Chapter37「風竜は舞戻る1:ここで会ったが百年目」
翌朝、わたしたちはグリンブルスティで三度目の目覚めを迎えた。
サーモスとかいう蛇っぽい種族の女は自分の家に帰っていったので、今朝もまだ起きてこないフレイの寝顔を独り占めすることができる。
サーモスとかいう蛇っぽい種族の女は自分の家に帰っていったので、今朝もまだ起きてこないフレイの寝顔を独り占めすることができる。
最初はただ外から来たフレイのことが珍しくて、その後をつきまとっているだけだった。火事でコゲちゃってボロボロにはなっちゃったけど、ローブをプレゼントしてくれたし、その火事でなくなっちゃったけど、わたしの家にも遊びに来てくれたし、それにわたしの夢にも賛同してくれたので、フレイのことはちょっと気に入っていた。本当はただそれだけだった。
でも昨日の出来事が、わたしのフレイに対する気持ちを変えてしまった。
一度はフレイのことが嫌いになった。外の世界の本当の姿を教えてくれなかったから。そのせいでわたしはフレイに冷たい態度をとってしまった。
それなのに、フレイはわたしのことを嫌わずにいてくれた。それどころか、自分が外の世界をわたしの夢見る理想の世界に変えてみせるから、いっしょにその世界を旅して回ろうとさそってくれた。
そのせいで、わたしは前よりもフレイのことが好きになった。
一度はフレイのことが嫌いになった。外の世界の本当の姿を教えてくれなかったから。そのせいでわたしはフレイに冷たい態度をとってしまった。
それなのに、フレイはわたしのことを嫌わずにいてくれた。それどころか、自分が外の世界をわたしの夢見る理想の世界に変えてみせるから、いっしょにその世界を旅して回ろうとさそってくれた。
そのせいで、わたしは前よりもフレイのことが好きになった。
人と竜が手を取り合い、竜人の存在が認められた世界。あらゆる種族が共存し、平和に暮らせる世界。いつかそんな世界を見て回れたら。
わたしの夢はもう、わたしだけの夢ではなくなってしまった。
それはわたしとフレイの夢。二人で叶える、わたしたちの夢。
それはわたしとフレイの夢。二人で叶える、わたしたちの夢。
フレイの故郷はトロウとかいう悪いやつに荒らされているらしい。そいつから故郷を取り戻すためにフレイは旅を続けていると話していた。わたしもその旅の仲間に入れてもらったからには、わたしなりにできることをやりたいと思う。
といっても、わたしには戦いなんてできないし、不器用だから魔法とかもあまりうまく使えるわけじゃない。わたしはどうしたらいいんだろう。
といっても、わたしには戦いなんてできないし、不器用だから魔法とかもあまりうまく使えるわけじゃない。わたしはどうしたらいいんだろう。
そんなことを考えながら数日が過ぎた。
この数日は相変わらず、フレイはアルヴの竜人たちとの交流を進めていた。
こんどはウェイヴと喧嘩したりするような邪魔も入らなかったので、ちゃんとフレイは竜人たちと親交を深めることができた。
せめてわたしにも協力できることをと思って、わたしも自分なりにフレイの良さを知り合いにできる限り広めたつもりだった。これがフレイの助けになってるといいんだけど。
この数日は相変わらず、フレイはアルヴの竜人たちとの交流を進めていた。
こんどはウェイヴと喧嘩したりするような邪魔も入らなかったので、ちゃんとフレイは竜人たちと親交を深めることができた。
せめてわたしにも協力できることをと思って、わたしも自分なりにフレイの良さを知り合いにできる限り広めたつもりだった。これがフレイの助けになってるといいんだけど。
「ねぇ、ゲルダ」
考え事をしていると、ふいにフレイが声をかけてきた。
「あ、うん。何?」
「なんか最近、竜人のみんなが僕のこと見て噂してるみたいなんだけど」
