第一章C「二人の旅立ち、再び(Cルート)」
グメーシス。
それは銀色の身体に鰭状の手。足はなく、流線型の身体からはすらりと尾が伸びる不思議な存在。それぞれの個体の胴体にはなぜか文字の刻印があり、そこには「罪」と刻まれている。そしてグメーシスには触れたものをなんでも塩に変えてしまう恐ろしい能力があるという。
それはかつてこの大樹大陸のヴェルスタンドという国で生み出された精神兵器のひとつだった。過去に隣国マキナとヴェルスタンドの戦争が起こり、その際にはグメーシスが投入されてその能力が猛威を振るった。
精神兵器は精神体から作られたヴェルスタンドの兵器。その精神体はマキナ出身のガイスト博士が発明したものだ。
この大陸の歴史は戦争の歴史。マキナ-ヴェルスタンド戦争もそのひとつであり、精神体もそんな流れの中から生み出されたものだった。
だがそんな精神体があるとき暴走して大樹大陸全体に大きな危機が迫ったことがあった。その事件は『HiveMind』と呼ばれており、精神体やグメーシスが人々に襲い掛かり、とくにヴェルスタンドは壊滅的被害を受けた。この事態に責任を感じた精神体の権威ガイスト博士は一人立ち上がり、マキナ、ヴェルスタンド、そして同じくこの大陸にある王国フィーティンの三国の協力を取り付けてこの精神体の暴走を食い止めようとした。
強大な精神体の前に苦戦を強いられた三国同盟軍だったが、そこにグメーシスの一団が現れた。ガイストとともに精神体との戦いに身を投じていたゲンダーやメイヴは、そのグメーシスの群れの中に見覚えのある顔を見つけた。
「グメー…!?」
それはかつてゲンダーとメイヴが助けた一匹のグメーシス。グメーは彼らに恩を感じており、彼らの危機に際して他のグメーシスたちを説得、味方につけて精神体に立ち向かってくれた。成長したグメーには、他のグメーシスたちの「罪」の刻印とは異なり「天」の刻印があった。
目には目を、精神体には精神体を。グメーたちは大陸に脅威をなす精神体たちに決死の攻撃を仕掛ける。そしてその結果、彼らは精神体を打倒し、精神体の脅威から人々を救った。しかし、グメーシスたちは精神体と相殺してすべて消滅してしまった。そして、もちろんグメーも。
「グメー…。あいつはオレたちを救ってくれたんダな」
「ありがとう、グメーシス――」
こうしてグメーシスと精神体はこの世界から完全に消滅した。
精神体とは生物の精神エネルギーを抽出して生まれた存在。魂の加工、それは人の身には過ぎた行為だったのだ。グメーシスに自然に浮かび上がった「罪」の刻印はもしかするとそれを警告していたのかもしれない。
グメーシスたちはその「罪」に対する「罰」である精神体の暴走をその身を犠牲にして食い止めてくれた。人々の「罪」をその身に背負い、そして償ってくれた。グメーの「天」の刻印はあるいは天からの使いを意味していたのかもしれない。
人々はグメーシスに感謝した。そしてその感謝の気持ちを忘れないようにと、ヴェルスタンドの国旗にはグメーシスが描かれるようになった。
それから20数年――
それは銀色の身体に鰭状の手。足はなく、流線型の身体からはすらりと尾が伸びる不思議な存在。それぞれの個体の胴体にはなぜか文字の刻印があり、そこには「罪」と刻まれている。そしてグメーシスには触れたものをなんでも塩に変えてしまう恐ろしい能力があるという。
それはかつてこの大樹大陸のヴェルスタンドという国で生み出された精神兵器のひとつだった。過去に隣国マキナとヴェルスタンドの戦争が起こり、その際にはグメーシスが投入されてその能力が猛威を振るった。
精神兵器は精神体から作られたヴェルスタンドの兵器。その精神体はマキナ出身のガイスト博士が発明したものだ。
この大陸の歴史は戦争の歴史。マキナ-ヴェルスタンド戦争もそのひとつであり、精神体もそんな流れの中から生み出されたものだった。
だがそんな精神体があるとき暴走して大樹大陸全体に大きな危機が迫ったことがあった。その事件は『HiveMind』と呼ばれており、精神体やグメーシスが人々に襲い掛かり、とくにヴェルスタンドは壊滅的被害を受けた。この事態に責任を感じた精神体の権威ガイスト博士は一人立ち上がり、マキナ、ヴェルスタンド、そして同じくこの大陸にある王国フィーティンの三国の協力を取り付けてこの精神体の暴走を食い止めようとした。
強大な精神体の前に苦戦を強いられた三国同盟軍だったが、そこにグメーシスの一団が現れた。ガイストとともに精神体との戦いに身を投じていたゲンダーやメイヴは、そのグメーシスの群れの中に見覚えのある顔を見つけた。
「グメー…!?」
それはかつてゲンダーとメイヴが助けた一匹のグメーシス。グメーは彼らに恩を感じており、彼らの危機に際して他のグメーシスたちを説得、味方につけて精神体に立ち向かってくれた。成長したグメーには、他のグメーシスたちの「罪」の刻印とは異なり「天」の刻印があった。
目には目を、精神体には精神体を。グメーたちは大陸に脅威をなす精神体たちに決死の攻撃を仕掛ける。そしてその結果、彼らは精神体を打倒し、精神体の脅威から人々を救った。しかし、グメーシスたちは精神体と相殺してすべて消滅してしまった。そして、もちろんグメーも。
「グメー…。あいつはオレたちを救ってくれたんダな」
「ありがとう、グメーシス――」
こうしてグメーシスと精神体はこの世界から完全に消滅した。
精神体とは生物の精神エネルギーを抽出して生まれた存在。魂の加工、それは人の身には過ぎた行為だったのだ。グメーシスに自然に浮かび上がった「罪」の刻印はもしかするとそれを警告していたのかもしれない。
グメーシスたちはその「罪」に対する「罰」である精神体の暴走をその身を犠牲にして食い止めてくれた。人々の「罪」をその身に背負い、そして償ってくれた。グメーの「天」の刻印はあるいは天からの使いを意味していたのかもしれない。
人々はグメーシスに感謝した。そしてその感謝の気持ちを忘れないようにと、ヴェルスタンドの国旗にはグメーシスが描かれるようになった。
それから20数年――
大樹大陸にはその名の通り、天地を貫く象徴たる大樹がそびえ立っている。そのふもとには樹を意味するアルバールという場所がある。それは『HiveMind』の一件の後に、三国が協力して大陸の問題に立ち向かっていこうという理念のもとに設けられた中立の場。ここはマキナでもフィーティンでもヴェルスタンドでもない、三国どれからも独立した特別機関によって管理されている。そしてここは各国の代表たちが集まって、大陸の問題を協議する場であった。
「何か言ったらどうなんだね?」
一人のマキナ人が室内の円卓最奥の席に腰掛ける白髭を蓄えた老人に向かって言った。
老人は黙して何も語らない。と、続けて今度はフィーティン人の男が言う。
「わかっているのか!? グメーシスが現れたんだ、再び! これがどういうことなのか、説明してもらわないと困るではないか!!」
今、まさにこの場は大陸に迫る危機についての議論の最中だった。
グメーシス。それはかつての事件で精神体とともに消滅したはずだった、永遠に。
