Chapter22「フリード遠征1:天馬に乗ってるお姉さんはだいたい美人さん」
アルヴでフレイが竜人たちに稽古をつけている間に、旅を共にしてきた仲間たちは、さらなる味方を求めてそれぞれ各地へと分かれることになった。
そこで蒼き勇者こと俺フリードは、クルスと共にニヴルヘイムからさらに北東へ行った先にあるグニタヘイズという浮島に向かったというわけだ。
ここは大樹を中心とした地図でいうと右上の端っこも端っこで、ほとんど世界の果てのような辺境の地だ。
じゃあこんなところに何の用があるかっていうと、なんでもクルスが言うには、こんな僻地に彼女の知り合いが暮らしているんだとか。
じゃあこんなところに何の用があるかっていうと、なんでもクルスが言うには、こんな僻地に彼女の知り合いが暮らしているんだとか。
この島までは竜の姿に戻ったクルスの背中に乗ってやってきた。
さすがにここは遠すぎて神竜様の転移魔法じゃ届かなかったからだ。その代わりに神竜様は、翼を怪我して飛べなかったクルスを治療してくれたというわけだ。
さすがにここは遠すぎて神竜様の転移魔法じゃ届かなかったからだ。その代わりに神竜様は、翼を怪我して飛べなかったクルスを治療してくれたというわけだ。
ようやく飛べるようになってクルスは嬉しそうにしていた。
竜というのは、やはり空を飛ぶのが好きなんだろうか。まあ、たしかに翼があったのなら、俺も空は飛んでみたいと思う。空ってのはロマンだからな。
竜というのは、やはり空を飛ぶのが好きなんだろうか。まあ、たしかに翼があったのなら、俺も空は飛んでみたいと思う。空ってのはロマンだからな。
「それでここがおまえの言う、知り合いの住む場所か。なんか思ったより殺風景なところじゃないか」
見渡す周囲の景色は岩ばかりの荒地だ。グニタヘイズという立派な名前こそついているが、ここはどうみても無人島そのものだ。
まず浮島自体が小さくて、ちょっと歩けば簡単に島を一周できてしまえる程度。建物と呼べそうなものはひとつもないし、池や湖のような水場もないから飲み水も手に入らない。ごつごつとした岩ばかり転がっていて、あとは木がまばらに生えている程度だから、ここじゃ食料の確保もあまり期待できないだろう。
「さすがの俺でも、ここに放置されたら三日以内に死にそうだ。本当にこんなところにその知り合いってやつが住んでるのか?」
「うむ。まあ、住んでおるというか、あやつの家がここにあってのう」
「うむ。まあ、住んでおるというか、あやつの家がここにあってのう」
その知り合いは普段はたいてい出かけていて、必要なときだけ自分の翼でここまで飛んで帰ってくるそうだ。
ああ、そうか。そりゃ竜の知り合いはやっぱ竜だよな。
まあある意味「無人」島という意味では間違いではないんだが。
ああ、そうか。そりゃ竜の知り合いはやっぱ竜だよな。
まあある意味「無人」島という意味では間違いではないんだが。
「あれか。普段は仕事で外にいて、寝るためだけに帰ってくる家っていう……」
「そんなところかの。だから会えるとは限らんがな。さあ、ここからは歩きじゃ」
「飛んでいかないのか?」
「島の上空は、あやつが侵入者除けの罠を魔法で張っておるからな。面倒かもしれんが、痛い思いをしたくなければ私のあとについてこい」
「そんなところかの。だから会えるとは限らんがな。さあ、ここからは歩きじゃ」
「飛んでいかないのか?」
「島の上空は、あやつが侵入者除けの罠を魔法で張っておるからな。面倒かもしれんが、痛い思いをしたくなければ私のあとについてこい」
クルスは迷うことなく慣れた足取りで岩だらけの道を進んでいく。さすがに知り合いの住処だけあって、もう何度も来たことがあるといった感じだ。
俺たちは島の中央にある岩だらけの山道を登っていった。
俺たちは島の中央にある岩だらけの山道を登っていった。