「なんか最近、竜人のみんなが僕のこと見て噂してるみたいなんだけど」
フレイがみんなの噂の的になってる! きっとこれは、わたしが頑張ってフレイの良さを広めた結果が出てきたに違いない。努力は報われるものなんだ。
「それによると、僕はゲルダのフィアンセになったみたいなんだけど……。そ、そうだったの?」
あれ。たしかにわたしはフレイの良さをみんなに話して回ったけど、どうしてそういうことになってるんだろう。まあ、この数日間ずっとフレイといっしょにいたことは否定しないけど。
「うーん。最近いつも二人で行動してたから、誰かがそうだと勘違いしたのかも」
「そ、そういうことなのかな。さすがにちょっとびっくりしたよ」
「なになに? もしかしてわたしじゃ不満~?」
「い、いやその。全然不満とかそんなんじゃないけど。心の……準備とか……」
「そ、そういうことなのかな。さすがにちょっとびっくりしたよ」
「なになに? もしかしてわたしじゃ不満~?」
「い、いやその。全然不満とかそんなんじゃないけど。心の……準備とか……」
小さな声で何かつぶやきながら、フレイは赤くなっている。
フレイ本人は自分は限りなく人間に近い竜人らしいと言っていたけど、どうやら人間という種族はときどき身体の色が変わるみたいだ。ちょっと面白い。
フレイ本人は自分は限りなく人間に近い竜人らしいと言っていたけど、どうやら人間という種族はときどき身体の色が変わるみたいだ。ちょっと面白い。
『――――――――――』
すると突然フレイがいつもの色に戻って、わたしのほうを見た。
「えっ。今、ゲルダ何か言った?」
「うん? 何も言ってないけど」
「うん? 何も言ってないけど」
『―――――――かい?』
「まただ。何か声のような……。なんか気味が悪いな」
こんどはフレイが蒼くなっている。
身体の色を変えられるなんて、ちょっとうらやましい。できることなら、わたしだってオレンジとかピンクになってみたい。
身体の色を変えられるなんて、ちょっとうらやましい。できることなら、わたしだってオレンジとかピンクになってみたい。
『フレイ王子いるかい?』
「うわっ! 僕のこと呼んでる。他に誰もいないのに……怖くなってきた」
「あっ、今のはわたしにも聞こえた。ところで人間って透明にもなれたりする?」
「あっ、今のはわたしにも聞こえた。ところで人間って透明にもなれたりする?」
『よかった、繋がった。ハローハロー! ミーはシャノワール。突然ですがフレイ王子。ユーのおともだちから伝言があるよ!』
姿のない声は、これからフレイの仲間たちがアルヴに帰ってくるということを伝えた。どうやらシャノワールという声の主は、テレパシーの魔法で言葉をわたしたちに送っているらしい。離れてる相手とも話せるなんて便利! そのテレパシーとかいうのは、わたしもちょっとほしい。
「――うん。うん、わかった。グリンブルスティのところで待ち合わせで。昼頃に着くんだね、了解。それじゃあ待ってるよ。ああ。うん、それじゃ、またあとで」
『ガチャン。ツーツーツー』
『ガチャン。ツーツーツー』
そこでテレパシーは途切れた。なに? 最後のツーツーって。
とにかくこれからフレイの旅の仲間が戻ってくる。わたしはその仲間たちとは初対面だから、そそうのないようにしなくちゃ。
ちょっと練習しておこう。わたしはゲルダと言います。ふつちゅ……ふちゅつか……ふちつかものですが……。ふぢゅっ……! ああああ、舌噛んだ!!
とにかくこれからフレイの旅の仲間が戻ってくる。わたしはその仲間たちとは初対面だから、そそうのないようにしなくちゃ。
ちょっと練習しておこう。わたしはゲルダと言います。ふつちゅ……ふちゅつか……ふちつかものですが……。ふぢゅっ……! ああああ、舌噛んだ!!