にもかかわらず、ここ最近になってそれらは再び姿を現した。人々は、とりわけヴェルスタンドの者たちは大陸をその身を犠牲にしてまで救ってくれたグメーシスたちの帰還を喜び、これを受け入れるつもりだった。
……だが。
人々は絶望した。再び現れたグメーシスたちはもう自分たちの味方ではなかった。グメーシスたちは人々を次々に襲い始めたのだ。それは大陸の各地で起こり、被害は瞬く間に拡大していった。復活したグメーシスたちは「罪」ではなく別の刻印をその身に宿していた。
「これはもう我々の知るグメーシスではない」
そこでこのグメーシスたちはグメーシス亜種と呼ばれた。
グメーシス亜種の問題はすぐに各国の政治家たちの耳にも届き、そしてこうしてアルバールでの公会議が開かれたという次第だった。
ヴェルスタンドといえば精神体。精神体といえばグメーシス。国旗にも描かれているほどなのだ。人々はグメーシスの亜種を見てすぐにヴェルスタンド国のことが思い浮かんだ。この国には精神兵器を生み出して他国に侵攻したという過去もある。そのため疑いの目はすぐに向けられ、今まさにこの白髭の老人、ヴェルスタンドの大統領はそのことについて問い質されているところだった。
「黙っていてはわからん。説明をしろ、ヘルツ!!」
ついに痺れを切らした一人が叫んだ。
ヴェルスタンド第108代大統領ヘルツ。彼は英雄の一人だ。いや、一人だったと言うべきか。
精神体の暴走の際に立ち上がったガイスト博士。そしてその仲間として力を貸したゲンダーとメイヴ。精神体を消滅させたのはグメーシスたちだったが、最初に精神体の問題を解決しようとして立ち上がった彼らは救国の英雄として人々によく知られることになった。そして、ヘルツも彼らに並んだ一人。ガイストの友として彼を支えた英雄の一人だったのだ。その功績を経てヴェルスタンドの要職に就いた彼は、今となってはヴェルスタンドの大統領なのだ。
しかし、その英雄は今、疑いの眼差しで睨まれ、そして責め立てられていた。
たしかにヘルツは英雄だ。だが彼は今やヴェルスタンドの代表。彼自身が英雄だろうが元医者だろうが関係ない。過去に積み上げてきた歴史が原因でヴェルスタンドは信用されていなかった。英雄が大統領になったからといって、その過去が消えるわけではない。たとえ英雄と呼ばれていても、やはり彼もヴェルスタンド人なのだ。
「私から申し上げられることはひとつだけ。我が国はこの一件には何ら関与していない……それだけだ。どうか私を、いやヴェルスタンドを信じてくれないか」
疲れた表情でヘルツが嘆願する。しかし、マキナやフィーティンの代表者たちは納得しなかった。
「いいや。絶対に何か隠しているに違いない」
「そうとも。精神体を作ったのは貴国ではないか。ならばグメーシスを再び生み出すこともできるはず。どうやら貴国はまだ大陸を征服するという愚かな野望をお抱えのようだ。もし違うというのならそうでないという証拠を提示してもらいたいものですな」
不可能な話だった。「ない」ということを証明するのがいかに難しいことか。
一度は協力して大陸の問題に立ち向かうことを学んだ彼らだったが、20数年の時を経てどうやらその理念は薄れつつあるらしい。
ヘルツはただ哀しそうな顔をしながら「信じてくれ」と繰り返すことしかできなかった。
そこでそれまで黙って様子を見ていたフィーティン王のウォーレンがついに言葉を発した。
「ふむ、これでは埒が明かんな。方やおまえがやった、方や私はやってないの一点張り。これでは話が前に進まん」
「ですが国王! もしヴェルスタンドめが本当に精神体を復活させたとあればこれは国際問題ですぞ。そんな者どもと協議など…」
「やれやれ、嘆かわしいものだ。最近の大臣どもはまるでなっていない。一体誰がこんな者を起用したのか……私であったか。それはともかく、そうやって罵り合ってばかりではいつまで経っても問題は解決できぬぞ。違うかね?」
「も、申し訳ありません。ですが…!」
「もうよい、おまえは黙っておれ。時にヘルツ殿。貴殿はかの英雄ガイスト殿の友人でもあったな。彼は今どうしている?」
ヘルツは首を横に振った。
「私にはわからない。もう長らく会っていない。彼は今もマキナにいると聞いたが……ガソイール殿?」
問われてマキナ首相が答える。
「たしかに彼は我が国にいる……はずです。が、残念ながら詳しい所在は私も把握しておりませんな」
代々王家の血筋が国を継いできたフィーティン。選挙によって選出された大統領が納めるヴェルスタンド。それに対してマキナは特殊な形態で国の代表を決めていた。マキナは機械文化に特化した都市国家。そこはもとはただの発明家たちの集まった小村でしかなかった。しかし次第に数多くの研究者たちがその地に集い、集落は街に、街は都市に、そしてついには国へと発展していった。それがマキナという国だ。そこには複数の研究者たちの派閥があり、もっとも力のある研究所の代表がそのまま国の首相となるシステムになっている。そのため、他の二国に比べてマキナの代表は変わりやすく、各研究所の力関係が逆転したりするとマキナの首相はすぐに変わってしまうのだ。
ガソイールは首相になってまだ日が浅かった。それに加えてガイストは彼の研究所の一員ではない。だからこそ、精神体を発明したというガイスト博士の名前は知っていても、彼についてのことはよく知らなかったのだ。
そこでウォーレンは言った。
「マキナにいるということが分かれば十分だ。彼は言わば精神体の専門家。そんな彼の意見もなしに一体我々は何をどうやって解決しようと言うのだ。まずはガイスト博士を呼ぶべきだと考えるのだが、いかがかね」
ガイストは自分が発明した精神体が戦争の道具や人々に被害を与える原因になっていることをいつも後悔していた。だからこそ、精神体絡みの問題はどうしても無視することができない性分だったのだ。それはグメーシスでも同じこと。20数年前の精神体の暴走『HiveMind』の際でも人知れず一人行動を開始した彼のことだ、あるいはもう既に行動を開始しているかもしれない。
代表者たちは誰もが「それはもっともだ」と頷いた。そしてようやく精神体の第一人者がこの会議に呼ばれることになった。
「何か言ったらどうなんだね?」
一人のマキナ人が室内の円卓最奥の席に腰掛ける白髭を蓄えた老人に向かって言った。
老人は黙して何も語らない。と、続けて今度はフィーティン人の男が言う。
「わかっているのか!? グメーシスが現れたんだ、再び! これがどういうことなのか、説明してもらわないと困るではないか!!」
今、まさにこの場は大陸に迫る危機についての議論の最中だった。
グメーシス。それはかつての事件で精神体とともに消滅したはずだった、永遠に。
にもかかわらず、ここ最近になってそれらは再び姿を現した。人々は、とりわけヴェルスタンドの者たちは大陸をその身を犠牲にしてまで救ってくれたグメーシスたちの帰還を喜び、これを受け入れるつもりだった。
……だが。
人々は絶望した。再び現れたグメーシスたちはもう自分たちの味方ではなかった。グメーシスたちは人々を次々に襲い始めたのだ。それは大陸の各地で起こり、被害は瞬く間に拡大していった。復活したグメーシスたちは「罪」ではなく別の刻印をその身に宿していた。
「これはもう我々の知るグメーシスではない」