ところでクルスと俺の距離は、歩くごとにどんどん離れていく。それは俺がこういった岩だらけの山道を歩き慣れていないせいもある。まあ、空の世界じゃ岩そのものがけっこう貴重だからな。だけど原因はそれだけじゃない。歩幅だ。
俺は人の中ではわりと大柄なほうだと自覚しているが、それでも歩幅と言ったらせいぜい1メートル弱ぐらいだろう。一方で竜は人に比べたら身体が大きいわけだから、歩幅もそれに比例して大きくなるのは当然だ。
それに身体が大きいぶん、俺だといちいちよじ登らなければならないような岩でも、簡単にひと足でまたいでしまえるアドバンテージもある。
それに身体が大きいぶん、俺だといちいちよじ登らなければならないような岩でも、簡単にひと足でまたいでしまえるアドバンテージもある。
つまり俺が何を言いたいかというと、だ。
「お、おいクルス。ちょっと待ってくれ。俺を置いていくんじゃないぜ。こんなところではぐれたら俺は確実に三日以内に死ぬ自信がある。竜と人じゃ歩く速さが違うんだから、せめてお譲ちゃんの姿になってくれよ」
この島に降り立ってからクルスはそのまま歩き出した。つまり今のクルスはいつものお譲ちゃんではなく地竜の姿をしている。
「情けないやつじゃのう。男なんじゃろ、気合いでなんとかせい。それに人間の姿になったら私のほうが足が遅くなる。小さな身体ではここは歩きづらいからの」
「気合いとか根性とか、いつの時代の人間だよ。……いや、人間じゃないか」
「冗談を言える余裕があるならまだ平気じゃな。ほれ、しゃきっとせんか」
「ふぇ~い……」
「気合いとか根性とか、いつの時代の人間だよ。……いや、人間じゃないか」
「冗談を言える余裕があるならまだ平気じゃな。ほれ、しゃきっとせんか」
「ふぇ~い……」
ああ、鎧が重い。剣が重い。どう考えてもこれ、山を登るような格好じゃないからな。かといってこれは俺の大事な商売道具だから捨てていくわけにもいかない。
暑くないのだけがまだ救いか。これで暑かったら間違いなく死んでいた。一番の敵っていうのは武器を持った人間でも、強大な魔力を持つ竜でも、ましてやどっかでよく聞くような自分自身とかでもない。過酷な環境だ。ああしんどい。
暑くないのだけがまだ救いか。これで暑かったら間違いなく死んでいた。一番の敵っていうのは武器を持った人間でも、強大な魔力を持つ竜でも、ましてやどっかでよく聞くような自分自身とかでもない。過酷な環境だ。ああしんどい。
そのまま心の中で愚痴を垂れ流しながらもなんとか岩の山道を登りきると、山の頂上付近にたどり着いた。
下のほうはまばらだった木も、ここには林と呼べる程度には生えている。近くに水源でもあるのだろうか。もし泉があるならとりあえず水を飲んで一息つきたい。
下のほうはまばらだった木も、ここには林と呼べる程度には生えている。近くに水源でもあるのだろうか。もし泉があるならとりあえず水を飲んで一息つきたい。
「ほれ、着いたぞ。ここがあやつの家じゃ」
そう言ってクルスが指すのは、苔むした洞窟の入口だ。
洞窟が家? 俺はこんな家はごめんだね。じめじめしてそうだし、こんなところに女性を呼んでもムードもへったくれもないからな。こんなところに住んでいるやつなんて、きっと根暗で陰気なやつに違いない。
洞窟が家? 俺はこんな家はごめんだね。じめじめしてそうだし、こんなところに女性を呼んでもムードもへったくれもないからな。こんなところに住んでいるやつなんて、きっと根暗で陰気なやつに違いない。
「それじゃあご対面と行きますかね。ごめんくださ~い。水くださーい」
どんなやつが住んでいるのかと中を覗き込んだが返事はなかった。
「ふむ。留守のようじゃな」
「おいおいおいおい。そりゃないだろ、せっかく苦労して山を登ってきたんだぜ。そもそも来る前に一声かけとくとか、居るのを確認するとかできなかったのか」
