Chapter53「フレイ倒れる1:王子は呪われてしまった!」
これはクエリアから猫だらけの隠れ家を見せてもらうよりも数日前のお話。
例のメタルドラゴンを発明した機械技師グリムとともにアルヴへ帰ってきたおれたちは、まず大神殿のアルバスに彼のことを報告した。アルバスはすぐに彼に理解を示してくれて、グリムがアルヴに研究拠点を置くことを許可してくれた。
それからおれたちは大神殿を後にした。グリムは以前から目星をつけていた場所があるといって、アルヴァニアの街のはずれにある雲の森のほうへ歩いていったので彼とはそこで別れた。
陽も暮れてきていたので、おれたちも一度拠点のグリンブルスティに戻って休もうかと提案してみた。
陽も暮れてきていたので、おれたちも一度拠点のグリンブルスティに戻って休もうかと提案してみた。
「初めて外の世界を見たんで、わたし疲れちゃったなぁ」
「そうだね……。僕もちょっと疲れたみたいだ。今日はもう休むよ……」
「そうだね……。僕もちょっと疲れたみたいだ。今日はもう休むよ……」
ゲルダとフレイ様はそう言ってうなづくと、おれと一緒にグリンブルスティに戻ることに賛成したが、クルスはまだやることがあると首を振った。
「帰ってきたばかりなのに、もう出かけるんすか?」
そう問うと、クルスはこれからファフニールと会ってくるのだと説明した。
今、ファフニールはトロウに従うふりをして敵の懐に潜入している。二重逆スパイとかいうちょっとややこしい立場らしいけど、いまいちおれにはよく理解できなかったので、とにかくトロウの仲間のふりをして情報を集めているというふうに考えておくことにしている。
そのファフニールからの定期連絡があるので、そのためにクルスは会いに出かけるということらしい。
今、ファフニールはトロウに従うふりをして敵の懐に潜入している。二重逆スパイとかいうちょっとややこしい立場らしいけど、いまいちおれにはよく理解できなかったので、とにかくトロウの仲間のふりをして情報を集めているというふうに考えておくことにしている。
そのファフニールからの定期連絡があるので、そのためにクルスは会いに出かけるということらしい。
「あやつもテレパシーのひとつでも使えれば話が早いんじゃがのぅ。まあ、トロウに傍受される心配があるから、念波を使うよりは直接会ったほうが安全ではあるがな。そういうわけなのでちょっと行ってくる」
飛び立つクルスを見送って、それじゃあおれたちは帰るとするっすか! と隣に目をやったそのときに問題は起こった。
「うっ……な、なんだか。これは、ちょっと……まずい、かも、しれな、い……」
どさり。と音を立てて、なんとフレイ様がその場に倒れこんでしまったのだ。
突然のことにゲルダは慌てているし、おれも一瞬何が起こったのか理解が追いつかずに呆然としてしまった。
が、はっとして急いで倒れたフレイ様を揺り起こして声をかける。
突然のことにゲルダは慌てているし、おれも一瞬何が起こったのか理解が追いつかずに呆然としてしまった。
が、はっとして急いで倒れたフレイ様を揺り起こして声をかける。
「ちょ、大丈夫っすか!? 一体どうしたんすか! おれがわかりますか?」
しかしいくら声をかけても、はっきりとした返事はない。
フレイ様はただうめき声を上げて苦しそうな表情をするだけだ。
フレイ様はただうめき声を上げて苦しそうな表情をするだけだ。
「な、なんなの? ねぇセッテ、フレイはどうしたの?」
心配そうにフレイ様の顔を覗きこむゲルダ。
聞かれてもおれにはわからない。そして当のフレイ様は意識もうろうとした様子で、話せそうな状態ではなかった。
もしかしてと思いフレイ様の額に手を当ててみると、じんわりとした感覚が手のひらに返ってくる。
聞かれてもおれにはわからない。そして当のフレイ様は意識もうろうとした様子で、話せそうな状態ではなかった。
もしかしてと思いフレイ様の額に手を当ててみると、じんわりとした感覚が手のひらに返ってくる。
