第20章「Terminus for Story(後日談)」
あらゆる予測不可能な事象、あらゆる出会い、そして精神と機械。
これらは舞台上で脚本なしで役者が演じるほど奇怪でぎこちなく、そして感情を呼び起こすものであった。しかしこの舞台にも脚本家は存在し、脚本どおりに事が運んだとは彼らが知る由もない。その脚本家はゲンダー達の存在を最も必要としていたがために、自身の立場と技量を駆使してここまで彼らを導いたのである。
『違うかね? 例え眠りについても精神とは在り続けるもの』
しかしここからは脚本通りに進むことはない。なぜなら彼らは自由を自らの手で掴み取ったからだ。
『これからは彼らの時代。私にはできなかったことを、彼らはやり遂げてくれた。科学という中での発展はもはや限界を迎えた。私の不幸はこの時代に生まれたことだった。だが次の時代ならば、希望を持って私はそれを彼らに託そう。さあ……私はもう疲れた。私は再び悠久の眠りに就くことにしよう。そろそろ彼らの声を聞いてやってくれ』
これらは舞台上で脚本なしで役者が演じるほど奇怪でぎこちなく、そして感情を呼び起こすものであった。しかしこの舞台にも脚本家は存在し、脚本どおりに事が運んだとは彼らが知る由もない。その脚本家はゲンダー達の存在を最も必要としていたがために、自身の立場と技量を駆使してここまで彼らを導いたのである。
『違うかね? 例え眠りについても精神とは在り続けるもの』
しかしここからは脚本通りに進むことはない。なぜなら彼らは自由を自らの手で掴み取ったからだ。
『これからは彼らの時代。私にはできなかったことを、彼らはやり遂げてくれた。科学という中での発展はもはや限界を迎えた。私の不幸はこの時代に生まれたことだった。だが次の時代ならば、希望を持って私はそれを彼らに託そう。さあ……私はもう疲れた。私は再び悠久の眠りに就くことにしよう。そろそろ彼らの声を聞いてやってくれ』
焦土と化した戦場跡にゲンダーは一人佇んでいた。
あの戦いから数日が経過した。破損した身体はガイストに直してもらい、こうして今は一人で立つことができる。
二度と意識が戻ることのなくなったヴェルスタンド大統領アドルフ・ルートヴィッヒは、ゲーヒルン中枢タワーで起こった謎の爆発事故が原因で事故死したと公式的には発表され、世間を大きく騒がせた。
大統領執務室の壁に空けられた大きな穴。また精神兵器『蟹』の残骸がすぐ近くから発見されたことから、ヴェルスタンド軍大将フリードリヒ・ヴェトレイが大統領の座を狙ってクーデターを起こしたのではないか、という説もまことしやかに囁かれたが、当のフリードリヒも行方不明とのこともあって、とうとう真実が明らかになることはなかった。
現在ヴェルスタンド、マキナともに国の立て直しに注力している状況であり、フィーティンは同盟国であるマキナに支援を惜しまなかったが、大統領が空席となり事実上代表が変わったヴェルスタンドもまたフィーティンの支援を受けることとなった。これを契機に大陸三国の関係が改善されていけば、と人々は願う。
「これで……良かったんダよな、メイヴ?」
ゲンダーは空に向かって語りかける。
波動砲を発射して、その反動に耐え切れず粉々に散ってしまったメイヴ。その姿の消えた中空をじっと見つめる。あれからもう何日も経っているのに、今でもその最期の瞬間が目に焼きついて離れない。
ヘイヴの望みだったブラックボックスの管理はガイストに引き継がれた。ガイストならそれを悪用することはないだろうことはゲンダーもよく知っているし、かつてヘイヴとともに黒石を研究していたスヴェンもサポートしてくれるだろう。そしてメイヴ自身の望みでもあったゲンダーを尊守という大目的も果たされた。戦争も終わった。
ただゲンダーの『メイヴを護る』という目的だけは果たされることはなかった。
「ゲンダー、またここにいたのか」
声をかけたのはガイストだった。
「メイヴのことは本当に残念だった。けれど、そのおかげでこうして今があるんだ」
「ああ……オレもそれには感謝してる。でもなんでメイヴが犠牲にならなくちゃならなかったんダ。何か他に方法はあったんじゃないか。そう思えてならないんダ」
