「雲の下はどうなっているの?」
とある民家の一室。暖炉の前で一人の子どもが母親に聞いた。
母親は答えて言う。
「地上には青い海と緑の大地があったのよ。でもそれはもうずっと昔の話。わたしたちのご先祖様は、地上が住めなくなってしまったから、大樹を登ってこの空の世界にやってきたの」
「ふーん。地上はどうして住めなくなったの?」
「…………それは何か悲しいことが起こったからよ。さあ、もう夜も遅いわ。今日はもう寝なさい」
とある民家の一室。暖炉の前で一人の子どもが母親に聞いた。
母親は答えて言う。
「地上には青い海と緑の大地があったのよ。でもそれはもうずっと昔の話。わたしたちのご先祖様は、地上が住めなくなってしまったから、大樹を登ってこの空の世界にやってきたの」
「ふーん。地上はどうして住めなくなったの?」
「…………それは何か悲しいことが起こったからよ。さあ、もう夜も遅いわ。今日はもう寝なさい」
それは戦争なのか、環境破壊が原因なのか、あるいはまた別の理由なのか。
長い時間が経った今となっては正確な記録が残っていないため、真実を知っている者はほとんどいない。ただ確かなのは、もう今は地上は人が暮らせるような環境ではなくなってしまったと言われていることだ。
長い時間が経った今となっては正確な記録が残っていないため、真実を知っている者はほとんどいない。ただ確かなのは、もう今は地上は人が暮らせるような環境ではなくなってしまったと言われていることだ。
人々は生活の場をこの空の上の世界に移し、雲海を貫く巨大な世界樹ユグドラシルの樹上に築かれた国、ユミル王国で慎ましくも豊かな生活を送ってきた。
空には他に火竜族の国ムスペルスと、氷竜族の国ニヴルヘイムが存在しており、交流こそ盛んではないものの、人類と竜族は今日の日までなんとかバランスを保ち共存の道を歩んできた。
とくに元々この大樹を棲みかにしていた地竜族は人間に友好的で、地上からやってきた人類を保護し、自らの住まう土地の一部を分け与えたという。そうして誕生したのがこのユミル王国である。
空には他に火竜族の国ムスペルスと、氷竜族の国ニヴルヘイムが存在しており、交流こそ盛んではないものの、人類と竜族は今日の日までなんとかバランスを保ち共存の道を歩んできた。
とくに元々この大樹を棲みかにしていた地竜族は人間に友好的で、地上からやってきた人類を保護し、自らの住まう土地の一部を分け与えたという。そうして誕生したのがこのユミル王国である。
しかし中には互いのことを未だよく思っていない者も少なからずいた。そういった心の捻れが歪みを生み、その歪みは徐々に大きな亀裂を生んでいくこととなる。その前兆はユミル国の王城バルハラでも姿を見せつつあった。
Chapter01「王子、旅立つ」
大樹ユグドラシルの上に広がる王都バルハラでは近頃、不穏な噂が流れていた。
『ユミル国が他国に武力による攻撃を行おうとしている。それも、他ならぬ国王の意思で』
王都中央に位置するバルハラ王城は、古くよりこの世界に存在する大樹の枝と、大地の精霊に祝福された石とを組み合わせた難攻不落で堅牢な造りになっている。
迷路のように入り組んだその王城内の通路を、慣れた様子で歩く二人がいた。
先頭を歩くのは、大地の精霊を彷彿とさせる茶色の髪と大空のように青く澄んだ瞳を持つ青年。
名はフレイ、ユミル国の将来を担う王子である。
その後ろに続くのは王家に仕える宮廷魔道士が一人、緑色の髪をした風の魔道士オットー。
あとを着いて来るオットーに向かって王子は言った。
迷路のように入り組んだその王城内の通路を、慣れた様子で歩く二人がいた。
先頭を歩くのは、大地の精霊を彷彿とさせる茶色の髪と大空のように青く澄んだ瞳を持つ青年。
名はフレイ、ユミル国の将来を担う王子である。
その後ろに続くのは王家に仕える宮廷魔道士が一人、緑色の髪をした風の魔道士オットー。
あとを着いて来るオットーに向かって王子は言った。
「いつまで着いて来るつもりだ、オットー」
「王子に考え直していただくまでです」
「王子に考え直していただくまでです」