そこでこのグメーシスたちはグメーシス亜種と呼ばれた。
グメーシス亜種の問題はすぐに各国の政治家たちの耳にも届き、そしてこうしてアルバールでの公会議が開かれたという次第だった。
ヴェルスタンドといえば精神体。精神体といえばグメーシス。国旗にも描かれているほどなのだ。人々はグメーシスの亜種を見てすぐにヴェルスタンド国のことが思い浮かんだ。この国には精神兵器を生み出して他国に侵攻したという過去もある。そのため疑いの目はすぐに向けられ、今まさにこの白髭の老人、ヴェルスタンドの大統領はそのことについて問い質されているところだった。
「黙っていてはわからん。説明をしろ、ヘルツ!!」
ついに痺れを切らした一人が叫んだ。
ヴェルスタンド第108代大統領ヘルツ。彼は英雄の一人だ。いや、一人だったと言うべきか。
精神体の暴走の際に立ち上がったガイスト博士。そしてその仲間として力を貸したゲンダーとメイヴ。精神体を消滅させたのはグメーシスたちだったが、最初に精神体の問題を解決しようとして立ち上がった彼らは救国の英雄として人々によく知られることになった。そして、ヘルツも彼らに並んだ一人。ガイストの友として彼を支えた英雄の一人だったのだ。その功績を経てヴェルスタンドの要職に就いた彼は、今となってはヴェルスタンドの大統領なのだ。
しかし、その英雄は今、疑いの眼差しで睨まれ、そして責め立てられていた。
たしかにヘルツは英雄だ。だが彼は今やヴェルスタンドの代表。彼自身が英雄だろうが元医者だろうが関係ない。過去に積み上げてきた歴史が原因でヴェルスタンドは信用されていなかった。英雄が大統領になったからといって、その過去が消えるわけではない。たとえ英雄と呼ばれていても、やはり彼もヴェルスタンド人なのだ。
「私から申し上げられることはひとつだけ。我が国はこの一件には何ら関与していない……それだけだ。どうか私を、いやヴェルスタンドを信じてくれないか」
疲れた表情でヘルツが嘆願する。しかし、マキナやフィーティンの代表者たちは納得しなかった。
「いいや。絶対に何か隠しているに違いない」
「そうとも。精神体を作ったのは貴国ではないか。ならばグメーシスを再び生み出すこともできるはず。どうやら貴国はまだ大陸を征服するという愚かな野望をお抱えのようだ。もし違うというのならそうでないという証拠を提示してもらいたいものですな」
不可能な話だった。「ない」ということを証明するのがいかに難しいことか。
一度は協力して大陸の問題に立ち向かうことを学んだ彼らだったが、20数年の時を経てどうやらその理念は薄れつつあるらしい。
ヘルツはただ哀しそうな顔をしながら「信じてくれ」と繰り返すことしかできなかった。
そこでそれまで黙って様子を見ていたフィーティン王のウォーレンがついに言葉を発した。
「ふむ、これでは埒が明かんな。方やおまえがやった、方や私はやってないの一点張り。これでは話が前に進まん」
「ですが国王! もしヴェルスタンドめが本当に精神体を復活させたとあればこれは国際問題ですぞ。そんな者どもと協議など…」
「やれやれ、嘆かわしいものだ。最近の大臣どもはまるでなっていない。一体誰がこんな者を起用したのか……私であったか。それはともかく、そうやって罵り合ってばかりではいつまで経っても問題は解決できぬぞ。違うかね?」
「も、申し訳ありません。ですが…!」
「もうよい、おまえは黙っておれ。時にヘルツ殿。貴殿はかの英雄ガイスト殿の友人でもあったな。彼は今どうしている?」
ヘルツは首を横に振った。
「私にはわからない。もう長らく会っていない。彼は今もマキナにいると聞いたが……ガソイール殿?」
問われてマキナ首相が答える。
「たしかに彼は我が国にいる……はずです。が、残念ながら詳しい所在は私も把握しておりませんな」
代々王家の血筋が国を継いできたフィーティン。選挙によって選出された大統領が納めるヴェルスタンド。それに対してマキナは特殊な形態で国の代表を決めていた。マキナは機械文化に特化した都市国家。そこはもとはただの発明家たちの集まった小村でしかなかった。しかし次第に数多くの研究者たちがその地に集い、集落は街に、街は都市に、そしてついには国へと発展していった。それがマキナという国だ。そこには複数の研究者たちの派閥があり、もっとも力のある研究所の代表がそのまま国の首相となるシステムになっている。そのため、他の二国に比べてマキナの代表は変わりやすく、各研究所の力関係が逆転したりするとマキナの首相はすぐに変わってしまうのだ。
ガソイールは首相になってまだ日が浅かった。それに加えてガイストは彼の研究所の一員ではない。だからこそ、精神体を発明したというガイスト博士の名前は知っていても、彼についてのことはよく知らなかったのだ。
そこでウォーレンは言った。
「マキナにいるということが分かれば十分だ。彼は言わば精神体の専門家。そんな彼の意見もなしに一体我々は何をどうやって解決しようと言うのだ。まずはガイスト博士を呼ぶべきだと考えるのだが、いかがかね」
ガイストは自分が発明した精神体が戦争の道具や人々に被害を与える原因になっていることをいつも後悔していた。だからこそ、精神体絡みの問題はどうしても無視することができない性分だったのだ。それはグメーシスでも同じこと。20数年前の精神体の暴走『HiveMind』の際でも人知れず一人行動を開始した彼のことだ、あるいはもう既に行動を開始しているかもしれない。
代表者たちは誰もが「それはもっともだ」と頷いた。そしてようやく精神体の第一人者がこの会議に呼ばれることになった。
「マキナから使者が戻ってきました」
アルバールを管理する衛兵の一人が知らせる。
英雄としてガイストの名は誰もが知っていたが、この場で彼と面識があるのは友人であるヘルツだけだった。そのため誰もが始めてみる英雄の到着に胸を高鳴らせた。しかし、その期待に反して入ってきたのはガイストではなかった。
「オレたちの助けが必要なんダって?」
そこに立っていたのは人ではない。
「な、なんだ。こいつは? ガイスト殿はどうした!」
「いや、待つんだ。あの特徴、姿……ま、まさか彼は」
ガイストとともに活躍した英雄。そのうちの一人ゲンダーはこう知られていた。それはサボテンの姿をした機械、必殺の一撃で精神兵器や精神体を蹴散らして回った小さき勇者であると。
「ああ、そうダ。オレはゲンダー。ガイストはちょっと訳あって来れない。ダから代わりにオレが来たんダ」
『それから私はメイヴです。我々が来たからにはもう心配はいりませんよ。……なーんて大口叩いちゃいましたが、まぁ解決しないとエラいことになりますからね。なんとかしてみせますよ、今回も』
ゲンダーの頭上には半透明のホログラムモニタが現れてそこに文字が表示された。これは遠隔モニタと呼ばれるものだ。同じく英雄として知られるメイヴは知能に優れる機械。ゲンダーのように直接言葉を話す機能はついていないが、こうして間接的に自分の意思を伝えることができる。
そう、意思だ。彼らは機械でありながら自分の意思があった。彼らはただの機械ではない。まるで人と同じような心があった。だからこそ、彼らはただの機械ではない。彼らは特別だった。
