ化け物であってもあれはデッシュだ。かけがえのない仲間だ。みすみす死なせるわけにはいかない。グァンターは水の入ったバケツをイザベルに預けると、なんとかデッシュを受け止めようと飛び出した。
「間に合えッ!」
グァンターは両手を前に突き出して思い切って宙に身を躍らせた。
地面をグァンターの身体が滑る。手ごたえは……なかった。
「ちくしょう! あいつは無事か!?」
慌てて身を起こして振り返る。しかし、どこにもデッシュの姿はない。
正面に目を向けると、イザベルが驚いた顔で上空を見上げている。同様にグァンターも上を見上げてみると、
「お、おい……嘘だろ」
デッシュの姿はそこにあった。黒い液体を身体のあちこちから垂らしながら、デッシュは空中に浮遊していたのだ。
血のように赤い眼で地上の二人を見下ろすと、デッシュは再び知らない言語を呟き始めた。そしてそのまま両手を頭上に掲げる。すると両手の上に光が集まっていき、そこに巨大な火の玉を形成した。あの炎で大穴を丸ごと焼き払うつもりなのだ。
(まずい――!)
グァンターは咄嗟に鉄の肩当てを外してそれを投げた。肩当てはデッシュの頭に当たり、詠唱を妨害されたためか火球はそのまま消えてしまった。そしてデッシュはふらふらと穴の底へと下降してきた。
「デッシュ!」
イザベルが思わず駆け寄る。
「待て! 近付いちゃ危ない!」
そこでイザベルが慌てて立ち止まった。そのとき彼女の手にした木のバケツから少量の水の飛沫が舞い、それがデッシュの腕にかかった。するとどうだろう、黒化していたデッシュの腕が一時的にではあるが元に戻ったのだ。腕はすぐに滴る黒い液体に覆われてまた黒くなってしまったが、たしかに水の飛沫が黒い液体を掃ったのだ。
「これは…!!」
そう、黒き雫の弱点は水だったのだ。
目には目を、歯には歯を、液体には液体を。その手が黒く汚れてしまったのなら、水で清めて洗い落とせばいいのだ。
「イザベル、そのバケツをしっかり持っていろ! 俺がデッシュを引き付けるから後は…」
「ええ、わかったわ! これで彼を救い出せる!」
希望はたしかにあった。それもこんなに近くに!
俺がデッシュを引き付けている間にイザベルが水を被せる。忌々しい黒い液体を洗い流す。これであいつに関してはすべて完了だ。黒の雫の本体、隕石のことがまだだが、それはあいつを救い出してからゆっくり考えればいい。今はまずあいつのことが先だ。前を見ろ、そして集中しろ。ここでやらねば男じゃないッ!
「来い!」
ナイフを片手に挑発する。イザベルが水をかけられるように、あいつに隙を作る必要がある。またあいつを傷つけるわけにはいかない。そして俺が黒い液体に侵されるわけにはいかないので、あいつに触れることもできない。
さて、どうする。
挑発に乗せられてデッシュはこちらに向かってきた。そして片腕をこちらに向けて再び呪文の詠唱を始めた。さっき水を浴びた腕では魔法をうまく扱えないのか、その腕は下げたままだ。
「また大自然の力を使うつもりか」
離れたところから攻撃されるのは厄介だ。それに流れ弾がイザベルを襲うかもしれない。となれば、なんとかしてもう一方の腕も封じてしまいたいところだ。
水が有効なのはわかり切っている。だがあの黒い液体からデッシュを解放するためには、あれを完全に水で洗い落としてしまわなければならない。そうでなければ、またさっきのように滴る液体が再びデッシュを呑み込んでしまうだろう。そのためにも十分な量の水が必要になる。バケツの水は森の泉から汲んで来たものだ。水を汲みに行くためには再びこの急斜面を登り森を抜けなければならないが、とてもそんな余裕はない。だから限られた水を無駄にすることなく有効に活用しなければならない。
さて、いかに少量の水でやつのもう一方の腕をピンポイントで狙うか。
「ならば……イザベル、あのカップはまだ持っているか」
そう、それは森の泉の中でイザベルがグァンターを気遣って差し出した木のカップだ。
「それならここに……どうするの?」
「それに水をすくって俺に渡せ! やつの攻撃を封じる!」
「わ、わかったわ」
そのときグァンターの頬を火球がかすめた。
どうやらデッシュは詠唱を終えたらしい。見るとやつの背後には無数の小さな火球が浮かんでいる。