「あいにくあやつは念波(テレパシー)の魔法が使えなくてのう。私ができても、受け手がそれを受信できないのでは意味がない」
「ああそうですか。やれやれだ。で、どうすんだい、お譲ちゃん?」
「まあ、待つしかないじゃろうな」
「おいおいおいおい。そりゃないだろ、せっかく苦労して山を登ってきたんだぜ。そもそも来る前に一声かけとくとか、居るのを確認するとかできなかったのか」
「あいにくあやつは念波(テレパシー)の魔法が使えなくてのう。私ができても、受け手がそれを受信できないのでは意味がない」
「ああそうですか。やれやれだ。で、どうすんだい、お譲ちゃん?」
「まあ、待つしかないじゃろうな」
そう言ってクルスはずかずかと洞窟の中に入っていく。え? いいのか、勝手に入っちゃって。もしかしてその「あやつ」とクルスってそこまで深い仲なのか。あるいは竜は、そういうあたりのことはあまり気にしないのか。
「そういや、ここの家主はなんて名前なんだ?」
「うむ。私と同じ地竜で名はファフニールという」
「うむ。私と同じ地竜で名はファフニールという」
クルスは早くも洞窟の中でくつろいでいたが、俺はそのファフニールとは親しいわけでもないので、中に入るのは遠慮して外で帰りを待つことにした。まあ、洞窟じゃあまり居心地もよさそうじゃないし。
それにファフニールが帰ってくるなら、竜だから空から戻るはず。わざわざ自分の張った罠にかかるはずもないだろう。
そう思って俺は、洞窟の手前にあった手ごろな大きさの岩に腰かけると、空を見上げながら洞窟の主の帰りを待った。
それにファフニールが帰ってくるなら、竜だから空から戻るはず。わざわざ自分の張った罠にかかるはずもないだろう。
そう思って俺は、洞窟の手前にあった手ごろな大きさの岩に腰かけると、空を見上げながら洞窟の主の帰りを待った。
半ばうとうとしながら待っていると、浮かぶ雲の狭間にひとつの影が見えた。
おっと、ようやくお帰りか。と思っていると、影は何かの爆発に巻き込まれて落下し始めた。そのまま続けてボンボンと二度目、三度目の爆発。
もしかしてあれがクルスの言ってた侵入者除けの罠? おいおい、自分でひっかかってんじゃねーか。もしかして頭が残念なやつなのか。
おっと、ようやくお帰りか。と思っていると、影は何かの爆発に巻き込まれて落下し始めた。そのまま続けてボンボンと二度目、三度目の爆発。
もしかしてあれがクルスの言ってた侵入者除けの罠? おいおい、自分でひっかかってんじゃねーか。もしかして頭が残念なやつなのか。
そう思っていると、影は洞窟の正面に墜落した。
予想していたよりも身体は小さく、全身が白い体毛で覆われている。四肢は竜というにはやけに細く、しかしすらっと伸びていて意外と美脚だ。後脚のうしろには金色の美しい毛並みの尾が伸びて、同様の金色のたてがみが頭から首筋にかけて整って生えている。背中には立派で大きな鳥のような翼があって――
予想していたよりも身体は小さく、全身が白い体毛で覆われている。四肢は竜というにはやけに細く、しかしすらっと伸びていて意外と美脚だ。後脚のうしろには金色の美しい毛並みの尾が伸びて、同様の金色のたてがみが頭から首筋にかけて整って生えている。背中には立派で大きな鳥のような翼があって――
「って待て。これは地竜の特徴じゃないだろ。これファフニールじゃないぜ」
「気付くのが遅いぞ。あやつの知り合いじゃなければ、侵入者じゃろうな」
「気付くのが遅いぞ。あやつの知り合いじゃなければ、侵入者じゃろうな」
落ちてきたのは天馬(ペガサス)だった。そういえば見覚えがある。フレイたちに初めて会ったあの島でも天馬を見た。たしかヴァルキュリアというユミル国の女兵士が乗っていたんだったか。ということはこいつも?