期待していたガイストは来なかった。だが予期しない別の英雄の来訪に一同は驚いた。
その中で落ち着いた様子でヘルツが声をかける。
「おまえたち…! 久しいじゃないか。元気にしていたか」
『おや、もしかしてヘルツですか? これはまたずいぶんと老けましたねぇ。そのヒゲ、すぐにサンタさんができますよ』
「グメーシスと聞いて飛んできたんダ。あいつら消滅したんじゃなかったのか?」
「わからない。だからこそガイストを呼んだんだが……そうか、あいつは来れないのか」
『いろいろありましてね…。ですが、がっかりしないでください。今回は私たちが力になりますよ』
「そういうことダ。こんなこともあろうかと、オレたちはガイストにしっかりメンテナンスしてもらってあるからな! オレたちに出来ることがあったら何でも言ってくれ。そのグメーシス亜種を倒せばいいのか?」
そこでウォーレンが二人に声をかけた。
「事情はわかった。ではガイスト殿に代わって貴殿らにお願いしよう。実は…」
ウォーレンが説明する。
彼らは大陸全土に出没しているグメーシス亜種の調査を予定していた。グメーシスは触れたものを塩に変えてしまう能力を持っていたが、現在出現して被害を上げているグメーシスたちは、それとは違う性質を示すのだという。そこでまずは対策を考えるために、亜種たちのデータを収集する必要があったのだ。
当初、彼らはそのデータをもとに専門家であるガイストの意見を聞こうとしていた。だが彼は事情があって来れないということがわかったので、その役目はメイヴに任せることにした。メイヴのデータベースにはこれまでの精神体との戦いから、それらに関する様々なデータが揃っている。ガイストの頭の中だけにしかない情報を除けば、精神体に関してのあらゆる情報がそこにあると言っても過言ではない。
「オレは?」
「ゲンダー殿は精神体との戦いの経験がある。それを今回も活かしてほしいのだ」
データ収集のため、彼らは方々に調査団を派遣するつもりだ。しかし、それはただの安全なフィールドワークではない。人々を襲っている危険なグメーシス亜種と直接対峙してそのデータを取る必要があるため、調査団のメンバーは各国の兵士たちから構成されている。それは亜種たちに襲われる可能性があったからだ。
そこでゲンダーはその調査団のひとつ、チャーリーチームに同行して調査をサポートすることになった。
「向かってほしいのは大陸南西部の森林地帯だ。あそこは今となっては近寄る者のほとんどいない未開の地、何が起こるかわからない。しかし、そんなところにも小さな集落はあり、そこの人々からグメーシス亜種の被害を受けたという声が届いている。あそこもフィーティンの領土の一部なので、私はそれを無視するわけにはいかんのだ。そこで是非とも君たちがサポートしてくれると非常に助かるのだが…」
「合点承知ダ! オレたちに任せておけ」
ゲンダーたちはこれを快く引き受けた。
その日は調査団の編成と準備に充てられ、翌日メンバーは出発に際して初めて顔を揃えることになった。
アルバールを管理する衛兵の一人が知らせる。
英雄としてガイストの名は誰もが知っていたが、この場で彼と面識があるのは友人であるヘルツだけだった。そのため誰もが始めてみる英雄の到着に胸を高鳴らせた。しかし、その期待に反して入ってきたのはガイストではなかった。
「オレたちの助けが必要なんダって?」
そこに立っていたのは人ではない。
「な、なんだ。こいつは? ガイスト殿はどうした!」
「いや、待つんだ。あの特徴、姿……ま、まさか彼は」
ガイストとともに活躍した英雄。そのうちの一人ゲンダーはこう知られていた。それはサボテンの姿をした機械、必殺の一撃で精神兵器や精神体を蹴散らして回った小さき勇者であると。
「ああ、そうダ。オレはゲンダー。ガイストはちょっと訳あって来れない。ダから代わりにオレが来たんダ」
『それから私はメイヴです。我々が来たからにはもう心配はいりませんよ。……なーんて大口叩いちゃいましたが、まぁ解決しないとエラいことになりますからね。なんとかしてみせますよ、今回も』
ゲンダーの頭上には半透明のホログラムモニタが現れてそこに文字が表示された。これは遠隔モニタと呼ばれるものだ。同じく英雄として知られるメイヴは知能に優れる機械。ゲンダーのように直接言葉を話す機能はついていないが、こうして間接的に自分の意思を伝えることができる。
そう、意思だ。彼らは機械でありながら自分の意思があった。彼らはただの機械ではない。まるで人と同じような心があった。だからこそ、彼らはただの機械ではない。彼らは特別だった。
期待していたガイストは来なかった。だが予期しない別の英雄の来訪に一同は驚いた。
その中で落ち着いた様子でヘルツが声をかける。
「おまえたち…! 久しいじゃないか。元気にしていたか」
『おや、もしかしてヘルツですか? これはまたずいぶんと老けましたねぇ。そのヒゲ、すぐにサンタさんができますよ』
「グメーシスと聞いて飛んできたんダ。あいつら消滅したんじゃなかったのか?」
「わからない。だからこそガイストを呼んだんだが……そうか、あいつは来れないのか」
『いろいろありましてね…。ですが、がっかりしないでください。今回は私たちが力になりますよ』
「そういうことダ。こんなこともあろうかと、オレたちはガイストにしっかりメンテナンスしてもらってあるからな! オレたちに出来ることがあったら何でも言ってくれ。そのグメーシス亜種を倒せばいいのか?」
そこでウォーレンが二人に声をかけた。
「事情はわかった。ではガイスト殿に代わって貴殿らにお願いしよう。実は…」
ウォーレンが説明する。
彼らは大陸全土に出没しているグメーシス亜種の調査を予定していた。グメーシスは触れたものを塩に変えてしまう能力を持っていたが、現在出現して被害を上げているグメーシスたちは、それとは違う性質を示すのだという。そこでまずは対策を考えるために、亜種たちのデータを収集する必要があったのだ。
当初、彼らはそのデータをもとに専門家であるガイストの意見を聞こうとしていた。だが彼は事情があって来れないということがわかったので、その役目はメイヴに任せることにした。メイヴのデータベースにはこれまでの精神体との戦いから、それらに関する様々なデータが揃っている。ガイストの頭の中だけにしかない情報を除けば、精神体に関してのあらゆる情報がそこにあると言っても過言ではない。
「オレは?」
「ゲンダー殿は精神体との戦いの経験がある。それを今回も活かしてほしいのだ」
データ収集のため、彼らは方々に調査団を派遣するつもりだ。しかし、それはただの安全なフィールドワークではない。人々を襲っている危険なグメーシス亜種と直接対峙してそのデータを取る必要があるため、調査団のメンバーは各国の兵士たちから構成されている。それは亜種たちに襲われる可能性があったからだ。
そこでゲンダーはその調査団のひとつ、チャーリーチームに同行して調査をサポートすることになった。