彼が弟のセッテとともにこの城で仕えるようになってもう何年になるか。オットーはフレイより少し年上の存在で、幼少期からの付き合いでもあるので、フレイにとっても血こそ繋がってはいないが兄のような存在でもあった。
それゆえに、フレイはオットーの性格をよく知っている。こうなったときの彼は頑固だ。だが今回ばかりはフレイも退くわけにはいかなかった。
それゆえに、フレイはオットーの性格をよく知っている。こうなったときの彼は頑固だ。だが今回ばかりはフレイも退くわけにはいかなかった。
「こういう時のおまえが僕の言うことを聞かないのは分かってる。だからといって僕だって考えを改めるつもりはない。父上に今回のことを問いただしにいくだけじゃないか。それの何がいけない?」
「承知しております。しかし、陛下にも何か深いお考えがあってのことでしょう。王のお手をわずらわせてはなりません」
「今の父上に考えがある、と。本気でそう思っているのか」
「王子!」
「承知しております。しかし、陛下にも何か深いお考えがあってのことでしょう。王のお手をわずらわせてはなりません」
「今の父上に考えがある、と。本気でそう思っているのか」
「王子!」
オットーの制止も聞かずにフレイは早足に通路を行く。
今のユミル王は変わってしまった。フレイが幼いころは、早くに亡くなってしまった王妃に代わって王政の傍らよく面倒をみてくれた良き父親でもあった。
しかし、今では会話を交わすことさえ珍しいほどだ。いつ頃からだったろうか、王の様子がおかしくなったのは。
口論しながら歩いているうちに、王の間の前にたどり着いた。
今のユミル王は変わってしまった。フレイが幼いころは、早くに亡くなってしまった王妃に代わって王政の傍らよく面倒をみてくれた良き父親でもあった。
しかし、今では会話を交わすことさえ珍しいほどだ。いつ頃からだったろうか、王の様子がおかしくなったのは。
口論しながら歩いているうちに、王の間の前にたどり着いた。
「ずいぶんと騒がしいご様子ですな、殿下。陛下に何か御用ですか?」
部屋の前に立つ一人の兵士がフレイを引き止めた。
昔は部屋の前に見張りなんて立たせていなかったというのに。
昔は部屋の前に見張りなんて立たせていなかったというのに。
「少し話があるだけだ。通してくれ」
「しかしですな。陛下は大変お忙しい身。誰も通すな、とのご命令です」
「だが僕は王子だ。父上の……王の息子だ。血を分けた家族なのに会うな通すな、というのはおかしいだろう」
「王の命令は絶対です。たとえそれが王子様であろうともね。さあ、もうお引取りください。でないと私めが罰されてしまいますので」
「……わかった。もういい」
「しかしですな。陛下は大変お忙しい身。誰も通すな、とのご命令です」
「だが僕は王子だ。父上の……王の息子だ。血を分けた家族なのに会うな通すな、というのはおかしいだろう」
「王の命令は絶対です。たとえそれが王子様であろうともね。さあ、もうお引取りください。でないと私めが罰されてしまいますので」
「……わかった。もういい」
素直に引き下がるフレイを見て、まだ着いてきていたオットーはほっと胸を撫で下ろした。
「ああ、王子。考え直していただけたようで何より…」
しかし振り返ったフレイの表情は硬く、まだ全然諦めがつかないといった様子。
王の間から少し離れた通路の窓からフレイは身を乗り出して外の様子を窺う。
王の間から少し離れた通路の窓からフレイは身を乗り出して外の様子を窺う。
「王子!? い、いけません! まさか外壁を伝って……危険です!!」
フレイが城の外壁に手をかざすと、その手からは淡い光が漏れる。そして小さな声で短く呪文を詠唱すると、瞬く間に植物のツタが伸びてきて、自然のはしごを形作った。
これは大地の魔法だ。
この空の世界では魔法がごく一般的なものとして人々の間に広まっている。
彼もまた王子のたしなみとして魔法を学んでいたが、その中でもとくにフレイは自然を操る魔法を得意としていた。
フレイはそのツタに手をかけると、一度軽く引っ張って強度が十分なことを確認し、それを伝って外壁を渡り始めた。
