Chapter46「地竜族の追憶1:最長老フェギオン」
かつてそれは火竜の国ムスペルスと氷竜の国ニヴルヘイムのちょうど境界線にあたる場所に在った。
炎と氷の交わる混沌とした大地、ギンヌンガが淵。それは大地に含まれる特殊な成分が磁力の影響を受けて浮かぶ、空の第三の大陸だった。
炎と氷の交わる混沌とした大地、ギンヌンガが淵。それは大地に含まれる特殊な成分が磁力の影響を受けて浮かぶ、空の第三の大陸だった。
その時代の空の世界にあるものといえば、北にニヴルの大氷塊。西にムスペの大火山。その間にあるギンヌンガが淵。そして東に大樹ユグドラシル。
混沌の地ギンヌンガは、熱気と冷気に挟まれて常に嵐の吹き荒れる厳しい土地だったが、その雷と雨は大陸に豊かな自然を生んだ。
森が誕生し、湖が出来、やがて何百年にもわたる嵐が治まった頃には、ギンヌンガは美しい大地へと変わっていた。
森が誕生し、湖が出来、やがて何百年にもわたる嵐が治まった頃には、ギンヌンガは美しい大地へと変わっていた。
その新たな大地に移り住んだ一部の竜たちが土地に適応していった結果、誕生したのが我々地竜族の祖先だ。彼らはそこに王国を築いた。
それこそが地竜族の祖国、ギンヌンガガプだった。
それこそが地竜族の祖国、ギンヌンガガプだった。
私はその国を治める王族の娘として生まれた。今から約千年ほど前のことだ。
ムスペやニヴルに比べると歴史の浅い国ではあったが、ここにはそのどちらの国にもない木々の緑がある。森でさえずる鳥の歌声がある。川のせせらぎがある。
そんな美しい景色が私は大好きだった。
ムスペやニヴルに比べると歴史の浅い国ではあったが、ここにはそのどちらの国にもない木々の緑がある。森でさえずる鳥の歌声がある。川のせせらぎがある。
そんな美しい景色が私は大好きだった。
ギンヌンガの山の麓には、木漏れ日の差す穏やかな湖畔があった。そこが私のお気に入りの場所であり、そして私の大好きなお爺ちゃんの暮らす場所でもあった。
最長老フェギオン。このギンヌンガガプの建国者の一人であり、初代国王だった老竜。そして血の繋がる私の実のお爺ちゃんだ。
既に引退して王座を私の父カペレイオンに譲っていたお爺ちゃんはこの湖畔に隠居しており、幼かった私は時折そこへ遊びに行っては、お爺ちゃんからこの空の世界の昔話をよく聞かせてもらっていた。
既に引退して王座を私の父カペレイオンに譲っていたお爺ちゃんはこの湖畔に隠居しており、幼かった私は時折そこへ遊びに行っては、お爺ちゃんからこの空の世界の昔話をよく聞かせてもらっていた。
「お爺ちゃん! 遊びに来た!」
「おお、ジオクルスか。よく来たのう。さあ、ここに座りなさい」
「おお、ジオクルスか。よく来たのう。さあ、ここに座りなさい」
促されて私は、身を寄せてお爺ちゃんの隣に座る。
「さて、今日は何を話してやろうかのう」
「あれがいい。流れ星のやつ!」
「そうかそうか。おまえはその話が本当に好きじゃな。良いとも、何度でも話してやろう。あれはまだ私が今のジオクルスよりももっと幼かった頃じゃ……」
「あれがいい。流れ星のやつ!」
「そうかそうか。おまえはその話が本当に好きじゃな。良いとも、何度でも話してやろう。あれはまだ私が今のジオクルスよりももっと幼かった頃じゃ……」
仔竜フェギオンは流れ星を見た。
夜空から舞い降りる赤く光る大きな流星を。
夜空から舞い降りる赤く光る大きな流星を。
しかし星を見るのに夢中になり過ぎた仔竜は、誤って空から転落してしまった。
フェギオンが空の底で見たのは、どこまでも続く広大な大地と、果てしなく続く巨大な湖だった。それは空の上にはない、自然を超えた自然、大自然だった。
フェギオンが空の底で見たのは、どこまでも続く広大な大地と、果てしなく続く巨大な湖だった。それは空の上にはない、自然を超えた自然、大自然だった。
地上に落ちて困っていたフェギオンは、そこで人間という生き物に会った。
人間は落ちてきた星を探して旅をしている途中だといい、地上の世界にはなかった魔法を使って彼を手助けしたことから、フェギオンは彼の相棒として地上の旅に同行することになった。
人間は落ちてきた星を探して旅をしている途中だといい、地上の世界にはなかった魔法を使って彼を手助けしたことから、フェギオンは彼の相棒として地上の旅に同行することになった。