そうこうしている間に、あっという間にお昼時になった。
集まってくるフレイの仲間に紹介するために、サーモスとウェイヴも呼んでおいたけど、ウェイヴはすぐに待ちくたびれてどこかへ行ってしまった。
集まってくるフレイの仲間に紹介するために、サーモスとウェイヴも呼んでおいたけど、ウェイヴはすぐに待ちくたびれてどこかへ行ってしまった。
やがて上空に巨大な船が飛んできた。なにあれ、グリンブルスティよりもずっと大きい。あれだけ大きいと、乗っている人もきっとすごく大きいに違いない。
船がグリンブルスティの隣に降りると、その中からぞろぞろとフレイの仲間たちが降りてきた。人間がたくさん。竜もいる。それに黒い猫とか、羽の生えた馬までいる。さすが共存を願うフレイの仲間たち! 種族も多種多様みたいだ。
船がグリンブルスティの隣に降りると、その中からぞろぞろとフレイの仲間たちが降りてきた。人間がたくさん。竜もいる。それに黒い猫とか、羽の生えた馬までいる。さすが共存を願うフレイの仲間たち! 種族も多種多様みたいだ。
お互いに初対面の人たちが多数。ずらりと横一列に並んで、それぞれ自己紹介が始まった。
人間のセッテとオットーはフレイとすごく親しい感じ。
同じく人間のフレイヤ、ブリュンヒルデ、レギンレイヴはわたしと同じ女性。
竜のクルスとクエリアは人間に変身する魔法が使えて、セルシウスとファフニールは大きくて強そう。
プラッシュは小さいけど魔女という種族で、見た目より雰囲気が大人っぽい。
黒猫のシャノワールはさっきテレパシーを送ってきたあの声の主。
羽の生えた馬はしゃべったりテレパシーはしないのか、名乗らなかった。
続いてサーモスが名乗り、そしてわたしの番が回ってくる。
人間のセッテとオットーはフレイとすごく親しい感じ。
同じく人間のフレイヤ、ブリュンヒルデ、レギンレイヴはわたしと同じ女性。
竜のクルスとクエリアは人間に変身する魔法が使えて、セルシウスとファフニールは大きくて強そう。
プラッシュは小さいけど魔女という種族で、見た目より雰囲気が大人っぽい。
黒猫のシャノワールはさっきテレパシーを送ってきたあの声の主。
羽の生えた馬はしゃべったりテレパシーはしないのか、名乗らなかった。
続いてサーモスが名乗り、そしてわたしの番が回ってくる。
「わたしはゲルダ。わけあってフレイのお世話になっています。ふつつかものですが、よろしくお願いします」
やった。練習のかいあって、こんどは噛まずに言えた。
「おう。俺は蒼き勇者、双剣の覇者、それから――(中略)――フリードと呼ばれてる。まあ、好きな名前で呼んでくれ」
最後にフリードが長すぎる自己紹介を終えて、全員が一通り名乗り終えた。
あれ。というか、わたしあの人知ってる。
あれ。というか、わたしあの人知ってる。
「勇者さんもフレイの仲間だったの!?」
「それは俺の台詞さ。まさかゲルダがフレイとくっついていたとは。いやぁー、これは惜しいことをしたね。俺がちょっと出かけている間に、おまえたちそんな関係になっていたとは」
「えっ? そんな関係ってなに?」
「だってさっき、ふつつか者ですが……って言ってたじゃないか。つまり、おまえらそういうことだろ? まったくオットーとフレイヤ王女といい、フレイとゲルダといい、みんなお熱いこって! あーあ、俺は寂しいぜ」
「それは俺の台詞さ。まさかゲルダがフレイとくっついていたとは。いやぁー、これは惜しいことをしたね。俺がちょっと出かけている間に、おまえたちそんな関係になっていたとは」
「えっ? そんな関係ってなに?」
「だってさっき、ふつつか者ですが……って言ってたじゃないか。つまり、おまえらそういうことだろ? まったくオットーとフレイヤ王女といい、フレイとゲルダといい、みんなお熱いこって! あーあ、俺は寂しいぜ」
そういうことって言われてもどういうことかわからなかったけど、フレイはまた赤くなって両手を前に突き出しながら首をぶんぶんと振っていた。
そしてフレイはフレイヤのほうへふり向くと、あからさまに話題を変えた。