「向かってほしいのは大陸南西部の森林地帯だ。あそこは今となっては近寄る者のほとんどいない未開の地、何が起こるかわからない。しかし、そんなところにも小さな集落はあり、そこの人々からグメーシス亜種の被害を受けたという声が届いている。あそこもフィーティンの領土の一部なので、私はそれを無視するわけにはいかんのだ。そこで是非とも君たちがサポートしてくれると非常に助かるのだが…」
「合点承知ダ! オレたちに任せておけ」
ゲンダーたちはこれを快く引き受けた。
その日は調査団の編成と準備に充てられ、翌日メンバーは出発に際して初めて顔を揃えることになった。
地平線の向こうから太陽が昇り、大樹の陰を明るく照らす。空は快晴、絶好の調査日和だ。
アルバール公会議場を背景に、ゲンダーとメイヴは地平線の向こうを見つめて感傷にふけっていた。
『大樹のふもと……なるほど、懐かしいですねぇ。ここはたしかレティスやブロウティスと初遭遇した場所でしたか』
「ダな。あのときはまだメイヴと会ったばかりダった。まさかあんな滅茶苦茶するやつダなんて思ってなかった頃ダ」
『それは褒め言葉として受け取っておきますね』
レティスとブロウティスとは精神兵器の一種。かつて二人はここでそれらに襲われたことがあった。その際にゲンダーは必殺技の汁千本で精神兵器を迎え撃ったが、メイヴはなんとミサイルやガトリングガンなどといった重装備でこれと戦ったのだ。サボテンがモチーフとはいえ人型に近い姿のゲンダーと違って、メイヴは筒状のいかにも機械というような姿をしていた。そんなメイヴの身体には数々の武装が仕組まれているのだ。
『ですが今回は私はサポートだけです。私の雄姿が見せられなくて残念ですね』
「わかってる。でもおまえのサポートはいつも的確なんダ。ダから今回も頼むぜ」
メイヴはこうしてゲンダーに話しかけているが、メイヴ自身は実はここにいない。メイヴ本体はマキナにいて、そこから遠隔モニタにメッセージを送っている。ゲンダーを中継することで、どんな離れた場所でもメイヴはコミュニケーションを取ることができるのだ。
『さて、そろそろチャーリーチームの仲間たちが集まってくる頃ですね。話によると、三国それぞれの小隊がひとつずつ集まってひとつの調査団となっているということでしたが』
「そうダな。まずはチャーリーさんに挨拶しとかないと。チーム名にもなってるんダ。きっとリーダーに違いない」
『ゲンダー、チャーリーというのはそういう意味ではなくてABCの「C」を表しているんですが……それにしても三国合同チームですか。三国から同数ずつの兵士が入っているという話ですし、誰がリーダーになるかで喧嘩にならなければいいのですが』
アルファチームとデルタチームはすでに出発していったようだ。隣ではブラボーチームが何やらもめ事を起こしている様子。一方我らがチャーリーチームは、チャーリーさんは愚か隊員のひとりもまだ姿を現していない。
「遅いな。何をやってるんダ」
『では逆に考えてみましょう。もしかして私たちが遅れたんじゃないですか? なーんて』
「いやいや、まさか。そんなことあるわけ…」
するとそのとき、どこからともなくエンジンの唸る音が聴こえてきた。
「なんダあれは!? あ、危ないッ!」
『ゲンダー、じっとしててください。防御シールドを展開します』
見ると、一台の装甲車が凄い勢いでこちらに突進してくるではないか。装甲車はゲンダーの目の前でドリフト走行し、土を撒き散らしながらなんとか向きを変えると、そのまま大樹の幹へと真っ直ぐ進み、激しく衝突して土煙を巻き上げながら止まった。
一体誰がこんな乱暴な運転をするのだろうか、と覗いてみると車からは三人の男女が降り立つ。
そしてさっきまでハンドルを握っていた男が最初に言った。
「Sorry, sorry! 地上を走るのは久しぶりなもんだから、思わずエキサイトしちまったぜ! Yeah!」
見たところフィーティン人の若者といったところだろうか。その背後からは同じくフィーティン人の華奢な男と、ヴェルスタンド人の若い女性がふらふらと姿を見せた。
「な、なんてひどい運転だい。これだから下品な田舎者は……これで同じ国の仲間とは信じられないよ」
「この際、荒っぽいのは目をつぶるわ。重要なのは祖国を守ることですもの。けど、大樹を傷つけるなんてあなたどういうつもり!? しかも、よりによってヴェルスタンド側を! これは当てつけ!? 当てつけなのね!!」
「なんダこいつらは…」
三人は一方で笑ったり一方で怒ったりなどしていたが、ゲンダーの姿を見つけるとすぐに近づいてきて声をかけた。
「Look! サボテンのマシンがいるぜ! 珍しい形をしてるじゃねーか。おまえもマキナから来たのか?」
「何を言ってるの! サボテンの機械って……もしかしてあなた、あのゲンダー様ではありませんの!?」
「おお、これが英雄と名高い! ふぅん。美しいねぇ、この磨き抜かれたボディ……に映る僕の顔は!!」
ゲンダーをそっちのけで三人は会話を弾ませた。
「そんないっぺんにしゃべられても困るぞ。一人ずつ話してくれ」
そこで彼らは一人ずつ自己紹介を始めた。彼らこそがずっと待っていたチャーリーチームの仲間である。
アルバール公会議場を背景に、ゲンダーとメイヴは地平線の向こうを見つめて感傷にふけっていた。
『大樹のふもと……なるほど、懐かしいですねぇ。ここはたしかレティスやブロウティスと初遭遇した場所でしたか』
「ダな。あのときはまだメイヴと会ったばかりダった。まさかあんな滅茶苦茶するやつダなんて思ってなかった頃ダ」
『それは褒め言葉として受け取っておきますね』
レティスとブロウティスとは精神兵器の一種。かつて二人はここでそれらに襲われたことがあった。その際にゲンダーは必殺技の汁千本で精神兵器を迎え撃ったが、メイヴはなんとミサイルやガトリングガンなどといった重装備でこれと戦ったのだ。サボテンがモチーフとはいえ人型に近い姿のゲンダーと違って、メイヴは筒状のいかにも機械というような姿をしていた。そんなメイヴの身体には数々の武装が仕組まれているのだ。
『ですが今回は私はサポートだけです。私の雄姿が見せられなくて残念ですね』
「わかってる。でもおまえのサポートはいつも的確なんダ。ダから今回も頼むぜ」
メイヴはこうしてゲンダーに話しかけているが、メイヴ自身は実はここにいない。メイヴ本体はマキナにいて、そこから遠隔モニタにメッセージを送っている。ゲンダーを中継することで、どんな離れた場所でもメイヴはコミュニケーションを取ることができるのだ。
『さて、そろそろチャーリーチームの仲間たちが集まってくる頃ですね。話によると、三国それぞれの小隊がひとつずつ集まってひとつの調査団となっているということでしたが』
「そうダな。まずはチャーリーさんに挨拶しとかないと。チーム名にもなってるんダ。きっとリーダーに違いない」
『ゲンダー、チャーリーというのはそういう意味ではなくてABCの「C」を表しているんですが……それにしても三国合同チームですか。三国から同数ずつの兵士が入っているという話ですし、誰がリーダーになるかで喧嘩にならなければいいのですが』
アルファチームとデルタチームはすでに出発していったようだ。隣ではブラボーチームが何やらもめ事を起こしている様子。一方我らがチャーリーチームは、チャーリーさんは愚か隊員のひとりもまだ姿を現していない。