近づいてみると、天馬の横には鎧を身に着けた女性が倒れている。あのとき会った雷槍のブリュンヒルデとは別人のようだ。しかし、こっちはこっちでなかなかの美人さんだな。まだ息はある。
少し身体をゆさぶると、美人さんはゆっくりと目を開けた。
少し身体をゆさぶると、美人さんはゆっくりと目を開けた。
「う、ううん。な、何が起こった……?」
頭を押さえながら上体を起こす美人さんの手を取って、俺はその無事を喜んだ。
「大事ないようで幸いです。お姉さん、お怪我はありませんか」
「な、なんだ貴様は。あいたたた……」
「空から落ちてきたんですよ。まだ無理に動かないほうがいい」
「もしかして貴様……いや、あなたはわたしを助けてくれたのか?」
「大したことはしてないさ。俺は傭兵のフリード。お姉さんは?」
「わたしはレギンレイヴ。ユミル国で兵士を……くっ」
「な、なんだ貴様は。あいたたた……」
「空から落ちてきたんですよ。まだ無理に動かないほうがいい」
「もしかして貴様……いや、あなたはわたしを助けてくれたのか?」
「大したことはしてないさ。俺は傭兵のフリード。お姉さんは?」
「わたしはレギンレイヴ。ユミル国で兵士を……くっ」
お姉さんは立ち上がろうとしたが、足を押さえてうずくまってしまった。骨は折れていないようだが、どうやら落ちたときに足をくじいたらしい。
「ほら、俺の肩を貸してやるよ」
「かたじけない。それよりグリームニルは……わたしの馬は無事か」
「こっちはひどい怪我だが、なんとか命拾いはしたみたいだな」
「そうか、それはよかった。わたしたちにはやらねばならない任務があるんだ」
「かたじけない。それよりグリームニルは……わたしの馬は無事か」
「こっちはひどい怪我だが、なんとか命拾いはしたみたいだな」
「そうか、それはよかった。わたしたちにはやらねばならない任務があるんだ」
そう言って天馬(グリームニル)を起き上がらせると、早くもその背に乗ってどこかへと飛び立とうとしている。天馬は立っているのがやっとで、明らかにふらふらしていたが、自分の主人に応えてみせようと強がっている。
だがこのまま行かせれば、どこかへたどり着く前に空の底にまっさかさまなのは想像に難くない。お姉さん、そりゃ無茶ってもんだぜ。
だがこのまま行かせれば、どこかへたどり着く前に空の底にまっさかさまなのは想像に難くない。お姉さん、そりゃ無茶ってもんだぜ。
「ちょっと待てって。そんなに急いでどこへ行くんだ」
「無論、任務に決まっている。フレイヤ様を失望させるわけには……」
「無論、任務に決まっている。フレイヤ様を失望させるわけには……」
どうやら頭が固いタイプのお姉さんらしい。仕事第一で、そのためには自分がどうなっても構わないというやつか。そりゃ上司からしたら頼もしい存在だろうが、そんなんじゃ身体がもたないぜ。そんな彼女には癒しが必要だ。ここは俺が優しくエスコートしてやるべきだろう。そう確信した。
「まあ落ち着きなって。そんな状態じゃ任務どころじゃないだろ。無理して任務を失敗したらかえって上官殿を失望させちまうぜ。まずは傷の治療が先だ。しっかり休んで次の任務に備えるのも仕事のうちってやつさ」
「た、たしかにあなたの言うとおりだ。あなたは一体?」
「言っただろ。俺はフリード、ただの傭兵さ」
「た、たしかにあなたの言うとおりだ。あなたは一体?」
「言っただろ。俺はフリード、ただの傭兵さ」