そしてフレイはフレイヤのほうへふり向くと、あからさまに話題を変えた。
「そ、それよりも……。姉上、よくぞご無事で! 姉上も父上のようにトロウに何かされたのではないかと、ずっと心配していました」
「フレイも無事で何よりです。トロウからあなたが死んだと聞かされていて、ずっと心を痛めていたのよ。ああ、フレイ! 本当に無事でよかった……」
「フレイも無事で何よりです。トロウからあなたが死んだと聞かされていて、ずっと心を痛めていたのよ。ああ、フレイ! 本当に無事でよかった……」
フレイとフレイヤは姉弟(きょうだい)で、ずっと離れ離れになっていてお互いにすごく心配していたらしい。フレイはそういうのは苦手と言ってたくせに、今では二人でお互いに抱きしめ合っている。
姉弟だから許すけど、なんだかちょっとジェラシーを感じる。
長い。長いから。ほら、早くはなれてはなれて。
姉弟だから許すけど、なんだかちょっとジェラシーを感じる。
長い。長いから。ほら、早くはなれてはなれて。
「それにしてもオットー。本当によくやったな! まさかトロウの手から姉上を救い出してくれるなんて。一番の成果じゃないか」
「ありがとうございます、フレイ様。でも俺だけの手柄ではありません。セッテやプラッシュたちの助けが無かったら、今ごろは俺のトロウの手に堕ちていたかもしれませんからね。これは俺たちみんなの成果です」
「そうか。それじゃあみんなに礼を言わせてもらうよ。本当にありがとう。……ところでオットー、何か雰囲気変わった? というかちょっと懐かしい感じだ」
「ええ、いろいろありまして。俺は自分に嘘をつくのはやめたんです。もしかしてご迷惑でしたか? もしお望みならば、以前のように王子とお呼びしますが」
「いや、いいと思うよ。今のほうがオットーらしい」
「ありがとうございます、フレイ様。でも俺だけの手柄ではありません。セッテやプラッシュたちの助けが無かったら、今ごろは俺のトロウの手に堕ちていたかもしれませんからね。これは俺たちみんなの成果です」
「そうか。それじゃあみんなに礼を言わせてもらうよ。本当にありがとう。……ところでオットー、何か雰囲気変わった? というかちょっと懐かしい感じだ」
「ええ、いろいろありまして。俺は自分に嘘をつくのはやめたんです。もしかしてご迷惑でしたか? もしお望みならば、以前のように王子とお呼びしますが」
「いや、いいと思うよ。今のほうがオットーらしい」
そしてフレイとオットーは固く握手を交わした。
よかった、こんどは抱き合わないみたい。なぜかわたしはほっとしていた。
よかった、こんどは抱き合わないみたい。なぜかわたしはほっとしていた。
「ところでフレイ様、ヴェンさんとフィンブルはどこ行ったっすか?」
こんどはセッテがフレイに声をかけた。
ヴェンさんとフィンブル? 今ここにはいないけどまだフレイには仲間がいて、どうやら全員がそろったわけではないみたいだ。まぁ、ウェイヴもいないしね。
ヴェンさんとフィンブル? 今ここにはいないけどまだフレイには仲間がいて、どうやら全員がそろったわけではないみたいだ。まぁ、ウェイヴもいないしね。
「ヴェンならアルヴの街に落ち着くみたいで、ここ数日はずっと街の外円部の様子を見に行ったきりだな。フィンブルはみんなが出発したあと、どうしてもクエリアが心配だと言ってあとを追っていったんだけど……。いっしょじゃなかったのか」
すると竜のおちびちゃんが驚いた声でそれに反応した。
「ええーっ!? おい、フレイ。フィンブルを一人で行かせたのか。あいつはすごく方向オンチなんだぞ! むぅぅ……ちゃんと帰って来れればいいけど」
「ま、まあ心配はいらないよ。フィンブルだって子どもじゃないんだから、きっと自分のことぐらいは自分でどうにかするさ」
「それもそうか。でもずっとわたしを捜してると思うと、さすがに気の毒だなぁ。あ、そうだ。シャノにテレパシーで呼んでもらおっと」
「ま、まあ心配はいらないよ。フィンブルだって子どもじゃないんだから、きっと自分のことぐらいは自分でどうにかするさ」