「遅いな。何をやってるんダ」
『では逆に考えてみましょう。もしかして私たちが遅れたんじゃないですか? なーんて』
「いやいや、まさか。そんなことあるわけ…」
するとそのとき、どこからともなくエンジンの唸る音が聴こえてきた。
「なんダあれは!? あ、危ないッ!」
『ゲンダー、じっとしててください。防御シールドを展開します』
見ると、一台の装甲車が凄い勢いでこちらに突進してくるではないか。装甲車はゲンダーの目の前でドリフト走行し、土を撒き散らしながらなんとか向きを変えると、そのまま大樹の幹へと真っ直ぐ進み、激しく衝突して土煙を巻き上げながら止まった。
一体誰がこんな乱暴な運転をするのだろうか、と覗いてみると車からは三人の男女が降り立つ。
そしてさっきまでハンドルを握っていた男が最初に言った。
「Sorry, sorry! 地上を走るのは久しぶりなもんだから、思わずエキサイトしちまったぜ! Yeah!」
見たところフィーティン人の若者といったところだろうか。その背後からは同じくフィーティン人の華奢な男と、ヴェルスタンド人の若い女性がふらふらと姿を見せた。
「な、なんてひどい運転だい。これだから下品な田舎者は……これで同じ国の仲間とは信じられないよ」
「この際、荒っぽいのは目をつぶるわ。重要なのは祖国を守ることですもの。けど、大樹を傷つけるなんてあなたどういうつもり!? しかも、よりによってヴェルスタンド側を! これは当てつけ!? 当てつけなのね!!」
「なんダこいつらは…」
三人は一方で笑ったり一方で怒ったりなどしていたが、ゲンダーの姿を見つけるとすぐに近づいてきて声をかけた。
「Look! サボテンのマシンがいるぜ! 珍しい形をしてるじゃねーか。おまえもマキナから来たのか?」
「何を言ってるの! サボテンの機械って……もしかしてあなた、あのゲンダー様ではありませんの!?」
「おお、これが英雄と名高い! ふぅん。美しいねぇ、この磨き抜かれたボディ……に映る僕の顔は!!」
ゲンダーをそっちのけで三人は会話を弾ませた。
「そんないっぺんにしゃべられても困るぞ。一人ずつ話してくれ」
そこで彼らは一人ずつ自己紹介を始めた。彼らこそがずっと待っていたチャーリーチームの仲間である。
最初に名乗ったのはハンドルを握っていた男だ。
「Hey, cactusboy! 俺様はエラキス。マキナで最高にイカした飛行艇パイロットさ! おまえもマキナからやってきたっていうんなら、もちろんガーネットスターの名は聞いたことがあるだろう?」
「カクタス……なんダって? こいつ変な言葉をしゃべるぞ。方言か?」
『ふーむ、これはどうやらフィーティンの昔の言葉のようですねぇ。データベースを検索してみましたが、どうやらフィーティンの一部地域では今でも昔の言葉が使われているようです。まぁ、たしかにある意味では方言みたいなものですかね。どれ……Hello hello』
メイヴは試行錯誤しながら遠隔モニタにフィーティンの旧言語を表示させてみせる。するとそれを一目見たエラキスは目の色を変えて言った。
「Wow! Hologram messenger!? 今どき珍しいもん使ってんじゃねーか!」
『おや、あなたにはこれがわかるのですね。ええ、今となっては遅れた技術かもしれませんが、私にはこれが必要でしてね』
「No way! 逆にいいじゃねーか。ハイエンドなマシンでスマートにやるのも悪かねえが、そこを敢えて一世代前の技術でなんとかやりくりしてインポッシブルをポッシブルにする。最高にクールだぜ! 古き良きなんとやらだ。気に入ったぜ! Who are you?」
『私はメイヴです。どうぞお見知りおきを』
「Okay, メイヴ! これから俺たちはブラザーだ。Have a cool time, ya!」
『ふむ…。Thanks bro. Hope will be soul mate』
メイヴが自分の故郷の言葉を理解できると知って嬉しく思ったのか、エラキスはそのままフィーティンの旧言語でメイヴとの会話を始めてしまった。そこはさすがのメイヴであり、ただ話が通じているだけには留まらない。エラキスの雰囲気に合わせたフランクな応対で、二人の会話は途切れることなく軽快な様子で続く。
しかし、メイヴとは違ってそんな昔の言葉をまるで理解できないゲンダーにはそれが退屈で堪らなかった。
そこでゲンダーは話題を変えようと、エラキスについて気になっていることを訊いてみた。もちろん、ゲンダーも知っている大陸の共通語で。
「おまえ機械に詳しいみたいダな。見たところフィーティン人のようダが、なんでマキナ兵士なんダ?」
「まずガーネットスターってのはもともとフィーティン最速の走り屋のことだ。俺はそのメンバーだったんだが、その俺の操縦技術がマキナで評価されて、晴れてパイロットにスカウトされたってわけだ」
「なるほど。そりゃあ大層凄い操縦技術なんダろうなぁ…」
言って大樹に衝突した装甲車を見やる。
「Ha-ha! あれだけ盛大にクラッシュしても車体に大きな傷はなし。俺様の技術があってこそだぜ!」
「……まぁいいダ。そういうことにしといてやるよ」
フィーティン出身のマキナ兵、エラキス。チャーリーチーム、マキナ小隊のリーダーだ。
「Hey, cactusboy! 俺様はエラキス。マキナで最高にイカした飛行艇パイロットさ! おまえもマキナからやってきたっていうんなら、もちろんガーネットスターの名は聞いたことがあるだろう?」
「カクタス……なんダって? こいつ変な言葉をしゃべるぞ。方言か?」
『ふーむ、これはどうやらフィーティンの昔の言葉のようですねぇ。データベースを検索してみましたが、どうやらフィーティンの一部地域では今でも昔の言葉が使われているようです。まぁ、たしかにある意味では方言みたいなものですかね。どれ……Hello hello』
メイヴは試行錯誤しながら遠隔モニタにフィーティンの旧言語を表示させてみせる。するとそれを一目見たエラキスは目の色を変えて言った。
「Wow! Hologram messenger!? 今どき珍しいもん使ってんじゃねーか!」
『おや、あなたにはこれがわかるのですね。ええ、今となっては遅れた技術かもしれませんが、私にはこれが必要でしてね』
「No way! 逆にいいじゃねーか。ハイエンドなマシンでスマートにやるのも悪かねえが、そこを敢えて一世代前の技術でなんとかやりくりしてインポッシブルをポッシブルにする。最高にクールだぜ! 古き良きなんとやらだ。気に入ったぜ! Who are you?」
『私はメイヴです。どうぞお見知りおきを』
「Okay, メイヴ! これから俺たちはブラザーだ。Have a cool time, ya!」
『ふむ…。Thanks bro. Hope will be soul mate』
メイヴが自分の故郷の言葉を理解できると知って嬉しく思ったのか、エラキスはそのままフィーティンの旧言語でメイヴとの会話を始めてしまった。そこはさすがのメイヴであり、ただ話が通じているだけには留まらない。エラキスの雰囲気に合わせたフランクな応対で、二人の会話は途切れることなく軽快な様子で続く。