そして旅の行く先で流れ星を見つけた彼らはひとまわり成長し、ひとまずはその人間の住む村へと帰った。
しかし冒険はまだ始まったばかり。やがて彼らは次の旅に出発した。
しかし冒険はまだ始まったばかり。やがて彼らは次の旅に出発した。
流れ星はひとつだけじゃない。世界中にいくつも散らばっている。
だから探しに行こう。世界の果てまで、どこまでも。
だから探しに行こう。世界の果てまで、どこまでも。
彼らは地上の広い世界を旅して回った。その旅の中でフェギオンは天まで届く巨大な樹を見つけた。
「これを登れば、自分が住んでいた空の世界へ帰れるかもしれない」
しかしそれは旅の相棒との別れを意味する。
人間は空では暮らせない。この大地こそが自分の生きる場所なのだ、と。
人間は空では暮らせない。この大地こそが自分の生きる場所なのだ、と。
「これが最後の旅になるな」
旅の相棒はフェギオンを大樹の上まで送ってくれた。
彼らが大樹の頂上で見つけたのは、樹の幹に突き刺さる最後の流れ星だった。
彼らが大樹の頂上で見つけたのは、樹の幹に突き刺さる最後の流れ星だった。
「そうか。きっと星の力を得てこの樹はこれほどまでに成長したんだな。これはただの大樹じゃない。特別な樹だ。ここを俺たちの特別な場所にしよう」
「特別な場所?」
「そうだ。俺は地上へ帰るけど、いつかきっとまた会いに来る。この樹は遠くからでもよく目立つからいい目印になる。だからまた、いつかここで会おう。約束だ」
「うん、約束。いつの日か、また大樹で」
「特別な場所?」
「そうだ。俺は地上へ帰るけど、いつかきっとまた会いに来る。この樹は遠くからでもよく目立つからいい目印になる。だからまた、いつかここで会おう。約束だ」
「うん、約束。いつの日か、また大樹で」
さようなら、またあた会うその日まで。
フェギオンは大樹の上から相棒を見送った。
やがて成長してギンヌンガガプの王となったフェギオンは、大樹ユグドラシルを大地の精霊が宿る神聖な場所として保護するように決めた。それ以来、ユグドラシルはフェギオンだけでなく、地竜たち皆にとっての特別な場所になった。
やがて成長してギンヌンガガプの王となったフェギオンは、大樹ユグドラシルを大地の精霊が宿る神聖な場所として保護するように決めた。それ以来、ユグドラシルはフェギオンだけでなく、地竜たち皆にとっての特別な場所になった。
あれからずいぶん長い年月が過ぎた。とうとう相棒は現れなかった。
それでも、今でもかつての仔竜は待ち続けている。約束が果たされる日が来ることを。いつの日か、あの人間が再び現れることを。
それでも、今でもかつての仔竜は待ち続けている。約束が果たされる日が来ることを。いつの日か、あの人間が再び現れることを。
その人間の名はフリード。
地竜族の間に語られる数多くの伝説に登場する唯一の人間。
地竜族の間に語られる数多くの伝説に登場する唯一の人間。
そう、あの蒼き勇者フリードの名前の元になった伝説。それがフェギオンの語った昔話。最長老フェギオンは、ギンヌンガガプの建国者にして初代国王であり、私の大好きなお爺ちゃんであり、そして生きる伝説であった。
この国には豊かな自然がある。生きる伝説もいる。そしてそれはこの私の実のお爺ちゃんなのだ。それが私の誇りであったし、自慢だった。
歴史は浅いけど、ムスペにもニヴルにも負けない、偉大で立派な、そして素敵で平和な国。それが祖国ギンヌンガガプだった。
歴史は浅いけど、ムスペにもニヴルにも負けない、偉大で立派な、そして素敵で平和な国。それが祖国ギンヌンガガプだった。
この平和がずっと続くと思っていた。
私には兄弟がいないので、やがて私がお爺ちゃんの作ったこの国を継ぐのだろうとなんとなく思っていた。
私が王様になったら、地上を調査して伝説のフリードの子孫を探そう。そしていつの日かお爺ちゃんに会わせてあげよう。そんなことを思っていた。
私には兄弟がいないので、やがて私がお爺ちゃんの作ったこの国を継ぐのだろうとなんとなく思っていた。
私が王様になったら、地上を調査して伝説のフリードの子孫を探そう。そしていつの日かお爺ちゃんに会わせてあげよう。そんなことを思っていた。
だが、その思いはどれも潰されてしまった。
ある日突然現れた、あの漆黒の竜の手によって――
ある日突然現れた、あの漆黒の竜の手によって――