「え?北方砦で何かあったのか?」
魔術書から男が顔を出す。随分熱心だったのか片付けてないのか、研究室は散らかりそこかしこで魔法陣が張られたままである。
「いやいや兎角…もう王都はその話題で持ちきりだぞ。少しは息抜きに外に出ようぜ。あと魔法陣展開しすぎィ!!」
「すまんすまん。魔法陣って畳むの結構面倒だからね…ついつい。まあユージロー君なら大丈夫だろ」
「え?何が大丈夫なの?これ全部落とし穴の魔法陣なんだけど」
「テヘペロ☆」
「」

ここは王都の学校の一つ、スフェンエル学院。王都で最も大きい学校であり、兎角とユージローが所属してるのは魔法学部である。「正規の魔術師達の多くは学院の学びに誇りを」を掲げ、厳格な学院であることが想像できる。が、実際はその門戸は広く、あらゆる人に知識を提供する事を良しとするために魔術師でなくても入れる為、魔法を使えなくても卒業ができるが、その代わりに深い知識を取得できたかどうか、卒業試験に課されている。

兎角は才能の象徴と言われる程学院の中でも飛び抜けた存在であり、飛び級に飛び級を重ね、史上最速で卒業を果たした。しかし彼は研究熱心すぎるのが玉に瑕で、たまに試験のことを忘れたまま研究を続け、叱られたことが何回もあった。卒業後は研究室を貰い、今日も魔術について研究を続けている。
ユージローは兎角の幼馴染で一緒に学院に入ったものの、彼が魔術の才能をどんどん開花させていく一方で、彼の場合は学年の主席を務めるくらいに優秀ではあるが、普通に段階的に級を重ね卒業した。兎角と比べると劣っているのではと思いがちだが、比べるのは間違っている。ユージローも優秀な魔術師であるに違いない。彼が異常すぎたのだ。

「北方の砦から連絡が来なくて、調査員が派遣されたんだけど、これも帰ってこないんだ。途中の駐屯地の兵も彼らが戻って来なかったって言ってるし、ドラゴンでも出たんじゃないか?」

ユージローは苦笑する。
「いやいや、そもそも冬の間はドラゴンなんて出ないよ。」
兎角は展開してる魔法陣を畳みながら言う。
「ドラゴンの生態はよくわかってない…そもそもどうやって生まれたかもよくわかってないんだ。人里を襲った記録もあまりないからね。でも冬の間は見かけたという記録は無い」
「寒さに弱いなんて案外可愛らしい奴だな。ドラゴンといえば万物の象徴、全ての頂点だからな」
兎角は少し考えるように
「ふむ…冬に…何かがドラゴンの上位にある…?」
「ドラゴンの上に立つ?そんなものあったっけか・・・?」
ユージローは兎角の推論に首を傾げる
「氷…氷の属性かもしれない」

魔法の属性は基本的に4大属性、すなわち火、水、雷、風で、それらを総括する属性が竜であり、その属性はドラゴンにしか持たないのである。しかし兎角は、竜の上に氷が位置すると考えた。

「しかし兎角、氷の魔術なんて無いぞ?魔術ほど定義でガチガチに固められてる分野は無いだろう。とりわけ属性はな」
ユージローは肩をすくめるが、兎角はそれでも首を横に振る
「もし、新たな属性の理論が出来れば…!ますます研究が捗るぞ!」
「話し聞いてないなお前…まあ…氷といえば思い当たる節が無いわけではないが…」
ユージローはそう行って本棚から何かを探そうとしたが、目当ての物が無いのが分かると
「お前がお伽話に興味が無いのがこの本棚を見てわかったよ…子供の頃から知識欲は変わりそうにないな。
知ってるか?冬の時代ってお話。」

----その昔、太陽と夜の戦いの数百年後…
その頃人々は今とは違って一つの街で暮らしていた。

「まあその街がここ王都なんだけどな」
ユージローは思い出しながら語る

当時の国王は愚かな選択をしてしまいました。老いを恐れた彼は永遠の若さと引換に夜の帝王と契約を結んでしまったのです

その結果、国には怪しげな影の住人がはびこるようになり、市民は動揺し国は混乱しました。
結局、王は自分の失態を恥じて太陽に泣きつき、太陽は軍を派遣し、再び太陽と夜の戦いが始まりました。
民はその混乱で各地に散らばったとされています。

そんな中、凍てつく北の大地に追いやられた人々は、冬の神を信仰しはじめます。本来冬の神など存在しないはずが、彼らの世界への絶望が冷えきった信仰心となり、太陽への信仰がまるで無くなった彼らは、偶像神を創りだしたのです。そして、太陽に属する神の一人が闇の瘴気で堕天し、彼らの近くに落ちてきたのをいいことに、堕天した神を触媒に冬の神を降誕しようと試みました。

竜でさえ恐れました。自らを超える者が現れることに、そしてそれは確かに、北の大地に降誕したのです。

こうして、世界樹の世界は永遠の冬に閉ざされた…太陽は雲に隠れ、夜でさえ身を引くほどの。

「その冬の神と、竜の記述が…」
「察しがいいな兎角、もし氷の属性の手がかりがあるとしたらそこだ」
「でも随分凄まじいお伽話だな…その話しが本当なら僕らは生きてないんじゃないのか?」
「まあな。でも一応結末はあるぞ」

猛烈な吹雪は全ての文明を氷雪の元に封印した…ドラゴンでさえ、その姿を見せなくなってしまった。
しかし、人々は最後の依代として世界樹に集ったのです。

世界樹は禁忌を破り、人類にいかなる神々をも殺す剣を授けました。ゴッドスレイヤーです。使い方さえ間違えれば太陽に歯向かえる…歯向かったが最後、世界は一瞬にして夜の帝王が支配するでしょう。彼は神ではありませんから、その剣はただの片手剣に過ぎないのです。
まさに禁断の武具です。

しかし、人類はそれを以って冬の神を斬り殺し、永遠の冬が終わりを告げたのです…

「今のは昔々に書かれた原文って奴かな。子供向けなんかには冒険活劇ものとして大分内容が変わってるが、最終的に神を倒すのは変わってなかったような…」
「行くぞ!!」
突然兎角が支度し始める。
「!?」
「北方だ!氷の手がかり…探しに行こう!」
「いやあの、北方は兵が戻ってこないから問題なんだが」
「兵が弱すぎるだけさ。はやく!はやく40秒で支度して!」
「」
ユージローはただ白目になるしか無かった

兎角は新たな属性に興味があってたまらなかった。おそらく、冬の神を召喚した痕跡があるに違いない。
彼にはそう確信があったのである。

  • これはリレー小説ではない感じ? -- 朱音さん (2012-07-09 08:19:16)
  • りんくんかな? 管理者システムについて後で纏めておこう。 -- 兎角 (2012-07-09 12:00:02)

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最終更新:2012年07月09日 12:23