しかし、メイヴとは違ってそんな昔の言葉をまるで理解できないゲンダーにはそれが退屈で堪らなかった。
そこでゲンダーは話題を変えようと、エラキスについて気になっていることを訊いてみた。もちろん、ゲンダーも知っている大陸の共通語で。
「おまえ機械に詳しいみたいダな。見たところフィーティン人のようダが、なんでマキナ兵士なんダ?」
「まずガーネットスターってのはもともとフィーティン最速の走り屋のことだ。俺はそのメンバーだったんだが、その俺の操縦技術がマキナで評価されて、晴れてパイロットにスカウトされたってわけだ」
「なるほど。そりゃあ大層凄い操縦技術なんダろうなぁ…」
言って大樹に衝突した装甲車を見やる。
「Ha-ha! あれだけ盛大にクラッシュしても車体に大きな傷はなし。俺様の技術があってこそだぜ!」
「……まぁいいダ。そういうことにしといてやるよ」
フィーティン出身のマキナ兵、エラキス。チャーリーチーム、マキナ小隊のリーダーだ。
続いてもう一人のフィーティン人が名乗った。
「やあ、僕はイザール。フィーティンで最高に美しい男とは僕のことさ!」
「はぁ…。また変なのが出てきたな。フィーティン兵なんダろ? ダったらそこは、オレは最高に強いやつダ! とか言うのがお国柄ってもんじゃないのか?」
「ノンノン、僕を他の野蛮な兵士どもと一緒に考えてもらっては困るねぇ。力に頼ったゴリ押しなんてもう古いよ。これからの時代は舞うように優雅に、そして流れるようにスマートに戦うのさ。そうして掴む勝利こそが本当に美しいんだ。そう、この僕のようにね」
「ふぇっ…。オレ機械なのに、なんか寒気を感じちまったぞ。メイヴ任せた」
『Hello, gentleman』
メイヴはそのままエラキスのときと同様にフィーティンの旧言語で話しかけた。するとイザールは不満そうな顔になった。
「よしてくれたまえ、メイヴ君。そんな古臭い言葉なんて全然スマートじゃないね」
『おや、お気に召しませんでしたか』
「今どきそんな言葉を使うフィーティン人なんて田舎者だけさ。僕はフィーティンじゃ名の知れたレディアンス家の出身でね。名家の血を引く者としては、当然ながらそれ相応の振る舞いが要求されるわけだよ。もちろん、そのことを踏まえた上で接してもらわないことには困る。そうでないと家の名誉に関わることだからね。つまり……お分かりかい?」
『ふーむ、最近のフィーティン事情はややこしいんですねぇ。ところで、そんな高貴なあなたがどうして兵士なんかに?』
「ふふっ。僕はね、以前はフィーティン軍の音楽団にいたんだ。だけど気付いたんだよ。音楽を奏でるよりも、その音の波に乗って舞うように戦うほうが美しいということにね! だってそうだろう? 楽団はたしかに兵士たちの士気を向上させる。でもそれはあくまでサポート要員であって、決して主役ではないのだからね!」
『争いごとに主役も脇役もないとは思いますが……まぁいいでしょう。思想には正解も絶対もありませんからね』
「機械のわりに君は思考が柔軟なようだね。ところでメイヴ君、その画面は鏡のようにものを映すことはできないのかい?」
『はい? ええ、まぁ……その程度なら可能ですが』
そう答えると、メイヴは遠隔モニタに正面の景色を映しだした。そこにはイザールの顔も映っている。
「そう、そうだよ! 君は有能だねぇ……ちょうど、さっき崩れたヘアスタイルを直したいと思っていたんだよ」
言ってイザールは遠隔モニタを覗き込むと、そのままヘアメイクに集中し始めてしまった。
「……そうダ。こいつにはナルシストという呼称がぴったりダ」
フィーティン小隊のリーダー、イザール。チャーリーチームの最も美しき男(自称)である。
「やあ、僕はイザール。フィーティンで最高に美しい男とは僕のことさ!」
「はぁ…。また変なのが出てきたな。フィーティン兵なんダろ? ダったらそこは、オレは最高に強いやつダ! とか言うのがお国柄ってもんじゃないのか?」
「ノンノン、僕を他の野蛮な兵士どもと一緒に考えてもらっては困るねぇ。力に頼ったゴリ押しなんてもう古いよ。これからの時代は舞うように優雅に、そして流れるようにスマートに戦うのさ。そうして掴む勝利こそが本当に美しいんだ。そう、この僕のようにね」
「ふぇっ…。オレ機械なのに、なんか寒気を感じちまったぞ。メイヴ任せた」
『Hello, gentleman』
メイヴはそのままエラキスのときと同様にフィーティンの旧言語で話しかけた。するとイザールは不満そうな顔になった。
「よしてくれたまえ、メイヴ君。そんな古臭い言葉なんて全然スマートじゃないね」
『おや、お気に召しませんでしたか』
「今どきそんな言葉を使うフィーティン人なんて田舎者だけさ。僕はフィーティンじゃ名の知れたレディアンス家の出身でね。名家の血を引く者としては、当然ながらそれ相応の振る舞いが要求されるわけだよ。もちろん、そのことを踏まえた上で接してもらわないことには困る。そうでないと家の名誉に関わることだからね。つまり……お分かりかい?」
『ふーむ、最近のフィーティン事情はややこしいんですねぇ。ところで、そんな高貴なあなたがどうして兵士なんかに?』
「ふふっ。僕はね、以前はフィーティン軍の音楽団にいたんだ。だけど気付いたんだよ。音楽を奏でるよりも、その音の波に乗って舞うように戦うほうが美しいということにね! だってそうだろう? 楽団はたしかに兵士たちの士気を向上させる。でもそれはあくまでサポート要員であって、決して主役ではないのだからね!」
『争いごとに主役も脇役もないとは思いますが……まぁいいでしょう。思想には正解も絶対もありませんからね』
「機械のわりに君は思考が柔軟なようだね。ところでメイヴ君、その画面は鏡のようにものを映すことはできないのかい?」
『はい? ええ、まぁ……その程度なら可能ですが』
そう答えると、メイヴは遠隔モニタに正面の景色を映しだした。そこにはイザールの顔も映っている。
「そう、そうだよ! 君は有能だねぇ……ちょうど、さっき崩れたヘアスタイルを直したいと思っていたんだよ」
言ってイザールは遠隔モニタを覗き込むと、そのままヘアメイクに集中し始めてしまった。
「……そうダ。こいつにはナルシストという呼称がぴったりダ」
フィーティン小隊のリーダー、イザール。チャーリーチームの最も美しき男(自称)である。
最後に口を開いたのはヴェルスタンド人の女性だった。
「ごきげんよう。わたしはシルマ。あなた方がかの有名なゲンダー様とメイヴ様ですわね! お会いできて光栄ですわ」
「ようやくまともなやつが出てきたようダ。……けど、またしても兵士らしくないぞ」
『これはご丁寧に、お嬢さん。いいですねぇ、私は大歓迎ですよ。そうだ、もし良かったら私と文通でもしませんか』
「何をいきなりナンパしてるんダ。それでシルマ、おまえがヴェルスタンド小隊のリーダーなのか?」
イザールもそうだったが、この目の前の令嬢もまた、とても兵士であるようには見えなかった。むしろエラキスぐらいに荒々しいか、あるいは身体が鍛え上げられていればいかにも軍人らしいというものだが、シルマはそのどちらでもない。ただどこかのお嬢様が気まぐれに兵士に扮しているようにしか見えない。