レギンレイヴは、なんて頼りになる男なんだという眼差しで俺を見つめた(に違いない)。よし、これでフラグは立った。あとはお持ち帰りするだけだ。
「そこでだ、お姉さん。もしよかったら俺たちの拠点へ来ないか? そこでなら俺の仲間が回復魔法を使えるから、お姉さんも馬もすぐに元気になるはずだぜ」
移動はクルスの背中に乗せてもらえばいい。馬は乗せるには少し大きいから、クルスに直接持ってもらおう。
そしてアルヴに到着した俺たちは、なんやかんやあって結ばれることになり、末永く幸せに暮らすことになるのでした。めでたしめでたしっと。
そしてアルヴに到着した俺たちは、なんやかんやあって結ばれることになり、末永く幸せに暮らすことになるのでした。めでたしめでたしっと。
「待て。お主、こやつらをアルヴに連れて行くつもりなのか?」
しかし水を差すのは空気の読めない竜のお譲ちゃんだ。
きっと恋愛経験が少ないんだな。やれやれ、困ったお譲ちゃんだぜ。
きっと恋愛経験が少ないんだな。やれやれ、困ったお譲ちゃんだぜ。
「女性が怪我して困ってるんだ。あとついでに馬もな。それを見捨てては男が廃るってもんだろ。お譲ちゃんにはまだわからなかったかね」
「私をお譲ちゃんと呼ぶな。それにヴァルキュリアといえばユミルの兵士だ。わからんのか? ユミルに所属しているということは、トロウと繋がっている可能性が高いんじゃぞ。敵にみすみす己の拠点を教えるつもりか」
「あ、そうか。そうなるとフレイに迷惑がかかっちまうな」
「私をお譲ちゃんと呼ぶな。それにヴァルキュリアといえばユミルの兵士だ。わからんのか? ユミルに所属しているということは、トロウと繋がっている可能性が高いんじゃぞ。敵にみすみす己の拠点を教えるつもりか」
「あ、そうか。そうなるとフレイに迷惑がかかっちまうな」
けっこうクルスは頭がいいようだ。水竜のほうのお譲ちゃんとは一味違うのか。
少し関心しながら、でもちょっと抜けてるほうが、からかいがいがあって可愛いんだけどな。などと考えながら話し込んでいると、レギンレイヴは槍を杖代わりにして一人で立ち、よろつきながらも槍の穂先をこちらへと向けて言った。
少し関心しながら、でもちょっと抜けてるほうが、からかいがいがあって可愛いんだけどな。などと考えながら話し込んでいると、レギンレイヴは槍を杖代わりにして一人で立ち、よろつきながらも槍の穂先をこちらへと向けて言った。
「フレイ? 今フレイと言ったのか。まさか貴様ら、フレイ王子の仲間か? もしそうなら恩人に対して申し訳ないが、わたしは貴様らに武器を向けねばならない」
アルヴに入ったことで、今フレイの行方は俺たち以外の誰にもわからなくなっている。そのフレイの行方を突き止めるのが自分の任務だとレギンレイヴは言う。
「素直に話すか、さもなくば力ずくで口を割らせるかだ」
ほれみたことか、と言わんばかりの表情でクルスがこちらをにらむ。
ま、まあまあ落ち着けって。まだフレイの居場所がばれたわけじゃないし。
ま、まあまあ落ち着けって。まだフレイの居場所がばれたわけじゃないし。
「お姉さんも落ち着けって。そんなふらふらの状態で俺たちに勝つのは難しいし、俺も手荒なことはしたくないからさ。武器を下ろしてくれよ、な?」
「そうはいかない。わたしはフレイヤ様の従者だ。主の命令に背くようなことはできない! たとえフレイヤ様の様子がおかしくても、命令は命令だ」
