第五章「Unrivaled ghosts」
(執筆:イグリス)
紫色の霧の中から多数の光が迫り来る。大半は青、そのところどころに赤い光が混じっている。キョクゲンダーの汁千本とメイヴの武装で応戦するが、苦しい戦いだった。
「キリがないじゃないか」
次から次へと出てくる謎の敵にうんざりしてぼやく。
『霧はあるんですがね』
小さな爆弾をばらまきつつ軽口を叩くメイヴだが、モニタに乱れが出ていることから彼も焦っていることが伺える。
「冗談を言っている場合ではないんダ」
迫る光に凝縮した汁を浴びせつつ答える。汁に当たった光は次々に霧散して消えて行く。しかし中には効果がない相手もいるようで、
「だめだ、赤いのには効かないぞ」
赤い光に当たった汁は、その光を散らすことなく吸い込まれていくようだ。意にも介さずこちらに向かってくる。
『これならどうだっ!?』
光の塊に多数のミサイルを打ち込む。次々に爆発し辺りが爆風に包まれた。
『やりましたか?』
「その台詞はやっていないフラグダ。油断するなよ」
煙が晴れる。しかし、すぐに紫色の霧に満たされ、そこから光が現れる。
『仕方ありませんね。ゲンダー、これを使ってください』
メイヴから銃を渡される。光学兵器のようだ。
『ビームマシンガンというものらしいです。敵の数が多いのでこちらの方が効果的でしょう』
メイヴの方を見ると、胴体からは二門のガトリングガンが飛び出し、頭部のアームにはキョクゲンダーと同様の銃が握られている。
「よくもこんな物騒なものが次々と出てくるものダ。しかし今はありがたい」
『蹴散らしてやりましょう』
「どっこいしょういちダァーッ!」
胴体の銃身が回転し銃弾がばらまかれる。二人の手に持つマシンガンからも雨のように光弾が発射される。その圧倒的な火力によって、青い光には接近されることなく、そのほとんどを撃ち落とすことができた。しかし赤い光はそうもいかない。赤い光にあたった弾は何事もなかったかのように赤い光をすり抜け、その後方に消えて行く。
「ただ効いていないだけかと思ったら、実体がないのか!?」
『ただの光とは思えませんが、どちらにしろむやみに接触するのは避けたほうがいいと判断します』
幸い、光の軌道は単調だ。こちらの攻撃に対して一切の回避行動を行わないため、一直線の動きしかしてこない。光の体当たりを躱すことは簡単だ。
「しかし、このままでは埒があかんぞ」
光を消す方法が見つからないままでは、こちらの限界が先に来るだろう。青い光を撃ち落とし、こちらに迫る赤い光をやり過ごしながら考える。
(なにか、なにか見落としている気がするぞ)
光の群れに光弾を乱れ撃つ。光の群れは軌道を変えずに光弾に突っ込み、赤い光だけが光弾をすり抜けこちらに迫る。
赤い光にむけて銃を撃つが、赤い光は軌道を変えない。
速度を変えずにこちらに向かってくる。
速度を変えずに?
「わかったぞ!メイヴ、ミサイルに切り替えるんダ!赤い光を攻撃しろ!」
『しかし、先程の攻撃で効果がないことは分かっています。数が多い場合は、高威力の武装よりも連射性の高い武装のほうが効果的かと』
「赤い光の足を止められたのはその攻撃の時だけだ。そこに何か突破口があるはずダ。青い方は任せて、やってくれ」
『わかりました』
胴体のガトリング砲が中に引っ込み、代わりにミサイルが次々に発射される。何発かは赤い光をすり抜けていったがそばに着弾したものは赤い光を巻き込み爆発し、あたりを爆煙で覆った。煙が晴れるとそこには何もない。しかし、すぐに紫色の霧が立ち込め、赤と青の光が現れる。
『やはり効果がないのではないですか?』
「いや、そうでもないようダ。煙が晴れた直後はそこに何もなかったが、その後、霧が出てから光が現れた。逆に霧がなくなれば、光は消えるんじゃないか?」
『面白い仮説です。しかしこの霧をどうやって吹き飛ばします?』
周囲を見渡すかぎりでは、辺り一面が霧に覆われている。さっきのように爆風で吹き飛ばせば、中心にいる自分たちが無事でいられる保証はない。