ツタのはしごが繋がる先はもちろん王の間の窓だ。
この空の世界では魔法がごく一般的なものとして人々の間に広まっている。
彼もまた王子のたしなみとして魔法を学んでいたが、その中でもとくにフレイは自然を操る魔法を得意としていた。
フレイはそのツタに手をかけると、一度軽く引っ張って強度が十分なことを確認し、それを伝って外壁を渡り始めた。
ツタのはしごが繋がる先はもちろん王の間の窓だ。
「や、やめてください! 落ちたら危ないですよ!」
そう言われて聞く王子ではない。フレイもまたオットーに似て、こうと決めたら考えを曲げない男だった。
王子の身に何かあっては重大な責任問題になる。仕方なくオットーは、なおも制止を呼びかけながら、自身もそのツタに手をかけるのだった。
王子の身に何かあっては重大な責任問題になる。仕方なくオットーは、なおも制止を呼びかけながら、自身もそのツタに手をかけるのだった。
王の間では、玉座に腰掛けたユミル国王と、その背後には一人の魔道士の姿があった。
漆黒のローブに身を包んだその魔道士、トロウは片手をついて玉座に体重を預けながら、王の耳元に向かって何かを囁くように呟いている。
小声なので何を言っているのかは聞き取れないが、王はただ「ああ」「うむ」などと相槌を打つだけで、自分からは何かを話すような様子は見られない。
そんなユミル王は、心なしか顔色が悪いようにもみえる。
しばらくして、トロウは話し終えたのか近づけていた顔を王の耳元から離す。
その表情は深く被ったフードの陰になって見えないが、口元には怪しげな笑みが浮かべられている。
漆黒のローブに身を包んだその魔道士、トロウは片手をついて玉座に体重を預けながら、王の耳元に向かって何かを囁くように呟いている。
小声なので何を言っているのかは聞き取れないが、王はただ「ああ」「うむ」などと相槌を打つだけで、自分からは何かを話すような様子は見られない。
そんなユミル王は、心なしか顔色が悪いようにもみえる。
しばらくして、トロウは話し終えたのか近づけていた顔を王の耳元から離す。
その表情は深く被ったフードの陰になって見えないが、口元には怪しげな笑みが浮かべられている。
「トロウ。父上から離れろ」
そのとき不意に声が王の間に響く。
落ち着き払った様子でトロウが声のほうを見ると、まさに窓からフレイが王の間に入ってくるところだった。
落ち着き払った様子でトロウが声のほうを見ると、まさに窓からフレイが王の間に入ってくるところだった。
「おやおや。これはフレイ王子ではありませんか。そんなところから入ってくるとは、あまりお行儀が良いとはいえませんよ。見張りの者は一体なにをやっていたのやら……あとできつく言っておかねばなりませんねぇ」
「口を閉じろ、トロウ。僕はおまえと話しに来たんじゃない。父上に用があるんだ」
「ニョルズ様は大変忙しいのです。まだ若いあなたにはわからないでしょうが、国を治めるということは……」
「僕は黙れといったんだ! もう一度だけ言う。トロウ、父上から離れろ」
「おお、怖い怖い。どうかお許しくださいませ……クックック」
「口を閉じろ、トロウ。僕はおまえと話しに来たんじゃない。父上に用があるんだ」
「ニョルズ様は大変忙しいのです。まだ若いあなたにはわからないでしょうが、国を治めるということは……」
「僕は黙れといったんだ! もう一度だけ言う。トロウ、父上から離れろ」
「おお、怖い怖い。どうかお許しくださいませ……クックック」
そう言ってトロウは静かに一歩下がる。
にやついた表情は変えないが、フードの奥で鋭い眼光がこちらを睨みつけているのをフレイは見逃さない。
返すように一瞬にらみつけるが、すぐにその視線は父王へと向けられる。
にやついた表情は変えないが、フードの奥で鋭い眼光がこちらを睨みつけているのをフレイは見逃さない。
返すように一瞬にらみつけるが、すぐにその視線は父王へと向けられる。
「父上。此度の軍事行動、その真意について確かめに参りました。武力を持って他国を攻め落とすという話は本当なのですか」
ニョルズ王は俯いたまま何も答えない。