「フレイヤ様の様子が? なあその話、ちょっと詳しく……」
「問答無用!」
「そうはいかない。わたしはフレイヤ様の従者だ。主の命令に背くようなことはできない! たとえフレイヤ様の様子がおかしくても、命令は命令だ」
「フレイヤ様の様子が? なあその話、ちょっと詳しく……」
「問答無用!」
レギンレイヴは敵意をあらわにすると、持っていた槍を投げつけてきた。
槍は正確に俺の胴体のど真ん中を狙って飛んでくる。さすがは訓練を受けた兵士だけあって、やるからには倒す満々でくるというわけか。だが問題ない。
槍は正確に俺の胴体のど真ん中を狙って飛んでくる。さすがは訓練を受けた兵士だけあって、やるからには倒す満々でくるというわけか。だが問題ない。
俺は剣を抜くと横一閃になぎ払って、飛んでくる槍を弾いた。
見てからの回避、余裕でした。それに武器を投げちまったら次はもうないぜ。
そのまま剣先をお姉さんの首につきつけてチェックメイトだ。
見てからの回避、余裕でした。それに武器を投げちまったら次はもうないぜ。
そのまま剣先をお姉さんの首につきつけてチェックメイトだ。
「だから言ったろ、無理すんなって。せっかくだから逆に聞かせてもらうぜ。フレイヤ様がどうしたって? 何かおかしなことが起こってるのか」
フレイヤはフレイの実のお姉さんだ。まだユミルのバルハラ城に残されているらしいが、トロウに何かされたんじゃないかとオットーが心配していた。だから情報を持ち帰れば、フレイやオットーの役に立つはずだ。
しかしそのときクルスが叫んだ。
「危ない、フリード! 後ろから戻ってくるぞ」
「おう! って何が?」
「おう! って何が?」
振り返ると、弾かれて明後日の方向へ飛んでいったはずの槍がまっすぐ飛んできているじゃないか。まさか槍じゃなくてブーメランだったのか。
とっさの判断でしっかりと対応。頼れるあなたの傭兵。そんな俺は蒼き勇者。不意打ちだって問題なく受け止めてみせるぜ。
さっきと同じように槍を弾き飛ばすと、槍は回転しながら宙を舞い、そのまま導かれるようにレギンレイヴの手に収まった。
さっきと同じように槍を弾き飛ばすと、槍は回転しながら宙を舞い、そのまま導かれるようにレギンレイヴの手に収まった。
「わたしの槍はただの槍ではない。魔力の込められたユミル王家代々伝わる由緒正しき槍、その名をグングニル! 実力を認められてフレイヤ様から頂いたものだ」
「まじかよ。いかにも最強クラスみたいな名前がついてるぜ、おい」
「この槍は投げても必ず所有者の意図した場所に戻ってくる。それを応用してこんなこともできるぞ!」
「まじかよ。いかにも最強クラスみたいな名前がついてるぜ、おい」
「この槍は投げても必ず所有者の意図した場所に戻ってくる。それを応用してこんなこともできるぞ!」
レギンレイヴは再び槍を投げた。
それを弾き返すと回転しながら飛んだ槍は空中に留まり、そしてぴたりと狙いを定めるかのように一瞬止まると、勢いよく俺に向かって飛んできた。
再び弾き返すとまたしても空中で留まり、同じように俺を狙って飛来する。
それを弾き返すと回転しながら飛んだ槍は空中に留まり、そしてぴたりと狙いを定めるかのように一瞬止まると、勢いよく俺に向かって飛んできた。
再び弾き返すとまたしても空中で留まり、同じように俺を狙って飛来する。
「何度やっても無駄だ。その槍はわたしの手に戻るか、その腹を貫くまで永遠に貴様を狙い続けるぞ。足を怪我していようが、貴様を倒すことに問題はない」