「この前のプロペラは使えないか?空を飛べるのなら、その風圧で吹き飛ばせたりはしないか?」
『すべてを吹き飛ばすことは出来ないでしょう。しかし私たちの周囲だけならあるいは……。やってみましょう。時間稼ぎはお願いします」
メイヴの胴体から出てきたミサイルランチャーを渡される。
「合点ダァー」
すぐに準備を始めた。頭部のアームが収納され、代わりにシャフトが飛び出してくる。先を中心にして四つに分かれ、柄の部分を頭部に収納、プロペラを安定させる。準備完了、プロペラが回転を始めた。その間、キョクゲンダーはマシンガンとミサイルを使い分け、光を牽制する。回転が激しくなり、風圧で周りの霧を吹き飛ばし始めた。
「さあ、どうダ!」
霧の中から飛び出した青い光はやがて強さを失い消えていく。赤い光も同様だ。自分の狙い通りにことが進んだキョクゲンダーは嬉しそうだ。
「やった!うまくいったぞ」
『ゲンダー!これが限界です。長時間は持ちません。急いでこの場を離脱しましょう』
喜ぶキョクゲンダーを諌めるように言う。まだ霧を完全に吹き飛ばせたわけではない。再び霧に包まれれば今度こそやられてしまうだろう。すでに移動を始めたメイヴに慌てて付いていった。紫色の霧をかき分けながら低空を移動するメイヴ。それにしっかりと付いていくキョクゲンダー。
『ゲンダー、前方にまたドアが!』
「構わんツッコめ!」
そのままのスピードでドアを破壊し、くぐり抜ける。次の瞬間、周囲の景色が一変した。
「キリがないじゃないか」
次から次へと出てくる謎の敵にうんざりしてぼやく。
『霧はあるんですがね』
小さな爆弾をばらまきつつ軽口を叩くメイヴだが、モニタに乱れが出ていることから彼も焦っていることが伺える。
「冗談を言っている場合ではないんダ」
迫る光に凝縮した汁を浴びせつつ答える。汁に当たった光は次々に霧散して消えて行く。しかし中には効果がない相手もいるようで、
「だめだ、赤いのには効かないぞ」
赤い光に当たった汁は、その光を散らすことなく吸い込まれていくようだ。意にも介さずこちらに向かってくる。
『これならどうだっ!?』
光の塊に多数のミサイルを打ち込む。次々に爆発し辺りが爆風に包まれた。
『やりましたか?』
「その台詞はやっていないフラグダ。油断するなよ」
煙が晴れる。しかし、すぐに紫色の霧に満たされ、そこから光が現れる。
『仕方ありませんね。ゲンダー、これを使ってください』
メイヴから銃を渡される。光学兵器のようだ。
『ビームマシンガンというものらしいです。敵の数が多いのでこちらの方が効果的でしょう』
メイヴの方を見ると、胴体からは二門のガトリングガンが飛び出し、頭部のアームにはキョクゲンダーと同様の銃が握られている。
「よくもこんな物騒なものが次々と出てくるものダ。しかし今はありがたい」
『蹴散らしてやりましょう』
「どっこいしょういちダァーッ!」
胴体の銃身が回転し銃弾がばらまかれる。二人の手に持つマシンガンからも雨のように光弾が発射される。その圧倒的な火力によって、青い光には接近されることなく、そのほとんどを撃ち落とすことができた。しかし赤い光はそうもいかない。赤い光にあたった弾は何事もなかったかのように赤い光をすり抜け、その後方に消えて行く。
「ただ効いていないだけかと思ったら、実体がないのか!?」
『ただの光とは思えませんが、どちらにしろむやみに接触するのは避けたほうがいいと判断します』
幸い、光の軌道は単調だ。こちらの攻撃に対して一切の回避行動を行わないため、一直線の動きしかしてこない。光の体当たりを躱すことは簡単だ。
「しかし、このままでは埒があかんぞ」
光を消す方法が見つからないままでは、こちらの限界が先に来るだろう。青い光を撃ち落とし、こちらに迫る赤い光をやり過ごしながら考える。
(なにか、なにか見落としている気がするぞ)
光の群れに光弾を乱れ撃つ。光の群れは軌道を変えずに光弾に突っ込み、赤い光だけが光弾をすり抜けこちらに迫る。
赤い光にむけて銃を撃つが、赤い光は軌道を変えない。
速度を変えずにこちらに向かってくる。
速度を変えずに?