「それもそうか。でもずっとわたしを捜してると思うと、さすがに気の毒だなぁ。あ、そうだ。シャノにテレパシーで呼んでもらおっと」
よく知らないけど、こんな小さな子にも心配されるなんて、そのフィンブルっていう人? は、なんだか本当に気の毒だ。
クエリアはさっそくシャノワールのところへと駆けていくと、テレパシーを送ってもらって、フィンブルにすぐにアルヴへ戻ってくるように伝えていた。
『ちゃんと伝えたからね! それじゃあグッバイ! ガチャン、ツーツーツー』
出た! またあのツーツーだ。
なんだろあれ。流行ってるのかな。
なんだろあれ。流行ってるのかな。
しばらくして、空から一頭の蒼い竜が飛んできた。
どうやらあれがフィンブルらしい。
どうやらあれがフィンブルらしい。
「す、すみませ~ん! アクエリアス様ぁ~っ!!」
竜という種族はどれも大きくて強そうに見えるけど、あのフィンブルというのはそうじゃないらしい。セルシウスやファフニールに比べると身体は細くて小さい。フィンブルは戻ってくるなり、クエリアに頭を下げて平謝りした。
「しょうがないやつだなぁ。まぁ、わたしを心配してのことだし、今回は水に流してやる。でも次からは気をつけるんだぞ」
「はい……。ごめんなさい、アクエリアス様」
「はい……。ごめんなさい、アクエリアス様」
ううん。あんな小さい子にも頭が上がらないなんて、やっぱり気の毒だ。
うなだれるフィンブルは、背伸びしたクエリアに頭をなでてもらっている。
端から見ている分にはちょっと微笑ましい。気の毒なことには変わりないけど。
うなだれるフィンブルは、背伸びしたクエリアに頭をなでてもらっている。
端から見ている分にはちょっと微笑ましい。気の毒なことには変わりないけど。
するとそのとき、頭上を何かの影が通り過ぎた。
見上げると、翼を広げた竜が旋回しながらこちらに向かってくるのが見える。
さっき飛んできたフィンブルの姿に比べるとずっと大きい。あれがさっき言ってたもう一人の仲間のヴェンかな? と眺めているとクエリアが大きな声を上げた。
見上げると、翼を広げた竜が旋回しながらこちらに向かってくるのが見える。
さっき飛んできたフィンブルの姿に比べるとずっと大きい。あれがさっき言ってたもう一人の仲間のヴェンかな? と眺めているとクエリアが大きな声を上げた。
「あれは……あのときの騒がしい風竜じゃないか! ここは絶対に見つからない場所じゃなかったのか!? さてはフィンブル、おまえ後をつけられてたな!」
「はわわわ! わ、私のせいですか!? ど、どうしましょう」
「どーしようもこーしようもない。しょーがない。またわたしの大活躍を見せてやるときがきたようだなぁ! 凍らせて、こんどはカキ氷にしてやる」
「だ、だめですよアクエリアス様! あ、危ないですからっ! あなたに何かあったら私は、女王さまに殺されちゃいます!!」
「うるさいなー。これはおまえの失態なんだぞ。その尻拭いをわたしがしてやると言ってるんだ。おまえは口出しできる立場なんかじゃないんだからな」
「し、尻拭いなんて! そんな下品な言葉どこで覚えてきたんですか、もうっ! さてはあの蒼いニンゲンの男ですねっ! まったくなんてことを……」
「はわわわ! わ、私のせいですか!? ど、どうしましょう」
「どーしようもこーしようもない。しょーがない。またわたしの大活躍を見せてやるときがきたようだなぁ! 凍らせて、こんどはカキ氷にしてやる」
「だ、だめですよアクエリアス様! あ、危ないですからっ! あなたに何かあったら私は、女王さまに殺されちゃいます!!」
「うるさいなー。これはおまえの失態なんだぞ。その尻拭いをわたしがしてやると言ってるんだ。おまえは口出しできる立場なんかじゃないんだからな」
「し、尻拭いなんて! そんな下品な言葉どこで覚えてきたんですか、もうっ! さてはあの蒼いニンゲンの男ですねっ! まったくなんてことを……」
騒がしい氷竜たちの頭上を飛び越えて、激しく風圧を巻き起こしながらクエリアが風竜と言った大きな竜はわたしたちの前に舞い降りた。
