───虚数空間専用潜水船「ガレリア」
それがこの潜水船の名前だ。
私が持ちうる技術を全て用いて作り、虚数空間と通常空間を隔てた使い魔への魔力供給を可能とし意思疎通もまでも可能とした。
理論としては封印指定とされる以前、典位にあがる際に書き上げた「異空間における使い魔の運用」という論文はあった。
設備および時間が足りなかった故に実践するのは封印指定後となったが。

設備としては、大きく4つの空間に分けられる。
使い魔が集めた視覚情報及び聴覚情報を蓄えておくスーパーコンピュータ。
ホムンクルスの研究及び育成や錬金術等を行う魔術工房。
財宝を保管する保管庫。
そして、最後に生活空間。
余談だが、うちに居候している悪魔《ペット》が立ち入りを許されているのは下2つだけである。
生活空間も広く場所を取っているので、その空間を使って建物をたてたり崩したりしている。



補給は約二ヶ月に一回。
各地にあるゼラニウム商会の地下に船をつけて、そこに予め用意されておいた食料をホムンクルスを使って積み込む。
安全検査等もしっかりするのだが、それはこの際省く。
潜水船を作り上げた目的が宝の盗難防止及び魔術協会の追手を相手にする必要がないという理由。
つまり、面倒事防止のためなのだが、残念なことに面倒事というのは向こうから舞い込んでくるようだ。

補給の際、ペンギン《ペット》が家の候補地が近くにあるということで出ていった。
あのナリで地上に家を立てようとしていること自体が、個人的には正気を疑うのだがそれは置いておく。
それから一時間ほどして、私は作業の進み具合のチェックと次の予定をチェックしているとその報告が紛れ込んできた。
使い魔から報告が上がってきた時には思わずどす黒い声が出た。
「あ゛?」
その声を聞いて何か機嫌を損ねたのかと、ホムンクルス達が一斉にこちらへと顔を向ける。
「気にしないで。そのまま作業進めて」
私と同等の権限を与えているホムンクルスのシャッテンだけに伝える。
「今から30分ほど部屋に籠もるけど、そのまま作業進めといて。後、潜水は少し延期」

その場をシャッテンに任せるとスーパーコンピュータの部屋へと足早に向かう。
変わった変異種またはどっかの魔術工房から逃げ出してきたと思われたペンギンがマフィアに囚われたらしい。
恐らく事情を知らない末端の奴らだろうから、ファミリーを潰すというところまではやらなくてすむだろう。
竜《わたし》のものに手を出すとはいい度胸をしている。
あいつらが殺してくれと懇願するほどの絶望を味あわせてやる。

  • 第二思考緊急時へと移項。端末のオート操作を実行。-
  • 第三、第四は通常運転続行。-

一つ端末を動かしていたための思考を呼び戻し、あいつらを絶望を落とす作戦を考えることにした。





それから、一時間半程かけて、彼等の取引場所の特定やファミリーとの取引、その他諸々の根回しを済ませた。
後は奪われたものを取り戻すだけだ。
護衛として雇われた魔術使いが一人いるようだが、大した問題にはならない。
場所は廃倉庫らしく、人目がつかない場所で都合がいい。

現場につくと、戦闘用ホムンクルスをそれぞれ配置につかせる。
髪留めを外し、ニサハを展開しておくのも忘れない。
左の腕輪を外し、口に当てシャボン玉を散布する。
多少は風に影響されるが、意識すれば大凡の方向性は調整できる。
中にいる視界だけでは見えない部分をシャボン玉を倉庫の中に送ることで補う。

マフィア達がシャボン玉に気付く。
そちらに気が行くのなら好都合。
銃火器の位置は把握している、全ての武器は約25m以内。
───目を閉じる。

《異能行使:シャックス》

シャックスの異能は意識していない当たり前のものを盗む。
目に見えないものであれば、盗むまでいかずとも模倣できる。
マフィア達がその瞬間意識していなかった武器を全て私の足元へと積み上げた。
そして、息を一息吸ってマフィア達に堂々と声をかける。
「やっほー、ミアちゃんだよ!武器を奪われたマフィアの皆元気?」
「ミアちゃんの家のペットを盗んだんだから、どうなるか分かってるよね?」
俺はペットじゃねぇ!というツッコミが聞こえた気がするが、檻に入れられてるのも含めてペット以外の何者でもないだろう。
それと同時に蜂の巣にしろという合図を送る。
地獄を見せるのだから、当然非致死性の麻酔銃で撃たせるのだが。
ついでにペンギンに口パクで次やったら降ろすぞ、と伝えておく。

武器を持たないマフィアの制圧など簡単で、唯一武器を盗れなかった魔術使いの傭兵へと声を投げる。
「そっちの人はどうする?降参するなら、条件付きだけどミアちゃんが護衛代とか経費とか諸々出してあげるよ?」
弾道に入らないように物陰に隠れる傭兵は観念したように立ち上がり両手をあげる。
「降参だ、降参。俺はそもそもそんな化け物が相手だなんて聞いてねぇ。」
「じゃあ、はい、これ!」
自己強制証明を投げつける。
書かれた条件は2つ。
この場であったことを他者へと伝達しない。これには生物だけでもなく機械等を含む。
及び、暗示等の記憶を覗く行為に対して、この場であったことを開示しない。
そして、その代わりにマフィアが払う予定だった護衛料の二倍と攻撃をしてこない限り、この場に限り見逃すというもの。

それを読んだ傭兵は自己強制証明へとサインをする。
相手は恐らく私のことを知っていたのだろう。
すんなりといく分には放置でいい。

これで厄介事の話は終わり。

彼等に地獄を見せるために親族を拐って、拷問される様子を捕まえた彼等に見せたりというのもあるのだがどうでもいいから割愛。
ついでに、ペンギンには船から降りてる時には世話用のホムンクルスを帯同させることを確約させた。



「なぁ、ミア。こないだの奴らどうしたんだ?」
ふと、将棋の駒を打ちながら対面の悪魔が尋ねてくる。
「こないだの奴ら?あ、そこだと20手で詰むよ」
「俺を拐った連中だよ。20手で詰むかどうかはやってみなきゃ分からないだろ?」
毎回いつものお決まりのパターンが始まった。
いつでも待ったはかけていいと言っているのだが、基本的にこのペットはかけないらしい。
大体こういう時は20手かからず、15手くらいで終わる。

そして、どうでもいいことを尋ねられたが、答えないのもあれかと思って少しだけ思考を巡らす。
思い出したので、ポンと手を叩き返答をする。
「ああ、あれね。なんか色々やってたら殺してくれだとかうるさかったから外にぽいって捨てちゃった」
「なんだそりゃ。適当だな」
「じゃあ、遠慮なく王手。ちなみに、これで負けるの何回目?」
予め取っておいた桂馬を王手の位置へと置く。
「さぁな、一々数えてない。俺は過去は振り返らない主義なんだ」
いや、そろそろ反省すべきだと思う。
10枚落として負けるのは相当だし、非効率だから。
言ったところで聞きはしないので、口には出さないのだが。

あ、ペンギンの名誉のために言っておくが、さすがに19枚落ちでやった場合には負けなかった。
結果は千日手に入って引き分けだった。

今日もまた財宝を実数空間で集め、虚数空間で引き籠もりをエンジョイするのであった。

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最終更新:2020年01月31日 16:48