「その気持ちはわかる。しかしいつまでも過去に縛られてちゃいけない。僕たちは前に進まなくては。きっとメイヴだってそう言うと思うぞ」
「それはわかってるつもりなんダが……どうも気持ちの整理がつかなくてな。オレはメイヴを護るためにこれまで闘ってきた。そのメイヴが失われた今、オレはどうすればいいんダろうと思ってな」
「やれやれ、またそれか。たしかに君は機械だ。機械は指示を与えられないと動けない。でも君には心がある。心があれば物事を考え、そして感じることができる。それならば、君が思うままに行動すればそれでいい。間違ってるかどうかをあれこれ考えるのはそのあとでいいんだ。できるかどうじゃなくて『やる』んだ。そうだろう?」
「それはそうなんダが…」
「ほら、元気を出せよ。そんな様子じゃ、メイヴが還ってきたときに笑われるぞ」
「…………えっ? 今、何て言った?」
「実はね、ブラックボックスの解析を進めていて、その中にメイヴのバックアップデータが残されていることがわかったんだ。メイヴからブラックボックスを取り外す直前のものだ。解析を進めないとまだそのデータを抽出することはできないけど、いずれ必ず実現してみせる。そうすれば…」
「メイヴが復活するのか!!」
沈んでいたゲンダーの表情が見る見るうちに明るくなっていく。
「ああ、そうさ。失われたものは戻らないけど、僕らはまたそれを創り直すことができる。メイヴそのものを創ることは僕にはできないが、メイヴの新しい胴体を用意する技術ならある。そこにメイヴのバックアップを適用してやればまたメイヴに会えるさ」
「それは本当か! ……ああ、メイヴ。良かった……本当に良かった……」
「まだまだマキナの復興には時間がかかるし、物資も不足している。僕たちの個人的な理由でそれを遅らせていいことにはならないから、すぐにメイヴを復活させられるわけじゃない。でもいつの日か必ず、僕の手でメイヴを蘇らせてみると約束するよ。ゲンダー、僕を信じてくれるか?」
「ああ、もちろんダ!」
二人は互いに力強く手を取り合った。
あの戦いから数日が経過した。破損した身体はガイストに直してもらい、こうして今は一人で立つことができる。
二度と意識が戻ることのなくなったヴェルスタンド大統領アドルフ・ルートヴィッヒは、ゲーヒルン中枢タワーで起こった謎の爆発事故が原因で事故死したと公式的には発表され、世間を大きく騒がせた。
大統領執務室の壁に空けられた大きな穴。また精神兵器『蟹』の残骸がすぐ近くから発見されたことから、ヴェルスタンド軍大将フリードリヒ・ヴェトレイが大統領の座を狙ってクーデターを起こしたのではないか、という説もまことしやかに囁かれたが、当のフリードリヒも行方不明とのこともあって、とうとう真実が明らかになることはなかった。
現在ヴェルスタンド、マキナともに国の立て直しに注力している状況であり、フィーティンは同盟国であるマキナに支援を惜しまなかったが、大統領が空席となり事実上代表が変わったヴェルスタンドもまたフィーティンの支援を受けることとなった。これを契機に大陸三国の関係が改善されていけば、と人々は願う。
「これで……良かったんダよな、メイヴ?」
ゲンダーは空に向かって語りかける。
波動砲を発射して、その反動に耐え切れず粉々に散ってしまったメイヴ。その姿の消えた中空をじっと見つめる。あれからもう何日も経っているのに、今でもその最期の瞬間が目に焼きついて離れない。
ヘイヴの望みだったブラックボックスの管理はガイストに引き継がれた。ガイストならそれを悪用することはないだろうことはゲンダーもよく知っているし、かつてヘイヴとともに黒石を研究していたスヴェンもサポートしてくれるだろう。そしてメイヴ自身の望みでもあったゲンダーを尊守という大目的も果たされた。戦争も終わった。
ただゲンダーの『メイヴを護る』という目的だけは果たされることはなかった。
「ゲンダー、またここにいたのか」
声をかけたのはガイストだった。
「メイヴのことは本当に残念だった。けれど、そのおかげでこうして今があるんだ」
「ああ……オレもそれには感謝してる。でもなんでメイヴが犠牲にならなくちゃならなかったんダ。何か他に方法はあったんじゃないか。そう思えてならないんダ」