「すごい熱だ……。原因はわかんないっすけど、これは何かヤバイっす!」
「そんな! フレイ死んじゃうの!? わたしはそんなの嫌!!」
「落ち着くっすよ! とにかくまずは原因を突き止めるのが大事っす。もしかしたら何かの病気かもしれない。この街に病院とかはないんすか?」
「お医者さんは……いない。竜人は基本的に病気はしないし、ちょっとした怪我なら魔法で治しちゃうし……。こんなの、わたしも初めて見るもん」
「そんな! フレイ死んじゃうの!? わたしはそんなの嫌!!」
「落ち着くっすよ! とにかくまずは原因を突き止めるのが大事っす。もしかしたら何かの病気かもしれない。この街に病院とかはないんすか?」
「お医者さんは……いない。竜人は基本的に病気はしないし、ちょっとした怪我なら魔法で治しちゃうし……。こんなの、わたしも初めて見るもん」
フレイ様は苦しそうに肩で息をしている。そして時折、むせるように連続して大きな咳を繰り返した。顔色もどんどん悪くなっていっているような気がする。
「これは困ったっすね。こういうときは物知りのクルスが頼りっすけど、一歩遅かったって感じっす……。兄貴やフリードたちも出かけてていないし……」
「他に誰か治療の魔法に詳しいひとはいないの?」
「プラッシュがセッちゃんの石化を治してくれたことがあったっすけど、今はクエリアと一緒にどこか行ってるみたいっす。こんなとき一体誰に相談したら……」
「他に誰か治療の魔法に詳しいひとはいないの?」
「プラッシュがセッちゃんの石化を治してくれたことがあったっすけど、今はクエリアと一緒にどこか行ってるみたいっす。こんなとき一体誰に相談したら……」
自分たちだけではどうすることもできない。何が原因なのかさえもわからない。
しかしあまりぐずぐずしてはいられなさそうだ。というのも、フレイ様の状態は見る見るうちに悪化していったからだ。こんどはぶるぶると身体を震わせながら、うわ言のように「寒い、寒い」とつぶやいている。
しかしあまりぐずぐずしてはいられなさそうだ。というのも、フレイ様の状態は見る見るうちに悪化していったからだ。こんどはぶるぶると身体を震わせながら、うわ言のように「寒い、寒い」とつぶやいている。
「うう……。マジでヤバイっす。まさか何か呪いでもかけられたんじゃ……」
そもそもフレイ様がアルヴの外に出たのは、ファフニールの作戦のためだ。
トロウの仲間のふりをするために、ファフニールはトロウに怪しまれないように振る舞わなくてはならない。そのために、フレイをアルヴの外に誘き出すようにと命令されていたファフニールは、たまにはアルヴの外での活動も行ってほしいと協力を申し出てきた。
ラタトスクの石さえ持たなければ、トロウにフレイ様の居場所を特定される心配はなく、危害も及ばないはずだとファフニールは言っていたけれど……。
トロウの仲間のふりをするために、ファフニールはトロウに怪しまれないように振る舞わなくてはならない。そのために、フレイをアルヴの外に誘き出すようにと命令されていたファフニールは、たまにはアルヴの外での活動も行ってほしいと協力を申し出てきた。
ラタトスクの石さえ持たなければ、トロウにフレイ様の居場所を特定される心配はなく、危害も及ばないはずだとファフニールは言っていたけれど……。
フレイ様をメタルドラゴン探しに誘ったのはおれ自身だった。アルヴの外へフレイ様を連れ出したのはつまりおれということになる。もしかしたら、そのときに何らかの方法でトロウはフレイ様に呪いをかけたのかもしれない。
だとしたら、これはおれの責任だ。
だとしたら、これはおれの責任だ。
「厄介っすね……。もし呪いだとしたら、ちゃんとした手順がわからないと呪いを解くことができないっすよ。もちろん自然治癒もしないし……」
自分のせいでフレイ様が苦しんでいる。しかもそれでもしものことがあったら、家臣としてはこれ以上ない重大な失態だ。つまり非常にヤバイ。