アルヴから出たことのないわたしは、フレイの仲間として合流してきたセルシウスたちが初めて見る神竜さま以外の竜だった。だからわたしは竜というものを、話には聞いたことはあっても、実際にどういうものかはよく知らない。
新たに現れた風竜をもっとよく見ようと近づこうとすると、フレイが飛び出してきてそれをさえぎった。
「ゲルダ、下がって! こいつはヴァルト。トロウの手下で僕たちの敵だ!」
「悪いやつなの? 同じ竜なのにセルシウスたちとは違うの?」
「以前あいつに攻撃されたことがある。しかも二度にわたってだ。それにしても、アルヴにまで乗り込んでくるなんて。まさかもうトロウにこの場所のことを……」
「悪いやつなの? 同じ竜なのにセルシウスたちとは違うの?」
「以前あいつに攻撃されたことがある。しかも二度にわたってだ。それにしても、アルヴにまで乗り込んでくるなんて。まさかもうトロウにこの場所のことを……」
フレイの仲間たちも攻撃態勢を取ってヴァルトに敵対する態度を見せた。
でもわたしには、このヴァルトという竜に敵意があるようには見えなかった。
なぜならわたしにはヴァルトの目が何かに悩んでいるような色に見えたからだ。
あれは悪いやつの目じゃない。わたしの直感がそう告げている。
でもわたしには、このヴァルトという竜に敵意があるようには見えなかった。
なぜならわたしにはヴァルトの目が何かに悩んでいるような色に見えたからだ。
あれは悪いやつの目じゃない。わたしの直感がそう告げている。
ヴァルトは舞い降りるなり、じっとフレイを見つめていた。どうやら何かを言いたそうにしている様子だけど、フレイはそれには気がついていないみたいだ。
「こんなところまで追ってくるなんてね。だが今回はお供はいないと見える。対して僕らはこの人数だ。諦めて帰ったほうがいいんじゃないかな?」
「待て、こやつを逃がすわけにはいかん。まだアルヴのことがトロウに知られたとは限らんぞ。だがこやつを見逃せば、アルヴの情報はトロウに流れる。だから絶対にこやつを見逃すわけにはいかぬ。必ず今この場で倒すべきじゃ!」
「なるほど、たしかにそうだ。多勢に無勢で少しずるい気はするけど、これは国の命運をかけた闘いなんだ。だから卑怯だとは言わせない。みんな、いくぞ!」
「待て、こやつを逃がすわけにはいかん。まだアルヴのことがトロウに知られたとは限らんぞ。だがこやつを見逃せば、アルヴの情報はトロウに流れる。だから絶対にこやつを見逃すわけにはいかぬ。必ず今この場で倒すべきじゃ!」
「なるほど、たしかにそうだ。多勢に無勢で少しずるい気はするけど、これは国の命運をかけた闘いなんだ。だから卑怯だとは言わせない。みんな、いくぞ!」
フレイの号令で仲間たちはそれぞれヴァルトに向かっていったり、呪文を唱え始めたりしている。それでもヴァルトは敵意を見せずに反撃しようともしなかった。
やはりわたしには、どうしてもあの風竜が敵には思えない。
過去にフレイたちとの間にどういうことがあったのかは知らない。でも、無抵抗の相手に一方的に攻撃をするようなことは間違っているとわたしは思う。
過去にフレイたちとの間にどういうことがあったのかは知らない。でも、無抵抗の相手に一方的に攻撃をするようなことは間違っているとわたしは思う。
なにより、あの風竜の目だ。
あの憂いを帯びた、ある種の後悔や悲しみとも取れるようなその目を、わたしは見て見ぬふりをすることができなかった。
あの憂いを帯びた、ある種の後悔や悲しみとも取れるようなその目を、わたしは見て見ぬふりをすることができなかった。
絶対に何か事情がある。
この風竜と戦うのは間違っている気がする。
ここでヴァルトを倒してしまったら、きっと後悔するような気がする。
この風竜と戦うのは間違っている気がする。
ここでヴァルトを倒してしまったら、きっと後悔するような気がする。
だから、わたしは――
「待って!!」
考えるよりも先に身体が動いた。
わたしはとっさに両手を広げて、ヴァルトの前に飛び出していた。
わたしはとっさに両手を広げて、ヴァルトの前に飛び出していた。