「わかったぞ!メイヴ、ミサイルに切り替えるんダ!赤い光を攻撃しろ!」
『しかし、先程の攻撃で効果がないことは分かっています。数が多い場合は、高威力の武装よりも連射性の高い武装のほうが効果的かと』
「赤い光の足を止められたのはその攻撃の時だけだ。そこに何か突破口があるはずダ。青い方は任せて、やってくれ」
『わかりました』
胴体のガトリング砲が中に引っ込み、代わりにミサイルが次々に発射される。何発かは赤い光をすり抜けていったがそばに着弾したものは赤い光を巻き込み爆発し、あたりを爆煙で覆った。煙が晴れるとそこには何もない。しかし、すぐに紫色の霧が立ち込め、赤と青の光が現れる。
『やはり効果がないのではないですか?』
「いや、そうでもないようダ。煙が晴れた直後はそこに何もなかったが、その後、霧が出てから光が現れた。逆に霧がなくなれば、光は消えるんじゃないか?」
『面白い仮説です。しかしこの霧をどうやって吹き飛ばします?』
周囲を見渡すかぎりでは、辺り一面が霧に覆われている。さっきのように爆風で吹き飛ばせば、中心にいる自分たちが無事でいられる保証はない。
「この前のプロペラは使えないか?空を飛べるのなら、その風圧で吹き飛ばせたりはしないか?」
『すべてを吹き飛ばすことは出来ないでしょう。しかし私たちの周囲だけならあるいは……。やってみましょう。時間稼ぎはお願いします」
メイヴの胴体から出てきたミサイルランチャーを渡される。
「合点ダァー」
すぐに準備を始めた。頭部のアームが収納され、代わりにシャフトが飛び出してくる。先を中心にして四つに分かれ、柄の部分を頭部に収納、プロペラを安定させる。準備完了、プロペラが回転を始めた。その間、キョクゲンダーはマシンガンとミサイルを使い分け、光を牽制する。回転が激しくなり、風圧で周りの霧を吹き飛ばし始めた。
「さあ、どうダ!」
霧の中から飛び出した青い光はやがて強さを失い消えていく。赤い光も同様だ。自分の狙い通りにことが進んだキョクゲンダーは嬉しそうだ。
「やった!うまくいったぞ」
『ゲンダー!これが限界です。長時間は持ちません。急いでこの場を離脱しましょう』
喜ぶキョクゲンダーを諌めるように言う。まだ霧を完全に吹き飛ばせたわけではない。再び霧に包まれれば今度こそやられてしまうだろう。すでに移動を始めたメイヴに慌てて付いていった。紫色の霧をかき分けながら低空を移動するメイヴ。それにしっかりと付いていくキョクゲンダー。
『ゲンダー、前方にまたドアが!』
「構わんツッコめ!」
そのままのスピードでドアを破壊し、くぐり抜ける。次の瞬間、周囲の景色が一変した。
地面と壁は金属で出来ているようだ。金属特有の光沢で無愛想に輝いている。空を見上げると、人工の光が全体を照らしているのがわかった。前方には巨大なビルが整然と並んで列をつくっている。巨大な半球の中に街が作られているようだ。ビルとビルの間には歩道が敷かれている。ベルトが移動し、乗っているだけで目的地に運ばれる仕組みになっているようだが、今は動いていない。これほど大きな街であるにもかかわらず、不気味なことに、誰かがいる気配は全くしない。驚く二匹の背中で機械音声が響く。
「6番ゲートに異常発生。ゲートを封鎖します」
後方でシャッターが閉じる音がした。振り返ると先ほど破壊したドアを閉鎖するように壁が閉じていた。霧はここには入ってこなかったようだ。入ってきたところから出ることはできなくなったが、あの紫色の霧も、これで入ってくることはないだろう。メイヴはプロペラの回転を止め、頭部に収納した。そこから代わりにアームが出てくる。
「まさか、あのドアは本物のどこでもドアだったのか!?」
『そんなわけないでしょう。どうやら光学迷彩でこのドームを認知できないようにしていたようです。その上、国境防衛のシステムを使ってまで侵入者を排除しようとするとは、客に対する礼儀がなっていませんね』
「無断で入った以上、オレたちも侵入者だけどな。それで、ココはどこなんダ?どうしてだれもいないんダ?」
気になっていたことを質問する。今のところ、情報に関してはメイヴのデータバンクだけが頼りだ。
『現在地がどこであるかははっきりしませんが、先程の座標から推測すると、ヴェルスタンド国のガイストクッペルと呼ばれるドーム状の建築物である可能性が高いです』