「その気持ちはわかる。しかしいつまでも過去に縛られてちゃいけない。僕たちは前に進まなくては。きっとメイヴだってそう言うと思うぞ」
「それはわかってるつもりなんダが……どうも気持ちの整理がつかなくてな。オレはメイヴを護るためにこれまで闘ってきた。そのメイヴが失われた今、オレはどうすればいいんダろうと思ってな」
「やれやれ、またそれか。たしかに君は機械だ。機械は指示を与えられないと動けない。でも君には心がある。心があれば物事を考え、そして感じることができる。それならば、君が思うままに行動すればそれでいい。間違ってるかどうかをあれこれ考えるのはそのあとでいいんだ。できるかどうじゃなくて『やる』んだ。そうだろう?」
「それはそうなんダが…」
「ほら、元気を出せよ。そんな様子じゃ、メイヴが還ってきたときに笑われるぞ」
「…………えっ? 今、何て言った?」
「実はね、ブラックボックスの解析を進めていて、その中にメイヴのバックアップデータが残されていることがわかったんだ。メイヴからブラックボックスを取り外す直前のものだ。解析を進めないとまだそのデータを抽出することはできないけど、いずれ必ず実現してみせる。そうすれば…」
「メイヴが復活するのか!!」
沈んでいたゲンダーの表情が見る見るうちに明るくなっていく。
「ああ、そうさ。失われたものは戻らないけど、僕らはまたそれを創り直すことができる。メイヴそのものを創ることは僕にはできないが、メイヴの新しい胴体を用意する技術ならある。そこにメイヴのバックアップを適用してやればまたメイヴに会えるさ」
「それは本当か! ……ああ、メイヴ。良かった……本当に良かった……」
「まだまだマキナの復興には時間がかかるし、物資も不足している。僕たちの個人的な理由でそれを遅らせていいことにはならないから、すぐにメイヴを復活させられるわけじゃない。でもいつの日か必ず、僕の手でメイヴを蘇らせてみると約束するよ。ゲンダー、僕を信じてくれるか?」
「ああ、もちろんダ!」
二人は互いに力強く手を取り合った。
こうして、後にマキナ-ヴェルスタンド戦争と呼ばれた戦いは終わった。
その戦いの影に小さな勇者たちの努力があったことを知る者はそう多くない。
そして彼らは、それぞれの道を歩み始めるのであった――
その戦いの影に小さな勇者たちの努力があったことを知る者はそう多くない。
そして彼らは、それぞれの道を歩み始めるのであった――
機械都市の頭脳:スヴェン
戦争で荒れ果てたマキナの復興に尽力する。潜水飛行艇の『鯨』も実用化され、資材の搬送や人員の運搬にと大活躍している
精神の科学者:ガイスト
マキナに帰属しスヴェンの研究所を借りてブラックボックスの研究に力を入れる。かつての精神体の研究はこの奇妙な物体の謎の解明に役立っているという
陽気な「罪」:グメーシス
たたかいのあと、人知れずその姿を消した。噂では旅に出たゲンダーのあとを追いかけて行ったのだとか
パンドラの箱:メイヴ
『大鯰』との最終決戦で儚くも美しく散る。彼の意志は戦争から人々を救った。その心はともに歩んだ仲間たちに今も引き継がれている
仙人掌の勇者:ゲンダー
マキナ復興に協力した後に、メイヴが還ってくるその日まで自分を磨くために一人旅に出た。遠く離れた土地で自らの意思を持つ感情豊かな機械が活躍したという伝説が後世に数多く残されている
戦争で荒れ果てたマキナの復興に尽力する。潜水飛行艇の『鯨』も実用化され、資材の搬送や人員の運搬にと大活躍している
精神の科学者:ガイスト
マキナに帰属しスヴェンの研究所を借りてブラックボックスの研究に力を入れる。かつての精神体の研究はこの奇妙な物体の謎の解明に役立っているという
陽気な「罪」:グメーシス
たたかいのあと、人知れずその姿を消した。噂では旅に出たゲンダーのあとを追いかけて行ったのだとか
パンドラの箱:メイヴ
『大鯰』との最終決戦で儚くも美しく散る。彼の意志は戦争から人々を救った。その心はともに歩んだ仲間たちに今も引き継がれている
仙人掌の勇者:ゲンダー
マキナ復興に協力した後に、メイヴが還ってくるその日まで自分を磨くために一人旅に出た。遠く離れた土地で自らの意思を持つ感情豊かな機械が活躍したという伝説が後世に数多く残されている