「くそっ! 槍のくせにしつこいやつだ。まして人間以外に掘られるなんて屈辱の極みだぜ。おい、狙う穴の場所を間違えてるんじゃないか?」
「何のことを言っているのかいまいちわからないが……。とにかく降参するなら今のうちだ。そして素直にフレイ王子の居場所を話せば許してやる」
「くそっ! 槍のくせにしつこいやつだ。まして人間以外に掘られるなんて屈辱の極みだぜ。おい、狙う穴の場所を間違えてるんじゃないか?」
「何のことを言っているのかいまいちわからないが……。とにかく降参するなら今のうちだ。そして素直にフレイ王子の居場所を話せば許してやる」
あいにく俺の辞書に降参の文字はない。戦いとは掘るか掘られるかだ。
どっちかというと俺は掘るほうが好きなんだが、残念ながら人外に手を出すほど飢えちゃいない。というかそもそもこの相手は生き物ですらないからな。
どっちかというと俺は掘るほうが好きなんだが、残念ながら人外に手を出すほど飢えちゃいない。というかそもそもこの相手は生き物ですらないからな。
槍なんかを受けるのはごめんだね。俺は攻めるぜ。
と言いたいところだが、あの槍はどれだけ打ち払っても何度でも向かってくる。
と言いたいところだが、あの槍はどれだけ打ち払っても何度でも向かってくる。
「だったら仕方ない。不本意だが、今回ばかりは受けるしかないようだ。頼むぜ、愛剣グラム! 剣相手じゃないが、機嫌を損ねないでくれよ」
打ち払う姿勢をやめて剣を真横に構えると、刃先にもう一方の手をそえる。
わかりやすく例えるなら、アルヴで竜人の誰かが教えてくれたベースボールというスポーツがあるんだが、あれのバントのような構えだと思ってくれたらいい。
飛んでくる槍のその一点を、この剣の刀身で受け止めてやるぜ。
わかりやすく例えるなら、アルヴで竜人の誰かが教えてくれたベースボールというスポーツがあるんだが、あれのバントのような構えだと思ってくれたらいい。
飛んでくる槍のその一点を、この剣の刀身で受け止めてやるぜ。
グングニルは一度そこだと決めたら曲げない頑固な性格らしい。変化球などに走ることなく、真一文字を描いて俺の胴体めがけて飛んでくる。
ストレートなら間違いない。抜群のストライクゾーンだ。
俺は確実に槍を剣の刀身で受け止めた。
ストレートなら間違いない。抜群のストライクゾーンだ。
俺は確実に槍を剣の刀身で受け止めた。
それでもなお槍は、そのまま突き抜けようと火花を散らしている。
なんて重い一撃だろうか。たかが槍一本なのに、押されて足が地面を徐々に滑って後退していく。背後にはファフニールの洞窟の外壁。このまま下がって壁を背にすれば、多少はふんばりがきくだろうか。
なんて重い一撃だろうか。たかが槍一本なのに、押されて足が地面を徐々に滑って後退していく。背後にはファフニールの洞窟の外壁。このまま下がって壁を背にすれば、多少はふんばりがきくだろうか。
そのとき、ピキッと不吉な音が。
剣を見ると刀身にヒビが入っている。
剣を見ると刀身にヒビが入っている。
「げげっ! 俺の剣がいきかけてる!」
ここの「いく」には「逝く」なり「イく」なり好きなほうをあててくれ。
それはともかく、これはヒジョーにやばい。まじで掘られかねんぞ。
なんてこった。手を伸ばせばすぐ届くところにありながら、その槍を止めることさえできないなんて…………ん? 手を伸ばせばすぐ届く?