ヴェルスタンド。生物の精神についての研究が盛んに行われている。分かりやすいものは脳波から、感情の変化、揺らぎ、神話の神や死後の世界、といった曖昧なものまで、その中身は幅広い。そういったものを数値化し、コントロールすることで利便性の高い技術を生み出している国である。そのような説明がモニタに映される。
「地名で言われても全くわからん。マキナの近くまで来たのか?」
ここがどんなところか、よりも目的地までの距離が重要だ。どうせ長居はしないだろう。
『シャトルがぶつかった大樹があったでしょう。あちらのほうがまだ近いくらいです』
まだ半分も進んでいないということだ。先は長い。
『しかしここで移動できる乗り物を調達出来れば、かなり楽になるのではないですか?』
「その通りだな。どうせ出口もわからないんだ。ついでに探してみよう」
入ってきた場所は封鎖されてしまったが、数ある出入り口のひとつだったようだ。閉じこめられたわけではないだろう。
『情報収集もしたいですね。外に出るときにまたさっきの霧に襲われないとも限りません。できれば中枢のデータベースにアクセスしたいところです』
「しかし、この静けさは不気味ダ。」
知らずに入ってしまったとはいえ、自分たちは侵入者だ。このドームに入った途端に包囲されていてもおかしくなかった。
『このドームは地図にも載っている程の規模です。誰もいない、というのは確かにおかしいですね。なにか異常があったのでしょうか?』
「嫌な予感がする。覚悟だけはしておこう」
二人は慎重にドーム内の探索を始めた。
「6番ゲートに異常発生。ゲートを封鎖します」
後方でシャッターが閉じる音がした。振り返ると先ほど破壊したドアを閉鎖するように壁が閉じていた。霧はここには入ってこなかったようだ。入ってきたところから出ることはできなくなったが、あの紫色の霧も、これで入ってくることはないだろう。メイヴはプロペラの回転を止め、頭部に収納した。そこから代わりにアームが出てくる。
「まさか、あのドアは本物のどこでもドアだったのか!?」
『そんなわけないでしょう。どうやら光学迷彩でこのドームを認知できないようにしていたようです。その上、国境防衛のシステムを使ってまで侵入者を排除しようとするとは、客に対する礼儀がなっていませんね』
「無断で入った以上、オレたちも侵入者だけどな。それで、ココはどこなんダ?どうしてだれもいないんダ?」
気になっていたことを質問する。今のところ、情報に関してはメイヴのデータバンクだけが頼りだ。
『現在地がどこであるかははっきりしませんが、先程の座標から推測すると、ヴェルスタンド国のガイストクッペルと呼ばれるドーム状の建築物である可能性が高いです』
ヴェルスタンド。生物の精神についての研究が盛んに行われている。分かりやすいものは脳波から、感情の変化、揺らぎ、神話の神や死後の世界、といった曖昧なものまで、その中身は幅広い。そういったものを数値化し、コントロールすることで利便性の高い技術を生み出している国である。そのような説明がモニタに映される。
「地名で言われても全くわからん。マキナの近くまで来たのか?」
ここがどんなところか、よりも目的地までの距離が重要だ。どうせ長居はしないだろう。
『シャトルがぶつかった大樹があったでしょう。あちらのほうがまだ近いくらいです』
まだ半分も進んでいないということだ。先は長い。
『しかしここで移動できる乗り物を調達出来れば、かなり楽になるのではないですか?』
「その通りだな。どうせ出口もわからないんだ。ついでに探してみよう」
入ってきた場所は封鎖されてしまったが、数ある出入り口のひとつだったようだ。閉じこめられたわけではないだろう。
『情報収集もしたいですね。外に出るときにまたさっきの霧に襲われないとも限りません。できれば中枢のデータベースにアクセスしたいところです』
「しかし、この静けさは不気味ダ。」
知らずに入ってしまったとはいえ、自分たちは侵入者だ。このドームに入った途端に包囲されていてもおかしくなかった。
『このドームは地図にも載っている程の規模です。誰もいない、というのは確かにおかしいですね。なにか異常があったのでしょうか?』
「嫌な予感がする。覚悟だけはしておこう」
二人は慎重にドーム内の探索を始めた。

Chapter5 END
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