「攻め落とすとは、穏やかではありませんねぇ。我々に有利な話し合いの場を設けるのです。今回の軍備増強はそのためのカードとして用意させているのです」
代わってトロウが答えた。
「しつこいぞ! 何度言わせる。ぼくは父上と話がしたいんだ。お前は黙ってろ。父上、どうなのですか?」
トロウがふん、と鼻を鳴らし口を閉じた。
代わりにニョルズ王が口を開く。
代わりにニョルズ王が口を開く。
「……ああ。トロウの言うとおりだ。おまえは何も気にするな」
それだけ言って、黙る。
「気にするな、ですって! これまでこの国は戦争もなく平和に過ごしきたんだ。それを自分たちの手で壊すかもしれないと民は不安を抱えている! 僕もだッ! それを、気にするなと!?」
「王子! 落ち着いてください!」
「王子! 落ち着いてください!」
激昂してニョルズ王に詰め寄ろうとしたところで、ようやく追いついたオットーに取り押さえられた。
「おまえは何も気にするな」
さっきと全く同じ言葉を返す王の態度に、フレイはかえって頭が冷静になってきた。
何を言っても無駄だ。
そう理解したフレイは、オットーを伴い黙って王の間を出て行った。
見張りの騎士が突然現れた王子に不思議そうな顔をしていたが、構うことなくフレイは自室に戻るのだった。
そして王の間は再び静寂に包まれる。
何を言っても無駄だ。
そう理解したフレイは、オットーを伴い黙って王の間を出て行った。
見張りの騎士が突然現れた王子に不思議そうな顔をしていたが、構うことなくフレイは自室に戻るのだった。
そして王の間は再び静寂に包まれる。
「所詮は子供。何も出来まい」
フレイたちが去った後で呟かれた声に気づく者は誰もいなかった。
やはり父上はトロウの言いなりか。フレイはそれを痛感していた。
思えばニョルズ王の様子がおかしくなったのは、あの漆黒の魔道士が現れてからだったのではないか。
思えばニョルズ王の様子がおかしくなったのは、あの漆黒の魔道士が現れてからだったのではないか。
ある日突然王都に現れた修行の旅の最中であるという魔道士。
その高い実力はすぐに噂に上り、それが王城に届くのも時間はかからなかった。
ニョルズ王はその魔道士を呼び立てると、その実力を高く評価し、宮廷魔道士の一人として取り立てた。
そこからトロウが王の側近にまで登りつめるのはあっという間だった。
その高い実力はすぐに噂に上り、それが王城に届くのも時間はかからなかった。
ニョルズ王はその魔道士を呼び立てると、その実力を高く評価し、宮廷魔道士の一人として取り立てた。
そこからトロウが王の側近にまで登りつめるのはあっという間だった。
あとからやってきたにも関わらず、異例の速さでの出世に周囲の者たちは誰もが怪しんだが、いつの間にかトロウを悪く言う者たちは姿を消してしまった。
それ以来、自分も消されるのではないかと恐れて、誰もトロウについて口出しをする者はいなくなってしまった。……ただ一人、フレイ王子だけを除いては。
それ以来、自分も消されるのではないかと恐れて、誰もトロウについて口出しをする者はいなくなってしまった。……ただ一人、フレイ王子だけを除いては。
「トロウの目的はわからないが、奴が何か良くないことを企んでいるのは間違いない。父上はもはやあいつの操り人形だ。こうなったら僕がなんとかするしかない。止めてみせる、なんとしても……」
その夜、皆が寝静まった頃、フレイは行動を開始した。
地図よし、食糧よし、当面の資金よし。準備は万端。
どうせ扉の外には見張りを立てられているはずだ。ならば窓から出ればいい。
フレイの私室は城の上階。地面は遠く、飛び降りれば怪我は免れないだろう。
窓から外を見る。風は強くないが、少し雨が降っている。しかし問題はない。
地図よし、食糧よし、当面の資金よし。準備は万端。
どうせ扉の外には見張りを立てられているはずだ。ならば窓から出ればいい。
フレイの私室は城の上階。地面は遠く、飛び降りれば怪我は免れないだろう。
窓から外を見る。風は強くないが、少し雨が降っている。しかし問題はない。
目を閉じ、手を地面にかざし、遙か下方の地面に意識を集中する。
