ああ、どうしてもっと早くこれをしなかったのだろう

血塗られたナイフとその先にあるものを見つめる
両親にとって私は実験道具でしかなかった
反抗することもなければ、意思を示すこともない

従順な道具────そのはずだった



ただ、今までは心の支えがあったというだけだった
それがあったからこそ耐えてきた


けれど、もうその支えはなくなってしまった
人はその重さに失ってから気付く

鷹司清那、壮汰、彩
彼らは道具にすぎなかった私に心をくれた
一緒に遊んでくれるというただ何でもないことだったけれど、ただただ嬉しかった
その時間はもう永遠と訪れることはないのだけれど────

彼らは私の与り知らぬところで聖杯戦争に出ていたらしい
長女は自分の生きた証を残すために───
長男は金銭と安寧を得て生きるために───
次男はただ兄弟の平和を願って───


意思のない道具だと思い込んでいたため、両親はそのような願いを抱きながら死んだことをポロリと洩らした
その後自らがどうなるかも知らずに──



【死者は聖杯でも生き返らない】


そんなことは私でも知っている
失った彼らは帰ってこないのだ
一度は彼らのいない世界に意味などなく死のうとも考えた
それを妨げるものが二つあったから思いとどまる

一つ目は大した願いも抱いていないにも関わらず、聖杯戦争に参加している連中への恨み
これは筋違いなのはわかっている
でも、決して聖杯でなければ実現しなかったであろう彼らの夢を軽い思いで踏みにじられた気持ちになるのだ

二つ目は彼らの夢が叶う平和な世界線があったということをこの目で確認したい
そうでもなければ、彼らが何のために頑張ったのか分からないじゃないか

死体となった自らの両親に背を向け、涙をぬぐいその場を後にする
魔術師であった私はそこにはもういない
今はただ、感情のままに動く生き物に成り果てていた
理不尽な世界への憎悪と彼らの目指したものは正しかったという証明のために────

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2018年06月10日 01:00