ゲンダーの問いに、シルマは当然そうに答えた。
「ええ、もちろんそうですけど何か問題でも? まさかゲンダー様まで女は黙って下がっていろとでも仰るのですか、エラキスのように!?」
「い、いや。そうまでは言わないけど…」
「たとえ英雄様であっても、これだけは譲れませんわ! 私は誰よりも祖国を大切に思っていますの! その想いだけは誰にも負けませんわ! 国を護るのに他に理由がいるとでも!? それとも何ですの、殿方でなければ国を護ってはいけないと! あなたもそう仰るというのですか!?」
シルマは凄い剣幕でまくし立てた。彼女の顔はメイヴも認める程の美しさを備えていたが、啖呵を切る彼女の表情は鬼のようだった。
「わ、わかったよ。落ちつけよ! 何もそこまで言ってないダろ」
『いいじゃないですか、お嬢さん。立派なことですよ。ゲンダーだってマキナのことにそこまで真剣にはなれません。でしょう?』
「オ、オレはマキナで作られたわけじゃないし……そりゃ、ガイストたちのことは大事に思ってるけど……」
『この通りです。たしかにお嬢さん程の強い意志は全員が持っているとは言えませんからね。もっと誇っていいんですよ』
「もちろんですわ。メイヴ様はお優しいのですね」
『ええ、私はいつでもジェントルマンですからね』
(……というより女好きなんダろ。機械のくせに)
ヴェルスタンド小隊のリーダー、シルマ。祖国のことになると熱くなる令嬢。
「ごきげんよう。わたしはシルマ。あなた方がかの有名なゲンダー様とメイヴ様ですわね! お会いできて光栄ですわ」
「ようやくまともなやつが出てきたようダ。……けど、またしても兵士らしくないぞ」
『これはご丁寧に、お嬢さん。いいですねぇ、私は大歓迎ですよ。そうだ、もし良かったら私と文通でもしませんか』
「何をいきなりナンパしてるんダ。それでシルマ、おまえがヴェルスタンド小隊のリーダーなのか?」
イザールもそうだったが、この目の前の令嬢もまた、とても兵士であるようには見えなかった。むしろエラキスぐらいに荒々しいか、あるいは身体が鍛え上げられていればいかにも軍人らしいというものだが、シルマはそのどちらでもない。ただどこかのお嬢様が気まぐれに兵士に扮しているようにしか見えない。
ゲンダーの問いに、シルマは当然そうに答えた。
「ええ、もちろんそうですけど何か問題でも? まさかゲンダー様まで女は黙って下がっていろとでも仰るのですか、エラキスのように!?」
「い、いや。そうまでは言わないけど…」
「たとえ英雄様であっても、これだけは譲れませんわ! 私は誰よりも祖国を大切に思っていますの! その想いだけは誰にも負けませんわ! 国を護るのに他に理由がいるとでも!? それとも何ですの、殿方でなければ国を護ってはいけないと! あなたもそう仰るというのですか!?」
シルマは凄い剣幕でまくし立てた。彼女の顔はメイヴも認める程の美しさを備えていたが、啖呵を切る彼女の表情は鬼のようだった。
「わ、わかったよ。落ちつけよ! 何もそこまで言ってないダろ」
『いいじゃないですか、お嬢さん。立派なことですよ。ゲンダーだってマキナのことにそこまで真剣にはなれません。でしょう?』
「オ、オレはマキナで作られたわけじゃないし……そりゃ、ガイストたちのことは大事に思ってるけど……」
『この通りです。たしかにお嬢さん程の強い意志は全員が持っているとは言えませんからね。もっと誇っていいんですよ』
「もちろんですわ。メイヴ様はお優しいのですね」
『ええ、私はいつでもジェントルマンですからね』
(……というより女好きなんダろ。機械のくせに)
ヴェルスタンド小隊のリーダー、シルマ。祖国のことになると熱くなる令嬢。
新たに二人の仲間、ゲンダーとメイヴを加えたチャーリーチームの三人は、大樹にめり込んでいた装甲車を再起させると、二人を乗せて再発進した。車は土煙を上げながらフィーティン領内の草原地帯を突き進んでいく。こんどはエラキスの暴走という名の試運転ではなく、調査の目的地へと向けての出発だ。
道中車内、小隊長たちが言うには、彼らの隊の仲間がすでに別の車で先に目的地のフィーティン南西部へと向かっているという。
「もしかしてオレたちが急に合流することになって待っててくれたのか?」
『それは助かりますねぇ。気を遣わせてしまって申し訳ありません』
それに対してハンドルを握るエラキス以外の二人が答えた。
「いや、気にしないでくれ。そういうことを考えるよりも先に彼が暴走し始めてしまっただけだったから…」
「そうね…。わたしたちが慌てて飛び乗ったから良かったものの、彼一人に任せておいたら今頃一人でどこまで行ってしまっていたことか…」
「Heeey!! なんだ、そのまるで俺が悪いみたいな言い草は! 俺は英雄サマが合流するって聞いて、車に不具合があってはいけないからまず俺が試運転を……と、ちゃァんと考えてやってたんだ! 勝手なこと言ってんじゃねーよ!」
聞いてエラキスが不機嫌そうな顔で振り返る。そしてそのまま運転席のエラキスと、後部座席のイザール、シルマたちは口喧嘩を始めてしまった。『喧嘩するほど仲がいいと言いますし、彼らは良いチームメイトになれるかもしれません』とメイヴは一人感心していたが、一方で助手席に座るゲンダーは真っ青な顔で冷や汗をかいていた。
「それより”ちゃァんと”前を見て運転してくれよ!!」
装甲車は大草原に点在する木にぶつかって、またしても止まった。
メイヴは良いと言うが、ゲンダーは仲間の三人に不安を感じるばかり。
大陸三国から一人ずつ新たな仲間を加えて、ゲンダーとメイヴの旅が今、再び始まった。
道中車内、小隊長たちが言うには、彼らの隊の仲間がすでに別の車で先に目的地のフィーティン南西部へと向かっているという。
「もしかしてオレたちが急に合流することになって待っててくれたのか?」
『それは助かりますねぇ。気を遣わせてしまって申し訳ありません』
それに対してハンドルを握るエラキス以外の二人が答えた。
「いや、気にしないでくれ。そういうことを考えるよりも先に彼が暴走し始めてしまっただけだったから…」
「そうね…。わたしたちが慌てて飛び乗ったから良かったものの、彼一人に任せておいたら今頃一人でどこまで行ってしまっていたことか…」
「Heeey!! なんだ、そのまるで俺が悪いみたいな言い草は! 俺は英雄サマが合流するって聞いて、車に不具合があってはいけないからまず俺が試運転を……と、ちゃァんと考えてやってたんだ! 勝手なこと言ってんじゃねーよ!」
聞いてエラキスが不機嫌そうな顔で振り返る。そしてそのまま運転席のエラキスと、後部座席のイザール、シルマたちは口喧嘩を始めてしまった。『喧嘩するほど仲がいいと言いますし、彼らは良いチームメイトになれるかもしれません』とメイヴは一人感心していたが、一方で助手席に座るゲンダーは真っ青な顔で冷や汗をかいていた。
「それより”ちゃァんと”前を見て運転してくれよ!!」
装甲車は大草原に点在する木にぶつかって、またしても止まった。
メイヴは良いと言うが、ゲンダーは仲間の三人に不安を感じるばかり。
大陸三国から一人ずつ新たな仲間を加えて、ゲンダーとメイヴの旅が今、再び始まった。