この程度の事なら呪文も魔方陣も必要ない。自分の体内にある魔力を地面と練り合わせ、そのまま静かに持ち上げるだけでいい。
樹の上にあるバルハラの地面は樹の枝だ。真下にあった地面からは太い枝が伸びて、壁に添って上へ上へと昇ってきた。
大樹の枝はそれだけでもまるで木の幹のような太さがある。これならフレイ一人が乗っても大丈夫なほどの強度がある。
荷物を持って隆起した枝に飛び乗り今度は地面に押し戻す。昇ってきた時と同じように、今度は音もなく地面に吸い込まれていく。
この程度の事なら呪文も魔方陣も必要ない。自分の体内にある魔力を地面と練り合わせ、そのまま静かに持ち上げるだけでいい。
樹の上にあるバルハラの地面は樹の枝だ。真下にあった地面からは太い枝が伸びて、壁に添って上へ上へと昇ってきた。
大樹の枝はそれだけでもまるで木の幹のような太さがある。これならフレイ一人が乗っても大丈夫なほどの強度がある。
荷物を持って隆起した枝に飛び乗り今度は地面に押し戻す。昇ってきた時と同じように、今度は音もなく地面に吸い込まれていく。
「えっ!?」
自前のエレベータで降り立った所で、大声を上げそうになった。
なぜなら待ち伏せでもされていたかのように、二人の人影が待っていたからだ。
ローブに身を包むその二人がフードを外していなければ、とっさに攻撃していたかもしれない。が、その二人がよく見知った相手だとすぐにわかると、フレイはほっと胸を撫で下ろした。
なぜなら待ち伏せでもされていたかのように、二人の人影が待っていたからだ。
ローブに身を包むその二人がフードを外していなければ、とっさに攻撃していたかもしれない。が、その二人がよく見知った相手だとすぐにわかると、フレイはほっと胸を撫で下ろした。
一人は王の間にも付いて来た緑の魔道士オットー。そしてもう一人は燃える炎のような色の髪をした赤の魔道士セッテ。二人とも幼い頃からよく知る、フレイにとっては兄弟も同然の存在だ。
「二人とも、どうして?」
セッテは笑顔で答えた。
「フレイ様の考えていることなんてお見通しっすよ。また家出っすか?」
細い目と上がった口角。キツネのような顔立ちをしたセッテは明るい性格で、幼い頃はフレイのいたずら仲間でもあった。
魔法でいたずらをして怒られては、よくこうして窓から抜け出してはセッテとともに、兵士に連れ戻されるまでの小さな冒険を楽しんでいた。
それが裏目に出たのか、こうも簡単に見つかってしまう結果になるとは。
魔法でいたずらをして怒られては、よくこうして窓から抜け出してはセッテとともに、兵士に連れ戻されるまでの小さな冒険を楽しんでいた。
それが裏目に出たのか、こうも簡単に見つかってしまう結果になるとは。
「まったく王子は相変わらずですね。皆が心配します。さあ、戻りましょう」
対してセッテの兄のオットーは、厳しい表情でこちらを見つめている。
オットーはセッテとはまるで正反対の生真面目な性格で、悪ふざけをする幼い日のフレイやセッテをよく叱ったものだった。
王族であることは関係なしに、分け隔てなくセッテと同様に接してくれていたのでフレイにはそれがありがたかった。
大人になって口調こそは王族に対するそれに変わったが、フレイに対する心は変わっていないことをよく知っている。
オットーはセッテとはまるで正反対の生真面目な性格で、悪ふざけをする幼い日のフレイやセッテをよく叱ったものだった。
王族であることは関係なしに、分け隔てなくセッテと同様に接してくれていたのでフレイにはそれがありがたかった。
大人になって口調こそは王族に対するそれに変わったが、フレイに対する心は変わっていないことをよく知っている。
「二人とも。悪いが今回は本気だ。僕はこの国を出ていく」
驚いて二人の兄弟魔道士は顔を見合わせた。
「王子! なりません。あなたは将来この国を継ぐお方だ。そんなあなたがいなくなっては民も悲しみます」
「それは違うぞ、オットー。僕はこの国の将来を思うからこそ出ていくんだ。君も見ただろう、父上のあの様子を! とてもまともな様子じゃない。この様子だと噂はどうも本当らしい。そのことで民たちが不安がっているのは君もよく知っているだろう」