「チッ……やってくれるじゃないか、デッシュのくせに。さァ…て、いつ水を受け取ったものか」
デッシュが号令をかけると、火球は一斉に飛びかかり始めた。十分に引き付けた上でグァンターは横に飛び退いてこれを回避する。やり過ごされた火球のいくつかは地面にぶつかって燃え上がり、そして消えた。だがまだ残る火球たちはまるで鳥のように群れとなって、身をひるがえして再びグァンターを襲う。
「くそっ、しつこいやつらめ」
火球たちはそれ自体が意思をもっているかのように、執拗にグァンターを追い回す。そしてその様子をただ黙って眺めているデッシュではない。火球をさけるのにできた隙を狙って拳を突き出してくる。もちろん、この一撃をもらうわけにはいかない。もしグァンターまでもが黒い液体に侵されてしまっては、こんどこそ希望が断たれてしまうだろう。
身体を捻ってこの一撃をかわす。しかしそれによっていくつかの火球の直撃を受けてしまい、さらにそれが原因でバランスを崩して転倒してしまった。この隙をデッシュは見逃さない。これでトドメだと言わんばかりに拳を振り下ろす。
「そうはさせない!」
イザベルの声、と同時にデッシュの腕が止まった。
そして次にデッシュは片膝をついて屈みこんだ。その足下には木のカップが転がっている。
グァンターの窮地にイザベルはその手にしていたカップを咄嗟に投げたのだ。それは狙い通りに腕には当たらなかったが、飛び散った水はデッシュの足にかかった。それにより一瞬ではあるが黒い液体は足の支配を失った。ゆえにデッシュもまたバランスを失い体勢を崩してしまったのだ。そして今、やつには大きな隙ができている。あとはもはや言うまでもない。
「今だ、イザベルーッ!」
「えェェーいッ!!」
この好機、見逃すわけにはいかない。イザベルは急いでデッシュに駆け寄ると、勢い良く託されたバケツを頭上に掲げ、そして力一杯それをぶちまけ――ようとしたまさにその瞬間。
大地を強烈な揺れが襲う。なんという不幸、こんなときに地震か。否、東の空を見るがいい。空が黒い煙と激しい炎に覆われている。煙を辿ってそのまま視線を下ろすとそれはひとつの山に行き当たる。紫色の雲が冠状にたなびくその山の名はシシバ。山頂からはマグマが噴き出し、なおも爆発を繰り返しながら火口から噴煙と火山弾を吐き出し続ける。そうだ、この原始の時代にはまだ活火山が数多く存在する。そして先程の揺れはその噴火によるものだったのだ。
しかしその揺れが地震によるものであるのか噴火によるものであるのか、なんてことは大した問題ではない。
揺れの治まった大地をよろよろと立ち上がる。噴火の影響だろう、地面には大きな地割れができており、足下には空になったバケツが転がっている。水は限られていた、果たして作戦はうまくいったのか。
「や、やったのか!?」
だが敢えて言おう。こういった場合の「やったか」は往々にして失敗しているパターンを意味すると。
デッシュは気を失っているようだったが、その身体は黒い液体に覆われたままであった。
「な、なんてことなの…」
「待て、慌てるな! こうなっては仕方ない、こいつが気絶している間に急いで戻って水を汲んでくれば…」
しかしそこに追い打ちをかけるように再び噴火による振動が。その揺れによって、バケツは地割れの隙間に転がり落ちてしまった。これでは水を運んでくることはできない。急いで泉まで戻ったところで、今から新たに木を削ってバケツを作り直しているようではとても間に合わない。その間にデッシュは目を覚ましてしまうだろう。
ではデッシュを運んで泉に投げ込めばどうか。いや、それも不可能だ。この大穴の急斜面を人ひとり担いで昇るのは怪力のグァンターであってしても極めて困難であり、それ以前に黒い液体に侵された今のデッシュには迂闊に触れることさえできないのだ。
「なんてこと……こんどこそすべて終わりなの!?」
「いや、それは違う。最後まで諦めては駄目だ…!」
デッシュを信じろ。思い出せ、やつの取り柄は何だ。
それは逃げ足が速いことと、そしてどんな窮地からも必ず生還するその並外れた幸運。そうだ、ラッキーボーイはこの程度のことでは終わらない! たとえ少しでも可能性があるなら、つまりそこには勝算があるということ。諦めない限り、信じ続ける限り、その可能性が失われることはない。可能性はゼロではない!