冷や汗を垂れ流しながら頭を抱えていると、ゲルダが思い出したように言った。
冷や汗を垂れ流しながら頭を抱えていると、ゲルダが思い出したように言った。
「そうだ! そういえば街の外円部に錬金術を研究してるひとがいるよ!」
「錬金術ってあのよく薬とか調合してるアレっすか?」
「そのアレだよ。呪術にも詳しいし、もしかしたらフレイを治せる薬を持ってるかも!」
「錬金術ってあのよく薬とか調合してるアレっすか?」
「そのアレだよ。呪術にも詳しいし、もしかしたらフレイを治せる薬を持ってるかも!」
錬金術というのは、機械と同じく古代の地上由来の技術のひとつだと聞いたことがある。今でこそ魔法が世の中の基本として存在しているけれど、それ以前は科学が人間の文明の中心だったらしい。
そして、その科学はさらにその前の時代に誕生したカラクリと錬金術のふたつが合わさって生まれたそうだ。
そして、その科学はさらにその前の時代に誕生したカラクリと錬金術のふたつが合わさって生まれたそうだ。
魔法の発展により機械技術は廃れていったという話だが、錬金術のほうは魔法との相性が良いらしく、今でも残っている一般的な技術だ。あまり詳しくはないけれど、回復の魔法を込めた錠剤を作ったり、様々な効果を発揮するポーションを調合したりできるらしい。もしかしたら解呪の薬というものもあるかもしれない。
錬金術師は医者ではないけれど、言うなれば魔道士と薬剤師を足したような存在だ。少なくとも自分たちだけで悩んでいるよりはずっといい意見をくれるはず。
「よし。それじゃあ、その錬金術師に会いに行くっすよ! 案内頼むっす」
「任せて! でも病人を連れまわすわけにはいかないよ。まずはフレイをどこかに休ませてあげよ? それから錬金術の先生を呼んでこようよ」
「ラジャっす」
「任せて! でも病人を連れまわすわけにはいかないよ。まずはフレイをどこかに休ませてあげよ? それから錬金術の先生を呼んでこようよ」
「ラジャっす」
まずは二人でフレイ様の肩を支えてグリンブルスティまで連れて行き、船内にあるベッドにフレイ様を寝かせた。
船内にはいつものようにクエリアの姿を捜しておろおろしているフィンブルがいたので、氷枕を作ってもらってフレイ様の様子を見ててもらうように頼んだ。
まだ全然大丈夫じゃないけど、とりあえずは安心だ。
船内にはいつものようにクエリアの姿を捜しておろおろしているフィンブルがいたので、氷枕を作ってもらってフレイ様の様子を見ててもらうように頼んだ。
まだ全然大丈夫じゃないけど、とりあえずは安心だ。
「フレイさん、病気なんですか?」
「これから錬金術の先生に相談に行ってくるんだ。だからフレイを看てて。言っておくけど、フレイに何かあったらわたし怒るどころじゃすまないから」
「はわわ……。そ、そんな。私どうしたらいいんですか~」
「これから錬金術の先生に相談に行ってくるんだ。だからフレイを看てて。言っておくけど、フレイに何かあったらわたし怒るどころじゃすまないから」
「はわわ……。そ、そんな。私どうしたらいいんですか~」
フィンブルはますます、おろおろした様子になった。小柄とはいえ氷竜なのに、クエリアやクルスとかとは全然違うタイプの竜もいるもんだなぁと思う。
……なんて今は関心を払っている場合じゃない。
……なんて今は関心を払っている場合じゃない。
「ゲルダ、もうそのへんにしとくっすよ。早くフレイ様を助けてあげないと」
「そうだった。じゃあフレイのこと頼んだからね! くれぐれも頼んだからね!」
「そうだった。じゃあフレイのこと頼んだからね! くれぐれも頼んだからね!」
あとをフィンブルに任せて、おれたちは薄暗い空の中を街の外円部へと走った。
先を行くのはゲルダ。そしてその案内を受けておれが後に続く。
先を行くのはゲルダ。そしてその案内を受けておれが後に続く。
(待ってるっすよ、フレイ様。絶対にぜったいに助けるっすから! だから、おれたちが戻るまで絶対に死んじゃだめっすからね……!)