「し、しかし……陛下がそういう状況であるからこそ、王子が国に残って民たちの不安を和らげる役目があるのでは?」
「だめだ。このまま放ってはおけない。もしも本当に戦争なんてことになったら、取り返しのつかないことになる。あのとおり父上には期待できない。だから僕がなんとかするしかない。これはこの国のためなんだ!」
「それは違うぞ、オットー。僕はこの国の将来を思うからこそ出ていくんだ。君も見ただろう、父上のあの様子を! とてもまともな様子じゃない。この様子だと噂はどうも本当らしい。そのことで民たちが不安がっているのは君もよく知っているだろう」
「し、しかし……陛下がそういう状況であるからこそ、王子が国に残って民たちの不安を和らげる役目があるのでは?」
「だめだ。このまま放ってはおけない。もしも本当に戦争なんてことになったら、取り返しのつかないことになる。あのとおり父上には期待できない。だから僕がなんとかするしかない。これはこの国のためなんだ!」
熱く語る王子に、二人は何も反論することができなかった。
「僕を止めるつもりか? だったら仕方ない。不本意ではあるが、君たちを倒してでも……」
構えるフレイの前に、セッテは両手を広げて飛び出した。
「まさか! そんなつもりは微塵もないっすよ。どうか収めてください」
「セッテ…」
「おれは馬鹿なんで難しい話はわかんないっすよ。けどフレイ様がこの国のことを大事に思ってるってことはよくわかりました。そのために何かしようっていうんなら、おれも手伝いますよ。どうか協力させてください」
「セッテ…」
「おれは馬鹿なんで難しい話はわかんないっすよ。けどフレイ様がこの国のことを大事に思ってるってことはよくわかりました。そのために何かしようっていうんなら、おれも手伝いますよ。どうか協力させてください」
そう言って、さっと片手を差し出した。
「わかった。ありがとう、セッテ」
フレイは差し出された手をしっかりと握る。
「オットーはどうする。君は賢い男だ。それに君にも立場ってものがある。だからもし君がこのことを父上に報告したとしても、僕は君を恨まない。だけどわかってくれ。僕にも立場がある。なんと言われようと僕は行くからな」
緑の魔道士はやれやれといった様子で首を振ると、こちらも片手を差し出した。
「やはり王子は変わらないな。こうと言い出したら聞かない。まったく誰に似たんだか……。そこまで言うのなら、わかりました。王子をお守りすることが我々の努め。私もお供させていただきましょう」
「いいのか? 父上の命令に背くことになる。国を裏切ることになるんだ。国に仕える魔道士にとって、この上なく不名誉なことだぞ」
「たしかに私は宮廷魔道士です。しかし、私が忠誠を誓ったのは国ではなく王子。主君と共に歩むのは従者として当然のことです。喜んで共に参りましょう」
「オットー……! ありがとう。正直言うと、君がいてくれれば心強い」
「いいのか? 父上の命令に背くことになる。国を裏切ることになるんだ。国に仕える魔道士にとって、この上なく不名誉なことだぞ」
「たしかに私は宮廷魔道士です。しかし、私が忠誠を誓ったのは国ではなく王子。主君と共に歩むのは従者として当然のことです。喜んで共に参りましょう」
「オットー……! ありがとう。正直言うと、君がいてくれれば心強い」
そして差し出された手をしっかりと掴む。
「では改めて言わせてほしい。僕のほうからお願いする。この国の未来のため、そして父上を救うために、僕に力を貸してくれ。……今度の家出はずいぶん長くなりそうだ」
「「王子のお望みのままに」」
「「王子のお望みのままに」」
二人の魔道士は膝をつき、頭を垂れてその心を示す。
徐々に強くなる雨も、今は三人を鼓舞しているように感じる。
降りしきる雨の中、三人はその決意を固めた。彼らの波乱に満ちた旅路は今ここから始まる。
徐々に強くなる雨も、今は三人を鼓舞しているように感じる。
降りしきる雨の中、三人はその決意を固めた。彼らの波乱に満ちた旅路は今ここから始まる。