そう、まさにそのとき希望の光は空より舞い降りた。
「これは…」
ぽつりと光の粒が空より降り注ぐ。
「雨…?」
火山の噴火によって上空の冷えた水蒸気が急激に温められ膨張、発達し雲を生んだ。そして噴煙を取り込み重さを増したそれは上空の空気によって再び冷やされにわかに雨を降らせる。雨はすべての黒を清め、そして洗い流した。天よりもたらされた希望の水によってデッシュはようやく己を取り戻すことができたのだ。
「あ、あれェ? オレ……こんなとこで何やってんだぁ…」
「デッシュ!!」
「うおっ、ベルじゃん……あッ、それにアニキも! 元気になったんですね、いやァ~よかったぜェ」
そして何も知らないデッシュは呑気にもグァンターの心配をするのだった。
「は……ハハ…。なんてこった、俺たちが助けなくてもこいつ、勝手に自分で助かりやがった…。まったくとんだ激運野郎だよ、おまえは」
「アニキ? それ何の話ですか」
「何でもねえ……何でもねえよ…!」
雨はすべてを洗い流す。腹が立つこともあったが、辛いこともあったが、それは全部水に流そう。グァンターの目からは雨とは別の水が流れ落ちたような気もしたが、それは雨に流されて本当はどうだったのかはもうわからなくなった。
「やっぱりおまえがいないと張り合いが無くてつまらんな。さぁ、立て。隕石は目の前だ、さっさと俺たちの目的を果たしてしまおうじゃないか」
「そうでしたね! って……アニキ、隕石なんてどこにあるんすか」
「何?」
振り返ると既にそこには隕石はなかった。さっきまで隕石があった場所には少量の黒い液体が残るのみ。そしてその液体も雨水によって地割れの底へと流されつつあった。
「グァンターさん、これは……もしかして」
「どうやらこの地割れの下に落ちたみたいですねェ。ってことは俺たち、やったんじゃないすか! なァーんだ、あっけない」
隕石は火山の噴火とともに既にその姿を地中深くへと消していたのだ。思い出してほしい、呪術師の予言の続きを。
『宿命の終わりが訪れるとき、黒き力は時を超えて遠く時の狭間に消ゆ』
隕石が地中に消えたとき、宿命は終わりを告げた。そして時間差による雨によって、時を超えて黒き力は洗い流されて消えた。予言に則して考えるのならこういうことになるだろう。何はともあれ、我らが戦士たちはついにその目的を果たしたのだ。
「ふ……呆気ない、か。まぁ、おまえにとってはそうかもな」
「そうね。デッシュはずっと悪夢を見ていたのよね」
「え? え? 何だよ、二人とも何を知ってるんだよォ。ケチケチしないでオレにも教えてくれよ~」
さぁ、急いで村に戻って知らせるのだ。
すべては終わった、希望はあったのだと…!
「結果を報告するまでが使命だ。村へ帰るぞ、デッシュ」
「あッ、アニキ。今オレをおまえじゃなくてデッシュって呼んで…!」
「うるさいやつだな。やっぱりおまえはおまえで十分だ」
「ああ、そりゃないっすよアニキィ~」
グァンターはわざとデッシュから顔をそらせて歩き始めた。
しかしそれは決して機嫌が悪かったからではなかったことは言うまでもない。
こうして黒き雫の脅威は後に第1世界と呼ばれるこの時代からは去った。
我らが戦士グァンターとその親友デシュヴァ、そして彼に密かに想いを寄せるイザベル。三人は無事にカルスト村に帰り着き、使命完遂の報を長老たちに伝えた。
後に彼らはこの時代を代表する三英雄として称えられるようになり、この三人の名前をそれぞれ取って後世の人々は第1世界のことをデシグァンベルと呼ぶようになったのだ。
三英雄については黒き雫の以外にも様々な伝説が遺されている。
カルストに戻った三人はその後また別の旅に出ることになるのだが、それはまた別の物語である。
我らが戦士グァンターとその親友デシュヴァ、そして彼に密かに想いを寄せるイザベル。三人は無事にカルスト村に帰り着き、使命完遂の報を長老たちに伝えた。
後に彼らはこの時代を代表する三英雄として称えられるようになり、この三人の名前をそれぞれ取って後世の人々は第1世界のことをデシグァンベルと呼ぶようになったのだ。
三英雄については黒き雫の以外にも様々な伝説が遺されている。
カルストに戻った三人はその後また別の旅に出ることになるのだが、それはまた別の物語である。
デシグァンベル三英雄伝『黒き雫』
終幕
終幕