それはともかく、これはヒジョーにやばい。まじで掘られかねんぞ。
なんてこった。手を伸ばせばすぐ届くところにありながら、その槍を止めることさえできないなんて…………ん? 手を伸ばせばすぐ届く?
結論から言おう。
俺は槍の柄をつかんでグングニルを止めた。
俺は槍の柄をつかんでグングニルを止めた。
「…………最強の槍ゲットだぜ」
愛剣グラムはとうとう折れてしまったが、取り返しのつかないことになる前に槍を止めることができた。その穂先は胴の鎧の表面に傷をつけていたので、もう少し気付くのが遅ければ危ないところだった。
「しまった、槍を奪われたことで所有権が貴様に移ったのか! だからグングニルの自動追尾も効果が失われてしまった。まさかそんな弱点があったとは……」
レギンレイヴは両手を挙げると、降参することを誓った。
「わたしの負けだ。戦場に立つ者としてわたしも覚悟はできている。煮るなり焼くなり好きなようにするがいい」
「へええ、本当になんでも好きなようにしていいのかい?」
「待て。その気色悪い顔をやめろ。あくまで降参すると言っているだけだ」
「へええ、本当になんでも好きなようにしていいのかい?」
「待て。その気色悪い顔をやめろ。あくまで降参すると言っているだけだ」
ともあれ、偶然とはいえ戦うことになったヴァルキュリアの一人をこうして無力化することに成功した。これで敵の戦力を少しでも削ったことになる。
こうして勇者フリードはまたひとつ伝説を残してしまったのである。いやいや、そんなに褒めるなって。照れるじゃねえか。
こうして勇者フリードはまたひとつ伝説を残してしまったのである。いやいや、そんなに褒めるなって。照れるじゃねえか。
「そんなことはどうでもよい。さて、この小娘をどうしてやろうか」
観戦を決め込んでいたクルスが洞窟から出てくると、天馬の横に座り込んでしまったレギンレイヴを見下ろした。
どうしてやろうかって、竜と人間とはいえ同姓なんだぜ? まさかクルス、おまえはそういうのに興味があったのか。それはなんというか、ちょっと見てみたい気もするが、やっぱりやめておけ。これ以上はR18指定になっちまう。
そんな心配をよそに、クルスは言い放った。
「決めた。こいつは捕虜にする」
「アッー! いや、さすがにそれはまずいぜ、お譲ちゃん!」
「アッー! いや、さすがにそれはまずいぜ、お譲ちゃん!」
お姉さんと竜、あるいはお姉さんと少女。どっちにしてもなかなか絵になる……じゃなくて色々とアレだろ! ええと、俺は後者のほうでお願いします。
「心配はいらん。戦いが終わるまでアルヴにいてもらうだけだ。人質にして交渉に使えるかもしれんし、あとで私が魔法でアルヴに関する記憶を消せば、隠れ里のことが周囲に漏れるようなこともあるまい」
「そういうことじゃなかったんだが、そういうことならまあいいぜ」
「そういうことじゃなかったんだが、そういうことならまあいいぜ」
あとはクルスが触手もとい大地の魔法で生やしたツタでお姉さんを拘束してお持ち帰りの準備は完了だ。過程はともあれ、俺の望んだ結果だ。やったぜ。
馬のほうはレギンレイヴが捕まると、暴れることなく大人しくしていた。よく調教されているようで何よりだ。いや、まあ調教って言いたかっただけなんだがな。
馬のほうはレギンレイヴが捕まると、暴れることなく大人しくしていた。よく調教されているようで何よりだ。いや、まあ調教って言いたかっただけなんだがな。
そのまま俺たちはレギンレイヴと天馬のグリームニルを連れて一度アルヴに戻ることにした。予定とは違ったが、ひとまずの収穫はあった。
それにしてもファフニールのやつは、一体どこへ行ったんだか。
それにしてもファフニールのやつは、一体どこへ行ったんだか。